私のための小説

桜月猫

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65話

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 お昼も終わり、午後の勉強会が始まった。

「集中力があるうちに苦手教科を終わらせる!」

 庵の宣言を聞いた蛙はジト目で庵を見た。

「お前の苦手教科ってなんだ?」
「もちろん全部!」

 胸を張って言い切った庵の頭を朧月と蛙が同時に殴った。

「イッテー!なにしやがる!」
「くだらないこと言ってないでさっさと宿題始めやがれ」
「ブー」

 ブー垂れている庵にイラッとした蛙が再度拳を握ると、庵は慌てて宿題を始めた。

「なぁ、光。ここなんだけどな」

 そんな庵達のやり取りを気にした様子もなく、公は光にわからないところを問いかけた。
 今回の勉強会では、成績上位7人に2人ずつついてわからないところを教わるという形をとっていて、人見知りの光にはまだ話が出来る方である公と桜がついていた。
 そうして昼から休憩を挟みつつの4時間、みっちりと宿題をしていると、さすがに庵とゆっこの集中力が底をついて宿題が全く進まなくなった。

「5時になったことだし、夕食の買い物に行きましょうか」

 長の言葉で庵とゆっこはバンザイをした。2人が頑張っていたことはわかっているので、誰も注意したりするつもりはない。

「初日から宿題がここまで進むなんてことなかったんじゃない?」

 ゆっこは今日1日で全体の3分の1の宿題を終わらせていた。

「そうだよね」

 夕の言葉にゆっこは笑顔で頷いた。

「庵も初日からここまで進むことなんてないよな」

 庵もゆっこと同じで全体の3分の1を終わらせていた。

「庵の場合、蛙がいるんだからいつもこれくらいのペースでいけそうな気がするけど」

 蛍の疑問に朧月と蛙はため息を吐き、庵は「あっはっは」と笑っていた。

「俺がこんな早くから宿題を始めるわけないだろ!」

 胸を張って庵が言っていると、当然朧月と蛙の拳が降ってくるわけで、庵は頭を抱えてうずくまった。

「庵を捕まえて強制的にやらせなかったの?」

 牡丹の問いに朧月と蛙はまたため息を吐いた。

「普段はそうでもないくせに、宿題や勉強をさせられそうってなった時のこのバカの危機察知能力はムダに高いうえに逃げ足まで速くなってな」

 朧月はうずくまっている庵の背中を蹴って膝と両手をつかせた。

「小学3年からの4年間、何度も捕まえて強制的に宿題をやらそうとしたけど、結局1度も捕まえることが出来ずに骨折り損になるだけだから中学に入る頃には諦めて放置することにしたんだよ」

 蛙は庵の頭を踏みつける。

「そしたら当然このバカが宿題をやるはずもなく、最終的には俺達に泣きついてくるんだよ」

 朧月は庵を背中に座った。

「宿題をやらなかったそのバカが悪いんだし、無視すればいい」

 薫の意見はもっともなのだが、朧月と蛙は3度目のため息を吐いた。

「当然俺達も無視はするさ。でも、このバカのしつこさは半端なくてな」
「手伝うと言わない限りメールを朝から夜中までひっきりなしに送ってきやがるんだよ」
「しかも、スマホの電源を落としたら家に押しかけてきて、家に居ないと居座ってくるしな」

 それを聞いた公達は軽くひき、庵に冷たい眼差しを向けた。

「これに耐えて無視するぐらいならさっさと手伝って解放されたほうがいいと思うだろ?」

 全員がその通りだとばかりに深々と頷いた。

「それなのに、よく今回の勉強会にそのバカを連れてこれたな」

 公の疑問に蛙は「あぁ」と頷いた。

「今回の勉強会に参加しなかったらテスト勉強は2度と手伝わないって言ったんだよ」
「期末で赤点とって補習になりかけたってこともあってこの通り、逃げることなくやって来たわけだ」

 納得して頷きながら再度庵を見ると、自分が悪いことを理解している庵は言い訳もせずにただただ耐えていた。
 なので、蛙は頭から足をどけ、朧月は立ち上がった。

「本当にすいませんでした」

 庵がそのまま土下座したので、長は手を叩いた。

「過去の話はそれぐらいにして、今は夕食の買い物に行きましょう」

 長の言葉に庵も土下座を止めて立ち上がり、みんなで買い物のために商店街に向かった。


          ◇


 夕食も終わり、お風呂も入り終わってあとは寝るだけなのだが、そのためにはどこで誰が寝るのかを考えないといけないのだ。

「寝れそうな場所は1階だとダイニングと和室と客間で、2階は俺の部屋に舞と夢の部屋に薫の部屋に萌衣さんの部屋の7部屋だから、ダイニングに5人、他の部屋に3人ずつってところだな」
「ちょっと待て」

