6人目の魔女

Yakijyake

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第十四話 死の接近

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口に出すのが怖かった。死という言葉を出すのが。もし言ってしまったらそれが叶ってしまうかも知れない。いやこのままだときっと叶ってしまう。
「お母様、もしかして…」
母は口を噤んだままだった。
「諦めないでください…」
母は俯いたままだった。
「ねぇ、お母様…」
母は目を閉じたままだった。
母はもう全てを諦めて受け入れているようだった。寂しげな母を見ているのが辛かった。
……。こうなった原因の全てが私な気がしてきた。なにか私にできることがあったかも知れない。もしかして。私は気絶している間に人質になっのかも知れない。母一人で森に逃げることなど容易いはずだ。増してや外で大きな物音もたっただろう。でもそうしなかった。私がいたから。私がいたから母は逃げなかった。逃げれなかった。
………。やはり全て私のせいだ。全て私の弱さのせいだ。そう思うと涙が出てきた。泣けば泣くほど自分のことを情けなく感じる。惨めだ。大切な人一人も助けにならなかったどころか重い足枷となってしまったことに。私は泣きながら赦しを乞うた。
「ご…ごめんなさい…お母様…許してください…」
ふわっと母の髪の毛が顔にかかった。
「私が…不甲斐ないせいで…惨めなせいで……」
まだかすかに頭が痛い。でもそれ以上に心に深い傷を負った。
私は泣いている。もう母の顔は直視できない。私に顔を見る権利なんて、もうない。
その時。天から何かが私の左の頬に落ちた。重く、優しく、温かいもの。その正体は母の涙だった。
「謝らないで…謝らないで…ベレッタ」
「あなたは何も悪くない。悪いのは私。謝らなければいけないのは私。いざこざにあなたを巻き込んでしまった。あなたに痛い思いをさせてしまった。あなたを思い詰めさせてしまった。あなたに…死の恐怖を植えつけてしまった。」
「本当に、本当にごめんなさい」
泣きながら謝られた私は一層心にきてしまって、より一層涙が溢れた。母だって悪くない。何もしていない。それなのになぜ…
「ベレッタ」
呼ばれて私はゆっくりと顔を上げる。
「私は…諦めてないわ。ただ、厳しい状況なのは分かるわよね」
信じたくなかったがこれは悲しい事実。私は小さく頷いた。
「だからもし…私になにかあっても自分を責めないで。誰もあなたが悪いと思わない
わ。だから…」
「あなたには最後まで生きていてほしい」
私の唯一の存在価値は母だ。そんな母がいなくなったこの世界に私は生きてもいいのだろうか。先に旅立たれ取り残された私に温もりをくれる人なんていない。温もりを失った私はきっと凍え死ぬだろう。
もうテイン城が見えるところまできた。死が急速に迫ってきている気分だった。
最後の審判まで、あと24時間
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