私のための小説

桜月猫

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44話

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 ゴールデンウィーク2日目。

 目覚めた公は体が動かないので顔を動かして状況確認を行うと、舞が体の上に乗っていて、史と夢が腕に抱きついていた。

 なぜこんな状況になっているかというと、去年まではダディやマザーも一緒に来ていたので男女で部屋割りをしていたのだけれども、今年は2人がいないので「それなら1部屋にしたほうが私達も得だし、女将さん達も楽だよね」ということもあって同じ部屋で寝たのでこの状況ができあがったのだ。

"こんな状況だと流石に動けないな"

 公は諦めて3人が起きるのを待った。
 しかし、3人はいっこうに起きる気配がない。

「起きてるだろ?」

 公の言葉に舞がピクッと反応してしまった。

「やっぱり。義姉さんも夢も起きてるんだろ」
「あ~あ。バレちゃったか」

 目をあけた史はいたずらっぽい笑顔を公に向けた。

「起きてるんだったらなんで俺にくっついてるんだよ」
「もちろん、お義兄さまのぬくもりを感じていたいからですわ」
「その通り!」
「そうそう」

 3人はさらに強く公に抱きついた。

「はぁ。もうすぐ朝食の時間なんだから離れてくれる?」
『イ~ヤ(ですわ)』

 3人の拒否の言葉にため息を吐いていると、

「失礼します」

 入ってきたのは若女将。そして、公達の状況を見てニヤニヤと笑った。

「お邪魔だったみたいね」
「わかってるくせになに言ってやがる」

 ニヤニヤされたことに少しムカッときた公はため口で文句を言った。しかし、そんなこと気にしていない若女将のニヤニヤは止まらない。

「大丈夫よ。温泉爺や婆には公達は元気にヤってると言っとくから」
「そんなことしたら名誉毀損でこの旅館訴えるからな」
「そんなことしたら公が捕まりそうな気がするけど?」
「俺が捕まる要素がどこにある」

 若女将は公達を上から下まで見回した。

「不純異性交遊」
「そう見えている若女将のほうが不純だ」
「うふふ。冗談よ」
「ならそのニヤニヤ顔止めろ」

 公に睨み付けられた若女将はようやくニヤニヤ顔を止めた。

「それで、朝食の時間だけどどうするの?」
「すぐに行くよ」

 史や舞や夢は起き上がると何事もないように着替えを始めたので公は布団をかぶった。

「おやおや義弟くん。なに二度寝をしようとしてるのかな?」
「着替えを見ないようにしているだけであって二度寝するわけじゃねーよ」
「別にいつもみたいに堂々と見ていてくれてかまわないんだよ?」
「事実を捏造するな。着替えを見たことなんてねーよ」

 すると、うんと頷いた若女将が布団を剥ぎ取った。

「なっ!」
「お客様。布団を片付けるので起きてくださいね」

 そう言われた公はため息を吐くと立ち上がった。

「先に行ってるから着替えたら来てね」

 史達にそう声をかけると部屋を出て食堂に向かった公。途中で温泉爺と婆に遭遇した。

「おう。おはよう、公」
「おはようございます」
「食堂に行くの?」
「えぇ」

 公の答えに温泉婆は公と腕を組んだ。

「じゃあ、一緒に行きましょうか」
「はい」

 2人と一緒に食堂にやって来た公が席に座って待っていると、史達もやって来た。

『おはようございます』
「おはよう、3人共」
「ほら、ご飯が冷める前に食べましょうか」

 3人が席に座ると温泉婆がおひつからご飯をよそってみんなに渡した。

『いただきます』

 公達がご飯を食べていると、女将がやって来た。

「皆さん。おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」
「えぇ。おかげさまでグッスリと」
「快眠でした!」
「うむ。この旅館はいつ来ても最高じゃな」
「ありがとうございます。では、ごゆっくり朝食をお楽しみくださいませ」

 微笑んだ女将は別のお客のもとへと行った。

「史ちゃん達は今日帰るのじゃろ?」
「えぇ」
「じゃあ、次会えるのはまた来年のゴールデンウィークになるのね」

 名残惜しそうに温泉婆は史達を見ていた。

「そうですね。来年、またここで」

 そう言いながら公は温泉婆に手を差し出すと、温泉婆は手を握り返した。それを見ていた温泉爺は史に手を差し出したが、史は首を傾げた。

「いや、そこは素直に握手してほしんじゃが」
「エロ爺と握手すると変な菌に感染しますから」
「それは流石に酷すぎやしないか!」

 温泉爺の嘆きの叫びが食堂に響き渡った。

「朝食は静かに食べてください」

 女将に怒られた温泉爺は静かに落ち込むのだった。


          ◇


「ふははははははは!」

 中二はゲームセンターで格ゲーをしながら高笑いしていた。

「我に勝てる相手はいないのかー!」

 そう言うだけあって中二のゲームの腕は中々のものであり、現在12連勝中だった。
 すると、またチャレンジャーが現れた。

「ふふっ!返り討ちにしてやろう!」

 しかし、相手は中二以上に強く、簡単に中二を負かしてしまった。

「バ、バカな………」

 画面に表示されるYOU LOSEの文字に中二は唖然としていた。

「我がこうもあっさりと負けるなんて………」

 少しの間落ち込んでいた中二だが、落ち込みから復活すると対戦相手を確認するために反対側に回ったが、すでに対戦相手はいなかった。

「一体どんな相手だったんだ?」

 完敗したうえに相手もわからずじまいとあって、中二はモヤモヤした気持ちでいた。


          ◇


「あ~スッキリした~」

 ゲームセンターを出てきた羊は笑顔だった。

「案外弱かったっすね。相手の人」
「それなのによくあんなに偉そうにできたよね。ただただうるさかっただけだし、マナー違反だよ」

 だから羊は乱入して中二を倒したのだ。

「でも、ホントに羊はゲームになると容赦ないっすね」
「そうかな?」
「そうっすよ。普段の穏やかな羊とはまるで別人っす。羊の皮をかぶった狼っす」

 狼なんて言われた羊は苦笑していた。

「それより、次はどこにいくの?」
「そうっすね。そろそろお昼だし、どこかのファミレスにでもいくっす」
「うん」

 2人はファミレスに向かって歩きだした。


          ◇


「おかえりなさいませ」

 家族旅行から帰ってきた公達を出迎えた萌衣。

「ただいま。なにも問題はなかった?」
「はい。問題はなにもありませんでした」

 萌衣の答えを聞いた公は頷くと、みんなで家の中に入ってリビングにやって来た。そこで待っていた薫はさっそく公に抱きついた。

「どうした?薫」
「公が最近私にかまってくれないから」
「そんなことないぞ」
「私の出番が少なくて、公にかまってもらえないから」
「それは作者に言ってくれ」

 そうは言いながらも、公は薫の頭を撫でてやった。

 そういうところは甘々なんだから~。

「うるせーよ」

 公が頭を撫でるのをやめると、満足したのか薫は公から離れた。

「これお土産」

 公がカバンから取り出したのは温泉まんじゅう。

「ありがとう」
「ありがとうございます」

 受け取った薫はさっそくあけていただこうとしたけど萌衣に止められた。

「なにするの?」
「これから夕食ですので、食後のデザートとしてお食べください」
「わかった」

 蓋をしめた薫は夕食を食べるためにダイニングへ移動したので、公達もダイニングに行き、テーブルについた。

『いただきます』

 夕食を食べながら公がポツリと呟く。

「やっぱり、うちで食べるご飯が1番だな」

 その言葉に史達も頷き、萌衣は満面の笑顔になった。
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