紡ぐ者

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【第7章 追憶を求める者】

第5節 9年の時を経て

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「ッ!?」
「あっ………」
ドサッ…
アリスの胸からラビィの剣が突き出ている。。アリスは地面に倒れる。ロビンはアリスを急いで抱き抱える。
「ロビン……私のこと……は、後で……い…い……から、早……く……あい……つ…を。」
凜がその光景を目撃する。
「な、何があったんですか?!それに、この怪我は一体?!」
「凜、アリスを頼む。」
ロビンはアリスを凜に預ける。その言葉は恐ろしいほどに静かだった。
「………ない。」
「ん?」
「絶対に……お前を、許さねえ!」
ロビンは激昂する。炎がロビンの体をなぞるように現れる。
「やっと見せたか……"太陽の炎"を!」
「太陽の……炎?」
凜は声をあげる。
「ハア…ハア…」
ロビンは苦しそうな声を出す。
「おい、どうした?」
「うぐぅぅぅ……があぁぁ…」
「まさか……落ち着け!」
九尾はロビンの目を覚まさせようとする。
「敵を前にして暴走してどうする?!暴走するくらいならその力をあいつにぶつけろよ!」
「うる……せえ……」
ロビンには九尾の声が届かない。纏っている炎が荒波のように乱れている。
「これは……予想外だが、好都合だ。」
「な、何をする気なんですか?!」
凜はラビィに聞く。ラビィは凜を睨む。
「お前には話してもいいか。殺すのが簡単そうだからな。」
ラビィは剣を消す。
「俺の目的は、こいつを探して、あの方の依代として献上することだ。」
「依……代?何を言ってるんですか?」
「まずお前は"太陽の人"を知っているか?」
凜は首を横に振る。
「"太陽の人"ってのはな、太陽の神の血統の人間のことをさす。そいつらの特徴は個人差があるが、全員に共通しているのが"炎に対して高い耐性を持っている"ことだ。」
(太陽の……人?)
ロビンはかすかにラビィの言葉を聞く。
「それとロビンさんになんの関係が?」
「さっきの話聞けばわかるだろ。こいつが"太陽の人"だからだよ。」
ラビィは当たり前だろと言わんばかりの顔で答える。
「こいつを探すために9年前にも街を燃やしたってのに。」
凜はドン引きする。
「そのためだけにロンドンを街ごと燃やしたんですか?!正気なの?」
「1番効率がいいだろ?それに、俺は個人の目的として人間の虐殺も含まれてるからな。」
ラビィは狂気に満ちた目を凜にむける。凜は恐怖で言葉が出ない。ラビィはロビンに近づく。
「そんじゃ、気絶させて連れて帰りますかぁ!」
ラビィはロビンにむかって槍の柄を振り下ろす。



「ねえ、ロビン。」
「なんだ?」
アリスが手すりに肘をつきながらロビンに話しかける。
「あの星、私の手に収まると思う?」
「何言ってんだ?自分より大きなものが収まるわけないだろ?」
「うーん、夢がないなぁ。」
「悪かったな。」
ロビンは口を尖らせる。
「私たちも、あの星みたいにいつまでも輝いていれたらいいのになぁ。」
アリスは星に手を伸ばしながら喋る。
「それは同感。」
「ふ~ん♪」
アリスはロビンに顔を近づける。
「な、なんだよ?」
「私たちって、これからもずっっっと一緒だよね?」
アリスはハテナマークを出しながら聞く。
「なんだそんなことか。そんなの当たり前だろ。なんせ幼馴染みなんだからな。」
ロビンはニイっと笑う。アリスもクスクスと口元を隠しながら笑う。



