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第4章 フシギな紋章とアヤシイ客人
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朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。
寝ぼけた顔でリビングに来た皇兄妹。
あまりにも昨夜の出来事に衝撃的すぎて元気が出ない。
それぞれソファーに座り近況報告を始める。
「ねえ。私、昨夜……不思議な人に出会ったの。その人はとても困っていて悲しんでいた。だからうまく交渉できたことまではよかったの……」
「わたくしも。夜中に乱暴な人が現れて驚かしてきたの。追い払おうとしたのだけれど。諦めるそぶりがないですわ……」
「同感。僕も目が覚めて強い奴と戦った。だけどボロ負けでさ。ひどい有様だったぜ……」
「俺もだ。部屋に楽観的なヤツがきてよ。最初は戸惑ったが抵抗したら消えたぞ……」
気を使ってそれぞれ、嘘をつくがそれを阻止する者が現れた。
四人は物音でビクッと驚き目が覚めそれぞれ叫ぶ。
「きゃあっ!? コール? なぜここに?」
「おい!? ジン? マジかよ……夢じゃなかったのか」
「イヴァン、おはよう」
「暁明か……」
深夜で見たあの恐ろしい姿の面影はそのままに、人間にとけこもうとしている姿で現れた。
しかし兄妹はお互い顔を見合わせる。
何か隠し事をしているのではないかと。
『やあ、あやね。ようやく会うことができたな。みんなも、おはよう』
『よお、エミリー。他に人間がいるなら言ってくれよ。楽しみが増えたぜ』
『おい、憂炎。これはいったいどういうことか説明してもらおうか』
『ねえ、大我兄ちゃん。この子たちが妹ちゃん? 可愛いね!』
もう逃げられない、四人はそれぞれ言い訳を言い始めた。
自分が体験したことも含めて。
「ああっ! ごめんね。私、ヴァンパイアに出会ったの。それからまったく記憶がなくて。他にもいたの?ねえ、ウソついた……?」
「しかたがないでしょう!? ゴーストじゃなくてウェアウルフだったなんて……怪物は彼だけかと思っていましたわ。それに他にもいるなんて……いったい、どういうことですの!?」
「こっちが聞きたいぜ! まさかフランケンシュタインの怪物と戦うなんて。しかも心理戦だったさ。そうだよ! マジで危なかったんだ……信じていたのに」
「そうだったのか……? だからソワソワしていたんだな。俺はキョンシーのガキに出会ったんだよ。お前たちもグルだったのか……おのれ」
彼女たちが限界になり息切れしているのを怪物の男たちは笑っていた。
この四人の人間は仲良しで可愛らしい。
言い争いをしているところが面白くてどこか憎めないのだ。
(俺たちにとってはかけがえのない存在で怖がらず話し相手になってくれた)
初めて会ったのにどこか特別。
(運命でも、なにものでもない奇跡が起こったのだ!)
