私のための小説

桜月猫

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70話

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 公は生徒会の2泊3日の夏合宿のために校門前にやってきていました。

「ロマ。作者は?」
≪マスターでしたら「眠いからあとは任せた」と言って今は寝ています≫
「なんて自由なヤツなんだ」
「まぁ、いいじゃないか。いないほうが楽なんだから」
「そうですね」

 壱の言葉に納得した公は頷きました。

「みんな集まったよね?」

 夏の問いかけに生徒会メンバーが手をあげたり頷いたりして答えました。

「それじゃあ行くわよ」

 夏の一言で移動を始めた生徒会メンバーがやって来たのは地下の特殊空間でした。

「それじゃあ、夏合宿を開始します」
「と、言っても、別に何か作業をしたり特訓をしたりするわけじゃなくて、こうやって交流を深めるためのキャンプだから、のんびりすればいいからね」

 秋は夏を後ろから抱きしめると、頬を擦りあわせました。

「確かにそうですけど、秋先輩は離れてください」

 夏は必死になって秋を引き剥がそうとしますが、秋の力が強くて引き剥がせません。
 そんな2人をほっておいて裁が前に立った。

「この紙に書いてある自分が泊まるコテージ番号を確認したらそれぞれのコテージに行って1度荷物を置いて再度ここに集合してくれ」

 コテージ番号を確認すると、みんなはそれぞれのコテージへ向かっていきました。
 公も自分が泊まるコテージにやって来て、荷物を置くとすぐに戻りました。

「みんな集まったな?」

 裁の後ろでは先ほどと変わらず夏が秋を引き剥がそうとしています。

「はぁ」

 ため息を吐いた裁は、振り返ると秋の襟を掴むと夏から引き剥がしました。

「秋。お前もさっさと荷物置いてこい。次に進めないだろ」
「わかったわ」

 壱のおかげで秋から解放された夏もホッとしながら荷物を置きにコテージへと向かいました。
 2人が荷物を置いて帰ってくると、裁が話始めました。

「今からこの山を登る」

 裁は背後の少し小さい山を指差しました。

「この山の頂上には湖とロッジがあるらしく、ロッジには釣り道具や水着があるらしい」
「さっきかららしいって、なんでそんな曖昧な説明なのよ」

 冬の疑問の答えとして裁は1枚の紙を差し出しました。
 冬は受け取った紙を見ました。そこには『作者メモ』と書かれていました。

「何?この作者メモって」
「見ての通りなんだがな」
「えっと、湖には食べれる魚しかいないので、釣ってお昼にするといい。湖には砂浜もあるから海水浴ならぬ淡水浴が楽しめるうえに、淡水だから髪がごわごわしない。さらに、ボードやウォーターローラーなどの遊び道具も充実しているから是非行ってみるといい、ですって」

 冬がメモを読み終えてみんなを見ると、疑わしい表情や苦笑したり微笑んだりと様々な反応が返ってきた。

「遊べるって書いてあるし、とりあえず行ってみるか」
「そうしましょう」

 夏や裁を先頭に、山を登ること30分。メモに書いてあった通り湖とロッジがあった。

「それじゃあ、ここで3時までゆっくりしましょう」

 夏がそう言うと、みんな思い思いの遊びを始めました。
 そんな中、公は桟橋で釣竿を持って釣りをしていました。

「どうデスカ?釣れてマスカ?」

 声をかけられたので公が振り返ると、笑顔のハルが公を見ていました。

「ニジマスやヤマメとかが釣れますね」

 公はバケツを見せました。

「オォ!釣れてマスネ!」
「ハル先輩は釣りしないんですか?」

 ハルの手には釣竿とバケツと折り畳み椅子。

「ハルでいいデス。先輩はいりまセン。それにもっと気さくに話してクダサイ」

 ハルは笑顔で言うけど、公は頭を掻きました。

「そうはいきませんよ」
「なんでデスカ?私は気にしまセンヨ?」

 不思議そうにハルは首を傾げました。

「俺が気にします」

 公の苦笑しながらの答えにハルはさらに首を傾げました。

「でも、廻とは気さくに話していますヨネ?」
「廻とは小学校からの幼なじみだからですよ。それに、そんな廻相手でも、ちゃんと時と場合を考えて敬語を使ったりしているでしょ」
「下敷き長にも冷気あり、デスネ」

