紡ぐ者

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【第4章 開戦の予兆】

第5節 早世屋敷

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 4人はバスに乗り、親友の家に着く。
「なんでお前の行く先はいっつも豪邸があるんだ?」
「仕方ないだろ。彼は名門の出なんだから。」
ガラッ!
春蘭は玄関を開ける。
「来たか…」
1人の男性が玄関に立っていた。
「ビッックリしたぁ!」
ロビンが驚く。
「驚かせてすまない。気にせず上がってくれ。客間はここから見て左側の部屋だ。俺は茶でも淹れてくる。」
4人は客間に向かう。
「久しぶりに来たな。」
「前も来たことあるのか?」
「ああ、もう何年前か覚えてないけどね。」
春蘭は懐かしそうな顔をする。
「さきほどの人は?」
雫が春蘭に聞く。
「早世 疾風《そうせい はやて》。日本支部の最高管理者にして現役の天級魔道士さ。そして僕の同期でもある。」
「つまり旦那様の親友ということですね。」
「うん、正解。」
アリスは2人を見ながらニヤけている。
(なんでこの2人の会話は見ていて楽しいの?)
「お前、何ニヤニヤしてんだ?」
「ふぇ?!」
アリスは変な声を出す。
「その声どっから出たんだ?」
「胃から出た。」
「胃から声は出ないだろ。」
ロビンは正論を叩きつける。疾風が客間に茶菓子を持ってくる。
「悪いな、用意が遅れて。」
疾風は全員の前に茶菓子を置く。
「まさかお前が来るとはな。実に何年ぶりだ?」
「僕も覚えてないな。」
疾風は少し部屋を見渡す。
「お前の妹は来ていないのか?」
「美桜は体調が悪いらしい。」
「そうか。お大事にと伝えておいてくれ。」
「はいはいわかったよ。」
疾風はロビンとアリスのほうを見る。
「こっちの2人は?」
「僕のサークルのメンバーだ。右からロビン、アリスだよ。」
「あぁお前たちのことか。団長から聞いてるぞ。」
「本来なら俺が迎えに行くべきだったんだが……春蘭が連れて来ると言うから迎えに行かなかったが。まあ駅までは行けば良かっかな。」
疾風は立ち上がる。
「任務を行う場所が必要だろう。ついて来い。」
2人は疾風について行く。

「着いたぞ、ここだ。」
疾風について行った2人は山の中にいた。
「この山の中が観測に向いているのか?」
「ああ、ここは魔力の"収束点"だからな。魔力を観測するにはもってこいの場所だ。」
アリスは地面に手を付ける。
「確かに魔力が集まっているのを感じます。」
ロビンも手を付ける。しかし何も感じない。
「……分からん。」
「魔力の流れがわかるかは人による。仕方のないことだ。」
疾風はロビンにフォローを入れる。
「今日は……時間的に観測は難しいだろう。屋敷に戻るぞ。」
3人は屋敷に戻る。その途中、疾風は手帳を取り出した。

「あ、お帰りなさい。」
雫が箒を持って、玄関で出迎える。
「何してんだ?」
「掃除です。汚れていたので。」
雫は当たり前かのように答える。
(これが職業癖というやつか…)
ロビンはふむふむと感心したような顔をする。
「またお前の世話になるとはな。」
「気にしないでください。こちらも宿泊させてもらう身ですので。」
「またって?」
ロビンが疾風に聞く。
「前に何度が来たときもこうやって掃除してたんだよ。」
「まあ、こっちとしてはやることが減るからありがたいけど。」
疾風は手帳を見ながら客間に向かう。