『ほら、ミルクティーだ。少しはこれを飲んで落ち着いてほしい』
「え? あ、ありがとう」
イヴァンは、あやねにカップを渡す。
それを見ていたエミリーと憂炎と大我は、逃げようと立ち上がろうとしたとき。
コールとジンと暁明がそれぞれ愛する方に近づく。
『パンとミルクだ。朝食まだだろ? さっさとすませようぜ』
『大丈夫か? 昨夜は寝られなかっただろう。肩をもんでやる』
『朝からケンカしないで。僕はそんな空気イヤだからね!』
「まあ……そんなことまで」
「僕らはなめられているのか? それとも寝ぼけて状況を理解していないのか?」
「マジかよ・・・・・・つまり逃れられないわけか」
リビングにこんな貴族のような紳士、ガサツな好青年、強面の力持ち、どこか憎めないピュアな少年。
彼女たちが想像していた怪物とは程遠いイメージ。
しかし牙や爪、縫い目など面影は残っている。
兄妹たちはそれぞれキッチンへ向かい、朝食を彼らと共に済ませた。
四人は小声で心の中の声を漏らす。
『とても落ち着かない朝になりそう……』
◇
数分後、私服に着替えた兄妹たちはリビングのソファーに座る。
そう、目的は遊びに来たのではない。
父から頼まれたこの古城の謎を解くこと。
しかしまずは怪物たちの事を知るために互いに話し合うことにしたのだ。
「えっと……イヴァンの友達なの? この三人は」
『ああ。彼らはこの城に住み込んだ迷える者。俺が最初に独占していたところに入ってきたのだ。だが可哀想だったから理由を聞いて仲良くなったのだよ』
「ええ? コール、その理由とはいったいなんですの?」
『野蛮な一族から逃げてきたんだ。オレはただ、人間と仲良くなりたいだけなのに他はそうは思わなかった。だからそいつらとは絶好したんだ』
「なるほどな。で、ジンはなぜここにいたんだよ?」
『俺は気がついたらここにいた。鎖でつながれ動けないところを二人が助けたんだ。寂しくてな。だからお前たちのような人間を見てチャンスだと思った』
「それは災難だったな。で、暁明はどういった経緯でここに?」
『僕がここに迷い込んだ時に三人が現れて話を聞いてくれたんだ。唯一の友達だよ』
怪物の正体は本物の吸血鬼、人狼、フランケンシュタインの怪物、キョンシー。
兄妹たちは彼らの寂しそうな瞳を見て悲しくなってしまう。
こんな理由を聞かれたら、もう怖いとは思えなくなった。
しかし、彼らは兄妹たちになぜ興味を持ったのだろうか。
それぞれ思っていることを語り出す。
「そうだったんだ。私はてっきりただ血を吸うだけの恐ろしいイメージしかなかったけど、優しいところがあるんだね。仲良くなれそう!」
『ああ! なんてあやねは、優しい娘なのだろうか。我が花嫁にふさわしい』
「ちょっと待ってください! 事情は分かりましたが仲良くなるというのは。その……イヴァンさんがおっしゃった花嫁になるってことですの?」
『勿論。オレはエミリーのことが好きになってしまったんだ。人間を襲うより君といたほうが幸せだ。もちろんなんだって聞くよ』
「はっ! 残念だったなあ、妹たちよ。ジンはそんなことは思っていないだろ。僕はそういうのはごめんだね」
『いいや。二人と同じだ。憂炎と出会ってしまった以上俺からは逃れられない』
「随分とモノ好きな怪物たちだ。暁明は違うだろう? 俺らは男だし」
『性別なんて関係ないよ。僕は大我を好きになったし』
エミリーと憂炎と大我は、別の意味の恐怖で震えているがあやねはキョトンとしている。
彼らは兄妹たちのうなじを見つめてなぜ我がモノにするのかを教えた。
『あやねには《《バラの紋章が見えるぞ。うなじに刻まれた霊力が俺と共鳴している》》』
『エミリーはロザリオの紋章だな。他の人間にはない模様だな』
