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第3章 怪物たちの目覚め

憂炎の場合

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 なぜだか、身体が勝手に動いた。
ああ……眠れないのか。
僕は喉がかわき眠れないことに無性に腹が立った。
「なんだよ、兄妹たちは今頃夢の中だろうにムカつくぜ」
時計を見ると午前二時半と記されていた。
逢魔が時おうまがどき、人ならざる者たちの時間だ。
「ハン、怪物なんて知ったことか!」 
さっさと何か飲んで部屋に戻ってやる。
僕は部屋を出てリビングへと向かった。
真っ暗で電気はつけられないから足場が不安定だ。
こんなこともあろうかと用意してあった懐中電灯を持ち明りをつける。
何から何まで計算済みだ、古城の謎を調べるときに一番必要になる物を持ってきて正解だった。
あたりを照らしても何にも出てこない。
「ちっ。当たり前だ、これが普通だろ」
リビングについた僕は冷蔵庫を開け、中を確認した。
「ミネラルウォーター、リンゴジュース、アイスコーヒー……? ああっ、どれも飲みたい気分じゃない!」
ドアをイスに座り込み僕は大きなため息をつく。
こういう時に限って冷たいものを飲んだって腹をこわすに決まっている。
だからといって暖かい飲み物を飲みたいかと言われたら。
「はぁ、もういい……素直にミネラルウォーターでも飲むか」
コップを出し、こぼさないようにゆっくりと注ぐ。
「うん……ふつうの水だな」
寝ぼけておかしくなっているのか僕の思考しこうはすでに限界を超えていた。
寒いからだろうか、変に妄想もうそうすると脳がバグを起こす。
まだ眠れない……うとうとしてもいいはずなのに。
怪物が出る気配など考えてもムダだ。
よし、少し独り言をしよう。
もう少しミネラルウォーターを飲み、深呼吸する。
え?僕は怖くないのかって?
妹たちと一緒にしてほしくない。
ガキの頃に香港ホンコン拳法けんぽうを習い日本に帰国してからはジムに通っていた。

例えばの話、《《鬼が出てきたとしよう。
そいつは凶暴きょうぼうでとても手がつけられないサイヤクの相手だ》》。
いわゆる脳筋野郎のうきんやろう
こっちをじっと睨みつけてきて牙を出しながら。
『お前は今、立ち止まった。そこで動いたりしたら捕まえてやるぞ』
なんて言われたらどうするよ? 
僕だったらすぐにコテンパンにしてやるまでだ。
なぜかって? 
拳でぶつかって、足でけとばす。
これ以上最高のトレーニングはないだろうに。
僕は背伸びをして心の中で思っていたことを吐き出し、口ずさんでしまった。
「もし 怪物がいるとしたら 今頃 獲物でも 探しているだろうな きっとマヌケに違いない! ああ 残念だよ 僕がこの手で 相手をしてやるのに かわいそうだ」

『じゃあ聞こうか その怪物である俺が 今、お前の背後に いるとしたらどうする? 見えないとは言わせないぞ』
背後から寒気がして視線が強く感じる。
低い声……男だろうか。
僕は大きな足音がこっちに向かっていることに気づいた。
イメージしてはいけない、だが余計に気になる。
本当に背後にのだろうか。
「貴様、何者だ! 背後からとは卑怯ひきょうだぞ」
僕が振り向き叫んだ瞬間、イスから転げ落ちる。

《《ボロボロのコートに顔には縫い目、腕には包帯ほうたいが巻かれており筋肉もある》》。

『俺はジン。どうやら口だけは達者のようだな』
「まさか……? これは……夢か?」
存在は本で読んだそのもので、欲におぼれた哀れな科学者が創りあげた人造人間じんぞうにんげん
無理やりにでも僕は体勢を立て直し、その場から逃げる。
ヤツに追いつかれたらキリがない。
大きな足音がドシン、ドシンと響きわたる。
僕は、途中で足をよろけそうになる。
「……マジかよ。運が悪すぎるってレベルじゃねえだろ!」
『逃げるな! お前は俺の希望だ』
眠れないと思った僕はおろかだった。
よそ見をしたのか、身体が急にフラつき倒れてしまう。
それを見たジンが大きな右手で僕を掴み左手で頬をつまむ。
「痛いっ! ちくしょう、はなしてくれ!」
『夢じゃない。さあ、少しは可憐な女らしく振舞ふるまったらどうだ』
「嫌だね! 僕はそんな弱そうなイメージは嫌いだ! なんでも言うこと聞くから放せ!」
『ほう……今、言うことを聞くと言ったな?』
ジンは、力強く僕を握りしめる。
(しまった! 油断したから……)

ジンは僕を解放してはくれたがあきらめるつもりはなかった。
今すぐにでも拳で対抗したいところだが、うまく身体が動かない。
「馬鹿にしやがって……」
僕は怒りが抑えられなかった。
『もう諦めろ。俺はお前を襲ったりはしない。話し相手になってくれないか』
ジンは僕の何を思ってこんな馬鹿なことを言っているんだ。
反論でもしようかと思ったが、なぜか急に悲しくなってきてしまった。
僕を試しているのか、それとも本気で人間と話し合えるとでも思っているのか。
「ちっ、まぁいい……」
舌打ちをしながらジンを睨みつける。
「僕は憂炎ユーエン。それでいったい何について話すつもりだ?」
『おお! 本当に聞いてくれるのか。この俺を恐れずに? だとしたらこれ以上の幸運はないぜ』
「いや怖くないし、調子に乗るな」
僕の霊感は強くても、妹たちに感情的にはならない。
ジンは嬉しそうに僕を抱きしめる。
「おい……苦しいだろ」
『ああすまない。。つい、な』
怪物側も大変だ、いや人間が生み出した化け物がいる時点ですでに驚きだが。

本人は気がついていないが、あやねが得意とする交渉こうしょう(話し合いで解決)、エミリーが得意とする霊視れいし(視えないものを集中して視る能力)。
僕は両方できる、はらう力はないが。
『その前にひとついいか? 俺は醜いみにくいだろうか』
「いや、カッコイイ。イマドキで言うとハードボイルドでハンサムって感じか……まあ個性があっていいと思うぞ。妹たちがなんて言うかは知らんが」
『そうか、。安心したよ……これで我がものにできる』
「あ? 今すごく嫌な予感がしたが……」
とにかくこいつに
なぜなら、
僕はジンの目線をそらし、スキを作る。
やっと眠れるのだ、誰かと話していたら自然と。
僕はそっと足音を立てずにリビングから出ようとする。
しかし背後からジンがゆっくりと追いかける。
『どこへ行くつもりだ? まだ話は終わってない』
「もう寝たい。さすがに疲れた」
『ならば共に寝よう。孤独はもう沢山だ。イヤだと言ってもついてくるぞ』
「は? 意味がわかんねえ」
うとうとしてきたのか、走る気力もなくなり部屋へと向かう。
ジンは僕を追いかけ続ける、理解者がいなくなったら暴れるつもりだろう。
無視して僕は部屋へと向かった……。
背後から視線が強く感じ僕は振り向き口ずさむ。
ジンも言い返す。
『俺の 悲しみも お前にも 味わってやる。そう 夢の中でな……』
「それはどうかな? やれるものなら やってみるがいいさ」
それ以降はまったく記憶にない。
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