6人目の魔女

Yakijyake

文字の大きさ
43 / 61

*** 続き

しおりを挟む
今日も1日が終わろうとしている。本当のことを話すのは怖かった。ベレッタがどう感じるかなんて明白だ。きっと傷つくだろう、悲しくなるだろう。そう思って隠そうとした。ただ真実に迫る時の彼女の眼に圧倒されてしまった。ただ、ベレッタは私が思っている以上に強かった。泣き崩れることなく、暴れることなく、ただ感傷的に、静かに現実を受け止めた。そして、それを活かそうとしている。ベレッタは変わろうとしているのかも知れない。
エリーナの話をベレッタにして懐かしくなってしまった。楽しく笑い合ったあの日々、一家団欒で囲った料理…思い出せばキリがない。優しく微笑むエリーナ。それがもうこの世にいないなんて、やはりまだ私も信じきれない。信じたくもない。私はエリーナの使っていた椅子に腰掛ける。空が綺麗だ。雲も濁りもない澄んだ空。丸い月が優しく部屋を照らしている。
……。あの話には続きがある。
あの後、彼女は帰ってきた。帰ってくるなり、泣きながらこの話をした。旅でもっと楽しい思い出もあるはずなのに。ひたすらに彼女はこの話をした。私たちは困惑した。でも、どんな経験もその人の価値となる。私たちはこの経験が科学士試験への動機になると思って受験を進めた。どうやら彼女も同じ考えだったらしく、その日から猛勉強してた。
 そして見事史上5人目の科学士になれた。私たちは大いに祝った。彼女も嬉しそうだった。でもエリーナにとってこれはただの通過点でしかなかった。彼女はすぐに引っ越す準備を始めた。ここで子供を育てる気はないらしい。テイン王国へ住むと言ったのには流石に止めようとした。あまりいい評判を聞かないし、実際人身売買もされていた。でも頑なに変えなかった。あの森が一番だと。私もあの子も都会の危険に晒されない絶好の位置だと。真実から一番遠い場所だからと。エリーナが行きたいのなら、親が止める権利はない。私たちができるのは見送るだけ。出ていったその日私はエリーナの背中が見えなくなるまでずっと見送った。
 そこから先は私もよく知らない。でもベレッタが今こうやって生きているということはきっとそういうことなのでしょう。あれから何度か手紙が届きました。手紙の内容は様々で、近況や今までの感謝、それを面と向かって言えない事への謝罪。その中に一度だけこんな手紙が来た。
 「もし許してもらえるなら、集まって写真を撮りませんか」
 そうしてヘーゼルの森に2人で向かった。すでに我が娘は待っていた。半年ぶりに会った。そして、初めて『孫』に会った。その子は母の腕の中ですやすやと眠っている。赤子が泣き叫ぶ前にとってしまおう、ということで写真屋はせっせと準備を始めた。その間私はエリーナと話した。名前や今後どうするのか、たまには家に帰っておいでとかも言ったっけ。そうしている間に準備ができた。私は旦那とエリーナの間に位置取った。写真を撮る直前、エリーナは私にベレッタを渡してくれた。初めてもつ『孫』の重み。『命』の重み。私は感極まって泣きそうになってしまった。写真を撮るから笑顔で、って厳しい注文だ。
 パシャ。
 シャッターの切る音が聞こえた。写真は後日届ける、そう言って写真屋は帰っていった。残された私達も気まずいので引き上げることにした。車に乗り私は助手席の窓を開けた。エリーナが私を呼んでいる。
 「お母さん。今までありがとうございました」
 それはあまりにも唐突で心にくる言葉。何だか、もうあなたの世話は必要ない、と言われたような感覚。でも、想い合う気持ちは多分変わってない。エリーナの目がなによりもの証拠だ。私は何も言えずにその場を去った。
 三日後、封筒が届いた。写真の裏には一文が添えられていた。
 「私の愛する家族へ。愛、永遠に」
 もうお世話は必要ない。けれどもお互いを思い合う気持ち、愛は永遠だ。そんなことを彼女なりに綴られたあの写真は今も私の部屋に大切に飾られている。
 愛を撮り、愛を綴り、愛を飾る。面と向かって言えなかった様々な愛の形はこの写真一枚に収まっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

処理中です...