『そのようだ。憂炎は《《五芒星の紋章だ。好きになった理由はこいつが引き寄せたんだ》》』
『うん。大我兄ちゃんにはドラゴンの紋章が見えるよ。カッコいいな』
四人は隣にある大きな鏡を見てうなじを確認する。
赤いバラ、水色のロザリオ、緑色の五芒星、黒い龍が刻まれている。
「これはいったいなんだろう? なにかのお守りかな」
「そういえばシスターが言っていました……うなじにあるのは守護天使が眠ると教わりました」
「ただのガセネタだろ。こんなタトゥーみたいなのをはった覚えはないぞ」
「いつの間にこんなのが……、生まれつきの何かか?」
その時、ドンドン!とドアをノックする音が鳴り響く。
いったい誰だろうと考えている暇もなく、あやねが急ぎ足で向かう。
三人が止めようとするが怪物たちが抑える。
ドアを開けると、その人物は前に皇兄妹たちに警告した少女だった。
「あっ! あの時の。おはようございます。なんのご用ですか?」
「……怪物は出たの?」
少女は身体がビクビク震えてあやねを見る。
様子がおかしい、いったい何があったんだろうか。
「なぜ……まだここにいるの? ……まさか、怪物はいないってこと?」
「いいえ。怪物は、いましたよ。でも心優しい人たちです」
あやねが爆弾発言を投下し背後で慌てる三人。
それを聞いた少女は突然、静かに泣き出した。
「……そう。心配したんだから」
「え?」
「この前はヒドいことを言ってごめんなさい。……あなたたちは本気でこの古城の謎を解くつもりなのね」
彼女の姿をよく見てみると腕が傷だらけ。
我慢ができない三人はあやねの方にかけつけた。
振りほどかれた怪物たちは少し残念そうな顔をしている。
「あなたは……あの時の。え……なぜ泣いているの?」
「おい……。傷だらけじゃないか。何があった?」
「何か訳がありそうだ。……穏やかじゃないな」
その瞬間、少女はふらりと体制を崩してぐったりとした顔になりながら倒れそうになる。
それを止めたあやねは、彼らに向かって言った。
「ねえ。この人を助けよう! お願い手伝って!」
『客か、手遅れにならないようにしないとな』
とりあえず全員が少女を中に入れ手当てなどの準備をはじめた。
気を失っているのに気がつかないまま……。
◇
どうしてだろう、あの城に入ったときの感覚が忘れられない。
本当はただ雨宿りをするはずだったのに。
テーブルには温かい食卓と優しくほのかに光るロウソクが。
いったい誰がおもてなしをしたんだろう。
でも、血の匂い……獣の唸り声……迫りくる足音。
叫んで泣いて、走って。
ここで足を止めたら、捕まってしまう。
息が切れそう……。
ああっ、もうだめ。
身体が……動かない。
「きゃああああああ」
目を覚ますと少女はベッドの横にいた。
「今のは……夢?」
ぼんやりだったけれど、はっきりとまでは覚えていない。
あの子たちが助けてくれたのだろうか。
「あ、起きたみたい。大丈夫?」
「汗がびっしょりですよ……下手に動いてはいけません」
「ほら、少しはこれでも飲んで落ち着けよ。ただの水だ」
「冷えたタオルで頭を冷やせ。ずいぶんとうなされたな」
こんなにも優しく接してくれるなんて。
今はただそれに従い自分を落ち着かせるところからにしないと。
少女は憂炎が持ってきたコップに入っている水を受け取る。
「……おいしい。あ、私はどうしてここに?」
兄妹たちが説明してくれたが、彼女にとってはその内容がたまに信じられない部分もあり驚いていた。
なぜ怒っていたのだろう、自分には目的があってここに来た。
深く深呼吸する。
すると失っていた記憶がよみがえり次々と思いだす。
「……そうだ。私は怪物を倒すためにあなたたちをここから出ていくようにと伝えたかっただけなのに」
