私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
52 / 125

51話

しおりを挟む
 テストが終わってゆっくりしていると、雛から「助けてもらったお礼がしたいので、みなさんでお越しください」という連絡をもらったので、公達は雛の家の前にやって来たのだが、そのあまりの豪邸ぶりに戸惑っていた。

「スゴいね~」
「スゴすぎるだろ」
「彼女ってお嬢様だったのね」

 なんて感想を公達が話していると、ひとりでに門が開いて執事とメイドが出てきた。

「公様と雛お嬢様をお助けいただいた皆様でございますね?」
「あ、はい」

 返事を聞いた執事とメイドが頭を下げた。

「ようこそおいでいただきました。さぁ、こちらへどうぞ」

 執事のあとについていくと、そこにはリムジンが停まっていて、メイドが扉を開けた。
 しかし、公達にとっては予想外のことなので戸惑うしかなく、それを見たメイドは微笑んだ。

「ここから玄関まで歩いていくと30分以上かかりますので、こちらのリムジンでお送りいたします」

 メイドの言葉を理解したようで理解できていない公達だが、乗り込む以外に選択肢がないので乗り込んだ。
 すると、執事の運転で静かに走り出すリムジン。そのまま5分程乗っているとリムジンが止まり、扉が開いたので外に出ると目の前には立派な豪邸。そして、玄関前には雛と雛母と数人のメイドが待っていた。
 リムジンから降りてきた公を見た雛は顔をほころばせて駆け寄った。

「いらっしゃいませ!公様!」
「えっと、招待してくださってありがとうございます」
「ふふっ。そんな堅苦しい挨拶は必要ないですよ。今回は皆さんに雛を助けていただいたお礼をしたくて呼んだのですから」

 そう言った雛母は公達に微笑みかけると、公達の緊張した雰囲気も少しやわらいだ。

「こんなところで立ち話もなんですし、中に入りましょうか」

 雛母の一言にメイド達が扉を開けたので、執事を先頭に雛母、雛、公達、メイドの順に中に入り、そのまま応接間までやって来た。
 応接間には円卓があり、雛母から時計回りに雛・公・光・蛍・楓・暁・薫・桜という順番に座った。
 全員が座ると、メイド達が様々なケーキやお菓子と飲み物が乗ったワゴンを押して入ってきて、ケーキとお菓子はテーブルの中央に置いて、飲み物はそれぞれに聞いていった。そして、全員の前に飲み物が行き渡ると、雛母と雛が立ち上がった。

「今回は雛を痴漢から助けていただきありがとうございました」
「ありがとうございました」

 頭を下げた2人。

「頭を上げてください」

 公の言葉に頭を上げた2人が公を見ると、公は困ったように苦笑していた。

「この前も言いましたが、たまたま近くに居ただけですし、それにこんなお礼をしていただかなくてもよかったんですよ」
「ふふっ」
「え~と………」

 雛母が笑ったことに戸惑う公。

「ごめんなさい。普通は助けた相手がお金持ちってわかると少しくらいは欲が出るはずなのに、公くんの態度がこの前と全く変わらなかったからおかしくてね」

 そうだよね。私ならちょっとは期待しちゃったりするわよ。

「そうなってしまうのもわからないことはないですけど、俺の場合、相手がお金持ちか貧乏かで態度を変えるつもりは全くないですから」

 公の考えに同意するように桜達も頷いていた。公達のその姿を見て雛母は微笑んだ。

「このケーキやお菓子はみんなへの感謝の気持ちとして取り寄せたものだからどんどん食べていってね」
『いただきます』

 公達はケーキやお菓子を食べ始めた。

「そういえば、みんなの名前を教えてもらえるかしら?」

 雛母が桜を見たので、桜から順に名前を言っていき、光も少し声が小さいながらも自分の声で名前を言った。

「みんなは同じ学校に通っているのよね?」
「はい。小説高校の1年生です」
「公様は私より1つ年下だったのですね」

 驚いている雛に公は苦笑した。

「雛さん。様をつけずに公って呼んでもらえませんか?雛さんのほうが年上なんですしそのほうが俺もしっくりきますから」
「いえ。恩人を呼び捨てになんてできないですよ。それに、私のほうこそ敬語はいりませんし、雛って呼んでほしいです」

 逆にそう提案されて公が困っていると、雛母が話に入ってきた。

「皆さん。雛が言った通り、私達には敬語を使う必要はありませんし、雛って呼んであげてくれないかしら」

 雛母からもお願いされた公達は頷いた。

「わかったよ。雛」

 雛と呼んでもらえて嬉しくなった雛は公の腕に抱きついた。
 その姿を見ながら蛍は疑問に思っていたことを雛母に聞いた。

「そういえば、どうして雛は電車で通学してるんですか?」

 その答えに興味があった公達は雛母の答えを待った。

「1番の目的は世間を知るためですね。社会に出たときに世間知らずでは生きていけませんから。それに、今回は痴漢にあうという不幸な出来事がありましたが、こうして皆さんと出会うという良い縁もあるので電車で通学させているのですよ」

