6人目の魔女

Yakijyake

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第四十三話 誰もいない家

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「ただいま」
 と誰もいない家に挨拶する。目の前に広がっていたのはあの時と一寸も変わらない、あの見慣れた景色だった。出しっぱなしになっている食器や飲みかけのコーヒー。本当にあの時のままだった。あまりにも同じだから、母を呼んだら今にでも部屋から出てきてくれるんじゃないかと変な期待を追うほどに何も変わっていなかった。
「実は生きてました~」
 なんて言って出てきてくれたらいいのに。
 それでもあの日々を思い出して、不意に笑ってしまう。あの楽しかった日々を。あのたわいもなかった日々を。
残りの半日は片付けで終わってしまった。さすがに何年も放置されたものだから、食材は軒並みダメになっていたし、家全体も埃っぽかった。それらを何とかその日中に終わらせた。
ようやく終わったので、私は自分の部屋に戻ってベッドにダイブする。外はもうとうに暗くなっていて、家の中は少し肌寒く感じた。春になっても寒いのも変わってはいないようだ。毛布に包まって、私は天井を見上げた。天井。この天井は私は一番見てきた天井。やっと帰って来れたという安堵感からか、私はそのまま死ぬように眠ってしまった。
次の日目が覚めたときには、もう昼前だった。きっと自分で思っているよりもよほど疲れていたのかもしれない。気だるさを感じながら、無理やり体を起こす。急いで着替えて、昨日割っておいた薪を暖炉に放り込み、肌寒いリビングを暖める。その火はすぐにこの部屋を暖かくしてくれた。
キッチンで沸かしていたお湯をコップに注ぎ、コーヒーを淹れ、私は暖炉の前の椅子に腰かけた。まだ飲むには熱すぎるコーヒーを頑張って少しずつ飲みながら、暖炉の火をぼーっと眺めた。昔はよく母と二人でここに座って話した。でも、もう話し相手はここにいない。横の椅子には、母が使っていたひざ掛けがかかったままだった。やっぱり淋しい。どう頑張って自分に嘘をついても、自分をだますことはできなかった。隣にも、母の部屋にも、どこにも姿が見えないと、やはりやりきれない思いになる。結局、頑張って飲もうとしたコーヒーは温くなるまで飲むことができなかった。
 この一週間は虚無感が勝る一週間だった。
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