兄妹たちの顔色が変わる。
「私は、小夜。信じてもらえないかもだけど自分は一度ここに来た事があるの。だからキツく言ってしまって悪かったわね」
「そうだったんだ! えーっと……小夜さんはどうして怪物を倒そうと思うの?」
「こらっ! お姉ちゃん。失礼なこと言わないでください!」
あやねはしょんぼりしたが小夜は笑って返した。
憂炎と大我のあきれ顔にエミリーは怒って心配している。
「いいのよ。けれど何かそっちにもゆずれない理由があるみたいね。話してくれる? 全て受け止めるわ」
さっきまでのヒステリックな彼女とは大違いだ。
兄妹たちはお互い顔を見合わせたが、どうせ逃げられないだろうと考えていることは一緒。
こうなったら話せるだけ話してみようと覚悟を決めた。
「じゃあ、私はヴァンパイアのイヴァンについて話すね」
「わたくしはウェアウルフの、コールとの出会いについてですわ」
「僕はフランケンシュタインの、ジンについて話そう」
「俺はキョンシーの、暁明について語ろう」
嘘偽りなく話し始めた四人はまるで怪談師のよう。
小夜はだまって四人の体験を聞いた……。
寝ぼけた顔でリビングに来た皇兄妹。
あまりにも昨夜の出来事に衝撃的すぎて元気が出ない。
それぞれソファーに座り近況報告を始める。
「ねえ。私、昨夜……不思議な人に出会ったの。その人はとても困っていて悲しんでいた。だからうまく交渉できたことまではよかったの……」
「わたくしも。夜中に乱暴な人が現れて驚かしてきたの。追い払おうとしたのだけれど。諦めるそぶりがないですわ……」
「同感。僕も目が覚めて強い奴と戦った。だけどボロ負けでさ。ひどい有様だったぜ……」
「俺もだ。部屋に楽観的なヤツがきてよ。最初は戸惑ったが抵抗したら消えたぞ……」
気を使ってそれぞれ、嘘をつくがそれを阻止する者が現れた。
四人は物音でビクッと驚き目が覚めそれぞれ叫ぶ。
「きゃあっ!? コール? なぜここに?」
「おい!? ジン? マジかよ……夢じゃなかったのか」
「イヴァン、おはよう」
「暁明か……」
深夜で見たあの恐ろしい姿の面影はそのままに、人間にとけこもうとしている姿で現れた。
しかし兄妹はお互い顔を見合わせる。
何か隠し事をしているのではないかと。
『やあ、あやね。ようやく会うことができたな。みんなも、おはよう』
『よお、エミリー。他に人間がいるなら言ってくれよ。楽しみが増えたぜ』
『おい、憂炎。これはいったいどういうことか説明してもらおうか』
『ねえ、大我兄ちゃん。この子たちが妹ちゃん? 可愛いね!』
もう逃げられない、四人はそれぞれ言い訳を言い始めた。
自分が体験したことも含めて。
「ああっ! ごめんね。私、ヴァンパイアに出会ったの。それからまったく記憶がなくて。他にもいたの?ねえ、ウソついた……?」
「しかたがないでしょう!? ゴーストじゃなくてウェアウルフだったなんて……怪物は彼だけかと思っていましたわ。それに他にもいるなんて……いったい、どういうことですの!?」
「こっちが聞きたいぜ! まさかフランケンシュタインの怪物と戦うなんて。しかも心理戦だったさ。そうだよ! マジで危なかったんだ……信じていたのに」
「そうだったのか……? だからソワソワしていたんだな。俺はキョンシーのガキに出会ったんだよ。お前たちもグルだったのか……おのれ」
彼女たちが限界になり息切れしているのを怪物の男たちは笑っていた。
この四人の人間は仲良しで可愛らしい。
言い争いをしているところが面白くてどこか憎めないのだ。
(俺たちにとってはかけがえのない存在で怖がらず話し相手になってくれた)
初めて会ったのにどこか特別。
(運命でも、なにものでもない奇跡が起こったのだ!)
