私のための小説

桜月猫

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40話

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「キーンコーンカーンコーン」

 いつの間にか眠ってしまっていた公はチャイムの音で目が覚めた。

「今何時だ?」
「ちょうど昼休みに入る時間だな」

 その声に公が横を向くと葉月がいた。

「さっきもいましたけど、校門の警備に戻らなくていいんですか?」
「私の本職は警備員じゃないからいいんだよ」
「だからといって、ここにずっといていいわけじゃないでしょ」

 女性の言葉に葉月は「ブー」と頬を膨らませたので、女性はため息を吐いてから公を見た。

「調子はどう?」
「痛みはほぼなくなりましたね」
「そう」
神無月かんなづき先生!』

 勢いよく入ってきた睦月と如月に女性、神無月はため息を吐いた。

「あらあら2人とも。保健室では静かにしないといけないわよ」

 最後に入ってきた弥生の言葉にハッとした2人は申し訳なさそうにした。

「それで、何しにきたの?」

 答えは予想出来ていたが、それでもとりあえずは聞いてみる神無月。

「彼は起きましたか?」
「えぇ」

 神無月が公を見ると3人の視線も公へ。

「よかった~」

 ホッとしている睦月の横でいきなり如月が土下座を始めた。

「勘違いで襲ってしまってすいません」
「私もごめんなさい」

 弥生は土下座まではしなかったが、しっかりと頭を下げて謝罪した。

「いえ。女子校の前に男子がいたら不審に思うのは仕方ないことですから大丈夫ですよ」
「ホントにごめんね。私の生徒手帳を届けにきてくれただけなのにこんなことになってしまって」
「睦月が謝る必要はないわよ。悪いのは私と如月なんだから」
「今回1番悪いのは私だよ。ちゃんと睦月の言葉を聞かなかずにいきなり襲いかかっちゃったし。だから、罰するなら私だけにして」

 正座のまままっすぐ公を見つめる如月。
 もともと罰する気なんてなかった公が困っていると、神無月が手を叩いた。

「今回1番悪いのは葉月よ。だから、罰は全て葉月が受けるべきよ」
「なっ!どうしてそうなる!」
「状況を理解していながら如月と弥生を止めようとしなかったからに決まってるでしょ」
「あれは公が2人相手でも余裕だったから止めなかっただけだ!それに、睦月が間に割って入らなかったら公は無傷で逃げてたさ!」

 睦月へ責任転換をしようとする葉月の頭を神無月が叩いた。

「そうなる前に止めなさいって私は言ってるのよ!」
「すいません」
「謝る相手は私じゃないでしょ」
「公。すいませんでした」
「大丈夫ですよ。それに謝罪は受け取りましたから、これ以上誰かを罰したりする気はありませんから」

 公の言葉にホッとして気を抜いた葉月だが、神無月に睨み付けられて背筋を伸ばした。
 そうは言われても、確認をしておきたいことがあった睦月は公を見た。

「1つ聞いていいかな?」
「なんですか?」
「私が割って入らなかったらきみは無傷で逃げれたの?」

 葉月が言っていた言葉。それが事実なのか睦月はどうしても知りたかった。

「可能性の1つとしてあったのは確かですが、確実に無傷で逃げ切れたと断言することはできません」

 しっかりと睦月の目を見て答えた公。その答えに睦月は納得して「そう」と頷いた。

「そういえば、どうして最初から逃げなかったのですか?如月ちゃん1人の時に逃げていれば確実に逃げれましたよね?」

 弥生のもっともな指摘にみんなの視線が公に集まった。

「いきなり逃げるなんてそれこそ変質者のすることですし、誤解は解いておきたかったので逃走は最後の手段にしてたんです」
「別に誤解なら私がちゃんと解いておいてやったから素直に逃げればよかったのに」
「誤解は自分で解かないと、後々ややこしくなるんですよ」
「彼の言うとおりよ。わかってる?葉月」

 矛先が自分に向いた葉月は口笛を吹き出した。その姿にため息を吐く神無月。

「そういえば、どうしてこんな朝早くに届けにきたんだ?」

 矛先を自分から反らすために葉月はふと思ったことを聞いた。

「放課後だと帰るたくさんの生徒達と鉢合わせして好奇の目で見られるので、流石にそれは避けたかったからですね」
「なるほど。それが睦月にとってはいい方向にいったと」
「そして葉月のせいで公くんにとっては悪い方向にいったと」