ガキイィン!
ロビンは剣で槍の柄を止める。
「あ?」
「ふぅ……そうだったな。俺たちはずっと一緒なんだ。昔も、今も、これからも。」
ロビンはラビィを押し払う。
「だから……ここで余計な問題に躓くわけには、いかねえんだ!」
ロビンの纏っている炎が安定し、ロビンの体に沿って線のように集まる。
「おいロビン。なんだそれは?」
「ん?なんか付いてるのか?」
「違う!腕とか見ろ。」
ロビンは自分の体を見る。
「……なんだこ…」
ガンッ!
ラビィが斬りかかってきた。
「ちっ!」
(なんで俺反応できたんだ?)
ロビンは自分でも何が起きたか理解できなかった。
「どうだ?力が完全に目覚めた感覚は?」
「さあな。試してみないと、分からない!」
ザシュッ!
「ッ?!」
ラビィの右腕を斬る。
「このっ…」
ザンッ!
今度は左翼を斬り落とす。
(見える!あいつの動きが、隙が、魔力の流れが!)
ラビィは右腕を再生すると剣で反撃する。2人の激しいぶつかり合いが再び始まる。
(こいつ……先程よりも速くなっている。それに……徐々に速くなっているような?)
ラビィの予感は間違っていない。ロビンの刀を振る速度は少しずつ速くなっている。いずれはラビィでも追いつくことはできなくなる。
ガキイィン!
ラビィは距離をとる。しかし、ロビンは瞬時にラビィの懐に潜り込む。
「なっ…」
ザクッ!
ロビンの刀がラビィの胸を貫く。
「ふっ、心臓を狙ったか。だが残念だな。ちょうど俺に避けられた。」
「それで?なんで俺が刃を右にして刺したかわかるか?」
ラビィは剣をとる。
「まさか……」
「そうだ。避けられても、問題ないようにな!」
ロビンは剣に力を込める。ラビィがロビンに剣を振り下ろそうとすると、何かが腕に巻き付き腕を動かせない。
「なんだ?!」
ラビィが後ろを向くと、アリスが腕に拘束魔法をかけていた。
「あの野郎!」
ラビィは力ずくで拘束魔法を振り払おうとする。
ザシュッ!
ロビンの刀が右に少し動く。
「ちっ、貴様らぁ!」
「これが……俺たちの絆だあぁぁ!」
ザンッッッ!
ロビンの刀がラビィの心臓を2つに斬る。
「ッ………」
ラビィは地面に背中から倒れる。ロビンは肩で息をする。
「アリス……」
ロビンは2人のもとに体を引きずりながら向かう。炎はいつの間にか消えていた。
「ロビンさん!アリスさんが起きません!」
凜はアリスを揺するが、アリスは目を開けない。
「アリス……」
ロビンはアリスの手を握る。まだ温かい。
「ロ……ビ…ン。」
アリスが目を開ける。目の光が薄い。
「ゴメン…ね。油断……して。」
「もう喋るな。すぐに医者を呼ぶ。」
「その必要は……ない…よ。もう……駄目だもん。自分のことだから……なんとなく……わかるんだ。」
アリスの目から光が徐々に失われていく。
「最後に……聞きたいことが……ある……の。」
アリスは唇を震えさせながらロビンの耳元で囁く。



「あぁ、当たり前だろ。」
ロビンは泣きべそをかきながら答える。アリスは笑みを浮かべると眠ってしまった。ロビンは立ち上がる。
「戻ろう……気持ちの整理が必要だ。」
「……はい……」
凜があることに気づく。
「あれ?ヴァンパイアはどこに?」
「なに?」
ロビンは後ろを振り返る。ヴァンパイアがいない。
「まさか……あいつは死んでいないのか?!」
「もしや、逃げたんじゃ?」
「マズイな……」
ロビンは頭を抱える。凜はロビンの様子を見て口を開く。
「一旦戻りましょう。今の状態では見つけたとしてもこちらが不利です。」
2人はイギリス支部に戻る。ロビンはアリスを抱えながら。



