6人目の魔女

Yakijyake

文字の大きさ
上 下
25 / 61

第十八話 絶望を知る瞬間

しおりを挟む
私は必死に考えた。別にそういう知識に詳しくない私はどうすればいいのかをずっと模索していた。というか、こうでもしてないと気が狂ってしまう。母の危機に何もしないなんて私には無理な相談だった。気分が良くなることはなかったが、気は楽になった。とにかく考えよう。あの王ならどんなことを言う?どう反論すれば納得される?試行錯誤してる私は時間を忘れて考えた。
最後の審判まで、あと5時間

ずっと考えてはいたが、五感が遮断されていたわけではない。私の耳は遠くからの足音を拾った。ちょっとずつ近づいている音。そして最大限まで近づいた音の主は兵士だった。鉄格子越しに私をずっと見ている。私はずっと目を逸らし続けた。
「おい、時間だ。出てこい」
久しぶりに聞いた他人の声。それは私を地獄へと誘う片道切符だった。言われるがまま牢を出て、手錠をかけられ昨日通った階段を登る。しばらく歩かされ、着いたのは昨日訪れたあの大聖堂。奥には待ってましたと言わんばかりに待っていた男が一人。
「どうだったかね?我々の地下牢の居心地は?さぞかし快適だっただろう」
私は王の嫌味に何一つ反応を示さなかった。返事も頷きも目線を合わせることも拒んだ。王は俯く私に一歩、また一歩と近づいてくる。
「魔女の子供か…お前もきっと人々を苦しめる魔女を見て育ったのだろう?」
私は微動だにせずずっと俯いていた。
「おい。なんとか言ってみたらどうだ?」
私はまだ動かない。
「おい」
まだ動かない。
「返事をしろっつってんだよ!」
イシロスは私を思いっきり蹴飛ばした。それまで動かなかった私は受動的に動くことになった。鈍い痛みを感じる。
「何も言わないか…ふっふっふ。ならば面白いことを教えてやろう」
イシロスは場にいた兵士を全員外に出した。
 「貴様のとこの魔女はあと数時間で審判が下される。そして」
「必ず処刑される」
必ず処刑される…?あと数時間で?突然の宣告を受けて私は顔を上げてしまった。
「いいねぇ…その顔!その絶望に満ち溢れた顔!そうだ、貴様の母はあと数時間で死ぬ。これはもう確定だ。別に正直誰でもよかったんだがな、貴様のところが一番都合がいい。誰とも接触せず、森に住み、怪しいことをする人。適任じゃないか。あいつには死んでもらわないと、我々一族の権威にも関わるのでね。でも安心なさい。母を亡くしたかわいそうな貴様の『保護』は我々が行おう」
母が死ぬ。あと数時間で。そして誰でもよかった。罪があるかどうかは関係ない。母は権威なんていうしょうもないもののために犠牲になってしまうのか。
 期待してなかった。審判なんて期待してなかったはずなのに。いざ言われてしまうともう何も考えられなかった。あの何時間の抵抗は全て水泡となった。
兵士に叩かれるまで、私は膝をついて呆然としていた。もうイシロスはここにはいない。
人生最大の絶望を味わった午後5時。
 処刑まで、あと1時間
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...