私のための小説

桜月猫

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28話

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 12時になると監督が立ち上がった。

「このあとペット同伴OKのお店おさえてあるからお昼に行こうか」
『わー!』

 スタッフ達から歓喜の声が上がった。

「珍しいね。監督がそんなことするなんて」
「なぁに。今回史ちゃん達か現場に来るって社長に言ったら、4月に入って新年度になったし、お得意先である史ちゃんのところとはこれからも末永くお願いします、って意味も込めた接待をしてこいって言われたからね」

 接待だということを清々しく笑顔で言い切った監督。

「そうかい。ならご相伴にあずかろうかな」

 史も笑顔でその誘いに応じた。

「みゅうちゃん達も時間あるなら来るかい?」

 監督の誘いにみゅうがマネージャーを見ると、マネージャーから頷きが返ってきた。

「はい」
「それじゃあ行こうか」

 監督についてやって来たのは回らないお寿司屋さん。中に入るとお座敷に通された。席は監督の隣に史が座り、隣に公が座ると公の膝の上にゆーちゃんがやって来たので、ゆーちゃんにつられてみゅうが隣に座った。公の隣に座りたかった夏蓮だったが、あきらめて監督の隣に座った。

「特上10人前と猫用の盛り合わせ1つ」

 その言葉にスタッフ達からまた歓声が上がった。

「社長も奮発したね~」
「それだけ史ちゃんのところにはこれからもお得意先でいてほしんだよ」

 監督の言葉に史はふむふむと頷いた。

「社長にはよきにはからえって言ってたって伝えてもらえる?」
「はは~」

 監督がお遊びで土下座をするとスタッフ達から笑いが起きた。
 そんなことをしているとお寿司がやって来たので食事が始まった。

【公。早くちょうだい】

 ゆーちゃんに急かされた公は刺身をつまんで差し出すと、ゆーちゃんは刺身にかぶりついた。

「カワイイ~」

 みゅうははむはむと刺身を食べているゆーちゃんを見てなごんでいた。

【もう1枚】

 たしたしと公の太ももを叩くゆーちゃん。

「はいはい」

 公が刺身を差し出すと、ゆーちゃんは刺身にかぶりつく。

「美味しい?」
【美味しいわ】

 ゆーちゃんは満足そうに鳴いた。

「やっぱりトレーナーってスゴいんですね。ゆーちゃんからの信頼もスゴいから撮影でも1回説明しただけでゆーちゃんは段取りを覚えましたし、本番も1発OKでしたし」
「あっ、俺はトレーナーじゃないですよ」
「えっ?そうなんですか?」

 みゅうは驚きながら公を見た。

「えぇ。俺は今日たまたまついてきただけの一般人ですから」
「それなのにゆーちゃんがここまで信頼しているなんて、スゴいです」

 みゅうから尊敬の眼差しを向けられた公は苦笑した。

「作者のせいで動物の言葉がわかるようになったからね」
「動物の言葉がわかるのですか!?うらやましいです!」

 みゅうは公に迫った。

「作者。みゅうさんも動物の言葉をわかるようにしてあげれば?」

 あー、ムリムリ。そんな簡単にできることじゃないんだからな。

「俺にはポンポンムダな称号つけてるくせに」

 ムリなものはムリだからね。

 ゆーちゃんが太ももを叩いて刺身を催促するので公はみゅうを見た。

「よかったら刺身をあげてみます?」
「いいんですか?」
「えぇ。もちろん」

 顔をほころばせたみゅうは刺身をゆーちゃんに差し出した。差し出された刺身をゆーちゃんがくわえて食べ始めると、みゅうは「ほわ~」と言いながらさらに顔をほころばせた。

「猫好きなんですか?」
「猫だけじゃなくて動物全般好きですよ」

 満面の笑顔でみゅうは公を見た。

「そうか。ならゆーちゃんはみゅうさんに任せます」

 ゆーちゃんをみゅうの膝にのせ、刺身の皿をみゅうの前へ。

「いいんですか?」
「頼みます」
「わかりました!」

 ゆーちゃんを任されたみゅうはその後の食事中終始笑顔でゆーちゃんの世話をしていた。


          ◇


 夜。家に返ってきた3人はソファーに座って一息吐いた。

「って、なんでいきなり夜まで時間が飛ぶのかな?」

 史が怒っていた。

 なんなら月曜まで飛んでもいいんだぞ?