 各部屋の人数分けを聞いた龍が待ったをかけた。

「どうした?」
「2階の部屋はそれぞれ個人のプライベートの部屋なんだから俺達は1階だけでいい」
「そうだね。流石に個人の部屋を使わせてもらうわけにはいかないね」

 龍や雪の意見に同意するように蛍達も頷いた。頷いていないのは桜・楓・暁の幼なじみ3人組だけ。

「それだと、ぎゅうぎゅう詰めで寝づらいだろうから却下」

 龍達の意見をあっさり却下した公。

「いや、しかしな」

 龍は食い下がらずにいこうとしたが、それを桜が止めた。

「公は、こうと決めたら意見が変わることがないから諦めなさい」

 桜の隣では楓や暁も頷いていたので龍は諦めてため息を吐いた。
 それを見て公は話を進めた。

「それじゃあ部屋分けを決めようか」

 すると、舞と夢が公の両サイドに座って腕を組み、公の後ろには萌衣が立った。

「私の部屋は4人でも十分寝れる広さがありますから、私達4人は私の部屋で寝ます」

 突然の萌衣の宣言に、公をはじめ、全員がポカンとしていた。
 しかし、すぐに我に返った庵が公を睨み付けた。

「いや、睨まれても困るし、俺が決めたわけじゃないからな」

 公の言葉で桜達も我に返った。

「なんでそうなるのよ」
「まず、公様と舞様、夢様はご兄妹ですので、一緒に寝ても問題ありませんよね」

 これに対しては誰からも文句はなかった。

「なら、最後の1人は親戚の私でもいいはず。なのになんで萌衣さんなの?」

 薫の提案と疑問はもっともなものだった。

「最後の1人が私なのは、まず、メイドである私がお客様である皆様と同じ部屋で睡眠をとるわけにはいきません。
 もちろん、主である公様達と同じ部屋で寝るのも本来はあり得ないのですが、今回の場合、部屋がないということと、公様達のお世話をしないといけないという理由から最後の1人が私になるのです」

 納得出来る理由だったので、誰からも異論は出てこなかった。

「異論がないようなので、私達4人で決定ということで」

 萌衣は笑顔で言った。

「だったら、私と楓と暁で公の部屋を使わせてもらうわよ」
「いいよ」
「いいのかよ!」

 公があっさり認めたことに庵が叫んだ。

「いいんだよ。俺の部屋なんだからな」
「でも、暁もいるんだぞ!」
「幼なじみなんだからいいんだよ」

 納得出来ていない庵がさらに何かを言う前に、蛙が頭を押さえつけて黙らせた。

「だったら」

 手をあげた牡丹は蘭と由椰と肩を組んだ。

「私は蘭と由椰と一緒がいいかな」

 その言葉を聞いた公は舞と夢を見た。公の視線を受けた2人は頷いた。

「だったら、舞と夢の部屋を使えばいいよ」
「やった」

 牡丹は嬉しそうに蘭と由椰と話し始めた。

「蛍は光とがいいだろ?」

 部屋分けの話が始まってから光は蛍にべったりなので公がそう問いかけた。

「そうだね」
「なら、私と一緒に私の部屋で寝る?」
「いいのかい?」
「えぇ」
「光もそれでいいかい?」
「うん」

 話がまとまったので、薫・蛍・光の3人が薫の部屋に決まった。

「じゃあ、私はゆっことあとは………」
「私が入ってもいいかしら?」

 夕がもう1人を決めかねていると長が手を上げた。

「もちろん」
「じゃあ、客間を使ってくれ」
「了解」

 頷いた夕はゆっことともに長のところにいった。

「そうなると、私と彩と万結は和室を使えばいいんだね」
「そうだな」
「なら、俺と朧月と蛙と庵はダイニングだな」
「なっ!」

 うるさくなりそうな庵を朧月が押さえ込んで黙らせることで無事に部屋分けが終わった。
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