6人目の魔女

Yakijyake

文字の大きさ
上 下
22 / 61

第十五話 冷たい牢

しおりを挟む
ついに着いてしまった。生まれて初めての王都。まさかこんな形で来ることになるとは。すでに日は傾き始めていて薄暗くなった街を背に私たちはテイン城に入れられた。私も母も手錠のせいで歩くことしかできない。広い大聖堂のような空間に突き出された。すると間もなく、奥から一人出てきた。何やら豪勢な衣服に包まれた男。かのイシロス王だった。
「やっと見つけた。この薄汚い悪魔め」
初対面でこの対応。きっとこいつが今回の諸悪の根源だと確信した。
「お前の先代には苦しめられたもんだ。なのに、お前らはのうのうと生きやがって。苦しんでいる人間を見ていてさぞかし楽しかっただろうな」
違う。私の母はそんな性根の腐った人間じゃない。
「呪いで国民を陥れようとした」
違う。あれは科学現象だ。魔法じゃない。
「さらに、たくさんの人々に残虐な行いをしてきた」
違う。母はそんな根の腐ったな人間ではない。
全部言い返してやりたかった。言っていることは事実無根、人を馬鹿にするのもいい加減にしろ、と。でもそうできなかった。当事者が黙り込んだままだったから。私は抵抗もできず黙って罵声を聞き続けた。そうして最後に
「いずれにせよ、明日の審判で全てが決まる。まあ、せいぜい情状酌量を望むことだ」
そう言い残してて立ち去っていった。私達はまた歩くよう兵士に急かされる。しばらく歩くと階段についた。私は下に行くよう指示された。しかし母は上に行くよう言われてしまった。ただでさえ二人でいても心細いのに、今日は引き裂かれるらしい。母と一瞬目を合わせて、一瞬だけ指先で触れ合ってから離れた。私は地下牢のようなところに入れられた。鉄格子の奥の何もない薄汚れた空間。そこに入れられ鍵を閉められ、兵士は何処かに行ってしまった。悲しい。寂しい。虚しい。今日、いろいろなことがありすぎた。私は硬い地面で横になった。そして自分の頬を撫でる。落ちてきた母の涙はもうすでに肌に吸い込まれてしまった。
きっと明日は辛い日になるだろう。きっと一生忘れたくても忘れられない日になってしまうだろう。
「……………」
肌寒く、暗い地下牢で私は見えない空を仰いだ。
最後の審判まで、あと22時間
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...