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9話
しおりを挟む学校から自転車で漕ぐこと30分ぐらいであの夏祭りの会場となった神社へと着いた。
段々と日が傾いている。
「あ…」
空を見上げると遥か彼方に大きな塊が周りに炎を纏いながら近づいてきていた。
あいつが当たっただけで地球が終わってしまうのか…。
なんだか呆気なく感じた。
思えばなんにもしてこなかったなあ。
何となく起きて、
何となくご飯を食べて、
何となく家を出て、
何となく学校に行って、
何となく帰ってきて、
何となくお風呂入って、
何となく寝る。
何となくの繰り返しだった灰色の俺の生活に彩をいれてくれたのは楪だったのかもしれない。
もちろん世界が終わる最後の日に気づくなんて遅すぎるのだろうけど。
生まれて初めての恋に気づいた時には
世界が終わる寸前だった、なんて一体どこの売れない小説だよ。
そんなことを考えながら境内へと続く階段を上っていく。
あの日と変わらない風景がそこにはあった。
目を閉じればあの時と同じ匂いがしたような気がした。
だけれど何も思い出せることがない。
こんなにあの日と同じ状況なのに。
もう一度楪の書いた手紙を読む。
『この無機質で変わらない風景』
流し読みしてしまっていた時は気づかなかったが、これはどこの話なのだろうか。
無機質と言って思い浮かぶのはひとつしか無かった。
「病院…。」
弾かれるように俺は来たばかりの神社を飛び出し階段を駆け下りた。
その刹那、
「う、わっ」
左足が小石にとられありえない方向へと曲がる。そのままバランスを崩し残り18段ぐらいの階段をごろごろと転がり落ちる。
痛いという感覚よりも、
「何やってんだ俺は。」と自分を憐れむ感情のほうが大きかった。
「…ってぇ。」
幸い頭を両腕で咄嗟に守ったためなんともなかった。左足を捻挫した以外は。
1歩1歩歩く度に左足に激痛が走った。
人魚姫は歩く度にガラスを踏むような痛みが両足に伴ったという話を何故か思い出し、
なんだ、人魚姫よりもマシじゃないか。と少し笑ってしまった。
右足に重心を乗せ、なんとか自転車まで辿り着きゆっくりと跨り右足を中心にペダルを踏み込んだ。
病院ならここから自転車で8分ぐらいだ。
何となく生きてきた俺なんだから地球最後の日ぐらい本気出したっていいじゃないか。
地球滅亡まで残り2時間。
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