私のための小説

桜月猫

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93話

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 2回戦、3回戦と無事に勝ち上がった4人。
 そして、4回戦に入った時、瑠璃と彩の試合がかぶった。

「どっちの試合につくの?」

    瑠璃と彩に挟まれている公は、私の問いかけに少し悩んだ。

「彩。ごめん。瑠璃先輩につくことにするよ」

 公の謝罪を受けた彩は微笑んでいた。

「ムリを言っているのは私のほうですから、公くんが謝る必要はないですよ」

 逆に彩が申し訳なさそうな表情をうかべた。

「それじゃあ、彩ちゃんには私がつくわ」

 すでに敗退している先輩が彩の肩に手を乗せた。

「お願いします」

 そう言って彩は先輩と一緒に試合に向かった。

「それじゃあ、私も行きましょうか」
「はい」

 公と瑠璃も試合へと向かう中、瑠璃は公に近づいた。

「ところで、なんで私を選んでくれたの?」

 てっきり彩のほうにつくと思っていたので瑠璃は、公を見つめた。

「瑠璃先輩は3年ですし、試合ももうほとんどないので、こうして近くで応援したいと思ったんですよ」
「ふ~ん。つまり、同情ってわけか~」

 瑠璃は少しすねた様子で公を見つめると、公は瑠璃を見つめ返した。

「同情じゃなくて思い出作りですよ」

 そう言った公は困ったように頬を掻いた。
 そんな公の姿に瑠璃はいたずらっ子のように微笑みながら公と腕を組んだ。

「わかってるって」

 すると、公はすねてそっぽを向いた。

「ごめんごめん」

 瑠璃の謝罪に公はため息を吐いた。

「でも、それでも桜ちゃんを選ぶんだよね」

 一転してジトーとした目で公を見つめる瑠璃。

「1番の目的が桜の応援ですからね」

 平然と言った公。
 それに対して瑠璃は気にした様子もなく、微笑んだまま腕を組んでいた。
 そうして試合会場にやって来た公と瑠璃に当然みんなの視線が集まった。

「まぁ、試合会場に腕を組みながら入ってくることなんて普通はありえないからね~」
「いきなり現れるなよ、作者」
「全く驚いてないくせに~」

 会場中からの視線も、私の突然の登場にも気にした様子もなく2人は歩き続けて台までやって来た。
 対戦相手は2人を睨み付けた。

「あらあら。相手のやる気におもいっきり油を注いじゃったね」
「これぐらいやる気があるほうが私もやる気が出るからちょうどいいわ」

 瑠璃はニコッと微笑みながら試合へと向かっていった。
 そして、言葉通りのさらにやる気を出した瑠璃は相手を圧倒して勝利した。


          ◇


 試合はさらに進んでついに男女ともにベスト32が出そろった。
 私の予想通り、女子では瑠璃・球・桜・彩の4人が、男子では唯一卓が勝ち残っていた。

「こうなると、桜が負けない限り、公は桜につきっきりってわけね」
「別に彩や先輩達についていってもいいのよ」

 そんな桜の言葉に私はニヤニヤした。

「そんなこと言って、公が他の人の応援にいったらさみしいくせに~」
「さみしくなんてないわよ」

 桜が私を睨んできた。

「内心では嬉しいくせに~」

 肘で桜の腰をツンツンついていると、桜が拳を振り上げてきた。

「きゃ~。ツンデレが怒った~」

 私が慌てて離れると、「作者!」と桜が叫びながら追いかけてきた。

「きゃ~」

 私は桜から隠れるために公の後ろに回った。

「公!どきなさい!」

 公があっさりどこうとしたので逃がさないとばかりに腰に抱きついた。

「離せ、作者」
「イヤよ。それより、これから公は誰につくの?」

 私は話題を変えるために公へ問いかけた。

「誰って、もちろん桜に決まってるだろ」

 公の答えに桜の怒りが収まり、ぷいっとそっぽを向きながら「そう」と一言呟いた。

「あっ。桜がデレた」
「デレてないわよ」

 キッと睨み付けてくる桜。

「桜はツンデレだから素直じゃないわね」
「作者!」

 迫ってくる桜を公を使ってガードしていると、公が反転した。
 すると、公の腰に抱きついている私も反転するわけで、そうなると私は桜に背中を向ける形になった。

「公!ナイス!」

 桜は私の首に腕を回すと首を絞めてきた。

≪いいですよ!桜!そのままマスターを殺しなさい!≫
<こらこら。そんな物騒なこと言うなって>

 外野がうるさくなる中、私は桜の腕を外すことよりも公の腰に回している腕に力を入れた。

「ぐぉっ。作者、テメー」
「み、道連れ………」
「離せ!」

 公は私の腕を外そうとしてくるが、私は外させないようにさらに力を入れて腰を絞め付けた。

「公から離れなさい!」
「離れろ!」
「う~~~」

 桜がさらに力を入れて首を絞め、公は私の腕を必死に外そうとしてきた。
 そんな中、私も離されないように力を入れて公の腰を絞め付ける。
 私達の三つ巴の争いを瑠璃達は微笑ましく、温かな眼差しで見ていた。

<はいはい>

 現れたマロが手を叩いた。

<桜。そろそろ試合の時間だし、マスターを離してあげてくれないか>

 一瞬マロを見た桜は力を緩めて私から離れた。

<マスターも公を離してあげてください>

 公から離れた私は深呼吸をしてからのどをさすった。

「あ~。ホントに死ぬかと思ったわよ」
≪ホントに危なくなったら私のときみたいにダミーを残して逃げるんでしょ≫

 ロマから疑いの言葉が聞こえてきたけどムシする。

「マロ。ありがとう」
<いえいえ。でも、マスターも少し自重してください>
『≪うんうん≫』
「あれ?ここにいない人の声まで聞こえた気がしたけど?おかしいな~」

 私は首を傾げた。

≪それだけみんなから恨まれているんですよ≫
「え~」
<はいはい。こんなことしているとまたグダグタになるだけですから先に進みませんか?>
「仕方ないな~」

 私はため息を吐いた。

「といっても、もうこの話はこれで終わりなんだけどね」
≪結局グダグタですね!≫
「あはははは」

 私が笑っていると、公達がため息を吐きながら試合へと向かっていった。
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