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第2章 気分はまるでホラー映画の主人公です

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 霧人が話してくれた内容はまるでホラー映画のあらすじでも聞かされているぐらい難しくて理解するには、とても時間がかかるほど。
憂炎と大我が真面目に聞いていたのまではいいが、あやねは途中で寝てしまいエミリーは失神した。
別にお話自体がつまらない訳ではなく難しかったのだ。
「……もう、うるさくて仕方ない。だから幽霊だの怪物などと言い高熱を出すぐらい彼は苦しかったのだ。怪奇小説かいきしょうせつ好きの憂炎と大我は分かってくれるだろう。二人は案の定か……。うまく伝えてくれるか?」
勿論もちろんだ。父さんがそこまで困っていることが僕には理解できたから二人にもわかるように説明しておこう」
「オカルトがらみの話なら任せとけ。すぐに片づけてやるさ」
「それでこそ、お前たちは立派な娘と息子だ。なんとしてでも古城の謎を解決してこい」
彼は厳しく怖い印象だが心は優しい父である。
だが二人には制限がつくほどの話を聞かされて現実逃避げんじつとうひしているようだ。
あやねは生まれた時から霊感が強く幽霊やなどのとは仲良くしたいが話が難しいと寝てしまうタイプ。
エミリーはホラーがダメでクリスチャンのくせに物音や雷だけでビビるタイプ。
「だが……僕らにそんな資格はあるのか? 場合によってはゲームオーバーだぜ」
「これは、映画でもゲームのような遊びではない。社会勉強として行ってくるんだ。お前たちなら彼のような高熱は出さんだろう」
「当然だ。この俺がその程度ていどのモノで、ひよるはずないだろ。憂炎も分かるだろ?」
「……確かに」
霧人いわく、凛子と昔住んでいた家でもある。
仕事で行けない二人のかわりに行くなんてまるで探偵気分たんていきぶんだ。
憂炎はホラーが好きで全然怖くもない、鍛えてるしメンタルも強い。
だから妹たちとは違って弱点がナイ。
大我はホラーが大好きで怖いものがないんじゃないかと思うほどの強メンタル。
「頼んだぞ。お前たちは俺の自慢の子供たちだ……検討けんとうを祈るよ」
ここで画面がブツ、と切れてしまった。
憂炎はノートパソコンをしまい、二人を起こすことにした。
「おい! 起きろ、夜飯作ってやんないぞ!」
『わあああああああ!』
小さな子どものように叫ぶ二人を見て大我はニヤリ。
あやねなんてもう寝ぼけて、エミリーは涙で顔がひどい。
「父さんの話聞かなかっただろ。もう怒って仕事戻ったぞ」
「にゃあああああ! ごめんごめん! 寝てたあ……」
「ああ……もう、あのお話は聞きたくありませんわ」
「ひよってんなあ、こういうところが可愛くて仕方がない」
大我が二人をからかうと、憂炎はゴホンと咳ごみした。
「あのな。簡潔に言ってしまえば以前に、父さんたちが暮らしていた家に泊まってこいとのこと。あそこはちょっと古くなっているが。そこで何がいるのかを調べてほしいらしい。ちなみに部屋の中は豪華だと保証する」
「それってお母さんとお父さんの家に私達が遊びに行ってもいいってこと!? うわあ、楽しそう!」
あやねが瞳をキラキラと輝かせて妄想に浸るが、一方のエミリーはどこか不安げな様子。
「なんだよ、言いたいことがあるなら素直に言えばいいのに」
「ですが……場所は古城なのでしょう? わたくし途中まで聞いていましたが不気味な雰囲気なのよね」
「大丈夫だよ! もし幽霊が出てきても私がちゃんと話して友達になればいいじゃん」
妹たちの期待と不安の感情がひしひしと伝わってくる。
これだけ、ざっくりと説明したのに憂炎は二人を連れていくのか不安になってきた。
面倒を見るならまだしも仮に霊的な者が出てきたら対処する方法を考えないといけない。
キャリーケースに持ち物を入れるよりも、まずは二人の精神を鍛えるところから始めないようだ。
憂炎は霧人に教えてもらった古城の場所をスマホで確認した。
これは電車と地下鉄の乗り換えが必要になる、戸締りはしないといけないのだから。

