私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
38 / 125

37話

しおりを挟む
「あー!」

 冷蔵庫を開けた舞が叫び声をあげたのでみんなが不思議がって舞を見た。

「どうした?舞」
「お風呂あがりに食べようと思ってたアイスがない」

 舞を冷蔵庫を閉めるとガーン!と膝と手をついて落ち込んだ。

「どんなアイス?」
「カップのバニラ」
「それでしたら、昨日の夜に『明日帰りに買ってこればいいから2つ食べちゃえ』って言って食べていたじゃないですか」

 萌衣に言われて思い出した舞は、ハッ!と顔をあげてからまた顔を下げて落ち込んだ。

「でしたら諦めるしかありませんね」
「もう口がバニラアイスをほっしていて諦めるなんてムリ!買いにいく!」

 勢いよく立ち上がった舞の頭に手を置いた公。

「ちょっと待て」
「止めないで!お兄ちゃん!」
「もう外は暗いし俺が買いにいってやるから」

 その言葉に、公を見上げた舞はおもいっきり抱きついた。

「ありがとう!お兄ちゃん!」
「みんなはなにかいるものあるか?」
「私はない」
「わたくしもありませんわ」
「私もございません」
「わかったよ」
「それじゃあお兄ちゃんお願いね」

 舞が差し出したお金を受け取った公は玄関に行って靴を履いた。

「急がなくていいからね」
「なら、ついでに軽く散歩してくるよ」
「うん。気をつけていってらっしゃい」
「いってらっしゃいませ」
「あぁ、いってくるよ」

 舞と萌衣に見送られて家を出た公は歩いて30分程かかるスーパーに向かって歩きだした。

「やっぱり春と秋の気候が1番だな~」
「うぉっ!2話続けて出てくるな!」
「いいじゃないか~」

 前回に引き続き出てきたマスターはまだのんびりとしています。

「別に邪魔しにきたわけじゃないし、一緒に散歩するくらいいいだろ~」
「わかったよ」

 諦めた公はため息を吐きました。

"ホントに邪魔しないんだろうか?"

「しないって~」
「!!!」

 驚きながらも公はマスターを睨みました。

「なんで驚いてるの?」
「なんで心の声が聞こえるんだよ」

 公の言葉にマスターは不思議そうな顔をしました。

「今まで普通に話していただろ~」
「それはお前がこちらにいない時だろが」
「でも、作者であることには変わりないんだからこちらにいてもそれはできるよ」

 マスターの答えは納得できるものでしたが、納得したくない公は無言になってしまいました。
 なので、マスターも無言で歩き続けました。
 そんなのんびりした時間が過ぎる中、前からこちらに歩いてくる少女に気がつきました。

「こんばんは」

 話しかけてきた少女、雪は微笑みました。

「こんばんは」
「やぁ、雪」

 雪は公とマスターを見て少し驚いていました。

「珍しいというより普通じゃ見られない組み合わせね」
「俺がこっちに来ること自体珍しいことだからね~」
「そのくせ2話連続で出てきてるけどな」

 公はマスターをジト目で見ました。

「37分の2だから十分珍しいだろ?」
「そうね」

 微笑む雪とは違って公はまだジト目のままです。

「それで2人はなにをしているの?」
「俺はスーパーに買い物にいくついでに散歩していたら、急に作者が現れたんだよ」

 公が説明する横ではマスターがピースをしています。

「そういう雪はなにしてるの?」
「私は散歩よ」
「こんな夜中に1人で出歩くなんて危ないぞ」

 公の心配をよそに雪は微笑んでいます。

「私なら大丈夫だよ」
「なんでそう言えるんだよ」
「ふふふ。それは秘密だね」

 公は頭を掻きながらため息を吐きました。

「スーパーに行くなら私もついていっていいかな?」
「あぁ、いいよ」

 マスターが勝手に頷いたので公はまたため息を吐きながらマスターを叩きました。

「ダメなのかな?」
「いいんだけどな」
「ならなんで俺は殴られたのかな?」
「普段の行いだ」

 これにはマスターも反論できません。

「こら、ロマ。勝手に反論できないとか決めるな」
≪事実ですから≫
「事実だな」

 私と公の言葉にマスターが泣き真似を始めましたが公は無視します。

「行こうか」

 マスターを置いて公と雪が歩きだしたので、マスターも慌てて追いかけます。
 3人が歩いていると、「パン!パン!パン!」という聞いたことのある音が聞こえてきました。
 聞こえてきた方向に行くと、コンビニの前には人と不良が3人がいました。

