私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
65 / 125

64話

しおりを挟む
「せっかく夏休みに入ったのに、なんで俺は勉強してるんだ」

 そんな疑問を口にした庵は一緒に勉強している蛙を見た。

「勉強じゃなくて夏休みの宿題な」

 蛙は庵の間違いを訂正した。
 そこへさらに朧月が追い討ちをかけるように言った。

「お前はほっておくと最後の3日ぐらいで泣きついてくるだろ?だから、みんなで集まって一気に終わらせとくんだよ」

 朧月の言葉通り、ここにいるのは庵・蛙・朧月の3人だけではなく、公達もいた。
 そして、夏休みの宿題を早く終わらせるための勉強会を行っていた。
 ちなみに、集まった場所は公の家なので、舞や夢もこの勉強会に参加して、みんなから勉強を教わっていた。
 さらに言えば、3日間で終わらせる予定でいるのでみんな泊まり込む準備をして集まっている。

「口を動かしてないで手を動かしてください」

 長からの注意で庵は宿題に目を向けた。
 しかし、休憩を挟んでいるとはいえ、それでもすでに朝の9時の集合から2時間は勉強しているので庵の集中力はほぼ無くなっていた。
 それを察してか、萌衣が提案した。

「そろそろお昼にしませんか?」

 萌衣の言葉にみんなが時計を見ると11時半になっていた。

「そうだね。そろそろ準備を始めようか」

 泊まり込みでの勉強会が決まった時、萌衣が「食事の準備は全て私が私が行いますから」と言ったのだが、さすがに22人の食事を萌衣1人に作らせるのは申し訳がないという意見が満場一致で出てきたので、食事の準備はみんなですると決めたのだ。
 う~んと背伸びをした桜は立ち上がった。それにあわせて暁や彩などの料理を手伝う人達も立ち上がった。

「それじゃあテーブルの準備よろしく」

 公達にそう言った桜は、萌衣達とキッチンへ向かった。

「ふぅ~」

 お昼ということで勉強から解放されるとあって、庵は大きく息を吐いていた。

「しかし、夏休みの宿題多すぎ」

 愚痴を言いながら床に倒れこむ庵。ため息を吐いた朧月は庵のお腹を踏みつけた。

「グエッ」

 踏みつけられた庵は起き上がると朧月を睨み付けた。
 睨まれた朧月は庵にアイアンクローを食らわせた。

「イタタタタタ!」
「自由研究や読書感想文とかないだけマシだろ」

 朧月が手を離すと庵は床に再度倒れた。そして、額に手を当てた。

「そうなんだけどな。でもその分プリントや問題集が多すぎないか?」

 起き上がった庵は分厚い問題集を持ってパタパタと振った。

「でも、みんなでやってるから進みはいつもより早いだろ」

 そう言っている朧月もいつもより宿題がはかどっていた。

「それもそうなんだけど」

 宿題の進みがいいことは納得しているのだが、やっぱり宿題をしたくないという気持ちがある庵はなんともいえない表情をしていた。

「そこまで宿題がやりたくないのか?」

 宿題をすることを苦痛に思わない龍は不思議そうに庵を見た。その視線を受けた庵は苦笑した。
 今回勉強会に参加している中で宿題を苦痛に思わないのは龍・長・雪・光・蛙・蛍・楓・彩といったテスト成績上位陣と、さっさと終わらせればどうってことないと楽観的考えをもつ朧月と暁くらいで、他のメンバーは多少なりとも苦痛だったりめんどくさいと思っていた。

「好き好んでやりたいとは思わないな」

 庵は問題集を置いた。

「そんなものなのか?」

 龍は意見を求めるように公を見ると、宿題を多少めんどくさいと感じている公は苦笑を返した。

「そうだな。庵の考え方が一般的と言えるんじゃないか」
「そうか」

 納得した龍はテーブルの準備を始めた。

「そういえば、22人が囲んでも十分な広さがあるテーブルなんてよくあったね」

 リビングにデンと置かれた巨大なテーブル。

「こんなデカいテーブルが普通の家にあると思うか?」

 皮肉っぽい笑みを浮かべながら公は蛍を見た。

「あ~。やっぱり普通はないよね」

 蛍が苦笑してると庵が問いかけた。

「だったらどうしてあるんだ?」

 疑問に思っていた蛙達も公を見た。

「作者が夏休みの泊まり込みでの勉強会をやりたいがために用意したんだよ。しかも、このテーブルを置くためにリビングを広くしやがったし。だから、今のリビングは普段のリビングの3倍あるんだよ」

 広くなったんだからいいじゃないか。それに、今回の勉強会が終わったらちゃんと元通りにするしさ。

「いいわけあるか。お前の都合で色々振り回されているこっちの身にもなってみろ」

 登場人物達が作者に振り回されるのは仕方ないことだろ。なんせ、物語を書いているのが作者なんだからな。

「公。テーブルを拭くためのフキンってどこだ?」
「ダイニングのほうにあるからちょっと待っててくれ」

 さっさと俺を無視してテーブルの準備を始めた公達。
 公はフキンを取りにダイニングに向かった。

「あれ~?どうしたの~?公~」

 公に気づいた暁が問いかけた。

「フキンを取りに来たんだよ」

 公はフキンを持つとダイニングを出ていこうとしたが、

「公」

 桜に呼び止められた公は振り返った。

「どうした?」
「もう少ししたら出来るから取りにきてもらえる?」
「わかったよ」

 頷いた公はフキンを持ってダイニングを出るとリビングに戻ってきた。

「龍。フキンだ」
「ありがとう」

 フキンを受け取った龍はテーブルを吹き始めた。

「そういえば、もう少ししたら出来るらしい」
「だったらすぐにテーブルの準備を終らせて取りにいかないとな」

 公の言葉を聞いた庵はお腹が空いていたということもあって動きがよくなった。
 そんな庵の姿に苦笑しながらも蛙達も宿題を早く片付け、机を拭いてダイニングに移動した。

「ちょうどいいタイミングですね」

 長は出来上がったスパゲッティの入った皿を公に差し出した。

「ハイハイ」

 受け取った公はそれを後ろへ回していき、受け取った蛙達はダイニングに移動していった。そして、全員がダイニングに移動し終わってテーブルにつくと、全員の視線が公に集まった。

「公。号令してくれ」
「俺?」

 そんなことを言われるとは思っていなかった公は戸惑った。

「そりゃあ、家の主人だからな」

 蛙の言葉に一瞬ポカンとした公だが、すぐに首を振った。

「いやいや、主人じゃねーし」

 公の言うように、本来の家の主人はダディだ。

「でも、今いる中だとな」

 龍は舞と夢を見てから公を見た。
 そう言われるとなにも言えない公は頭を掻いた。

「それじゃあ手を合わせて」

 みんなが手を合わせたのを確認した公。

「いただきます」
『いただきます』

 公の号令でワイワイと食事が始まった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
キャラ文芸
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿
キャラ文芸
お店をやっていると、様々なタイプのお客さんが来る。最近になってよく利用してくれるようになった男性は、見た目とは裏腹にうっかり屋さんなのか、短期間で二度も忘れ物をしていった。今度は眼鏡。その縁にはなぜか女性と思われる名前が刻まれていて。

夫より強い妻は邪魔だそうです

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。 時は大正。 九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。 幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。 「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」 疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。 ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。 「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」 やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。 不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。 ☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...