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第3章 怪物たちの目覚め

あやねの場合

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 私はうなされるようにベッドから起きあがる。
こんなときにお手洗いになんて行きたくない。
でも文句を言っても仕方がない、ジュースを飲み過ぎたのは反省しているから。
「……お手洗いくらい、別にいいよね」
部屋から出ようとしたとき私は突然目を覚まし気配を感じた。
甘い香水のような香りが鼻にツン、とくる。
どうしてこんなにいい匂いがするのか? 
疑問に思いながらも急ぎ足でお手洗いに向かった。

    ◇

 数分後、何事もなくお手洗いを済ませ私はすっきりした。
普通は、この時に幽霊が現れて驚かしてくるはずなのに……。
 え?どんなことを考えていたかって?
そんなの考えられるのは一つ。

そしてそこにいるのは
『ねえ、遊びましょう……?』
なんて声をかけられたらどうする?
私はその子が、きっとかくれんぼでもして見つからなかったのを察して優しく励ます。
だってってなんだかさみしくない?
私は幽霊も怪物もきっと本当はどこかで寂しい想いをしているのかもしれない。
本や怪談を聞くとなんとなくって思えてくるから。
なんて……思った。
気がつくと私は感情が高ぶり思わず口ずさんでいた。
「だから 友達が できなかったの 私ってば そんなに変かな? 特別な力を 持っているだけで どうして 変な目で見るの? やめて なんだか悲しくなってくるわ」

『変なことではないさ 君の優しい心に 俺は同意する 自分を責めてはいけないよ 案ずるな 君は一人じゃない』
その時、背後から低い声が聞こえてきて私は振り返った。
そこにいたのは黒いマントが特徴のカッコいい男の人。
(外国人かな?)
赤い瞳がちょっと不気味だけどそんなこと言ったら失礼。
私は素直にあいさつする。
「こんばんは。私は、あやね。何か用ですか?」
『ご丁寧にどうも。素敵な名前だな、俺はイヴァン。眠れないのかな?』
「うん、お花をつみに……ってなんだか独特な服装ね」
まるで
『ああ、そうだろう? 
イヴァンはマントを翻してお辞儀じぎした。
(え……この人はもしかして) 
「えっと……さっきの独り言も聞こえていた?」
『そうだ。耳がいいからね。眠れないのならこっちへ来い。さあ、
「どうして、にらみつけてくるの? 私……悪いことなんてしていないのに」
私はお辞儀をして申し訳なさそうに謝る。
「ごめんなさい。眠くなったから部屋にもどるね」
足を部屋の方向にむけて歩きだす。
すると、イヴァンがこっちにやってきて私を優しく抱きしめる。
『一緒に寝たい。それに……あやねを一人にするなんてできないからな』
(あっ……この感じ……)
なぜ、悲しくなってくるのだろう。
もしかして、イヴァンもさっきの例え話のように寂しいことでもあったのか。
その時。

急にドスのきいた低くて不気味な声を出しニヤリと笑い私をマントで包みこむ。
けど私は正直に応える。
「ううん、怖くないよ。何か悩みでもあるの? 私に話してみて」
『なぜだ? 催眠術さいみんじゅつも効かないなんて……お前は何者だ?』
「私は。たとえあなたが、怪物でも悩んでいることがあるならほおっておけない!」
『ふふっ……なるほど、面白い。心優しき人間の娘か』
あれ……?もしかして怒らせちゃった?
けれどイヴァンの悲しみがまだ伝わってくる。
「えっと、イヴァン?血は吸わなくていいから悩みを聞かせてほしいな」
『それは保証できない。だが君を守ることはできそうだ』
(うわーん! なんだか別の意味で怒らせちゃったかも……)
私は急いで部屋に戻るが、肩にひんやりとした感覚が襲ってきた。
『逃がさないぞ 寂しい夜は もう終わりだ ゆっくり 夢の中で 聞かせてもらおう』
「どうしよう エミリー 憂炎お姉ちゃん 大我お兄ちゃん 私は 彼の交渉がんばるね……」

急いで部屋に戻りベッドにダイブ。
その時、勝手にドアが開いて……そして閉まる。
「どういうことなの? あ...」
『もう気がついてるだろう。俺からは逃れられないことを』
イヴァンが目の前に来て私を抱きしめる。
でも負けない、催眠術なんて効かないんだから。
「……こんなにも疲れたのね……私」
ゆっくりとイヴァンは私の首筋を見つめる。
「おやすみのキス……? ははっ、冗談だよね」
『いいや、本気だよ。これは友情の印だ。少しだけ味わうとしよう。……頂きます』
イヴァンが口を近づけ、鋭い二本の牙を突き立てる。
(痛くない……? 不思議な感覚)
赤い血が少しずつ流れ出し、彼の舌に絡みつく。
(もしかして彼はずっと我慢していたの? だとしたら……覚悟を決めなきゃ……)
どのくらい吸ったのだろうか。
イヴァンが満足そうになると、私の首筋に残った血をペロリとなめる。
『ご馳走様、おや……眠ってしまったようだ。安心しろ、俺が守ってやる。だからおやすみ』
私はすでに眠りについていたみたい……。
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