今回の目的は遊びに行くことではなくあくまで探索がメイン。
ま、そんなこと言ったって二人はつまらないーって言いそうだから黙っておこう。
「エミリー、泊まりに行くならゲームとかマンガにお菓子持ってこよう! あ、ついでにかわいい洋服も」
「まってください! 宿題も持っていかないと。ついでにロザリオに魔除けのタロットカードも必要だわ」
ああ……始まった、二人の暴走癖が。
楽しみと不安の擬人化がすでに完成しているよう。
「修学旅行じゃあねえんだからよ……まあ僕も人のこと言えないが」
「いいじゃねえか。最高の休みになること間違いナシだぜ」
それにまだ幽霊が出るとは限らない。
憂炎はリビングの辺りを見回したが霊らしき者はいない。
兄妹の中で誰が、一番霊感が強いのかと言われたらこの順番だ。
強い順に……あやね、大我、憂炎、エミリー。
それは多分、古城に行ったら能力を発揮するかもしれない。
憂炎が考えこんでいるのを見た二人が話しかける。
「お姉ちゃんは楽しみじゃないの? なんだか怖い顔しているよ」
「そうですわ。もしかして何か不安なことでも?」
「……いや、なんでもないさ。出発は明日にして今から支度するぞ」
「憂炎はただ素直になれないだけだ。気にしなくていいぞ」
ううっ、落ち着かないって言ったら嘘になるけど流石に言えない。
兄妹たちは午後の時間をうまく使って明日の支度をはじめた。

その翌日、四人はキャリーケースを引きながら目的地へとついた。
電車の中で二人は寝ていたが、憂炎だけは落ち着かなかった。
大我は「どうした」と質問したが憂炎は「なんでもない」と言う。
乗り換えして疲れたわけではない、ついたのが午後の十四時でまだ日も浅い。
自然豊かな公園が近くにあり、離れた場所には住宅街が見える。
しかし目的地である場所は不気味な場所にある。
まさかこの先に森があるなんて思いもしなかった。
別荘には親せきがいるらしく管理人も住んでいるらしい。
「うわーっ、空気がおいしい。エミリーも感じるよね」
「ええ。田舎でも都会でもないような……そう。まるで異国に来たみたいですわ」
「今からワクワクしてきたぜ。どんなヤツが出ようが俺の敵ではない」
「どうだか……。ここから古城とやらに向かうのか。もう少し歩くぞ」
「はーい」
四人は森へと向かい目的地まで歩きだした。
小鳥のさえずりが聞こえ、川の流れも比較的ひかくてきおだやかだ。
大我は心の中で思った。
(なぜ、あやねはスニーカー、エミリーはローファー、憂炎は厚底あつぞこブーツをはいているのか)
ファッションにうるさい、あやねがどうしてもそれで歩いたほうがいいと。
別に登山に行くわけではないのだから自分らしさを象徴しょうちょうした格好かっこうで行こうと言ったのだ。
しかも古城は土足のまま入っていいらしい。
すると別荘が見えてきたところに一人の少女が立っていた。
紫のワンピースに長い黒髪。
見た目は高校生ぐらいで凛とした、たたずまい。
「こんにちは。私たち古城に泊まりに来たのですがこの先であっていますか?」
「ええ。会っているわ。……ここまで来てもらって悪いけど」
少女は四人を睨みつけ吐き捨てるように言った。
「あそこは危険きけんよ。《《おそろしい怪物モンスターがあらわれる》》。忠告ちゅうこくはしたから」
「なんだと? 僕らは父の依頼でここに来た。引き返すつもりはこれっぽっちもない」
「そんな、怪物なんていませんわ。きっと他の住民のウワサでも聞いたのでしょう」
エミリーと憂炎が彼女を否定するが、あやねと大我だけは少し難しい顔をして耳打ちする。
(ねえ、この人は怖がっているの?……それとも誰かの言いつけ?)
(いずれにせよ、何かを隠しているような素振りだな)
あやねは、怒りもせずニコリと微笑みお辞儀じぎした。
「あの、忠告ありがとうございます。気をつけますね。行こ、エミリー、お姉ちゃん、お兄ちゃん」
「え? ちょっと……引っ張らないで」
「ああ。僕らはそんなことでやられたりはしないぞ」
「放っておけ。相手にしている暇はないだろう」
大我が最後に冷ややかな口調で歩き出した。
少女は悔しそうに悲鳴をあげた。
「フン、きっと後悔するわよ。……古城に入った者は二度と出られないんだから」
言いかけたあと、彼女は一瞬にして顔を青ざめた。
彼女たちの不気味ぶきみなマークがみえたことを……。

