私のための小説

桜月猫

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27話

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 朝。目覚めた公は戸惑ったいた。
 理由は顔が史と夏蓮のおっぱいで前後からサンドイッチにされていたから。

 うらやましいシチュエーションだな~。

"いやいや!ありえねーだろ!どうやったらこうなるんだよ!"

 どうやったらと聞かれても、普通に寝てたらこうなったとしか俺は言えないな。

"いや!絶対お前が何かしただろ!じゃないとこんな状況ができるわけねーよ!"

 あはは。見てるだけで殺意がわくこの状況を俺が作っただと?冗談は寝てる時に言え!今でも血涙を流しながら書いてるんだからな!

"知るかよ!"

 こっちだって今のお前の状況なんて知るか!

《ふて寝しないでください、マスター》

 ……………………………。

《マスターがふて寝してしまったので私が執筆させていただきます》

 公は現状をどうにかするために少しずつ下に下がっていこうとしたが、「アァ」という史のなまめかしい声に動きを止めました。
 しかし、史が起きないとわかるとまた少しずつ下に下がっていき、ようやくおっぱいサンドから脱出しました。

「ふぅ」

 一息吐いてから立ち上がった公は時計を見て時間を確認しました。
 現在の時刻は7時28分です。
 時間を確認した公はそろそろ起きたほうがいいと思い、カーテンを開けました。

「義姉さん、夏蓮さん。朝ですよ」
「うぅ………」
「おはようございます、公さん」

 まだ眠そうな史とは違い、夏蓮はピシッと起きて公に挨拶をしました。

「おはようございます、夏蓮さん。ほら、義姉さんもちゃんと起きて」

 公が肩を揺らすと、史は公に抱きついて大きく深呼吸をしました。

「公の匂いだ~」
「義姉さん。なにやってるんだよ」

 公が史を引き剥がしていると、夏蓮が後ろから抱きついてきて深呼吸し始めました。

「いい匂いがします」
「ちょっと、夏蓮さんまでなにしてるんですか」
「あっ」

 うらやましさからくる無意識の行動だったらしく、ハッとした夏蓮は顔を赤くして公から離れました。

「すいません」
「いえ」

 2人の間になんとも言えない気まずさが漂う中、史はいまだに公の匂いを堪能していました。

「って、義姉さんはいい加減に起きてくれ!」

 公の叫び声で史の目が完璧に覚めたのか、史は公から離れて笑顔を公に向けました。

「おはよう、義弟くん」
「おはよう。途中から義姉さん起きてただろ?」

 公から疑いの目を向けられたが、史は「なんのことかな~」ととぼけました。

「そのニヤニヤ顔でとぼけられると思ってるの?」

 公が指摘した史のニヤニヤ顔は、公ではなく夏蓮に向けられていました。
 それに気づいた夏蓮は軽く咳払いをしました。

「私は朝食の支度をしてきますので、着替えを終えたらダイニングのほうへ来て下さい」

 それだけ言うと、夏蓮は足早に部屋を出ていきました。

「あ~あ。逃げちゃった。まぁいいや。それより義弟くん。今から一緒に朝風呂入らない?」
「入らないからさっさと行ってきなさい」

 公が呆れながら促すと、史は残念そうに部屋を出ていったので公は服を着替えてダイニングにやって来ました。

「もうすぐ出来上がりますので椅子に座って待っててください」

 うん。エプロン姿の夏蓮はいいな~。

「あっ、作者がふて寝からかえってきやがった」
《ようやくですか》

 手際もいいし、結婚したら絶対にいい奥さんになるな~。

《マスターが言うとなんだか変態発言に聞こえますね》
「ぷっ!」

 普通のことを言っただけのはずなのに、なぜかロマから辛辣な言葉が飛んできた。

 変なことは言ってないだろ?

《そうですね》

 だったらなんで変態発言みたいとか言うんだよ!

《普段の行いのせいです》
「確かにな」

 くそ~。俺の普段の行いそんなにヒドイか?

《ヒドイですね》
「ヒドイな。そして、こんなことを言われた直後にやけになって変なことするんだろ?」

 ぐっ!

「だから変態とか言われるんだよ」

 わかったよ。今回はマトモにやってやるよ。

 史が朝風呂から上がってダイニングにやってくるタイミングを狙ったかのように夏蓮は朝食をテーブルに並べた。
 並んだ朝食を食べながら公はふと思う。

「今日の予定はどうなってるの?」
「今日義弟くんには私のマネージャーとして一緒にCM撮影の現場に行ってもらうから」
「えっ?CM撮影の現場に俺みたいな素人がついていっていいのか?」
「大丈夫ですよ。今回のCM撮影に私達が同席することは現場のほうに連絡済みですので」
「それに、CM撮影に参加するのはうちの動物タレントだから私達は見てるだけでいいんだよ」
「ならいいの……か?」

 納得しかけたが、やっぱりどこか不安な公。
 しかし、そんな不安そうな公など無視して時間は進んで午後10時半。公達はスタジオ入りした。

「あっ、社長」

 先に現場入りしていた猫を抱いたトレーナーが史に近づいてきた。

「ゆーちゃんの調子はどう?」

 史は猫のゆーちゃんを撫でながらトレーナーに聞いた。

「体調は万全なので、いつでもいけますよ」
「それならよし」

 史が頷いていると、ゆーちゃんはトレーナーの腕から飛び降り、公の足に体を擦りよせた。

【公。抱っこ】

 要望通り抱っこしてあげると、ゆーちゃんは気持ちよさそうに目を細めた。

「昨日も思ったけど、義弟くん、昔以上に動物に好かれやすくなってないかい?」
「それは多分、作者のせいで動物の言葉が理解できるようになったからだろうね」
「へぇ~」

