上 下
13 / 73
リボフラの城下町

ラーヴァナとの死闘

しおりを挟む
盗賊たちに運び込まれる形で洞窟に入ってアジトに着いた隆。
そこで目にしたのは十数人もの盗賊たちが盗ってきたものを自慢しあい、酒を飲み交わす光景だった。

「お前ら!珍しいもんが手に入ったぞ!」

ブーメランを持っていた女の盗賊が大声を上げると一斉に気絶している隆の方に目線が行く。

「そんな大声上げると…目を覚ます…」

「そうだぞー、それにお前何もしてないだろ。早くボスの所に持っていこうぜ」

「高価そうなものはラーヴァナ様に持っていくというのがルールだからな。全員で行っても鬱陶しいと思われかねんから小生が行ってこよう」

「うん…お願い…」

隆を担いでいる男が盗賊達のボスであるラーヴァナのいる部屋をノックすると「入れ」という声が。
「失礼します」と言って男がドアを開けると部屋には高価そうな武器や鎧、金銀財宝が所狭しと置かれており、部屋の中央にある玉座にラーヴァナと呼ばれる大きな二つの角をつけた女性は座っていた。

「ラーヴァナ様、今回の獲物を持って来ました」

「ああ、だが獲物ってもしかして肩に乗ってる男かい…?悪いがアタシはそういう趣味はないよ」

「それは存じています。獲物はこの男が装備している手甲です。外そうと思ったのですが力ずくで外そうとすると腕がちぎれる可能性があるのでここまで持って来ました」

「なるほど。それでアタシにこいつを脅して嬲って武器を外させるか、腕を切り落として手に入れるか選べって言いたいのか」

「失礼ながらその通りです」

「ふーん。ならそいつ早く下ろさないと殴られるよ」

「それはどういう…」

「こういう意味だボケがぁ!」

隆は右腕を顔面に叩きつけ、まともに食らった男は鼻血を吹き出してその場に倒れた。
担がれていた隆はうまく着地ができなかったが、なんとか立ち上がる。

「よっ、お前が手配書に書いてあったラーヴァナってやつか。眼帯してねぇし女とは思わなかったな」

「女で悪かったね、それに手配書に書いてあったやつはとっくの前に死んだ。今はアタシがここのボスをやってんだが…さっきの話聞いてたんだろ?痛い目見ないうちにその手甲よこしな」

「断る。これは俺が大金払って手に入れた手甲だからな。奪えるもんなら奪ってみやがれ!」

「ふっ…その言葉忘れるんじゃないよ!」

隆に向かって椅子を蹴り飛ばすラーヴァナ。
隆は飛んできた椅子を壊すがラーヴァナは視界から消えていた。

「『顎砕き(クラッシュアウト)』!」

ドゥン!と何かが爆発した音が轟き、隆の顎に炎を纏った拳大の石が当たった。
硬いものでアッパーを食らったような衝撃を受けた隆は一瞬だけ宙に浮き、仰向けに倒れる。

「今ので歯が砕けただろ?はやく降参しないとその割とイケてる面が台無しになるよ」

「誰が…渡すかよ…ペッ!この世界に銃があるとは思ってなかったがそんなもんで俺がビビると思ってんのか!」

地と二本の歯を吐き出す隆。
しかし隆の歯は一本も欠けておらず、吐いた歯はすぐに灰となって消えた。

「次は俺の番だな!おらぁ!」

隆は近くにあった宝箱を蹴り飛ばし、中身が飛び出した所を狙う。

「アタシの真似事か!そんなのに引っかかるわけがないだろう!」

横に避けたラーヴァナ。
だが隆は読んでいた。

「ふん!」

隆の放ったボディブローが直撃した。

「クフッ…素人かと思ったけどそうじゃないな!ならアタシは全力でお前を殺す!『湯煙殺人空間(フォグスタジアム)!』」

ラーヴァナが大きく息を吸うと大きな角が赤く輝き、息を吐くと角から湯気が吹き出し、部屋が湯気に包まれた。

「おいおい…マジかよ…」

「蒸し暑いだろ?何も見えず、何も分からないままアタシに殺されな!」

一瞬だけ視界に映っては斬られ、殴られ、撃たれる隆。

「ほらほら!反撃すらしないのかい!!?」

「くっ…うらぁ!」

「当たらないね!」

殴られた瞬間に振り払おうとするが、その時にはもう別の方向から刺されていた。

「このまま…相手が疲れるのを待つのもあるが…そんなかっこ悪いことできねえよな…グハアッ!」

腹に三本目の剣が刺さる。

「何を独り言言ってるのか知らないけどこれで止めだよ!『赤き角の砲撃(フレイムホーク)!』

真っ直ぐに突進を仕掛けてくるラーヴァナ。
薄れゆく意識の中、隆は腰を落とし、拳を握りしめて最後の一撃を繰り出した。

「やるじゃ…ないか…」

大きな音を立ててラーヴァナが倒れると湯気は晴れ、同時に隆もその場に倒れた。
そして、それを見ていたかのように空間を裂いて黒いフードをかぶった少女が部屋に降り立った。

「暑い部屋じゃのぅ…さて、せっかく自力で倒したのだから剣ぐらい抜いてやるとするか」

隆の体に刺さった剣を引き抜き、適当に捨てる少女。

「で、アメジスト。どうじゃった?こやつは」

少女が問いかけるとラーヴァナは頭をさすりながら起き上がった。

「負けたアタシに聞きます?…まぁ動きはラーヴァナに比べれば素人そのものでしたけど成長の余地はあるんじゃないですかね。じゃあこのアメジストは帰らせていただきますよー」

「おい待て。それだとこやつがおぬしを倒したという証拠がなくなるだろう。せめてこやつの仲間が来て自慢くらいさせてやれ」

「嫌ですよ。下手したらそのまま連れて行かれて殺されちゃうじゃないですか。そんなわけで先に帰らせていただきますよー」

そう言ってアメジストは霧になって消えていった。

「まったく…何の為に妾がここまで手を回したと思っておるんじゃ…」

そう言って少女もどこかに消えていった。

隆が目を覚ますとラーヴァナは消えており、部屋には大量の財宝があるだけだった。

「あいつ…何処に行きやがったんだ?リトス達は来てねえし、何故か腹に刺さってた剣は抜けてるし…何が何だか分からねえな…とりあえず金目のもの奪っておくか!」

部屋に落ちている宝石やネックレスなどを袋に詰められるだけ詰め、ドアの前に倒れていた男をどかして隆は部屋を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

性転換スーツ

廣瀬純一
ファンタジー
着ると性転換するスーツの話

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...