「ごめんなさい」

 と、いうわけで一息吐いた史はおもむろに立ち上がった。

「今夜の夕食は私が作るよ」
「私も」

 手伝うために立ち上がろうとした夏蓮を手でせいした史。

「私1人で大丈夫だ」

 夏蓮はソファーに座り直した。それを見てから史はエプロンをつけてキッチンに立った。
 史は玉ねぎをみじん切りにし、半分をフライパンであめ色になるまで炒めてから放置して冷ます。
 その間に残り半分を炒め、小麦粉を入れてさらに炒める。そこへ牛乳を少し入れて小麦粉を溶かすと、さらに牛乳・生クリーム・クリームコーンを入れて沸騰しないように温めると、コンソメと塩コショウで味を整えてコーンスープを作り上げる。
 玉ねぎが冷めるとひき肉と塩を入れて粘りが出るまでこねると、卵・牛乳・パン粉を入れてさらにこねる。
 こねたタネを小判型に成形すると空気抜きをしてフライパンへ。両面を強火で焼き固めて肉汁を閉じこめるとフランベをしてからオーブンに入れて中まで火を通す。
 サラダはレタス・キュウリ・トマトなどを皿に盛ってドレッシングをかけて完成。
 オーブンからハンバーグを取り出すと皿に盛り、フライパンに残った肉汁にはバルサミコ酢とトマトと赤ワインを入れて煮立ててソースを作ってハンバーグにかけて、あとはご飯をつければ全て出来上がり。

「運ぶのは手伝うよ」

 タイミングを見計らってやって来た公に史は笑顔を向けた。

「それじゃあお願いね」
「あぁ」

 頷いた公は史と一緒にテーブルへ運んだ。

「それじゃあいただきましょうか」
『いただきます』

 早速ハンバーグを食べた公は笑顔になった。

「おいしいよ、義姉さん」
「ふふ。ありがとう」

 ホントにおいしいね~。

『……………………』

 溢れる肉汁とバルサミコ酢のソースが最高!

『……………………』

 あれ?どうしたの?食べないの?

「いや、なんでお前が食べてるんだよ」

 えっ?お腹がすいたからだけど?

「そもそも3人分しか作ってないはずだけど?」

 あ~。それは勝手に作る分量を4人前にした上に、史が疑問に思わないようにさせたんだよね~。

『……………………』

 3人は呆れながらため息を吐いていた。

 いいじゃないか!こっちだってお腹がすくんだから!

「公。コーンスープのおかわりあるよ」
「うん。ちょうだい」
「はい」
「ありがとう。義姉さん」

 何事もなかったように3人が食事に戻ったので、私も食事を続けた。

『ごちそうさま』
「お粗末さま」

 片付けは公と夏蓮がやるということで2人は食器をキッチンに持っていくと食洗機に入れてスタートボタンを押した。

「それじゃあ、今日は私から先にお風呂に入らせてもらうね~」

 そう言って史はダイニングを出ていった。

「どうぞ」

 夏蓮はコーヒーを公の前に置いた。

「ありがとうございます」
「今日のCM撮影ではありがとうございました。おかげで撮影も1発OKで無事に終わりました」
「俺が居なくても1発OKになったと思いますよ。調教もしっかりとされてますしね」

 公はコーヒーを一口飲んだ。

「でも、1発OKっていうのはなかなかありませんよ。まぁ、あまり現場に行くことはないのでよくは知りませんけど」
「え~」

 夏蓮は「ふふ」と笑いながら紅茶を飲んだ。
公も笑いながらコーヒーを飲んでいると、史がお風呂からあがってきた。

「夏蓮。お風呂あいたよ」
「はい」

 夏蓮がダイニングを出ていったので、公はキッチンに入ってコーヒーを入れて史の前に置いた。

「ありがとう。あつっ!」
「ゆっくり飲みなよ」

 公に言われて史はふーふーと吹いてコーヒーを冷ました。

「あ~あ。明日で義弟くんと一緒にいる時間も終わるのか~」

 史は机に突っ伏した。

「別にもう会えないってわけじゃないんだから」

 公は史の隣に座ると史の頭を撫ではじめた。

「そうなんだけど、やっぱりずっと一緒にいたいな」

 史は突っ伏したまま公の顔を見上げた。

「さすがにずっとはムリだよ」
「わかってる」

 史をコーヒーを飲んで一息吐いた。

「だから、今はこのまま撫でていてほしいね」
「わかったよ」

 公は史の要望通り、夏蓮がお風呂からあがってくるまでずっと史の頭を撫で続けた。
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