「ハア………ハア………」
ドサッ!
ラビィ地面に倒れ、仰向けになる。
「駄目だ。再生が……できない。心臓を斬られたからか?」
ガンッ!
ラビィが立ち上がろうとすると、どこからか槍が飛んてくる。
「ちっ、最悪だ。」
ラビィのもとにガーネットが上空から舞い降りる。
「その怪我……どうやらもう、抵抗する力は残っていないようだな。ここがお前の墓場だ。」
ガーネットは槍をラビィの首に当てる。左手では爆発魔法を詠唱する。
「爆発魔法……確実に殺すきだな。」
「当たり前だ。お前のせいで何人の人が被害にあった?何人の人が悲しい思いをした?お前にはその身で償ってもらう。」
「はいはい。だけどよぉ……」
ラビィは不敵な笑みを浮かべる。
「本当に魔法を使っていいのか?」
「………。」
「黙る必要はないぜ。わかってるだろ?左腕に俺がかけた呪いのことをな。」
ガーネットは唇を噛む。
「だからなんだ?」
「魔法を使ったら左腕が吹っ飛ぶかもしれねえぞ?」
「左腕1本の犠牲でお前を殺せるなら文句はないが?」
ガーネットは強気な姿勢を見せる。
「しかも、お前が使おうとしてるのは爆発魔法。この距離で使ったらお前も巻き添えを喰らうことになる。そうなると腕1本だけじゃ済まないかもな?」
ガーネットは笑みを浮かべる。
「だからなんだ?お前を殺せるならそんなことは関係ない。」
「最後に言いたいことはあるか?」
ガーネットは魔法の詠唱を完了する。
「言いたいことねぇ。そういえば……」
「死ぬ間際にこれを言っておけって言われたな。」
「誰にだ?」
「ディファラス。」
「ッ!」
ガーネットは息を呑む。
「なぜお前からその名前が出る?!」
「俺を半獣にしてくれたのはあの人だからな。」
「聞かせろ。」
ガーネットは圧力を与える。
「俺を倒して喜んでるとこ悪いが、お前たちではあの人には勝てない。」
「どこにその根拠がある?」
ガーネットは槍をラビィの腹に刺す。
「そんな怒るなって。俺は、半獣になってからあの人と一度だけ手合わせした。」
ラビィはガーネットから視線を逸らし、空を見る。
「俺なんかじゃ、あの人の足元にも及ばなかったな。」
「もっと言え!」
ガーネットはラビィの胸ぐらを掴む。
「なんでそこまで知りたいんだ?欲は身を滅ぼすぞ。」
「知ったことか。そいつは両親の仇だ。」
ガーネットは殺意を込める。
「悪いが俺が知ってるのはこれだけだ。」
「嘘はついていないようだな。」
「じゃあもう1つ言わせてもらうぜ。」
ガーネットはラビィを睨む。
「そうかっかするな。すぐ終わる。」
ラビィはガーネットの目を見る。
「やっぱり、この世で1番恐ろしいのは、復讐に燃える人間だな。」
ガーネットはラビィの頭を爆破する。ガーネットは爆風に吹き飛ばされる。それと同時に呪いが発動し、左腕に激痛が走る。
「くっうぅぅ……」
左腕を抑え込む。



ガチャ……
「戻ってき……。」
春蘭は喋るのを途中でやめる。ロビンの心情を察したからだ。ロビンはアリスを床に寝かせる。
「………。」
「ロビン……」
ガチャ…
ガーネットが左腕を抑えながら戻ってくる。左腕は炭のように黒くなっていた。
「一体何があったんですか?」
「ヴァンパイアにトドメをさした。これは呪いの影響よ。」
ガーネットの目にアリスが映る。
(えっ…?)
ガーネットはアリスの前で膝から崩れ落ちる。
「アリ……ス?」
アリスは反応しない。
「嘘……だよね?」
ガーネットはアリスの手を握る。
「ただ、寒さで冷たいだけだよね?」
「………。」
ロビンにはガーネットが涙を堪えているように見えた。
「ガーネット……」
ロビンはガーネットの背中を撫でる。ガーネットはアリスを抱き抱える。
「うぅ………アリス……なんとか言ってよぉ……」
ガーネットの目から大粒の涙が零れ落ちる。
「くっ………」
春蘭はそっぽを向いて、歯を噛みしめる。
「どうして……運命は、私から、何もかもを奪うの?」
ロビンにはかける言葉が見当たらなかった。
(こちらにこれるか?)
ロビンの頭に声が響く。前を見ると、ルアーザが手招きしていた。
「どうしたんですか……」
「感傷に浸っているところすまない。話しておくことがあるんだ。そなただけにな。」
ルアーザは真剣な眼差しをむける。
「そなたはアリスとガーネットの関係を知っているか?」
「何も。」
「そうか。突然ではあるが、あの2人は姉妹だ。」
ロビンは驚愕の事実に言葉が出ない。
「え?は、え?いや、名字違うだろ?!」
「ガーネットの名字は私が与えた偽りのものだ。彼女の本名は、ガーネット・グローヴァー。そなただけは知っておいてくれ。」
ロビンは少し情報を整理する。
「でも、勝手に言ってよかったのか?」
「これはガーネットからの依頼だ。それと……」
ルアーザは声を小さくする。
「アリスのことは私も悲しく思う。ガーネットからよく聞かされていたからな。」
ロビンは少し視線を下げる。
「そなたに聞きたいことがある。そなたはアリスを"蘇生"したいか?」
「へ?」
ロビンは耳を疑う。死者が生き返るなどあり得ないからだ。
「そんなこと……できるわけ。」
「私ならできる。ただ……」
「ただ?」
ルアーザは険しい顔をする。
「死者を蘇生するということは、この世界の循環を乱すことと同義だ。この先の歴史に大きな影響を及ぼす可能性がある。」
「どうするかは君が決めてくれ。」
ロビンはしばらく考え込んだ。
「俺の答えは………」
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