私のための小説

桜月猫

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68話

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『宿題終わったーーーー!』

 庵とゆっこはばんざいをしてからハイタッチをかわした。

「お疲れ」
「やったね、ゆっこ」

 最後に宿題を終えた庵とゆっこにみんながねぎらいの声をかけていった。

「これで予定通りこのあとの夏祭りに行けるな」

 夏祭りという単語に反応した庵とゆっこが公を見た。

『夏祭りがあるのか!?(あるの!?)』
「あぁ。ただ、全員の宿題が終わってなかったら行く気はなかったけどな」
『なんで!?』

 庵とゆっこが公に迫った。

「朧月や蛙や夕からの忠告があってな。お前達2人は途中で楽しいことを息抜きとかですると、2度と勉強には戻らない、とな」
『うぐっ!』

 2人とも反論出来ずに言葉をつまらせた。

「でもでも、夏祭りがあることを教えてくれてもよかったじゃない!」
「そうだそうだ!」

 2人の抗議の声に、朧月と蛙がため息を吐いた。

「な、なんだよ」

 庵が後ずさった。

「お前達の場合、夏祭りがあるって知ってたら、夏祭りのほうが気になって宿題に集中出来なかったんじゃねーか?」
『うっ』

 そうなることが自分でも理解している2人は反論出来ない。

「だから教えなかったんだよ」

 黙りこみ、公達を睨み付けることしか出来ない2人。

「まぁまぁ。ちゃんと宿題も終わって夏祭りに行けるんだからいいじゃんか」

 蛍が間に入って2人をなだめた。

「そうだね!」
「宿題を終えた俺達は自由だ!」
「だからといって、羽目をはずしすぎるなよ」
『はーい!』

 龍の忠告に素直に頷いた2人は時計を見た。
 現在の時間は4時半。

「夏祭りは何時から?」

 ウキウキしながらゆっこは夕に問いかけた。

「何時からなの?」

 時間を知らない夕は公を見た。

「6時からだから、家を出るのは5時半だね。それまでは自由でいいよ」


          ◇


 というわけで一気に6時までぶっ飛び、公達は夏祭りが行われる神社の入り口まで来ていた。

「ここからは各自自由で、9時に再度ここに集合ということで」
「一緒に行かねーの?」

 庵が疑問を口にした。

「これだけの大人数だし、行きたいところも違うでしょうから、自由に動き回ったほうがいいと思うのですが」
「そうだな」
「それでいいと思うよ」

 長の言葉にみんなが賛成の声をあげたいると、

「公先輩~!」

 声のほうを見ると、浴衣姿の水と羊がいた。

「じゃあな」

 長達と別れた公達は2人のもとへ。

「お前達も夏祭りに来たんだな」
「もちろんっすよ!」

 笑顔で頷いた水は浴衣を見せるように1回転した。

「どうっすか?私の浴衣姿は?」
「かわいいよ。羊も似合ってるね」

 かわいいと言われた水は嬉しそうに羊に抱きついた。羊も似合っていると言われて嬉しそうだった。

「あら、みんな勢揃いね」

 声のした方向からは千佳と廻と翔と音がやって来ていた。

「こんばんはっす、千佳先輩、廻先輩、翔先輩、音」
「夏祭りには毎年来てるからな。でも、約束はしてなかったはずだけど?」

 公は水達や千佳達を見た。

「私達は舞先輩に聞きました」
「私達は夢ちゃんに聞いたわ」

 水と千佳の答えに納得していると、水は公の腕に抱きついたので、音も公の腕に抱きついた。

「行きましょうか」

 千佳が背後から抱きつきながら言った。

「千佳姉。歩きづらい」
「いいじゃない」

 離れる気のない千佳。公はため息を吐きながら諦め、そのまま夏祭りを回り始めた。


          ◇


 その姿を見送った庵は朧月を見た。

「あ、あれは………な、なんだ………」

 庵は戸惑っていた。女性陣も数人呆然としている人がいた。

「なんだ、と言われても、地元の先輩や後輩なんじゃないのか?」

 朧月が見たままのことを答えた。

「あんな風に腕組んだり抱きついたりするか?」