『ほら、ミルクティーだ。少しはこれを飲んで落ち着いてほしい』
「え? あ、ありがとう」
イヴァンは、あやねにカップを渡す。
それを見ていたエミリーと憂炎と大我は、逃げようと立ち上がろうとしたとき。
コールとジンと暁明がそれぞれ愛する方に近づく。
『パンとミルクだ。朝食まだだろ? さっさとすませようぜ』
『大丈夫か? 昨夜は寝られなかっただろう。肩をもんでやる』
『朝からケンカしないで。僕はそんな空気イヤだからね!』
「まあ……そんなことまで」
「僕らはなめられているのか? それとも寝ぼけて状況を理解していないのか?」
「マジかよ・・・・・・つまり逃れられないわけか」
リビングにこんな貴族のような紳士、ガサツな好青年、強面の力持ち、どこか憎めないピュアな少年。
彼女たちが想像していた怪物とは程遠いイメージ。
しかし牙や爪、縫い目など面影は残っている。
兄妹たちはそれぞれキッチンへ向かい、朝食を彼らと共に済ませた。
四人は小声で心の中の声を漏らす。
『とても落ち着かない朝になりそう……』
◇
数分後、私服に着替えた兄妹たちはリビングのソファーに座る。
そう、目的は遊びに来たのではない。
父から頼まれたこの古城の謎を解くこと。
しかしまずは怪物たちの事を知るために互いに話し合うことにしたのだ。
「えっと……イヴァンの友達なの? この三人は」
『ああ。彼らはこの城に住み込んだ迷える者。俺が最初に独占していたところに入ってきたのだ。だが可哀想だったから理由を聞いて仲良くなったのだよ』
「ええ? コール、その理由とはいったいなんですの?」
『野蛮な一族から逃げてきたんだ。オレはただ、人間と仲良くなりたいだけなのに他はそうは思わなかった。だからそいつらとは絶好したんだ』
「なるほどな。で、ジンはなぜここにいたんだよ?」
『俺は気がついたらここにいた。鎖でつながれ動けないところを二人が助けたんだ。寂しくてな。だからお前たちのような人間を見てチャンスだと思った』
「それは災難だったな。で、暁明はどういった経緯でここに?」
『僕がここに迷い込んだ時に三人が現れて話を聞いてくれたんだ。唯一の友達だよ』
怪物の正体は本物の吸血鬼、人狼、フランケンシュタインの怪物、キョンシー。
兄妹たちは彼らの寂しそうな瞳を見て悲しくなってしまう。
こんな理由を聞かれたら、もう怖いとは思えなくなった。
しかし、彼らは兄妹たちになぜ興味を持ったのだろうか。
それぞれ思っていることを語り出す。
「そうだったんだ。私はてっきりただ血を吸うだけの恐ろしいイメージしかなかったけど、優しいところがあるんだね。仲良くなれそう!」
『ああ! なんてあやねは、優しい娘なのだろうか。我が花嫁にふさわしい』
「ちょっと待ってください! 事情は分かりましたが仲良くなるというのは。その……イヴァンさんがおっしゃった花嫁になるってことですの?」
『勿論。オレはエミリーのことが好きになってしまったんだ。人間を襲うより君といたほうが幸せだ。もちろんなんだって聞くよ』
「はっ! 残念だったなあ、妹たちよ。ジンはそんなことは思っていないだろ。僕はそういうのはごめんだね」
『いいや。二人と同じだ。憂炎と出会ってしまった以上俺からは逃れられない』
「随分とモノ好きな怪物たちだ。暁明は違うだろう? 俺らは男だし」
『性別なんて関係ないよ。僕は大我を好きになったし』
エミリーと憂炎と大我は、別の意味の恐怖で震えているがあやねはキョトンとしている。
彼らは兄妹たちのうなじを見つめてなぜ我がモノにするのかを教えた。
『あやねには《《バラの紋章が見えるぞ。うなじに刻まれた霊力が俺と共鳴している》》』
『エミリーはロザリオの紋章だな。他の人間にはない模様だな』
『そのようだ。憂炎は《《五芒星の紋章だ。好きになった理由はこいつが引き寄せたんだ》》』
『うん。大我兄ちゃんにはドラゴンの紋章が見えるよ。カッコいいな』
四人は隣にある大きな鏡を見てうなじを確認する。
赤いバラ、水色のロザリオ、緑色の五芒星、黒い龍が刻まれている。
「これはいったいなんだろう? なにかのお守りかな」
「そういえばシスターが言っていました……うなじにあるのは守護天使が眠ると教わりました」
「ただのガセネタだろ。こんなタトゥーみたいなのをはった覚えはないぞ」
