私のための小説

桜月猫

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43話

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 旅館に到着した公達。

「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」
「お久しぶりです。若女将さん」

 ゴールデンウィークの家族旅行はいつもこの旅館にやって来ているので、旅館の人達とはみんな顔馴染みだった。

「お久しぶりです。みなさんお元気そうでなによりで」
「この通り!元気いっぱいですよ!」

 舞の答えに若女将は笑顔になった。

「舞。あまり大きな声で叫ぶな」

 公に怒られてハッと口を塞ぐ舞の姿に若女将はさらに微笑んだ。

「それでは、ご案内させていただきます」

 若女将の先導についていって部屋に入る。

「ふぅ」

 部屋に入った瞬間若女将が1番に一息吐いた。

「まだ慣れないかい?」

 史が問いかけると若女将が苦笑した。

「少しずつは慣れてきたわよ」
「まだまだです」

 そう言いながら入ってきたのは女将だ。

 ちなみに、女将は若女将の実の母親です。

「お久しぶりです、女将さん」
「お久しぶりです、公くん。史ちゃんや舞ちゃんや夢ちゃんも元気そうね」
「えぇ。元気ですよ」

 史と微笑みあった女将は若女将を見た。

「若女将。鷹の間の準備は出来ていますか?」
「あっ!」

 若女将が慌てて立ち上がったのを見て女将はため息を吐いた。

「まだ時間があるので、焦ってミスをしないように」
「はい」

 若女将は頷くと部屋を出ていった。

「確かに、まだ慣れてないみたいだね」
「本当にまだまだですよ。あぁして準備を忘れたり、油断すると言葉づかいが普段のものに戻ることもありますし」
「でも、入り口での対応は成長していましたよ」

 公の言葉には女将も思うところがあるのだろう、否定しなかった。

「それで、みんなはこれから温泉巡りにいくの?」
「はいですの」
「お兄ちゃん!お義姉ちゃん!早く行くよ!」

 夢と舞はすでに準備を終えて行く気まんまんだった。

「わかったよ」
「それじゃあ行きましょうか」
「気をつけていってらっしゃい」
『いってきます(わ)』

 女将に見送られた公達は部屋を出ていった。
 旅館を出た公達はまず腹ごしらえのために近くの食堂に入っていった。

「いらっしゃいませー!って公達かー!」
「公達かーじゃねーだろ。こっちは客だぞ」

 公の言葉に看板娘は笑っていた。

「私と公の仲なんだからいいじゃない!」

 看板娘に公が背中を叩かれていると、奥からおばちゃんが出てきた。

「こら!早く公達を席に案内しな!」

 おばちゃんに怒られて看板娘は公達を席に案内した。

「ご注文はなににする!?」
「うるせーよ」

 メニュー表で看板娘の声をガードする公。

「私は角煮定食」
「わたくしはお刺身定食でお願いしますわ」
「私はミックスフライ定食!」
「俺は」
「公は日替わり定食ね!」
「おい!」

 勝手に決められた公は看板娘に怒鳴るが、看板娘は厨房に戻っていった。

「くそっ」
「あはは」

 毒づく公を見て舞は笑っていた。

「看板娘ちゃんは相変わらずね」

 史も笑いながら厨房のほうを見た。夢も苦笑気味に笑っていた。

「はい。まずはお刺身定食に角煮定食ね」

 料理を持ってきたのはおばちゃんだった。

「おばちゃん。看板娘は?」
「ちょっと待っててね」

 それだけ言っておばちゃんは厨房へと帰っていった。
 少しして、看板娘が料理を持ってきた。

「ミックスフライと今日の日替わりのチンジャオロース定食よ!」
「おい。看板娘」
「なによ?」

 公は目の前に置かれたチンジャオロースを指差した。

「表にあった今日の日替わり定食と全くもって違うんだが?」
「そんなことないわよ!」
「あるから言ってるんだよ」

 公は額に手を当てた。

「いいじゃない!食べなさいよ!」

 ため息を吐いた公は仕方ないとチンジャオロースを食べ始めた。

「どう!?美味しい!」
「あぁ。お前が作ったチンジャオロースは美味しいぞ」

 言われた看板娘は顔を赤くして厨房に戻っていった。

「わかっているのでしたら抵抗しなければよろしいいのに」

 夢は舞とおかずを交換しながら言った。

「ふふっ。義弟くんにも色々考えてるんだよ」

 わかってるとばかりに笑っている史に対し、わからないと首を傾げた夢は公を見たが、公は無言でチンジャオロースを食べ続けていた。
 夢はさらに首を傾げたが、みんなが食事を続けているので夢も食事を始めた。
 食事と会計を終えて外に出ると公の背中に舞が飛びつき、史と夢が左右にやって来て腕を組んだ。

