私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
39 / 125

38話

しおりを挟む
 体操服に着替えた公達は運動場で準備運動をおこなっていた。そこにやってきた体育教師。

「今日はドッチボールをするぞ!」

 早速チームわけをおこなうと、公・朧月を中心としたマトモチーム10人と庵・中二を中心とした変人チーム10人にわかれた。

「作者!変人チームとはなんだ!」
「そうだ!我がいるのだから勇者チームでいいだろ!」

 中二はいうまでもないが、庵もけっこう中二に近いところがあるから変人チームなのよ。

『あ~』

 周りからの納得の頷きに2人はショックを受けた。

 まぁ、変人チームに入ってしまった人達は災難だとは思うけどね。

「仕方ないか」「あの2人がメインのチームだからな」

 諦めの言葉を言いながら変人チームのメンバーはコートに入っていった。

「納得するな!」
「そうだ!我らは納得してないぞ!」
「うるさい。さっさとコートに入れ」

 公と朧月に背中を蹴られた2人はコートに入った。

 ルールは以下の通り。

・最初の外野は1名。
・ボールを当てられたら外野に出る。
・外野がボールを当てた場合は復活。ただし、外野1名は必ず残ること。
・内野から横にいる外野へ、横にいる外野から内野へのパスは禁止。ただし、外野が横から狙う分はOK。
・ボールは取った人間が必ず投げること。内野・外野内でのパスは禁止。
・相手の内野を全滅させるか、終了時に内野の人数が多い方の勝ち。

「ということで、両チームのリーダーは前へ」

 体育教師の言葉のマトモチームからは公が、変人チームからは中二が前に出てきた。

「じゃんけんしろ」
『最初はグー。じゃんけんぽん』

 公がパーで中二がグー。負けた中二は落ち込んだ。

「ボールはマトモチームからでスタートだ」

 体育教師からボールを受け取った公とまだ落ち込んでいる中二がコートに戻ると体育教師が笛を吹いた。

「試合開始!」

 すると、速攻とばかりに公は落ち込んでいる中二を狙った。

「アブねっ!」

 間一髪で避けた中二だが、ボールを受けた外野からさらに狙われたのでなんとか受け止める。

「アッブねー!」
「油断すんじゃねーよ!」

 庵に頭を叩かれた。

「公!卑怯だぞ!」
「ボーとしてるお前が悪い」
『うんうん』

 味方からも頷かれて孤立無援の中二は「うがー」と叫んだかと思うと、公めがけて投げ返す。

「おっと」

 あっさり受け止めた公はおもいっきり投げるフリをして外野へパス。パスを受けた外野は逃げ遅れた相手を確実にアウトにする。

 なんか地味で面白味がないわ。

「ドッチボールに面白味なんて求めるな」

 いえ、私は面白味も求めるわ。だから、超常ドッチボールよ。

「ちょ!まさか!」


          *


「うおぉぉぉぉぉ!」

 中二がボールをかかげると、ボールを炎が包み込んだ。

「くらえ!」

 投げられた炎のボールを公は慌てて避ける。

「作者!当たれば死ぬぞ!」

 大丈夫だって。ドッチボールっていうゲームなんだし、死にはしないし、現実に戻れば元通りになるからね。それに、公だって似たようなこと出来るんだからね。

「知らねーよ!」
「公アブねー!」

 朧月の言葉に振り返った公の目の前に巨大化したボールが迫っていた。

「なっ!」

 慌てながらも公は真正面からボールを受け止めにかかるも、ボールの勢いに押されてジリジリとセンターラインに近づいていく。

「そのままラインをこえろ!」
「耐えろよ!公!」

 最後の力を振り絞ってどうにかセンターラインギリギリで公が踏みとどまると、しだいにボールは縮んでいき、もとの大きさに戻って公の手におさまった。

「はぁ、アブね~」

 油断大敵だね。

「だね。じゃねーよ!こんなのもはやドッチボールですらねーじゃねーか!」

 でも、やるしかないのよ?このドッチボールを。

「クソッ!」

 悪態をついた公がボールを見ると、自分の能力がなぜかわかった。
 公の能力はボールに雷をまとわせること。

"試しに"

 能力を意識すると、ボールに雷がまとわりついた。
 そのまま中二めがけて投げつけると、バチバチという音をたてながら高速で迫ったが、中二の前に3人が集まるとシールドが現れてボールを止めた。

「これは!?」

 驚きながら公は聞いてきた。

 能力には3種類。
 攻撃・防御・回復。
 攻撃は公や中二が使ったような能力でチームに5人。
 防御はシールドを張ることが出来て攻撃を防げるが、シールドには強度があるので、連続で使うとシールドが破壊される。これはチームに3人。
 回復は攻撃でのダメージやシールド強度を回復できる。ただし回数が5回と制限がある。チームに2人。

