私のための小説

桜月猫

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72話

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 夜中。公はふと目が覚めました。
 左右を見ると夏とハルの寝顔があり、夏の向こう側には秋の寝顔がありました。

"しかし、俺はなんで起きたんだ?"

 公は首を傾げました。

"何かに呼ばれたような気がしたんだけど"

 起き上がった公が回りを見回しましたが、当然他には誰もいません。時計を見ると、まだ2時です。

"う~ん。眠らないといけないんだけど、なぜか眠れないんだよな"

 頭を掻きながら公はどうするか悩みました。

"とりあえず"

 公は3人を起こさないように気をつけながらベッドから立ち上がると、寝室を出てからダイニングにやって来ました。
 コーヒーでは余計に目が覚めるので公はホットミルクを作って椅子に座ると、外を見ました。外はまだ豪雨です。

「やまねーか」

 公がホットミルクを一口飲みました。

【あの】

「!!!」
≪!!!≫

 突然聞こえてきた少女の声に公とロマは驚きました。

「ロマ。これも作者の仕業なのか?」
≪わかりません≫

 公は額に手を当ててうつ向いた公は、1度大きく息を吐きました。それから顔をあげて回りを見回しました。
 しかし、やっぱり回りには誰もいません。

「ロマ。さっきの声聞こえたよな?」
≪はい≫

 ロマが頷いたので、公はまた回りを見回しました。それからホットミルクを飲み干すと、ダイニングを出ました。
 廊下にも誰もいないので、さっきの声がなんなのかわかりません。
 なので、廊下を歩き出しました。

【聞こえていますか?】

 また聞こえてきた少女の声に公は立ち止まります。

「聞こえてる?」

【聞こえていますよね?】

「聞こえてるな」
≪聞こえてますね≫

 公とロマは頷きました。

【やっぱり聞こえてるんですね!】

 少女は喜んでいます。

「え~と、君は?」

【その前に】


          *


 公が立っていたロッジの廊下は、畳の部屋に変わっていました。

「ここは………」
【ようこそ、おいでくださいました】

 声のほうを向くと、そこには着物姿の少女が正座をして頭をさげていました。

「君は?」
【私の名前はゆうと申します】

 頭をあげた少女は立ち上がりましたが、少女には足がありませんでした。

【見ての通り、幽霊です】

 公は幽を見て呆然としました。

「幽………霊………」
【はい】

 幽は笑顔で頷きました。

「初めて見たな」
【そうなのですか?全く驚いていなかったので霊感があって、慣れているものだと思ったのですけど】
「あ~」

 公は困ったように頭を掻きました。

「驚かなかったのは、作者の理不尽で慣れているからだな」
【作者?】

 幽が首を傾げたので、公もロマも首を傾げました。

「作者を知らないのか?」

 公の問いかけに、幽は首を縦に振りました。

「ロマ。どういうことだと思う?」
≪多分ですが、15話の夢の夢の話みたいに、マスターの意図していない展開なのでしょう≫
「つまり、作者が干渉できない世界、ということか?」
≪そうだと思います≫
【あの!】

 話についていけていない幽が声をあげました。

「あぁ。すまない」

 謝罪をしながら公は幽と向き合いました。

「幽が幽霊なのは理解したけど、ここはどこなんだ?」
【ここは私の部屋です。そして、私はここの地縛霊なのでここから動けないのです】
「地縛霊」
【はい】

 幽は笑顔で頷きました。

「幽霊ってことは、何か心残りがあるのか?」
【わかりません。私はいつの間にかここにいて、ここから出られなくなっていましたから】

 幽の答えに公は額に手を当てました。

「つまり、なんでここにいるかわからない、と」
【そうですね】
「じゃあ、今回俺に話しかけたのはどうしてだ?」
【いきなりテレビがついたかと思えば、みなさんの姿が映ったので、話しかけてみたら声が通じたんです】