「いつの間にこんなのが……、生まれつきの何かか?」
その時、ドンドン!とドアをノックする音が鳴り響く。
いったい誰だろうと考えている暇もなく、あやねが急ぎ足で向かう。
三人が止めようとするが怪物たちが抑える。
ドアを開けると、その人物は前に皇兄妹たちに警告した少女だった。
「あっ! あの時の。おはようございます。なんのご用ですか?」
「……怪物は出たの?」
少女は身体がビクビク震えてあやねを見る。
様子がおかしい、いったい何があったんだろうか。
「なぜ……まだここにいるの? ……まさか、怪物はいないってこと?」
「いいえ。怪物は、いましたよ。でも心優しい人たちです」
あやねが爆弾発言を投下し背後で慌てる三人。
それを聞いた少女は突然、静かに泣き出した。
「……そう。心配したんだから」
「え?」
「この前はヒドいことを言ってごめんなさい。……あなたたちは本気でこの古城の謎を解くつもりなのね」
彼女の姿をよく見てみると腕が傷だらけ。
我慢ができない三人はあやねの方にかけつけた。
振りほどかれた怪物たちは少し残念そうな顔をしている。
「あなたは……あの時の。え……なぜ泣いているの?」
「おい……。傷だらけじゃないか。何があった?」
「何か訳がありそうだ。……穏やかじゃないな」
その瞬間、少女はふらりと体制を崩してぐったりとした顔になりながら倒れそうになる。
それを止めたあやねは、彼らに向かって言った。
「ねえ。この人を助けよう! お願い手伝って!」
『客か、手遅れにならないようにしないとな』
とりあえず全員が少女を中に入れ手当てなどの準備をはじめた。
気を失っているのに気がつかないまま……。
◇
どうしてだろう、あの城に入ったときの感覚が忘れられない。
本当はただ雨宿りをするはずだったのに。
テーブルには温かい食卓と優しくほのかに光るロウソクが。
いったい誰がおもてなしをしたんだろう。
でも、血の匂い……獣の唸り声……迫りくる足音。
叫んで泣いて、走って。
ここで足を止めたら、捕まってしまう。
息が切れそう……。
ああっ、もうだめ。
身体が……動かない。
「きゃああああああ」
目を覚ますと少女はベッドの横にいた。
「今のは……夢?」
ぼんやりだったけれど、はっきりとまでは覚えていない。
あの子たちが助けてくれたのだろうか。
「あ、起きたみたい。大丈夫?」
「汗がびっしょりですよ……下手に動いてはいけません」
「ほら、少しはこれでも飲んで落ち着けよ。ただの水だ」
「冷えたタオルで頭を冷やせ。ずいぶんとうなされたな」
こんなにも優しく接してくれるなんて。
今はただそれに従い自分を落ち着かせるところからにしないと。
少女は憂炎が持ってきたコップに入っている水を受け取る。
「……おいしい。あ、私はどうしてここに?」
兄妹たちが説明してくれたが、彼女にとってはその内容がたまに信じられない部分もあり驚いていた。
なぜ怒っていたのだろう、自分には目的があってここに来た。
深く深呼吸する。
すると失っていた記憶がよみがえり次々と思いだす。
「……そうだ。私は怪物を倒すためにあなたたちをここから出ていくようにと伝えたかっただけなのに」
兄妹たちの顔色が変わる。
「私は、小夜。信じてもらえないかもだけど自分は一度ここに来た事があるの。だからキツく言ってしまって悪かったわね」
「そうだったんだ! えーっと……小夜さんはどうして怪物を倒そうと思うの?」
「こらっ! お姉ちゃん。失礼なこと言わないでください!」
あやねはしょんぼりしたが小夜は笑って返した。
憂炎と大我のあきれ顔にエミリーは怒って心配している。
「いいのよ。けれど何かそっちにもゆずれない理由があるみたいね。話してくれる? 全て受け止めるわ」
さっきまでのヒステリックな彼女とは大違いだ。
兄妹たちはお互い顔を見合わせたが、どうせ逃げられないだろうと考えていることは一緒。
こうなったら話せるだけ話してみようと覚悟を決めた。
「じゃあ、私はヴァンパイアのイヴァンについて話すね」
「わたくしはウェアウルフの、コールとの出会いについてですわ」
「僕はフランケンシュタインの、ジンについて話そう」
「俺はキョンシーの、暁明について語ろう」
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