6人目の魔女

Yakijyake

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***『娘』がくれたもの

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「今から街に出かけてもいいですか?」
そう聞かれれて、私は一瞬不審に思った。自分からお使い以外で街に行くなんて普段言わないから。もしかして私がいる家から1秒でも長く離れたいのだろうか。そういえば、朝抱いた時も少し嫌がられた気がする。やはり、今まで黙っていたことを怒っているのだろうか。でも、ベレッタが街に行きたがっているならば、私に止める権利はない。
「いいわよ、気をつけていってらっしゃい」
あえて理由は聞かなかった。
ベレッタが街へ行った理由はやはりわからない。やっぱり私が嫌いなのか…あの時言われた「大好き」は場を繕うための嘘だったのか。そう考えるたびにベレッタに嘘を吐かせてしまった自分の不甲斐なさに嫌気がさす。誰もいない家を見回す。あぁ、一人でいるとなんでこんなにも寂しいのだろう。自らこの場所を選んだというのになぜこんなにも孤独感を感じるのだろう。この静けさを辛く感じた。
ベレッタが出かけてから二時間。一日のたった十二分の一にしかならない時間をとても長く感じた。私は一人、ずっと考えていた。どこで道を誤ったのか。もしかしてベレッタを受け取った時点で道を誤っていた…?嫌、嫌。こんなこと考えたくない。ベレッタを受け取って後悔するなど信じたくない。考えたくもない。でも当時の私は今の状況を見てもなおベレッタを受け取るだろうか…
ベレッタが出かけてから三時間。私は深く考えるのをやめてリビングの椅子に座ってぼんやりしていた。にしてもいくらなんでも遅すぎる。何かあったのではないか。自分から離れたいのならまだしも、事件に巻き込まれたとなれば大変だ。家を出ようか悩んでいたその瞬間、玄関のドアが開いた。そして目に映ったベレッタを見て私は今までの悩みは全て杞憂であったことを知り、同時に思い悩んだ自分を後悔した。
ベレッタは街へ行った手土産に美味しい焼き菓子をくれた。しかしそんなこと、どうでも良くなるぐらいにベレッタを見続ける。
ベレッタは…髪の毛を青く染めていた。
「どうですか…私の髪…お母様に一歩近づけましたか?」
そう言ってベレッタは手を髪の毛にやる。ベレッタは私を嫌ったと思っていた。ベレッタはもう私に失望したと思ってた。嫌いになったと思っていた。だが全て違った。ベレッタは今までも、今も私のことをこんなにも思ってくれている。しばらく唖然としていると
「やっぱり……似合ってませんよね。無理やり色を変えた感じがして。どうせ明日には色は落ちますから」
そんなことない。ベレッタは未だかつてないほど美しく、輝いて見える。しかし、うまく言葉にできなかった。
「いやいや、とても綺麗よ」
とありたきりな言葉しか並べられなかった。それでもベレッタは嬉しそうにニッコリと笑った。まるで私に褒められたことがとっても誇らしいことかのような表情。その後、ベレッタは私の向かいに座る。
「街では今日を『母の日』と呼んでるらしいですよ」
「なので、日頃の感謝の気持ちを込めて、ささやかなプレゼントを用意しました」
「……………」
ベレッタはこれ以上何をくれるというのか。髪を青く染め私が間違っていたことを教えてくれた。私がベレッタを信じきれなかったことを否定してくれたというのにこれ以上何をくれるのか。
「ささやかですが…これをお母様に差し上げます」
渡してくれたのは一輪の青い薔薇。とても凛々しく咲いていて、目を奪われるほどに美しかった。
「ありがとう。とっても嬉しいわ」
もちろん、本心で言っている。ただ、自分の語彙力のなさは我ながら情けなく感じた。
きっとベレッタはわかっていて薔薇を選んだのだろう。薔薇でなければいけない理由を絶対に知っている。ようやくベレッタの本心がし知れた気がした。あの時「大好き」と言ってくれたあの言葉が嘘でないことも。
そう思った理由。花にはいろんな意味が込められている。それらを花言葉という。
そして薔薇の花言葉は
『愛』
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