「いつも通りの順番で回るんだろ?」
「もちろん」

 舞の返事に史や夢も頷いたので、公はいつも最初に来る温泉にやって来た。

「それじゃあ1時間後ぐらいに」

 そう言って1人男湯へ入った公は服を脱ぐと浴場へ。軽く体を洗って温泉に浸かろうとしたが、先客がいた。

「ホッホッホ。やはり今年も来たか」
「そういう温泉爺も、やっぱり来てるんだね」

 公が温泉爺と呼んだお爺さんは、公達と同じで毎年この温泉街にやって来ている温泉好きのお爺さんだ。

「温泉巡りは儂らの数少ない老後の楽しみじゃからの」

 公は温泉爺の隣に座って温泉に浸かった。

「はぁ~。気持ちいい~」

 自然と出た公の言葉に温泉爺は「くっくっく」と笑った。

「なんですか?」
「い~や。それより、今年も史ちゃん達と来てるんじゃろ?」

 温泉爺の別名はエロ爺。なので、公は無視を選択。

「いるよ~」
「作者!?」
「ホッホッホ。公が来てるなら絶対おるとおもっておったがの~」
「だったらなんで聞いた?」
「一応のう」

 温泉爺は笑いだした。

「ってか、出てくるなよ。作者」
「温泉なんて久しぶりだから入りたくなってな」
「知るか」

 公はマスターを睨み付けました。

「わかったよ」

 消え去ったマスターに公はホッとして、温泉を楽しみ始めました。

「さて、そろそろ公が入ってきて50分くらい経ったことじゃし、上がるとするかの」

 公達の行動パターンも知り尽くしている温泉爺はニヤニヤと公を見ながら立ち上がりました。公はため息を吐きながら立ち上がると、温泉爺と一緒に脱衣場に行って服を着て外に出た。
 少しして史達と温泉爺の妻の温泉婆と女性バージョンのマスターが出てきました。

「って、まだいやがったのか!作者!」
「公が邪険にするから女性陣のほうに行ったのよ」
「ホッホッホ。女性バージョンの作者も中々なスタイルじゃのう」
「そうでしょ」

 誉められたマスターは軽くポーズをとりました。

「それに、史ちゃんは相変わらずの美人さんじゃし、舞ちゃんや夢ちゃんはしっかりと美少女に成長しているようでなによりじゃ」

 スキンシップをとろうと温泉爺がわきわきさせながら手を舞と夢へ伸ばしたが、史が叩いて止めた。

「なにをするんじゃ?」
「エロ爺はおさわり禁止に決まってるよ」
「エロとはなんじゃ。儂はただ普通に舞ちゃんや夢ちゃんとスキンシップをとろうとしていただけじゃろが」
「手をわきわきさせておいてよく言えるね」
「それじゃあ、あれはどうなんじゃ?」

 温泉爺が指差した先には公と腕を組む温泉婆の姿。

「あれは孫可愛がりだからいいのよ」
「理不尽じゃ!」

 温泉爺が叫んでいると、マスターが背後から温泉爺の頭を叩きました。

「大声をあげない」
「作者!」

 振り返った温泉爺がマスターに抱きつきましたが、マスターは男性バージョンになっていたので温泉爺の顔は胸板にあたった。

「…………………………」

 恨めしそうにマスターを見上げると、マスターはニヤニヤしながら温泉爺を見下ろしました。

「残念だったね、エロ爺」

 温泉爺は悔しそうにマスターの胸板を叩き出しました。

「エロ爺。次の温泉に行くわよ」

 温泉婆からもエロ爺と言われた温泉爺は落ち込みながらみんなと一緒に次の温泉に向かいました。
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