 興味深げに史が公を見ていると、男性がやってきた。

「やぁ、史ちゃん。現場にくるなんて久しぶりじゃないか?」
「久しぶり。監督さん。そうだね。半年ぶりかな?」
「夏蓮ちゃんも久しぶり」
「お久しぶりです」

 その流れで当然監督の視線は公に向いた。

「この少年は?」
「私の1日マネージャーをしている義弟くんだよ」
「へぇ。史ちゃんの弟なんだ。初めまして、監督です」
「初めまして、公です」

 公が監督と挨拶をしていると、1人の少女が現場に入ってきた。

「みゅうさん入られます!」
「おはようございます」
『おはようございます』

 みゅうは今人気の女子高生アイドルだ。
 現場に入ってきたみゅうは早速監督のもとにやってきた。

「今日はよろしくお願いします」
「よろしくね。じゃあ、早速CM撮影始めようか」

 監督の一言でスタッフ達が動き出す中、みゅうの視線は公が抱くゆーちゃんにくぎ付けだった。

「この猫が今回共演する猫なんですか?」
「そうだよ。名前はゆーちゃんだ」
「ゆーちゃん。よろしくお願いしますね」

 みゅうがゆーちゃんを撫でると、ゆーちゃんは「ニャ~」と鳴いた。

「それじゃあ今回のCMの流れなんだけど、ベッドで寝ているみゅうちゃんのもとにゆーちゃんがエサをくわえて行き、みゅうちゃんの頬をペチペチ叩いて起こし、起きたみゅうちゃんはゆーちゃんが見せるエサを見て苦笑しながら頭を撫でてセリフを言う。こういう流れだから」
「はい」

 元気に返事をしたみゅうを見て監督は笑顔で頷いた。

「それじゃあ練習いってみよう」

 公がトレーナーにゆーちゃんを返そうと思っていると、

「義弟くん。ゆーちゃんに今回のCMの流れを説明してあげてくれない?」
「俺が?」
「そう。義弟くんが」
「なんでだよ?」
「いいからいいから」

 史は公の背中を押して強引に説明を任せた。

「これが今回の商品です」

 スタッフから受け取った小袋を手に公はため息を吐いた。
 しかし、もうやるしかないので公はゆーちゃんをおろすと小袋を差し出した。

「ゆーちゃん。この小袋をくわえて」
【くわえればいいのね】

 小袋をゆーちゃんがくわえた。

「それじゃああとをついてきて」

 公はゆーちゃんを先導してみゅうが寝ているベッドの横にやってきた。

「ゆーちゃん。ここまでジャンプ」

 公の指示通りジャンプでベッドに飛び乗るゆーちゃん。

「そしたら、彼女の頬を軽くペチペチしてあげて」

 ゆーちゃんが頬をペチペチするとみゅうが目をあけて起き上がり、伸びをしてからゆーちゃんをみた。

「彼女に小袋を見せつけて」

 ゆーちゃんが小袋を見せつけると、みゅうは苦笑しながらゆーちゃんの頭を撫でた。

「はいOK!今の流れで本番いってみよう!」
「ゆーちゃん。今やった通りにやってね」
【わかったわ】

 公がゆーちゃんを撫でると、ゆーちゃんは嬉しそうに「ニャ~」と鳴いた。

「それじゃあ本番!スタート!」

 監督の合図を聞いた公が合図するとゆーちゃんが歩きだしてベッドに飛び乗りみゅうの頬をペチペチする。みゅうが起きて伸びをしてゆーちゃんを見るとゆーちゃんは小袋を見せつける。小袋をみたみゅうは苦笑しながらゆーちゃんの頭を撫で、

「ご飯にしよっか」
「ニャ~」

 流れになかったゆーちゃんの一鳴きだったが、みゅうは笑顔でゆーちゃんの頭をまた撫でた。

「カーット!確認!」
「確認します」

 モニターに今撮った映像が出てきた。それをみんなで見ながら監督の判断を待つ。

「最後のゆーちゃんの鳴きと撫でる動作は流れになかったものだけど、あったほうがいいからOK!撮影終了!なんだけど、これだったらスタジオ1時間もおさえなくてよかったな」

 監督は頭を掻いた。

「マネージャーさん。余った時間でゆーちゃんと遊んでいいですか?」

 みゅうが自分のマネージャーにそう聞くと、マネージャーから頷きが返ってきたのでみゅうは公の膝の上で丸くなっているゆーちゃんのもとへ向かった。

「史ちゃんのところの動物タレント使う時はいつも撮影が早く終わるんだけど、今日は特に早いよ。それもこれも彼のおかげなんだけど、彼は何者なんだい?」

 監督の疑問に史は首を傾げた。

「私の義弟くんだってさっき説明したじゃないか」
「そうだけど、それだけであんなことできるのか?」
「そうだね~。しいていうならうちの次期社長候補だよ」
「なるほど」

 納得した監督は、公のほうを見た。
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