6人目の魔女

Yakijyake

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第二十話 『審判』の時

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行き場を失った私たちを横目に、群衆はどんどん熱狂的になっていく。しかし、私の耳には何一つとして届いてはいなかった。今のこの場には私と母しかいないような感覚だった。本当は今すぐにでも駆け寄りたかった。しかし、見張られている身なので自由には動けなかった。もどかしくてたまらない。私はひたすらに母は凝視するほかなかった。そして、いよいよその時が、一生来て欲しくなかった時がきた。
「静まれ!」
群衆は一瞬にして静まり返った。そこには誰もいないかのような、物音一つすらしない場へと変わった。
イシロス王が壇上に現れた。
「今から、この者が本当に魔女なのかどうかの審判を始める」
審判なんて嘘だ。形式的でしかない。
「単刀直入に聞こう。貴様は魔女か?」
母は俯いたまま掠れ、細々とした声で
「…いいえ」
と呟いた。
「容疑者の言葉なんか誰が信じるか。こちらには証拠がある」
そう言って王は懐から小さな瓶を取り出した。
「これは貴様の家から押収したものだ」
あぁ。もうすでに家は国に荒らされたらしい。
「この瓶に入った怪しい気配。私には魔法の類にしか見えん」
王が取り出したのはあの感情を読み取れる煙。王はそのまま指を小瓶に突っ込んだ。色はみるみる深い青色に変わっていった。
「どうだ。魔法に違いない」
「違う。あれは魔法じゃない。ちゃんと科学の法則に乗っ取られて作られている」
そう叫びたかったが、叫べなかった。
「さらに、こんなものまで」
取り出したのは小さな巾着。中に白い粉が入っていた。彼はコップを用意しその中に粉を入れた。すると水が一瞬で凍ってしまった。
「こんなことが魔法以外では為し得ないだろう?」
徐々に首を絞められるような感覚だった。どれも魔法でないと説明できる代物。私は今すぐにでも反論したかった。しかし出来なかった。やっても無駄。そう私も、きっと母も思っていただろう。
「こんなもので十分だろう」
「此奴が魔女であるという思う者?」
そういうと、詰めかけた観衆は一斉に声を上げる
「もういいだろう。」
「判決を下す。エリーナ。貴様は」
「魔女だ」
あぁやっぱり。結局逆転も奇跡も起きなかった。私は天に見放された。悔しい。結局最後まで何にも言えなかった。
「魔女には終止符を与えねばならない。この神聖な炎で浄化してくれる!」
そう言って王は松明を取り出した。神聖な炎…あんなのただの火だ。なぜ国民は騙されてしまうのだろう。燃やされたって浄化なんてされない。ただ、もがき苦しみながら死ぬだけだ。母には大量の液体がかけられた。大量の油。このままもやし尽くしてしまおうということだろう。王は一歩一歩母に近づいていく。死が、一歩一歩近づいていく。そして、母の前で一旦止まった。
「私も悪魔じゃない。最後の一言ぐらい聞いてやろう」
王は薄ら笑っていた。不気味なほど愉快そうだ。母はこのまま何も言わないと思った。だからこそ、私は母の言葉に驚いた。
「私は…いえ、私たちは絶対に…あなたには屈しないわ」
初めて見せた反抗的な態度に王は一瞬顔を引きつった。母の顔は見えなかったが、声でわかる。母の激しい憎悪。深い憎しみが場を支配した。
「ふん、それで終いか」
「今までの悪事を…自分を悔い改めろ!」
そう言って王は熱源を母に向かって放り投げた。
「あっ…」
私が声を出すまでもなく火は引火した。そして、熱風を全身で感じた。目の前で燃え盛っているもの。見たくもない。考えたくもない。炎の奥で何かが見える。何かが悶え苦しんでいる。それが母だなんて信じたくもなかった。
「あ……あっ…ああ…」
言葉も発せなかった。けれど私は感じた。何かが崩れていくのが。母の美しい青い髪。見惚れるほどの蒼い瞳。白く柔らかな肌。それが全て黒一色に染まっていく。私の髪や目と同じ黒…
そこから先はあまり覚えてない。火が治った後の記憶がない。母の焼け跡は黒かったかもしれないし、赤黒かったかもしれない。確かに見た、けれどもう思い出せない。いや、思い出したくもない。思うように頭が働かず、状況があまり読み込めない。ただ、これだけは感じた。感じてしまった。
母は死んだ。もう、会うことも、微笑み合うことも、抱きしめることもできない。
私は群衆の前で発狂したらしい。覚えてないけど、涙を流しながら言葉になってないことを叫んでいたらしい。そんな姿を見た王や群衆が私を嘲笑っていただろう。
取り押さえられ、私は昨日過ごした牢に入れられた。未だに混乱している。もう何がなんだかわからない。涙を流しながら私は誰もいない牢で一層狂っていった。
「ねえ、誰か教えてよ。どうして母は死んだの?どうして殺されなきゃいけなかったの?どうして苦しむ母を見て笑えるの?どうして…どうして…」
「私はどうすればよかったの?…ねえ、教えてよ。ねえ。ねえ。ねえ。」
「私が死ねばよかったの?私が死ねばお母様は助かったの?私が代わりに燃えていれば救えた命なの?ねえ、どうなの?」
「それとも、私が生まれた時点でもう決まっていたの?生まれなければ燃やされずに済んだ?出会ってなければよかったの?やっぱり私のせい?やっぱり私が悪いの?元凶は私?ねえ。早く教えてよ。お願い。ねえ教えて。教えて…」
誰もいない地下でずっと私の声だけがこだまして返ってきた。
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