「ほら。はよ帰りや」
「わかったよ」

 不良達を手を振りながら見送った人は公達に気づきました。

「おー。雪に公に作者じゃねーか」
「こんばんは」
「よぉ」
「やぁ」

 ハリセンをしまいながら人は3人のもとにやってきました。そして、公と雪のほうを見ました。

「2人には関係ないが、最近ここら辺で不良ばかりが襲われる事件が起きているから気を付けな」
「あれ?俺には?」
「作者なんやからなんとかなるやろ?」
「確かになんとかなるな」

 マスターは納得して頷いていました。

「で、3人はなにしてるんや?」
「これからスーパーに行くのよ」
「もしものことがあるかもしれんし、俺もついていくわ」

 雪が公を見ると、断る理由がない公は頷いてOKを出しました。

「なんだかお供が増えていって桃太郎みたいだな」

 マスターの一言に雪と人が顔を見合わせて笑いあい、公を見ました。

「それじゃあ行こか、桃太郎」
「やめてくれ」

 そう言うと公が先を歩きだしたので、3人はその後ろをついていきます。そうしてスーパーまであと少しというところで公の足が止まりました。

「どないした?」

 不思議がりながら公の隣にやってきた人が前を見ると、羽織袴姿で腰に刀をさした少女が立っていました。

「誰や?」
「まさか、人に雪、大物2人と同時に出会えるなんて運がいいでござるな」

 その言葉で人はピンときました。

「なるほど。テメェが最近の不良襲撃事件の犯人ってわけか」
「拙者は不良を襲撃しているのではなく、成敗しているのでござるよ。そして、不良のまとめ役の人と修羅姫と呼ばれた雪をここで成敗させてもらうでこざる」

 侍娘は刀を抜きました。

「ちょいまち。不良を成敗とかゆってるが、成敗する理由はなんや?」
「街に迷惑をかける存在だからでこざるよ」

 人の問いに侍娘は迷いなく答えます。

「迷惑をかける、か。1つゆっとくが、お前が襲った人間の中には不良を卒業している真っ当に働いている人もいるし、雪にいたっては街に迷惑をかけたことすらないで」

 人の言葉に侍娘は少したじろきましたが、すぐに人を睨み付けました。

「たとえそうだとしても、その力は危険でござる!だから成敗したのでござる!」
「力は悪か?」
「そうでござる!」
「なら、この場で1番の悪はテメェだな」

 人のその予想外の言葉に侍娘は驚いて口をパクパクさせました。

「せ、拙者が悪とはどういうことでござるか!」

 侍娘は怒鳴りながら人へ刀の切っ先を向けました。

「簡単な話や。こっち4人のうち3人は素手やし、俺が持ってる武器ってゆうてもただのハリセンや。で、テメェが持ってるのは刀。さて、今この場で1番力を持っているのは誰や?」

 人の問いかけに侍娘がプルプル震えだしました。

「拙者の力は悪を裁くための正義の力でござる!」
「テメェの正義と悪を周りの人間に押しつけてるんじゃねー!」

 人の叫びには公達もビクッとしました。

「テメェの正義はただの自己満足だ!」
「拙者の正義のどこが自己満足だというのでござるか!」
「じゃあ聞くが、誰かがテメェに不良を成敗してくれと頼んだか?」

 黙りこんだ侍娘は小さく首を振りました。

「なら、なんでテメェが正義だと言い切れる!それにさっきも言ったがお前が襲った人間の中には今普通に働いている人もいるんだよ。テメェはその職場に『拙者が正義で彼が悪だから彼を成敗しました』と言いにいって『よくやった』と誉めてもらえると思うか?」

 侍娘はうつむき、無言で固まってしまいました。

「どうした!なんかゆうてみ!」
「人。落ち着け。近所迷惑だ」

 公が人の肩に手を置くと、人は落ち着きを取り戻しました。

「すまんな。少し熱くなってしまったわ」

 人が落ち着いたので公は侍娘のほうに視線を向けると、侍娘はまだうつむいたままでした。

「とりあえず、刀をしまってくれるか?」

 公の言葉にビクッとした侍娘は刀を鞘におさめました。それを見て公は話しだしました。

「確かに、悪を裁くには力が必要だとは思うよ。でも、力は武力1つだけじゃないし、正義の力もいきすぎたりやり過ぎるとそれは悪となに一つかわらない。それをわかったうえで正義とは何か、悪とは何か。そして、悪とどう立ち向かっていけばいいかもう1度考えなおしてみたらどうだ?」

