私のための小説

桜月猫

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66話

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 朝、目覚めた公は、予想通り腕に抱きついてきている舞と夢を見て微笑んだ。
 それから2人を起こさないように気をつけながら腕を抜いて起き上がると、着替え中で下着姿の萌衣が見えたので慌てて顔を背けた。
 公が顔を背けたまま固まっていると肩を叩かれた。なので振り返ると、メイド服に着替え終わった萌衣が公の着替えを差し出していた。
 着替えを受け取った公は声は出さずに口を動かして「ありがとう」と言うと、萌衣はニコッと微笑んでから一礼して部屋を出ていった。
 公は手早く着替えを終えると、ダイニングへ降りていった。

「おはようございます、公様」
「おはよう、萌衣さん」
「別にあのまま着替えを見ててもよかったのですよ」

 萌衣の意外な一言に公はブッ!と吹き出した。
 そんな公の姿を萌衣が微笑ましく見ていると、公はフゥと息を吐いた。

「気づいていたんですね」
「えぇ。起きた気配がいたしましたから。なんでしたら、今から脱ぎましょうか?」

 萌衣の言葉に公は額に手を当てて大きくため息を吐いた。

「からかわないでください」
「申し訳ございません。公様の反応が面白くてついからかってしまいました」

 ふふっと微笑んだ萌衣を見て公はまたため息を吐いた。

「でも、薫様でこういうからかいには慣れていると思ったのですが」
「あれは薫だからですよ」

 公は苦笑した。

「つまり、それだけ薫様の裸を見てきているというわけですね」
「ぐっ。間違ってはいないけど………」

 公は言葉をつまらせた。

「では、私の下着姿くらいでは興奮しませんよね」
「そんなことはないよ」

 公からの答えに萌衣は固まった。

「確かに薫の裸や下着姿はたくさん見てきた、というより見せられてきたけど、俺も男だから興奮はするさ。だから、萌衣さんの下着姿も興奮した」

 公の直球の言葉に萌衣は顔を赤らめ、照れて言葉が出ないでいると、蛍と光がダイニングに入ってきたので顔を引き締めた。

「おはよう、公、萌衣さん」
「おはようございます」
「おはよう。まだ早いけど、あまり眠れなかったのか?」

 公の問いに蛍が首を振った。

「いつもこの時間には起きてるから早いってことはないよ」
「そうなんだ」
「それに、僕達より早い公がそれを言うかい?」

 そう言われると公は苦笑するしかなかった。

「皆様、何か飲みますか?」
「俺はコーヒーで」
「僕もコーヒーでお願いします」
「ホットミルク」
「かしこまりました」

 頷いた萌衣が飲み物を淹れていると、龍や長や雪がダイニングに入ってきた。

「みんな時間より早いね」

 公が言う時間とは、昨日の夜に決めた朝起きる時間であり、朝7時に起きて朝食を作り始めようとみんなで決めたのだ。
 しかし、現在の時間は6時40分。7時まではまだ20分あった。

「だから、1番早く起きてる公が言えることじゃないって」

 蛍が苦笑しながら言うと龍達の視線が公に集まった。

「確かに6時に起きたけど、俺にとってはいつものことだからな」

 公は萌衣が用意してくれたコーヒーにミルクを入れて一口飲んだ。
 その答えに苦笑した蛍。その隣では光がホットミルクをふーふーしながら飲んでいた。
 それから7時になるまでに庵・ゆっこ・薫・牡丹・蘭・舞・夢以外の人間は起きてダイニングに集まった。