   ◇

やっと目的地にたどり着いた兄妹たちは古城を見あげて黄色い悲鳴をあげる。
不気味な雰囲気がくすんだ建物の色やツタが絡んでいる。
西洋な建物は四人にとっては本やゲームの中でのイメージに過ぎなかったが、いざこうして本場を見るとあるんだなという実感がある。
「ほ、本当にここがお母さまとお父さまが昔住んでいた家なの……? 趣味が悪すぎますわ」
「親父の趣味が廃墟巡はいきょめぐりだと言っていたのは、まさにこのことだったのか!」
「うん。いかにも何か出そうな感じだね。中はどうなっているのかなあ」
「さあな。家具ぐらいしか見られないだろ。いいから入ろうぜ」
いちばんワクワクしている、あやねがドアをコンコンと三回ノックした。
エミリーと憂炎がそれぞれ構えている……護身用ごしんようこぶしでなんとかするつもりだろう。
「お邪魔します! 私たち皇家の者でーす。入りますよー」
鍵はかかっておらず、誰かの返事もかえってこないまま
誰もいないことを確認した四人は中へと入る。

部屋が広くて豪華な二階建ての階段が彼女たちを出迎える。
まるで本当に高級ホテルにでも来たのかと思えるぐらいだ。
シャンデリアに長いソファー、壁には絵画が飾ってある。
「すごーいっ! ここでお泊りしていいの? 夢みたい」
「ああ。きっと大きなテレビとかで映画やゲームができるぞ」
あやねと大我は、ご機嫌で辺りを見回したが二人は言葉を失っている。
両親が残した物があったとして壊したらどうしようと震えるエミリー。
静かすぎて逆に落ち着かない憂炎はイライラしている。
「とりあえず荷物を片付けて中を調べましょう。お姉ちゃん、はしゃぎすぎないで」
「おいおい、めずらしく強気だな。そんなにここが怖くてビビッてんのか」
「ち、違いますわ! 姉さんに言われたくは……あやねが元気すぎるだけよ」
「本当かよ。あやね、大我。こっちに来て準備するぞ」
「あっ、はーい。またはしゃいじゃった」
「今、行くぜ」
はじめての場所に来るのはふつう、緊張が先に来てしまうものだ。
だが、彼女たちにそんな心配はいらなかった。
その後、それぞれ夕飯の準備をしたり部屋の確認をしたりと忙しい。
遊ぶ暇もなく自宅にいるようなテンションで物事は進んでいった。
他愛のない会話で笑い、エミリーがドジをすると兄たちは笑いながらも助けてあげる。
ちなみに部屋は四人それぞれ別々になっており個性が出ていた。
あやねは、可愛い小物などを置きキュートな女の子らしい今どきコーデ。
エミリーは聖書や本、元々置いてあったアンティークな小物を有効活用ゆうこうかつようしながらロリータな部屋に仕上げる。
憂炎は筋トレ器具きぐなど、カジュアルな仕上げだ。
大我は本棚にガンプラやカードゲームのパネル、ギターケースにゲーミングチェア。
ゴシックとクールが合わさった変わった部屋だった。


夕食後に四人はソファーに座り、これからの事を話し合っていた。
「美味しかったね、みんなでカレー作るのは久々だった!」
「ええ。けれど姉さんは飽きたらまた、デリバリーでもするつもりでしょう?」
「別にいいだろうが。それより……霊的なモノは出てこなかったな」
「きっとこれから出るんだよ! ほら、夜はお化けたちの時間でしょ」
「だな。ここの霊道れいどう魔界まかいからの住人が現れやすい。実に興味深いぜ」
「ちょっと! 眠れなくなったらどうするの……」
確かに昼間から警戒はしていたが、二人の言う通り本場は夜だ。
だが、両親の住んでいた家に何か事件や不幸があったという出来事は聴かされていない。
憂炎は父の言っていた古城の謎について調べるという目的を思い出し三人に話す。
「なあ。思ったが……夜になると危険がつきものだろう? 父さんはきっと僕たちに何か隠し事をしているんじゃないかって思う」
「だからって調べる気ですか? 怪物なんて非科学的よ……」
「でもあの子。どんな怪物が出てくるのは教えてくれなかったよね。もしかしたら怪物たちは、さびしそうにしているのかも。幽霊も同じだと私は思う」
「あやねは優しいな。確かにあの発言は気にくわなかったが……言い過ぎたかもしれない」
「二人とも、何か策があるのか?」
危険がないといったらウソになるが可能性も捨てきれない。

とりあえず今日はもう遅いからお風呂に入って寝ることにした。
それぞれが部屋に戻るときに四人はまだ疑問に思っていた。
「何かあったらすぐに呼んでね。私がお話して解決するから」
「いいえ。悪魔や悪霊は祓うべきです。信じてはいませんが争いは嫌いよ」
報告ほうこくは大事だな。自分の身はできるだけ守れ」
自己責任じこせきにんでたのむぞ、全てを見通すことなど不可能なのだからな」
お互いにうなずきあい「おやすみ」とあいさつして部屋へと入る。
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