 恐る恐る顔をあげた侍娘に公は微笑みかけました。

「わかりました」
「人も雪もそれでいいか?」
「俺はそれでええで」
「私もそれでいいですよ」
「そういうわけだから、気をつけて帰りなよ」
「迷惑をかけてすまなかったでござる」

 最後に頭を下げた侍娘は走り去りました。
 それを見送った公は人達と苦笑しあうとスーパーに向かって歩きだしました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺様当主との成り行き婚~二児の継母になりまして

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
夜、妹のパシリでコンビニでアイスを買った帰り。 花梨は、妖魔討伐中の勇悟と出会う。 そしてその二時間後、彼と結婚をしていた。 勇悟は日光地区の氏人の当主で、一目おかれる存在だ。 さらに彼には、小学一年の娘と二歳の息子がおり、花梨は必然的に二人の母親になる。 昨日までは、両親や妹から虐げられていた花梨だが、一晩にして生活ががらりと変わった。 なぜ勇悟は花梨に結婚を申し込んだのか。 これは、家族から虐げられていた花梨が、火の神当主の勇悟と出会い、子どもたちに囲まれて幸せに暮らす物語。 ※3万字程度の短編です。需要があれば長編化します。

夫より強い妻は邪魔だそうです

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
キャラ文芸
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ
キャラ文芸
生贄の花嫁は、あやかしの総大将と出会い、本当の愛と生きていく喜びを知る─。 時は大正。 九桜院さちは、あやかしの総大将ぬらりひょんの元へ嫁ぐために生まれた。生贄の花嫁となるために。 幼い頃より実父と使用人に虐げられ、笑って耐えることしか知らぬさち。唯一の心のよりどころは姉の蓉子が優しくしてくれることだった。 「わたくしの代わりに、ぬらりひょん様に嫁いでくれるわね?」 疑うことを知らない無垢な娘は、ぬらりひょんの元へ嫁ぎ、驚きの言葉を発する。そのひとことが美しくも気難しい、ぬらりひょんの心をとらえてしまう。 ぬらりひょんに気に入られたさちは、得意の洋食を作り、ぬらりひょんやあやかしたちに喜ばれることとなっていく。 「こんなわたしでも、幸せを望んでも良いのですか?」 やがて生家である九桜院家に大きな秘密があることがわかり──。 不遇な少女が運命に立ち向い幸せになっていく、大正あやかし嫁入りファンタジー。 ☆表紙絵は紗倉様に描いていただきました。作中に出てくる場面を元にした主人公のイメージイラストです。 ※エブリスタと小説家になろうにも掲載しておりますが、こちらは改稿版となります。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

猫もふあやかしハンガー~爺が空に行かない時は、ハンガーで猫と戯れる~

饕餮
キャラ文芸
タイトル変えました。旧題「猫もふあやかしハンガー~じいちゃんはスクランブルに行けないから、老後は猫と遊ぶ~」 茨城県にある、航空自衛隊百里基地。 そこにはF-4EJ改――通称ファントムと呼ばれる戦闘機が駐機している。 一部では、ファントムおじいちゃんとも呼ばれる戦闘機である。 ある日、ハンガー内から聞こえてきた複数の声は、老齢の男性のもの。 他のパイロットたちからも『俺も聞こえた!』という証言が続出。 「俺たちの基地、大丈夫!? お祓いする!?」 そう願うも、予算の関係で諦めた。 そして聞こえる、老人の声。 どこからだ、まさか幽霊!?と驚いていると、その声を発していたのは、ファントムからだった。 まるで付喪神のように、一方的に喋るのだ。 その声が聞こえるのは、百里基地に所属するパイロットとごく一部の人間。 しかも、飛んでいない時はのんびりまったりと、猫と戯れようとする。 すわ、一大事! 戦闘機に猫はあかん! そんなファントムおじいちゃんとパイロットたちの、現代ファンタジー。 ★一話完結型の話です。 ★超不定期更新です。ネタが出来次第の更新となります。 ★カクヨムにも掲載しています。 ★画像はフリー素材を利用しています。

処理中です...