「お、帰ってきた。」
「お帰りなさい。兄さん。」
客間には春蘭と1人の青年が食事の用意をしていた。
「誰?」
わだち。俺の弟だ。ちなみに美桜と同い年で24歳。」
「美桜って24なの?」
「そうだよ。」
春蘭と疾風の言葉に驚く2人。
「美桜って俺らより年上なんだな。」
「ちょっと意外ですね。」
2人はコソコソと話す。ロビンとアリスは21歳。美桜は2人よりも3歳年上だった。
「俺、19歳ぐらいだと思ってた。」
「私もそれぐらいかと思ってました。」
2人がコソコソ話していると春蘭の声が聞こえた。
「疾風、こっちに来てくれ。」
春蘭が疾風を部屋の隅に呼ぶ。
「なんだ?」
「純連から連絡があったよ。」
「なんて言ってた?」
「もうじきこっちに来るかもだって。」
「そうか。あとあいつが来れば全員揃うな。」
「彼が来るかはわからないけどね。こちらで何かあったら来ると思うよ。」
「何の話をしているのですか?」
春蘭と疾風の背後から雫が声をかける。
「ちょっと昔話をしているだけだ。」
「そうそう、昔の学生時代の話をして懐かしんでただけだよ。」
「そうですか。お食事の用意が終わりました。冷めないうちに召し上がってください。」
雫はキッチンに向かう。2人が客間の机を見ると夕食が用意されていた。
「そういえば、君の家の料理を食べるのも久しぶりだね。」
「作ったのはお前のところのメイドだろ。」
「まあそう言わずに、材料はこの家のものだから、実質この家の料理だろう。」
「なんだその実質理論。」
「ただのジョークさ。」
疾風は春蘭のジョークに呆れ、額に手を当てる。
「雫が言ったように、冷めないうちに食べてしまおう。」
「そうだな。時間も無駄にしたくないしな。」
2人は座布団に座り、食事を始める。雫が戻ってきた頃合いに明日からの予定について全員で話し合った。

神宮寺邸…
カラン
「ん?」
家に何かが届く。玄関に向かい届いたものを見てみると、1つの封筒だった。宛名には"神宮寺"とだけ書いてあった。
「この封筒……大魔統制会のものだ。」
印鑑を見る限り本部からの封筒のようだ。
「開けていいの?」
美桜は封筒を観察するが特に開けるなとは記されていない。
「兄上に伝えよ。」
美桜はスマホで封筒の写真を送る。

早世家……
ピロン♪
「ん?美桜から写真が送られてきた。」
「どんな写真だ?」
「1つの封筒だ。しかも本部からの。」
春蘭は美桜に「開けてくれ」と送信する。
 数分後に再び写真が送られてくる。
「……なんだこれは?」
「見せてみろ。」
春蘭は疾風に封筒の中身の写真を見せる。
「なにこれ?」
送られてきた写真には封筒に入っていた"何かの破片の写真"だった。破片は黒く澄んでいて禍々しさを感じる代物だった。横にスライドすると手紙の写真がある。
「仙級以上の魔道士に緊急の任務を言い渡します。任務の内容はこの"破片"の正体を調べること。有力な情報を見つけ次第、本部に連絡すること。」
カラン
玄関から物音がする。
「少し待ってろ。」
疾風は玄関に向かう。先程写真で見た封筒を見つける。
「これがあった。」
「なにこれ?」
ロビンは不思議そうに封筒を見る。アリスも興味津々で封筒を見つめる。疾風が封筒を開けると、先程と同じく"何かの破片の写真"と手紙が出てきた。
「手紙と、写真?なんだこの破片?」
「それは僕にも分からない。」
ロビンの問に春蘭は首を横に振る。
「この封筒はすでに僕の家にも届いている。」
「なんで知ってんの?あ、わかった。美桜から送られてきたんだろ。」
「正解。」
アリスは写真を手に取り、不思議そうに写真の破片を見つめる。
「これ…不思議な感じがしますね。」
「どういう感じだ?」
「なんか……吸い込まれそうな感じです。」
「吸い込まれそう?」
疾風は顎に手を当てる。
「なんか……嫌な感じがするな。」
「本当になんなんでしょう。」
5人の間に大きな疑問が生まれた。