 矛先を反らせなかった葉月は開き直って笑いだした。

「あらあら。そんな考えで朝早くから来てもらったのに、私と如月のせいでダメにしちゃってホントに申し訳ないわ」
「えっと………、それはどういうことですか?」

 イヤな予感しかしないのだが、問いかけるしかない公。

「朝の騒動のせいで学園内の話題は今、公くんのことで持ちきりになってるよ」

 如月の言葉に公は頭を抱えた。

「もう大丈夫ですし、これ以上騒ぎになる前に帰ります」
「もう騒ぎになってるから今から急いで帰ったところでムダだと思うぞ」

 ガックリと肩を落としてうなだれた公。

「とりあえずお昼にしない?」

 神無月の提案に睦月達は机のほうに移動して持ってきていたお弁当を食べ始めた。

「公くんお昼は?」
「お弁当があります」
「じゃあ、こちらで一緒に食べましょう」

 弥生に手招きされて、公はベッドから起き上がって机につき、お弁当を食べ始めた。

「そういえば、ちゃんとした自己紹介がまだだったわね。私は姫川学園で養護教諭をしている神無月よ」
「私は2年生の睦月」
「同じく2年の如月だよ」
「同じく2年の弥生です」
「小説高校1年の公です」

 公の自己紹介を聞いた睦月・如月・弥生の3人は驚いていた。

「1年だったんだ!だったら余計に悪いことしちゃったなー!」
「あらあら。入学早々から私達のせいで欠席させてしまうなんて、本当に申し訳ないです」

 申し訳なさそうに頭を掻く如月と頭を下げてくる弥生。

「それは神無月先生がちゃんと連絡をいれてくれているので大丈夫ですよ」
「えぇ。ちゃんと連絡して理由も伝えたら、向こうも納得していたから大丈夫よ」

 神無月の言葉にホッとしていた如月と弥生。
 そうこうしているうちにみんながお弁当を食べ終わったのを見て、

「はい、どうぞ」

 神無月がみんなにお茶を配った。

「ありがとうございます」

 お茶の飲んで公が一息吐いていると、扉がノックされた。

「どうぞ」

 神無月の言葉を受けて扉が開くと1人の少女が入ってきて扉をしめた。
 一瞬だけど確かに見えた野次馬の女子達の姿に公は少し憂鬱になった。

「失礼します」

 入ってきた少女は公を見つめた。

「君が公くんだね」
「はい」
「私は生徒会長の皐月」

 公はそれだけで皐月の言おうとしていることが理解できたので、先手をうった。

「謝罪なら当事者の皆さんから受けて、俺も許したのでこれ以上の謝罪は必要ありません」

 公の言葉に皐月が驚いていた。

「どうして謝罪しにきたってわかったの?」
「簡単なことですよ。当事者じゃないのに生徒会長という生徒のトップがやってきたとなれば、生徒がおこした不祥事を謝罪しにきたと考えるのは普通でしょ?」

 公の説明に納得しながら感心する皐月・葉月・神無月。対して不祥事がおこる原因とおこした張本人である睦月・如月・弥生は申し訳なさそうに縮こまっていた。

「しかし、キミが納得しているというのなら確かにこれ以上の謝罪はキミを困らせるだけだろうし、私から謝罪するのは止めておこう」
「そうしてもらえるとありがたいです」

 微笑む公に微笑み返した皐月は視線を如月と弥生に向けた。

「彼はこう言ってくれてますが、如月と弥生には今日から3日間、放課後に校内清掃の罰を与えます」
『はい』
「でしたら私も!」
「睦月まで清掃に参加すると2人に罰を与える意味がないので許可しません」

 皐月の許可がおりずにシュンとしてしまった睦月。

「2人への罰はこれでいいかな?」
「えぇ」

 自分から罰を与える気はないけど、学内での処置に口出しする気もない公は頷いた。

「では、私は失礼するよ」

 やることを終えた皐月はすぐに保健室を出ていった。

「ごめんね2人とも」
「私達が悪いんだから睦月が謝ることじゃないよ」
「そうですよ」

 なぜか被害者側である睦月が2人から慰められている状況に公は苦笑した。
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