 というわけだから。

「そういう説明は先に言ってくれ」

 H(変人チーム)1がボールを持ったが、ボールには変化なし。しかし、油断せずに構えていると、H1は朧月を狙った。
 朧月はボールを受け止めたが、「冷たっ!」とボールを離してしまった。

「おっと」

 M(マトモチーム)3がなんとか地面につく前に受け止めた。

「サンキュー」
「いいってことよ。しかし、どうしたんだ?」
「ボールが氷みたいに冷たかったんだよ」

 朧月は両手に「ハァー」と息を吐いた。

「受け止めれないことはないんだが、厄介だな」
「なぁ、俺、防御なんだけど?」
「投げるしかないだろ。あと外野のM10がなにかってのが問題だな」
「なら、外野に投げてみるか」

 M3が山なりのボールをM10に投げると、ボールを受けたM10が投げた。すると、ボールが3つのわかれた。

「分身魔球か!」

 庵は叫びながら自分に向かってきたボールを受けようとしたが、ボールは消え去った。

「ハズレか!」

 庵が他のボールを見ると、H5がボールを受け止めていた。
 すると、H5は外野のH10にパスをした。
 H10が投げるとまたボールは巨大化してM2を襲った。

「ぐぁっ!」

 受け止めきれずにM2はアウトになった。
 落ちて転がるボールを朧月が拾うと、庵を見た。

「カモーン」

 庵が手招きをして挑発したので朧月がボールを投げつけた。
 投げたボールには変化はない。
 しかし、庵が受けた瞬間大爆発。

『!!!』

 予想外の能力に誰もが驚いた。
 そんな中、爆煙が晴れた中から黒焦げアフロになった庵が現れた。

「あれ、生きてるのか?」

 もちろん生きてるわよ。

 庵が口をあけると黒煙があがった。

「ホントに生きてるのか?」

 だから、生きてるって。

 庵の手からボールが落ちた。

「庵。アウト」

 しかし、庵は動かない。

「ってか、よくこんな危ない能力使ったな」

 公はなんとも言えない表情で朧月を見た。

「あいつが挑発してきたからな」
「だからってな………」

 公が苦笑していると、庵が倒れた。

「ホントに生きてるんだろうな!?」

 だから生きてるわよ。

 すると、変人チームの内野がぞろぞろと外野に移動し始めた。

「あれ?」
『棄権します』

 まぁ、あんなの見たらそうなるよね~。

 唯一残っているのは中二のみ。

「我は逃げない」

 中二はボールをわざと朧月の前に転がした。

「かかってくるがよい」
「後悔するなよ」

 ボールを手に取った朧月は中二におもいっきり投げつける。
 宣言通り、中二は逃げずに受け止めて大爆発。

『……………………』

 誰もが見つめる中、爆煙の中から現れたのはやっぱり黒焦げアフロの中二。

「わ、我は負けてない」
『!!!』

 中二が喋ったことに全員が驚いた。そんな中、1歩踏み出した中二は前のめりに倒れこんだ。

「中二。アウト。変人チーム全滅。マトモチームの勝利」


          *


 現実に戻ってくると、庵も中二も元通りに戻り、何事もなかったように笑っていた。

「ホントに元通りになるんだな」

 だから言ったでしょ。

 公がなんとも言えずにいると、チャイムが鳴って授業が終わったので、公はため息を吐いて更衣室に向かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

●鬼巌島●

喧騒の花婿
キャラ文芸
むかしむかし鬼ヶ島に 春日童子と焔夜叉という鬼が暮らしていた。 くすんだ青髪、歪んだ小さな角という鬼として最低な外見を 持ち合わせた春日童子は神の依頼を受けることができず 報酬も得ずに家族と暮らしていた。 一方、焔夜叉は炎のような赤い髪、立派に伸びた2本の角という 鬼として最高の外見を持ち合わせ神の依頼を受け 報酬を得ながら1匹孤独に暮らしていた。 対照的な2匹は節分祭で人界に赴き清めの豆によって 人間の邪気を吸う儀式で考えが交錯していく。 卑小な外見だが精神の強い春日童子 立派な外見で挫折を知らない焔夜叉 果たして2匹の鬼としての矜持とは。 さらに神の眷属として産み落とされた聖なる人間に対抗し 鬼の存続を賭けて勝利することができるのか。 ※本編は八噺で終わります。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no
キャラ文芸
 お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……  このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。  この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。 ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。  1日おきに1話更新中です。

マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿
キャラ文芸
お店をやっていると、様々なタイプのお客さんが来る。最近になってよく利用してくれるようになった男性は、見た目とは裏腹にうっかり屋さんなのか、短期間で二度も忘れ物をしていった。今度は眼鏡。その縁にはなぜか女性と思われる名前が刻まれていて。

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
キャラ文芸
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

夫より強い妻は邪魔だそうです

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。 時は大正。 九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。 幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。 「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」 疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。 ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。 「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」 やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。 不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。 ☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。

処理中です...