私のための小説

桜月猫

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81話

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 猫を抱いた黒を突き飛ばそうとした公だが、そんな公と猫を抱いた黒を抱き抱えて横断歩道を萌衣が走り抜けた。

「大丈夫ですか?」

 2人を歩道に下ろした萌衣は微笑みかけた。

「ありがとう、お姉さん」
「ありがとうございます」

 黒は萌衣に笑顔でお礼を言い、公は頭を下げた。

「車の前に飛び出したら危ないでしょ」
「ごめんなさい。この猫がひかれそうだったからつい」
「俺も黒が飛び出したからつい」

 2人が反省してうつむいていると、萌衣は2人の頭を撫でた。

「助けようとすることはいいことだけど、それで自分がケガしたら周りのみんなに悲しい思いをさせてしまうから、気を付けようね」
『はい』

 頷いた2人に微笑みかけた萌衣。そこへ、

「公!黒!」

 横断歩道が青になって走ってきた史が2人を抱き締めた。

「2人とも無事か!?」
「うん。お姉さんに助けてもらったから大丈夫だよ」
「よかった~」

 史がホッとしていると、舞と夢もやって来て公に抱きついた。

「それで、2人を助けてくれて女性は?」

 史の問いに公と黒が周りを見回すも、萌衣の姿はどこにもなかった。

「いなくなっちゃった」
「さっきまで確かにいたのに」

 史も周りを見回した。

「メイド服を来てたから、見つけやすいはずなんだけど………」

 しかし、どこを見てもメイド服を着た人はいなかったので、史は諦めた。

「ちゃんとお礼は言った?」
「うん。言ったよ」
「そう」

 史は微笑んだが、次の瞬間には2人のほっぺたを軽くつまんだ。

「でも、次からあんな危ないことをしたらダメだからね。みんな心配したんだから」
『はい』

 2人の返事を聞いた史は手を離すと微笑んだ。

「それじゃあ帰ろっか」
『うん』

 史の言葉にみんな頷き、公達は帰路についた。


          ◇


 家に帰ってきた公と黒はサッカーボールを持って公園に来ていた。
 公園には朧月・蛙・龍が待っていて、みんなでサッカーを始めた。

「蛙!パス!」

 朧月のパスを受けた蛙が前を向くと、龍が行く手を塞いだ。

「行かせるかよ」
「行かねーよ」

 蛙はボールを龍の股下を通して前に送った。

「なっ!」

 龍が驚きながら振り向くと、ボールは走り込んでいた朧月の足元へ。
 しかし、朧月にはしっかりと公がついていた。

「やらせねーよ」
「あいにく、やるのは俺じゃねーよ」
「なに?」

 朧月がバックパスをすると、走り込んできた黒がシュートを放った。

「いっけー!」

 無人のゴールへ飛んで行くボール。
 誰もが入ると思ったそのボールを、犬(庵)が乱入してきて止めた。

『なっ!』

 驚いた5人を見て、犬(庵)はニヤリと笑った。

「犬(庵)!ボールを返せ!」
「わぅ?」

 わかっているくせにわからないフリをして首を傾げる犬(庵)に、5人はムカッときた。

「返せと言っているんだ」
「わぅわぅ」

 犬(庵)は5人におしりを向けてフリフリと振ってきた。

「この犬(庵)!」

 蛙がボールを奪い返すために犬(庵)に迫ると、犬(庵)はドリブルしながら逃げ始めた。

「くそっ!」
「逃がすかよ」

 先回りをした龍がスライディングでボールを奪い取ろうとしたが、犬(庵)はボールを浮かし、ジャンプすることでスライディングを回避した。

「甘い」

 犬(庵)がボールを浮かせてジャンプしたところへ朧月が足を出してボールを取り返した。

「公」

 着地した犬(庵)がすぐにボールを奪い返しにきたので、朧月は公へボールをパスした。

「ぐるる」

 犬(庵)は威嚇しながら公へ近づいた。

「カモン」

 公が挑発するように手招きすると、犬(庵)はボールに向かって飛びかかった。

「おっと」

 犬(庵)を簡単に避けた公は蛙へパスをする。

「黒」

 蛙からパスを受けた黒は犬(庵)と向き合った。
 黒はゆっくりドリブルしながら犬(庵)に近づいていき、ある程度まで近くに行くとボールをまたいだりしてフェイントをかけ始めた。

「来ないの?」

 黒の挑発に対し、犬(庵)がボールに飛びかかるフリをした。
 それをしっかりと見ていた黒は、取られないように浮き玉のパスを出した。

「わぅ!」

 それでも諦めない犬(庵)は飛び上がってボールを取ろうとしたが、届かない。
 それを見て、龍も浮き玉でパスを返す。
 それから5人は1度も地面に落とすことなくリフティングでパスを回して犬(庵)を翻弄した。

「わ、わぅ………」

 バテた犬(庵)はふらふらになりながら去っていった。

「よし」
「お疲れ」

 5人は集まるとハイタッチをかわした。


          ◇


「なぁ、作者」

 なんだ?

「まためんどくさがって萌衣さんを出してきやがったな」
「いえ。あれはあの当時の実際の私です」
「!!」

 いつの間にか喫茶店にやって来ていた萌衣。さらには朧月・庵・蛙・龍・万結まで集まっていた。

「当時って、11年前なんですよ?」
「えぇ」

 頷く萌衣を見て、公は額に手をあてた。

「11年前から姿が全く変わっていないように見えたのですけど、萌衣さんって何歳なんですか?」
「ふふっ。秘密です」

 人差し指を口に当てて微笑みながら言う萌衣に、公はため息を吐いた。

「ってか、俺って、幼稚園のころに萌衣さんと出会ってたってことなのか?」
「その通りです」

 萌衣の答えに公が悩んでいると、庵が机を叩きながら立ち上がった。

「それより、なんで俺は犬なんだよ!」

 庵は怒っていた。

「まぁ、落ち着きやがれ」

 蛙は庵の頭へ背後からチョップを打ち込んだ。

「ぐふっ」

 庵は頭を抱えながら椅子に座り込んだ。

「そもそも、そういうバカキャラだからそんな扱いされるんだよ」
「なっ!そうなのか!」

 そうだけど?

「なっ!」

 なんで、そんなに驚くんだ。バカキャラの扱いがヒドいのは普通だろ?

 庵が泣き出すが、誰もなぐさめようとしない。

「そもそも、ホントにこれって俺の幼稚園のころの話なのか?」

 もちろん。

「だったら、なんで黒のことや萌衣さんと出会ったことを思い出せないんだ?お前が嘘の過去を作ってるんじゃねーか?」

 は?なに言ってるんだ?

「なに?」

 お前に過去の記憶があるはずないだろ?

「えっ?」

 だって、お前は、お前達は高校生で生み出されたんだぞ?つまり、お前達は未来だけじゃなく、過去すらも白紙なんだよ。だから、俺がこうして過去の設定を考えて物語にしない限り、お前達に過去はなく、過去の記憶もあるはずはないんだよ。

『!!』

 みんなが驚いていた。

 ふふっ。いいね~。その驚き顔。

 俺が笑っていると、公達は驚きから返ってきた。

 つまり、お前はこの過去をウソだと言うことは出来ないんだよ。

「はぁ~。もういい。先に進んでくれ」

 そう。なら、先に行こ~。
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