私のための小説

桜月猫

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75話

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 公は幽に街を案内するために商店街にやって来ていた。

【ここが商店街だよ】
【スゴく賑やかですね】

 幽は右へ左へふらふらとフラついていた。

「おや、公じゃねーか」

 声をかけられた方を見ると、肉屋のおっちゃんが手を振っていた。

「こんにちは」
「珍しいな。お前が1人で歩いているなんて」
「いや、珍しくないでしょ」

 いや、珍しいって。だって公の隣には絶対誰か女性がいるからな。

「そんなことないぞ」
「いやいや、作者の言う通り、お前っていつも女子と歩いているぞ」

 だよね。

 俺とおっちゃんが意気投合して頷いていると、公は不満そうな表情をしていた。

「それで、なんですか?」
「いや、特に用事はなかったんだがな。さっき言った通り、1人でいるのが珍しかったからな」

 おっちゃんがそう言うと、公はさらに不満そうにしていた。

「俺だって1人で出歩くことぐらいありますよ」
「そりゃそうか」

 笑うおっちゃんの姿に公はため息を吐いた。

「おや。公が1人でいるなんて珍しいじゃない」

 奥から出てきたおばちゃんにも同じことを言われて公は苦笑するしかなかった。
 それからも、商店街を歩いていると同じように言葉を色んな人からかけられ、その度に公は苦笑を返したりため息を吐いたりしていた。

【公さんって人気者なんですね】

 商店街を歩ききったところで幽から出てきた感想だった。

【あれは人気者っていうのか?】

 今回商店街を歩いていて1番言われた言葉が「1人でいるなんて珍しい」だからね。

【でも、そのあと楽しそうに世間話をしていたじゃないですか】
【それは………なぁ】
【それに、みなさんにとっては「1人でいるなんて珍しい」っていう言葉はただの話のきっかけでしかないと思うのですよ】

 幽の言葉に公は頭を掻いた。その反応を見て幽は微笑んだ。

【公さんもホントはイヤじゃないのですよね】

 公は無言でそっぽを向いたので、幽はもっと笑顔になった。

【次行くぞ】

 あっ、話を反らした。

【えぇ。反らしましたね】

 図星をつかれたからだな。

【うるせー】

 公はそう言うと歩きだした。その後ろ姿を見てまた笑った幽は公のあとを追った。
 そうして公達が次にやって来たのは駅前だった。

【ここが駅前だ】
【人がいっぱいですね!】

 幽は人の多さにキョロキョロとしていた。

【見ての通り、デパートが併設されているし、待ち合わせ場所として有名だからな】

 公と幽が立ち止まってゆっくりしていると、公の腕に誰かが抱きついてきた。

「お待たせしたわね」

 といわれても、公は誰とも待ち合わせをしていないので視線を向けると、知らない人が腕に抱きついたいた。

「だ「お願い。話を合わせてちょうだい」

 言葉を被せるように小声で言われ、公は少し考えた。

「いや、俺も今来たところだから。じゃあ、行こうか」

 話を合わせた答えを返すと、とりあえず歩きだした。しかし、わけがわからないので小声で問いかける。

「それで、何があったんだ?」
「追いかけられてるの」

 返ってきた答えを聞いた公は幽に話しかけた。

【それっぽい人はいる?】
【ちょっと待っててください】

 幽が去る気配がして数秒後、幽が帰ってきた。

【確かに、黒服の2人組が追いかけてきています】

 幽の言葉を聞いた公は隣を見て、再度小声で問いかける。

「そういえば、君の名前は?」
「私はしろよ」
「俺は公だ」

 自己紹介を終えた公と白はデパートに入っていった。

「どこに行くの?」
「アクセサリーショップを見にいこうか」

 腕を組んだままエスカレーターに乗って4階まで上がった2人は、アクセサリーショップにやって来た。

「これからどうするんだ?」

 さすがにアクセサリーショップの中まで黒服は入ってこないので、公達は奥に入っていきながらこれからのことを話し始めた。

「当然、あの黒服達から逃げきりたいわ」

 ネックレスをつけてみながら白は要望を言った。

「逃げきりたい、ね」

 公は小さくため息を吐くと、考え始めた。

「やっぱりムリよね」

 公の反応に白は苦笑した。そんな白を見た公はふと呟いた。

「逃げきるだけならできないことはないぞ」
「えっ?」

 その言葉に白は驚きながら公を見上げた。

「ホントに逃げきれるの?」
【逃げきれるのですか?】

 白と幽の視線が公に向いた。

「あぁ」
「なら、私を逃がして欲しいの」

 白は懇願するように公を見つめた。

「なら、さっさと行くか」

 公が白に手を差し出すと、白は公の腕に笑顔で抱きついた。
 そうと決まれば、公達はアクセサリーショップを出てデパートも出た。それから歩いて家を目指す。

【でも、どうするのですか?】

 幽は後ろの黒服の姿を確認しながら問いかけた。

【簡単な方法で、黒服達をまくのさ】

 その答えに幽は少し驚いていた。

【相手は多分プロですよ?そんな相手をまけるのですか?】
【あぁ。方法はあるさ】

 そう言うと、公は少しニヤリとした。
 そうしている間に公達は住宅街に入った。
 住宅街に入ると当然人はいなくなるわけで、人がいなくなると黒服達から逃げることは難しくなるので白は少し不安になってきた。

「ホントに逃げきれるの?」
「あぁ」

 公は何事もないように頷くのだが、白は不安しかないので公の腕に抱きつく力が少し強くなった。
 そんな中、2人は角を曲がった。


          ◇


 2人が角を曲がったのを見て黒服も角を曲がったのだが、そこに2人の姿はなかった。

「おい。居ないぞ」
「どういうことだ?」

 黒服達が顔を見合わせ、もう1度先を見た。
 次の角まではそこそこあるので、普通なら見失うことはない。

「走って逃げたのか?」

 黒服Aはすぐにそう考えた。

「そんな音はしなかったぞ」

 しかし、黒服Bがすぐに否定する。

「だったら」

 黒服達の視線は家に向いた。

「この中にあの少年の家がある、もしくは隠れているということだな」

 黒服Aのこの考えには黒服Bも頷いた。
 進行方向の左側は生け垣や塀など家の裏手なので、黒服達は進行方向の右側に視線を向けた。

「しかし、あの少年は一体何者なんだ?」
「わからないな。他のヤツからはそんな方向なかったからな」

 黒服達は表札と人の気配などを調べながらゆっくりと歩いていく。

「外にあんな友達がいるっていう報告もなかったしな」

 人の気配は感じられないまま黒服達は次の角までついてしまった。

「どうする?」
「ここでうろうろしていて怪しく思われてもあとの調査がやりづらくなるだけだろうし、表札の名前は一通り確認したから今日は撤収だ」

 黒服達はそのまま去っていった。
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