「とりあえず、桜達は朝食作り始めといて」
「公はどうするの?」
「リビング使えるようにしないといけないから庵を起こしてくるよ」

 一様庵が寝ていてもテーブルは置けるので朝食を食べることは出来るのだが、やっぱり邪魔なので起こすことにした公。

「わかったわ」

 桜の返事を聞いた公がダイニングを出ると、龍・朧月・蛙の3人もついてきた。

「1人でいいぞ」
「いや、手伝うよ。庵の寝起きの悪さは最悪だからな」

 朧月の言葉に蛙も頷いた。

「それに、テーブルの準備を手伝う必要もあるだろ」

 龍の言葉に納得しながら公はリビングの扉を開けた。
 庵は窓に近い端の位置ですやすやと寝ていた。

「庵。起きろ」

 とりあえず声をかけてみるが、朧月と蛙が寝起き最悪と言うだけあって当然起きない。

「こいつを起こすためには」

 朧月は庵のお腹を踏みつけた。

「これぐらいはしないとな」

 しかし、庵は「うぅっ」と唸り声をあげたが、完璧には起きていない。

「仕方ないな」

 朧月が蛙を見ると、蛙は頷いて庵を転がしてうつ伏せにした。そして、2人は庵の背中に座り、朧月が首を、蛙が足を決めた。

「ぐぉぉぉ!」

 さすがに起きた庵は朧月の腕をタップした。

「やっと起きたか」

 2人が庵を解放すると庵は倒れて動かなくなったので公が踏みつけた。

「起きろ。布団が片付けられないだろ」
「さっきのを見てよくそんなヒドイことが言えるな!」

 庵は涙目で起き上がった。

「7時に起きて朝食の準備を始めるって昨日決めたのに起きないお前が悪い」
「うっ」
「だからさっさと起きやがれ」

 庵はしょんぼりしながら起き上がったので蛙が布団を片付け、龍がテーブルの準備を始めた。

「それじゃあ俺が最後なのか?」
「いや。まだ薫とか寝てるぞ」

 公の答えに驚く庵。

「だったら余計にヒドくねーか!」
「ヒドくねーよ。お前が寝てたらテーブルの準備が出来ないんだから先に起こすのは普通だろ」
「公。ここは俺達がしとくからダイニングに戻っていいぞ」

 ふて腐れている庵の頭を押さえつけてながら蛙が言うと、「任せた」と言って公はダイニングに戻った。
 帰って来た公を見た桜。

「公。舞と夢と薫を起こしてきて。ゆっこと牡丹と蘭は夕と雪が起こしにいったから」
「わかったよ」

 すぐにダイニングを出た公は2階に行くと、まずは舞と夢を起こすために萌衣の部屋に入った。
 2人はまだ寝ていたので軽く揺すった。

「舞、夢、朝だぞ」
「う~ん」
「朝、ですの?」

 まだ寝ぼけながらも起き上がった2人は公に抱きついた。

「そうだ。だから起きろ」
『う~ん』

 2人して公に顔を押しつけてきたので苦笑しながら公は2人を連れて薫の部屋へとやって来た。
 部屋に入ると、薫は着替え中で下着姿だったので反転しようとした公。しかし、公が反転するより早く薫は公のもとへ駆け寄ると、公の顔を胸に抱き寄せた。

「なっ!」
『あー!』

 薫の予想外の行動を見て完全に目が覚めた舞と夢が叫んだ。

「ちょっ!何しやがる」

 公が離れようとするが、薫はかなりの力で公の頭をロックしているので離れられない。

「どこからこの力は出てくるんだよ」

 文句を言いながらも公が必死にロックから抜けようとしていると、下から駆け上がってくる音に公はさらに焦り出す。

「どうしたの!」

 1番に部屋に入ってきた桜と楓は公と薫の姿を見て一瞬呆然としたが、すぐに我に返ると楓はあとからやって来た蛍達を押し止め、桜は中に入って扉を閉めると2人を引き剥がしてとりあえず薫に服を着させると2人を正座させた。

「どうしてこうなったの?」

 その問いに公は状況をありのまま説明すると桜は薫を睨んだ。

「なんでそんなことをしたの?」
「私の立場が危うくなりそうなことが起きた気がしたから」

 その答えに桜は首を傾げたが、公は朝の萌衣との出来事を思い出して内心ドキドキしていた。

「とにかく、さっきみたいなことは禁止だからね!」
「はーい」

 薫が頷いたのを見てため息を吐いた桜。その後、他のみんなには適当な理由ではぐらかし、ようやく朝食を食べ始めた。
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