 間違いだらけのことわざに公は苦笑しました。

「それを言うなら、親しき仲にも礼儀あり、ですよ」
「アレ?」

 正しいことわざを聞いてハルは首を傾げました。

「間違いマシタ」

 ハルは頭にコツンと拳を当てて舌を出しました。その可愛い姿に公は微笑んでいました。

「そういうわけですから」
「では、少しずつでも慣れてクダサイ。そして、時と場合によっては気さくに話しかけてクダサイ」

 ハルの提案に公は少し苦笑しましたが、頷きました。

「わかりました。考えておきます」

 公の答えにハルは笑顔になり、公の隣に座りました。

「公はエサに何を使っているのデスカ?」
「俺は虫を使ってますよ」

 虫と聞いてハルが顔をしかめたので、公は苦笑しました。

「擬似餌でも十分釣れてるみたいですから、擬似餌を使うのがいいと思いますよ」
「そうシマス」

 ハルは擬似餌を糸の先につけました。

「全力投擲デス!」

 その言葉通り、竿を大きく振って飛ばされた擬似餌はなかなか遠くまで飛んでいきました。
 しかし、いつまで経っても浮いたままの擬似餌にハルは首を傾げました。

「公。擬似餌が沈みマセン!」

 公はガクッと前に倒れそうになりました。

「ハル先輩。とりあえず、俺の釣竿持っておいてください」

 公は自分の釣竿をハルに渡し、ハルの釣竿を受けとりました。そして、すぐに糸を巻き取ると、擬似餌を確認しました。

「やっぱり。重りのつけ忘れですね」
「重りデスカ?」
「えぇ。この擬似餌は軽いので、重りがないと沈まないのです」

 公は擬似餌を外すと重りをつけてから再度擬似餌を取り付けました。

「これで沈みますから」

 公が釣竿を返そうとした時、ハルが持っていた釣竿に反応がありました。

「Hit!」

 すぐに釣竿を立ててリールを巻き始めたハルですが、引っ張られる力は全くなく、すいすいと糸は巻き取られていきます。

「ハル先輩。それ逃げられてますよ」
「えっ?」

 ハルが糸を巻き取り終えると、糸の先には針しかついていませんでした。

「どうしてデスカ!ちゃんと反応はありました!」
「魚っていきなりバクッと食いつくことはないんですよ。だから、反応があってもすぐに巻き始めずに、確実に食いつくのを待つんです」
「釣りって難しいんデスネ」

 ため息を吐いているハルの隣では公は微笑んでいました。


          ◇


 3時になり、コテージに帰るために山を下りていると、空には黒い雲がかかってきました。

「なんか危なそうね」
「そうだな。みんな少し急ぐぞ」

 裁がペースを上げるとすぐに豪雨が降り始め、さらに雷も鳴り響きます。

『キャー!』

 女子達から悲鳴があがる中、雷の轟音と豪雨で足元がぬかるんだことにより、夏がしりもちをつきました。

「大丈夫ですか?」
「なっちゃん」

 公・ハル・秋の3人が夏のもとに駆け寄った。

「大丈夫か!?」
「えぇ!」

 裁と秋が言葉を交わしていると、轟音とともに道の両サイドの木々に雷が落ち、木々が倒れて道を塞いで燃え上がった。
 そのため、公・夏・秋・ハルの4人が取り残された。

「裁先輩!俺達はロッジのほうに戻ります!豪雨と雷が止んで安全が確認出来たら山を下りようと思います!」
「わかった!気をつけてな!」
「はい!」

 というわけで、公達はロッジのほうへ戻っていきました。
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