 なるほどと頷いている公達。
 すると、扉が開いて男性が入ってきた。その男性は雛が公の腕に抱きついているのを見た瞬間、鬼のような形相で公のもとまでいくと拳を振り上げた。

「兄1さん。私の恩人を殴るつもりなのですか?」

 雛に睨み付けられた雛兄1は拳をおろした。

「ごめんなさいね。シスコン息子1が無礼を働いちゃって」
「母さん!私はシスコンではありません!」

 公を睨み付けながらも雛兄1は雛母に抗議していた。

「今の状況は誰がどう見てもシスコンよ」

 雛兄1は公から視線を外してまだシスコンと言ってくる雛母を見た。

「私は」
「それより、何しに来たの?」

 雛兄1の言葉にかぶせながら雛母は問いかけた。

「雛の恩人が来ていると聞いたのでお礼をと思ってきたのです」
「なら、その恩人を殴ろうとしたり睨み付けるのはおかしいことじゃない?」

 雛母の正論になにも言い返せない雛兄1は公に頭を下げた。

「すまなかった」
「本当にごめんなさいね。この前あった夫を含め、この家の男達は雛に甘いうえに雛のことになると暴走するから困るのよ」

 それに、雛兄1と書いているのを見てもらえばわかるように雛の兄はあと2人いて、2人ともシスコンよ。

"イヤな情報ありがとう"

 公は内心ため息を吐いていた。

「兄1さん。ここにいるみんなが私を助けてくれた恩人です」

 公の腕に抱きついたまま雛がそう言うと、雛兄1は公達に頭を下げた。

「雛を助けてくれてありがとう」

 お礼を言って頭を上げた雛兄1は、すぐに公を睨み付けた。

「兄1さん」

 雛兄1の態度に怒った雛が雛兄1を睨み付けた。

「うっ」

 雛に睨まれた雛兄1は一瞬怯んだが、『雛は俺が守らないと』というはた迷惑な正義感からすぐに立ち直った。

「いつまで抱きついてるんだ?」
「なんで兄1さんにそんなことを言われないといけないの?」
「それはお前のためを思ってだな」
「兄1さんに思われる必要なんてありません」
「なっ」

 雛の拒絶の言葉にショックをうけた雛兄1はすごすごと退散していった。

「さぁ。邪魔者もいなくなったことだし、ケーキやお菓子を楽しんでちょうだい」

 雛母の言葉に公達は雛兄1のことなどなかったかのようにケーキやお菓子を楽しんだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

●鬼巌島●

喧騒の花婿
キャラ文芸
むかしむかし鬼ヶ島に 春日童子と焔夜叉という鬼が暮らしていた。 くすんだ青髪、歪んだ小さな角という鬼として最低な外見を 持ち合わせた春日童子は神の依頼を受けることができず 報酬も得ずに家族と暮らしていた。 一方、焔夜叉は炎のような赤い髪、立派に伸びた2本の角という 鬼として最高の外見を持ち合わせ神の依頼を受け 報酬を得ながら1匹孤独に暮らしていた。 対照的な2匹は節分祭で人界に赴き清めの豆によって 人間の邪気を吸う儀式で考えが交錯していく。 卑小な外見だが精神の強い春日童子 立派な外見で挫折を知らない焔夜叉 果たして2匹の鬼としての矜持とは。 さらに神の眷属として産み落とされた聖なる人間に対抗し 鬼の存続を賭けて勝利することができるのか。 ※本編は八噺で終わります。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

~千年屋あやかし見聞録~和菓子屋店主はお休み中

椿蛍
キャラ文芸
大正時代―――和菓子屋『千年屋(ちとせや)』 千年続くようにと祖父が願いをこめ、開業した和菓子屋だ。 孫の俺は千年屋を継いで只今営業中(仮) 和菓子の腕は悪くない、美味しいと評判の店。 だが、『千年屋安海(ちとせや やすみ)』の名前が悪かったのか、気まぐれにしか働かない無気力店主。 あー……これは名前が悪かったな。 「いや、働けよ」 「そーだよー。潰れちゃうよー!」 そうやって俺を非難するのは幼馴染の有浄(ありきよ)と兎々子(ととこ)。 神社の神主で自称陰陽師、ちょっと鈍臭い洋食屋の娘の幼馴染み二人。 常連客より足しげく通ってくる。 だが、この二人がクセモノで。 こいつらが連れてくる客といえば―――人間ではなかった。 コメディ 時々 和風ファンタジー ※表紙絵はいただきものです。

ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。 時は大正。 九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。 幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。 「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」 疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。 ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。 「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」 やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。 不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。 ☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。

処理中です...