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隊長さんの前には初めて自分で作り上げた料理が並んでいる。白身魚のフライとフリッターだ。隊長さんの目が期待に満ちてキラキラしている様に見えるのは、気のせいではないはずだ。
早く食べたいのか私を急かしてくる。
「姫様。早く食べてみましょう」
油切の上に乗ったまま食べようとする隊長さんを慌てて窘める。
「落ち着いて、隊長さん。まだ皿にも乗せていないのよ?盛り付けくらいしないと」
「このままで大丈夫ですよ。美味しさに変わりはありません」
「ダメよ。お行儀が悪いもの。すぐだから待ってて」
私はキリッとした顔で言う隊長さんに、待てをするとお皿を取りに行く。因みに待てを言われた隊長さんは、幻の(シェパード)犬耳と尻尾を垂れ下らせてシュンとしていた。早く食べたいらしい。初めて作った料理を早く食べたいのは無理もない事だ。
私はクスクス笑いが漏れていた。自分の子供のころを思い出す。
夕食を作るお手伝いをしていた時、母につまみ食いをしないよう注意されていた。それでも我慢ができず、つまみ食いをした経験がある。
みんな同じだよね。そう思うと、その瞬間に思い当たることがあり、振り返る。
隊長さんの手が動いたのが見えた。
「隊長さん。今、何してた?」
私の質問に何もしてないよアピールなのか無言で首を振る。いつもは返事をしてくれる隊長さんが、無言なのは怪しい。私はジト目をしながら隊長さんの前に行き、下から(身長差がある)顔をのぞき込む。ジーと目を見る。
「悪いことはしてない?本当に?」
私の質問に無言。やましいのか嘘がつけないのか、隊長さんは反応を見せなかった。ひたすら私から目を逸らしている。
その態度でバレバレなのだけど譲歩を見せることにした。
「隊長さん。今正直に白状したら、なかったことにするわ」
その言葉に目をぱっと輝かせ、口のもぐもぐを再開させた。そう、隊長さんは私が振り返った時には、口をモグモグさせていた。その時点で悪事は発覚していたのである。
「もう、つまみ食いなんて。ビックリだわ。すぐなのに待てなかったの?」
「出来立てを食べてみたかったんです。美味しいですね」
どうにか中身を飲み込んだ隊長さんは口を開く。冷めた料理が普通だった人が、温かい料理に慣れ始めると、食べてみたくなるのかもしれない。
それとも初めての料理教室だったから、結果を確認したかったのか。
もしかしてこのつまみ食いは私の責任?
微妙な気分になりながらこれ以上、食べられないように皿に盛り付ける。少し残念な様子を見せながら一つ食べたことで満足したのか、更なるつまみ食いは阻止できた。
ダイニングテーブルの上には試作料理が並んでいる。
隊長さんの初めての手料理ももちろん含まれている。
バター焼きが2種類と、フライとフリッターだ。
出来立てなのでもちろんまだ温かい。
「じゃあ、食べてみましょうか?」
私の言葉に隊長さんも頷く。フォークを取り一番最初に向けたのはもちろんフリッターだ。
先ほど食べたのはフライの方だったらしい。
フォークを刺すとサクッと音がする。揚がり具合は良い様だ。ケチャップとソースは無いので、代用でトマトソースを作った。これに酢や砂糖を入れて作れば手作りトマトケチャップができるはずだけど、知識だけで作ったことは無かった。
今度今度と思いながらまだ作れていないので、陛下の宿題が終わったら試作しようと思っている。
私もフライから食べることにした。同じものを食べたほうが意見の交換がしやすいと思うからだ。
「自分で初めて作った料理はどう?」
私の質問に隊長さんは苦笑いだ。自分が楽しそうにしていたことがバレて照れ臭いらしい。
言い訳をするかのように話し始める。
「まったく初めてというわけではないんですよ。一応、野戦訓練なんかもありますから。何かあった時のために野営訓練とかもしていますし。その時は食事も作る練習はしています」
「そうなの?隊長さんもそんな練習をするの?」
「一般兵ほど多くはありませんが年に何回かはしますよ」
「毎年?訓練するの?」
「大事な時にできなければ意味がありませんから。忘れないように毎年ですね。その時に調理も必ずします。これは陛下も同じですよ。逆に宰相閣下はありませんね。あの方は文官なので」
「意外。陛下もするんだ。調理も?」
「もちろんです。まあ、食べれるものと、美味しいものは違いますけどね」
なるほど。自分で作ったものは美味しくなかったんだ。野営訓練だから味は重視されないで量が最重要だろうし。温かくても美味しくなかったら楽しくないし、訓練中だったら楽しむ余裕もないだろうし。
隊長さんは私が料理をするときにいろいろ聞いてくるけど、もしかしたら野営訓練の時に役立てるつもりなのかもしれない。