大魔統制会本部 保存室…
 アーロンドは机に置かれた"何かの破片"を見つめていた。ふとした瞬間に破片に触れる。
「ッツ!」
アーロンドの指先に不可解な痛みが走る。
「なんと異質な物。まさに"異物"ですね。」
「こちらを解析班に渡しなさい。取り扱いには厳重な注意をするようにと伝え忘れないように。」
「はっ!承知しました。」
後ろにいた2人の団員は"破片"を運び出す。アーロンドは破片に触れた指先を見る。黒い靄がついていた。
「これは…」
匂いを嗅いでみたが特に匂いはない。しかし少しばかり気分が悪くなる。
「少しでも靄を吸うと気分を害する、と。」
アーロンドは手帳にメモをとる。追記で「人体に悪影響を及ぼす」と書き足す。
「団長!解析班からの伝達です。あの破片がどこで発見されたかの情報が欲しいようです。」
「この破片は島根県の"出雲市"で見つかりました。詳しい資料を渡し忘れていましたね。」
アーロンドは団員に資料を渡す。
「追加で少量でも吸えば人体に悪影響を及ぼす、触れると不可解な痛みが生じると伝えておいてください。」
「承知しました。」
団員はその場を離れる。
「………。」
「また妙なことが起こったな。」
後ろから男が現れる。
「あなたは今回の件、魔力濃度の異常化と関係があると思いますか?」
「分からん。だが、少なくとも直接的ではないにせよ、どこかしらで繋がっている可能性はある。」
「ふっ。あなたもその結論に辿り着きますか。」
男はアーロンドの横に立つ。
「俺が何故ここに戻ってきたかわかるか?」
「いいえ、分かりません。」
「俺はあの日、お前の部屋であの紙を見て以降、魔力濃度の異常化について調べていた。」
「何か収穫は?」
アーロンドは口角を上げながら聞く。
「あった。」
「ほう、素晴らしい。」
「今回の魔力濃度の異常化は"何者かによって引き起こされた"可能性が非常に高い。」
「何故そんなことをするのですか?」
男は後ろに下がる。
「分からん。だが俺は1つの魔力濃度の異常化の原因について、1つの仮説を立てた。」
「聞かせてください。」
「まず魔力濃度の異常化だが、報告では数値が急激に上下していた、とのことだった。」
「これは何者かが魔力を吸い出して"何か"に使ったからだろう。使うことで魔力が少なくなり濃度が下がる。そして減った場所に大量の魔力が流れ込み数値が急上昇する。これが俺の仮説だ。」
「なるほど。しかし魔力は何に使われているのでしょう?」
「お前は観測場所を忘れたのか?」
男の言葉にアーロンドの脳裏に嫌な予感が走る。
「まさか……」
「そう、異常化を起こした奴は"八岐大蛇の復活"に魔力を使っていた可能性が高い。」
「お前の予想は当たっている可能性が高いということになる。」
「奴が復活する場合、残された時間はどれくらいですか?」
アーロンドは真剣な表情で男に聞く。
「異常化が確認されてから2日経っている。その間も休むことなく供給されたと考えると……遅くても1週間、早いと5日程だろう。」
男は保存室を出ようとするがアーロンドに止められる。
「八岐大蛇討伐にあなたの力が必要です。力を貸してもらえないでしょうか。」
「俺も手伝えるならそうしたい。だが、それは無理な話しだ。まあ助言ならできなくもないが、その助言すら思い浮かばない。」
「それに、八岐大蛇くらいお前たちでも問題ないはずだ。」
「しかし事はそうはいかなそうですよ。」
男は振り返る。
「どういうことだ?」
「観測隊の話によると魔力に"違和感"があったとのことです。その違和感を2人の団員に調査させています。その結果次第で考えてもらえると幸いです。」
男は出口のほうを向く。
「わかった。俺も奴の文献を片っ端から漁る。何か見つけたらすぐに伝えに向かう。」
「伝えに来るなら日本支部までお願いしますよ。」
男は頷くと保存室を出る。アーロンドも団長室に戻る。

「ふう…」
アーロンドは椅子に腰掛けてため息をつく。
「あの人にも手伝ってもらいたいものですが……多忙すぎるせいでそう簡単には承諾してくれそうにないですね。」
アーロンドは立ち上がり窓の外を除く。
「まあ彼は、」











「天垣 時雨《てんがき しぐれ》は、世界に"3人しか"存在しない、神級魔道士の1人ですからね。」
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