 公は部屋を見回してテレビを見つけると指差しました。

「あのテレビ?」
【はい。普段は何も映らないテレビなので、みなさんの映像が映った時は驚きました】
「それで、呼び掛けてみた、と」
【はい】

 公はため息を吐きました。

「ロマ。作者起こしてきてくれないか?」
≪わかりました≫

 ロマの返事を聞いた公は幽を見ました。

「それで、ここへ俺をどうやって連れてきたんだ?」
【それは、私の声にあなたが反応してくれたら、画面に『彼をここに呼び出しますか?YES・NO』という表示が出てきたので、YESを押したらあなたが現れました】

 納得出来ないので、とりあえずそれは横に置きました。

「そういえば、俺の自己紹介がまだだったな。俺の名前は公だ」
【よろしくお願いします。公】

 幽は再度正座すると頭をさげてきたので、公も正座をして頭をさげた。

「こちらこそ」

 同時に顔をあげた2人は微笑みあいました。

「ところで、俺はどうやって帰ればいいんだ?」
【わかりません】

 幽の返事に公は固まりました。しかし、すぐに復活した公は一息吐いて聞き返しました。

「わからないの?」
【はい】
「えっと………それはなんでかな?」
【そもそも、テレビを通して誰かと話せたことも、この部屋に呼べたことも初めてですからこのあとどうしたらいいかなんてわかりません!】

 元気よく笑顔で言いきる幽に、公は苦笑してからため息を吐きました。

「これは、ロマが作者を呼んでくるのを待つしかないか」
【さっきから気になっていたのですが、その作者って誰ですか?】

 幽の疑問に公はまた苦笑しました。

「幽は理解していないようだけど、俺達は小説の登場人物なんだよ。そして、俺達の話を書いているのが作者ってわけだ」
【えっと………いきなり中二発言をされても困るんですけど】

 幽は困ったように微笑みました。
 それに対し、中二扱いをされた公はダメージを受けて胸をおさえてうずくまりました。

【大丈夫ですか?】

 幽が心配そうに近づいて来たので、なんとか笑顔を作った公は顔をあげました。

「あぁ。大丈夫だ」

 それから大きく深呼吸しました。

「まぁ、普通に考えればそういう反応になるよな。それをわからなくなっているなんて、俺も作者に毒されてきたのかな」

 公は深々とため息を吐きました。

≪ただいまもどりました。公。なにを落ち込んでいるのですか?≫
「気にしないでくれ」
≪???
 わかりました≫
「それで、作者はどうした?」
≪マスターは起きたのですが、やはりこの世界には干渉できないらしく『自力でなんとかしてくれ』ということです≫
「ちっ。肝心な時に使えねーな」

 舌打ちをして公は頭を掻きました。

【すいません。私が何も考えずに声をかけてこちらに呼んだせいでご迷惑をかけたしまって】

 しょんぼりしてしまった幽を見て公は自分の頭を軽く叩きました。それから立ち上がって幽に近づくと、頭を撫でてあげました。

「別に幽は悪くねーよ」
【でも】
「こんなところに1人でいたら、話し相手がほしくなるのは普通のことだろ。だから、気にするな」
【公さん】

 幽が潤んだ瞳で公を見上げていると、2人は光に包まれました。


          *


 光か収まり、目をあけると公はもとの廊下に戻ってきていました。

 おっ。戻ってこれたみたいだね。

「作者」

 それで、その娘がロマが言っていた幽霊の幽ってわけかい?

 俺の問いかけに、公が後ろを振り向くと、そこには幽が浮かんでいた。

「えっ?幽って確か、あの部屋から出られなかったはずだよな?」
【そのはずですけど】

 公も幽も戸惑っていた。

 え~と。あ~。幽は公の守護霊にクラスアップしたから一緒に戻ってきたみたいだな。

「えっ?」
【守護霊にクラスアップですか?】

 そういうこと。だから、これからは公とずっと一緒ってわけ。

 俺の言葉に2人は顔を見合わせました。

【えっと、こんな幽霊ですが、これからよろしくお願いします!】

 笑顔で頭を下げる幽を見て、公は苦笑したい気持ちを抑えて笑顔を向けた。

「よろしく」

 公の返事を聞いた幽はさらに笑顔になった。
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