 先ほどの光景が信じられない庵は軽く頬を叩いた。それを見ながら苦笑する龍。

「誰も何も言わないところを見ると、公達にとっては普通のことなんだろうな」
「あれが………普通………だと…………」

 精神的なダメージを受けた庵は膝をついた。

「大丈夫ですか?」

 長が心配して庵のもとへいこうとしたが、朧月がそれを止めた。

「心配する必要なんてないぞ。ただの嫉妬だからな」
「そうなの?」
「あぁ。だから、ほっていこう」

 朧月や蛙が庵をほっておいて歩きだしたので、龍達もそのあとについていった。


          ◇


 焼きそばやわたあめを食べながら公達は1件のたこ焼き屋にやって来た。

「おっちゃん」
「おっ、公達じゃねーか」

 おっちゃんは毎年この夏祭り来ているので、公達とは顔見知りなのだ。

「今年はどんなチャレンジをしてるの?」

 公の問いかけにおっちゃんはニヤリと笑った。

「今年はたこ焼き屋だからな」

 おっちゃんはドン!と公達の前に1枚の紙を置いた。そこには、こう書かれていた。


     ~コンビ・カップル限定~
 焼きたてのたこ焼きを2人で10秒フーフーしてから、コンビならどちらかが、カップルなら男性が一口で食べて10秒以内に食べきれたらたこ焼き1皿無料!


「挑戦者はどんな感じ?」
「いつもと変わらないな。もちろん公達はやるだろ?」

 おっちゃんはすでに焼きたてのたこ焼きを用意していた。

「とりあえず、廻と翔で1回と、公と誰かでもう1回ってところね」
「俺は翔とかよ!」
「あれ?イヤだった?」

 ニヤニヤしながら首を傾げる千佳を廻は睨み付けた。

「これだけ女子がいるんだから俺と翔を分けて女子と組ませれば3回出来るだろが!」
「あ~そうね。そうだったわね」

 廻に言われなくてもわかっている千佳は白々しく言った。
 その態度に廻は呆れながらため息を吐いた。

「それで、俺と誰で組む?」

 廻が女性陣に問いかけると、女性陣は円陣を組んで話し合いを始めた。

「どうする?」
「いつも通りじゃんけんで決めればいいんじゃないかな?」
「えぇ。それが1番公平ですわね」
「じゃあ、勝ち上がった1位が公、2位が翔、負け残った最下位が廻ってことで」

 千佳が確認するようにみんなを見ると、みんなは頷いた。

「じゃあ」
『じゃんけんぽん!』

 そうして決まった組み合わせは、公と水、廻と桜、翔と音となった。

「というわけだから」
「了解。じゃあ、誰から挑戦するんだ?」

 すると、翔と音が前に出てきた。

「俺たちが挑戦します」
「なら、皿にたこ焼きを置いた瞬間から10秒のカウントを始める。その間だけ息を吹きかけて冷ますことは出来る。10秒経ったらすぐに翔が食べて10秒以内に食べれたら成功だ。いいな?」

 2人が頷いたのを見ておっちゃんも頷いた。

「なら、いくぞ」

 おっちゃんがたこ焼きを皿に置いた。その瞬間から2人は息を吹きかけて冷まし始め、10秒経った瞬間に音が翔にたこ焼きを食べさせた。さらに10秒経った時、翔はまだ「あふっあふっ」としていた。

「はい、失敗。次は?」
「俺たちだな」

 次は廻と桜が前に出た。

「いくぞ」

 皿に置かれたたこ焼きを2人でフーフーして冷まし、10秒経った瞬間に桜が廻の口に放り込んだ。

「あっつ!」
「そんなこと言ってる暇あったらさっさと食べなさい」

 千佳の言葉に廻は必死になって食べようとするが、10秒では食べきれなかった。

「最後は公達だな」
「公先輩!がんばるっすよ!」
「あぁ」

 拳をぶつけ合った公と水。

「いくぞ」

 おっちゃんが皿にたこ焼きを置くとすぐにおもいっきり息を吐いてたこ焼きを冷ます。10秒経って水が公にたこ焼きを食べさせてあげると、公は「あふっあふっ」となりながらも10秒ギリギリで食べきり、口の中をおっちゃんに見せた。

「お見事!成功だ!」

 おっちゃんが叫ぶと、見ていた野次馬達からも歓声があがった。

「やったっすよ!公先輩!」

 水は喜びながら公に抱きついた。
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