それなら私が知っている事は出来るだけ教える方が良いのかな。
私は隊長さんの意外な情報に驚きつつ試食を再開させる事にする。
早く食べたいのか私を急かしてくる。
「姫様。早く食べてみましょう」
油切の上に乗ったまま食べようとする隊長さんを慌てて窘める。
「落ち着いて、隊長さん。まだ皿にも乗せていないのよ?盛り付けくらいしないと」
「このままで大丈夫ですよ。美味しさに変わりはありません」
「ダメよ。お行儀が悪いもの。すぐだから待ってて」
私はキリッとした顔で言う隊長さんに、待てをするとお皿を取りに行く。因みに待てを言われた隊長さんは、幻の(シェパード)犬耳と尻尾を垂れ下らせてシュンとしていた。早く食べたいらしい。初めて作った料理を早く食べたいのは無理もない事だ。
私はクスクス笑いが漏れていた。自分の子供のころを思い出す。
夕食を作るお手伝いをしていた時、母につまみ食いをしないよう注意されていた。それでも我慢ができず、つまみ食いをした経験がある。
みんな同じだよね。そう思うと、その瞬間に思い当たることがあり、振り返る。
隊長さんの手が動いたのが見えた。
「隊長さん。今、何してた?」
私の質問に何もしてないよアピールなのか無言で首を振る。いつもは返事をしてくれる隊長さんが、無言なのは怪しい。私はジト目をしながら隊長さんの前に行き、下から(身長差がある)顔をのぞき込む。ジーと目を見る。
「悪いことはしてない?本当に?」
私の質問に無言。やましいのか嘘がつけないのか、隊長さんは反応を見せなかった。ひたすら私から目を逸らしている。
その態度でバレバレなのだけど譲歩を見せることにした。
「隊長さん。今正直に白状したら、なかったことにするわ」
その言葉に目をぱっと輝かせ、口のもぐもぐを再開させた。そう、隊長さんは私が振り返った時には、口をモグモグさせていた。その時点で悪事は発覚していたのである。
「もう、つまみ食いなんて。ビックリだわ。すぐなのに待てなかったの?」
「出来立てを食べてみたかったんです。美味しいですね」
どうにか中身を飲み込んだ隊長さんは口を開く。冷めた料理が普通だった人が、温かい料理に慣れ始めると、食べてみたくなるのかもしれない。
それとも初めての料理教室だったから、結果を確認したかったのか。
もしかしてこのつまみ食いは私の責任?
微妙な気分になりながらこれ以上、食べられないように皿に盛り付ける。少し残念な様子を見せながら一つ食べたことで満足したのか、更なるつまみ食いは阻止できた。
ダイニングテーブルの上には試作料理が並んでいる。
隊長さんの初めての手料理ももちろん含まれている。
バター焼きが2種類と、フライとフリッターだ。
出来立てなのでもちろんまだ温かい。
「じゃあ、食べてみましょうか?」
私の言葉に隊長さんも頷く。フォークを取り一番最初に向けたのはもちろんフリッターだ。
先ほど食べたのはフライの方だったらしい。
フォークを刺すとサクッと音がする。揚がり具合は良い様だ。ケチャップとソースは無いので、代用でトマトソースを作った。これに酢や砂糖を入れて作れば手作りトマトケチャップができるはずだけど、知識だけで作ったことは無かった。
今度今度と思いながらまだ作れていないので、陛下の宿題が終わったら試作しようと思っている。
私もフライから食べることにした。同じものを食べたほうが意見の交換がしやすいと思うからだ。
「自分で初めて作った料理はどう?」
私の質問に隊長さんは苦笑いだ。自分が楽しそうにしていたことがバレて照れ臭いらしい。
言い訳をするかのように話し始める。
「まったく初めてというわけではないんですよ。一応、野戦訓練なんかもありますから。何かあった時のために野営訓練とかもしていますし。その時は食事も作る練習はしています」
「そうなの?隊長さんもそんな練習をするの?」
「一般兵ほど多くはありませんが年に何回かはしますよ」
「毎年?訓練するの?」
「大事な時にできなければ意味がありませんから。忘れないように毎年ですね。その時に調理も必ずします。これは陛下も同じですよ。逆に宰相閣下はありませんね。あの方は文官なので」
「意外。陛下もするんだ。調理も?」
「もちろんです。まあ、食べれるものと、美味しいものは違いますけどね」
なるほど。自分で作ったものは美味しくなかったんだ。野営訓練だから味は重視されないで量が最重要だろうし。温かくても美味しくなかったら楽しくないし、訓練中だったら楽しむ余裕もないだろうし。
隊長さんは私が料理をするときにいろいろ聞いてくるけど、もしかしたら野営訓練の時に役立てるつもりなのかもしれない。
それなら私が知っている事は出来るだけ教える方が良いのかな。
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