6人目の魔女

Yakijyake

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*** 続き

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今日も1日が終わろうとしている。本当のことを話すのは怖かった。ベレッタがどう感じるかなんて明白だ。きっと傷つくだろう、悲しくなるだろう。そう思って隠そうとした。ただ真実に迫る時の彼女の眼に圧倒されてしまった。ただ、ベレッタは私が思っている以上に強かった。泣き崩れることなく、暴れることなく、ただ感傷的に、静かに現実を受け止めた。そして、それを活かそうとしている。ベレッタは変わろうとしているのかも知れない。
エリーナの話をベレッタにして懐かしくなってしまった。楽しく笑い合ったあの日々、一家団欒で囲った料理…思い出せばキリがない。優しく微笑むエリーナ。それがもうこの世にいないなんて、やはりまだ私も信じきれない。信じたくもない。私はエリーナの使っていた椅子に腰掛ける。空が綺麗だ。雲も濁りもない澄んだ空。丸い月が優しく部屋を照らしている。
……。あの話には続きがある。
あの後、彼女は帰ってきた。帰ってくるなり、泣きながらこの話をした。旅でもっと楽しい思い出もあるはずなのに。ひたすらに彼女はこの話をした。私たちは困惑した。でも、どんな経験もその人の価値となる。私たちはこの経験が科学士試験への動機になると思って受験を進めた。どうやら彼女も同じ考えだったらしく、その日から猛勉強してた。
 そして見事史上5人目の科学士になれた。私たちは大いに祝った。彼女も嬉しそうだった。でもエリーナにとってこれはただの通過点でしかなかった。彼女はすぐに引っ越す準備を始めた。ここで子供を育てる気はないらしい。テイン王国へ住むと言ったのには流石に止めようとした。あまりいい評判を聞かないし、実際人身売買もされていた。でも頑なに変えなかった。あの森が一番だと。私もあの子も都会の危険に晒されない絶好の位置だと。真実から一番遠い場所だからと。エリーナが行きたいのなら、親が止める権利はない。私たちができるのは見送るだけ。出ていったその日私はエリーナの背中が見えなくなるまでずっと見送った。
 そこから先は私もよく知らない。でもベレッタが今こうやって生きているということはきっとそういうことなのでしょう。あれから何度か手紙が届きました。手紙の内容は様々で、近況や今までの感謝、それを面と向かって言えない事への謝罪。その中に一度だけこんな手紙が来た。
 「もし許してもらえるなら、集まって写真を撮りませんか」
 そうしてヘーゼルの森に2人で向かった。すでに我が娘は待っていた。半年ぶりに会った。そして、初めて『孫』に会った。その子は母の腕の中ですやすやと眠っている。赤子が泣き叫ぶ前にとってしまおう、ということで写真屋はせっせと準備を始めた。その間私はエリーナと話した。名前や今後どうするのか、たまには家に帰っておいでとかも言ったっけ。そうしている間に準備ができた。私は旦那とエリーナの間に位置取った。写真を撮る直前、エリーナは私にベレッタを渡してくれた。初めてもつ『孫』の重み。『命』の重み。私は感極まって泣きそうになってしまった。写真を撮るから笑顔で、って厳しい注文だ。
 パシャ。
 シャッターの切る音が聞こえた。写真は後日届ける、そう言って写真屋は帰っていった。残された私達も気まずいので引き上げることにした。車に乗り私は助手席の窓を開けた。エリーナが私を呼んでいる。
 「お母さん。今までありがとうございました」
 それはあまりにも唐突で心にくる言葉。何だか、もうあなたの世話は必要ない、と言われたような感覚。でも、想い合う気持ちは多分変わってない。エリーナの目がなによりもの証拠だ。私は何も言えずにその場を去った。
 三日後、封筒が届いた。写真の裏には一文が添えられていた。
 「私の愛する家族へ。愛、永遠に」
 もうお世話は必要ない。けれどもお互いを思い合う気持ち、愛は永遠だ。そんなことを彼女なりに綴られたあの写真は今も私の部屋に大切に飾られている。
 愛を撮り、愛を綴り、愛を飾る。面と向かって言えなかった様々な愛の形はこの写真一枚に収まっている。
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