私のための小説

桜月猫

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26話

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 公の家の前に止まっている1台の車。その中に乗っているのは史と秘書であり運転手もこなす夏蓮かれん
 今日は史が待ちに待った金曜日。もうすぐ公がやって来て、日曜日の夜までの2日間一緒にいれる。そのことに史はウキウキしていた。
 本当なら学校まで迎えに行きたかったが、それは公から「目立つから絶対しないで」と言われたのでやめた。
 なので大人しく家の前で待っていると、制服姿の公が車に乗り込んできたので夏蓮は車を発車させた。

「お待たせ、義姉さん。夏蓮さんもわざわざすいません。迎えに来てもらって」
「いえ。これが仕事ですから」
「夏蓮ったら昨日から公に会えることにウキウキしてたんだよ」
「社長!」

 思わぬ史の暴露に焦る夏蓮。

「ほら、夏蓮。落ち着いて運転しないと事故するよ」
「焦らせるようなことを言った社長が悪いです」
「あはは。ごめんごめん」

 笑っている史を見ながら公は思う。

「義姉さんも結構ウキウキしてるみたいだけど」
「もちろんウキウキしてるさ。なんせ義弟くんと2日間も一緒にいられるんだからね」

 史は隠すことなく気持ちをさらけ出した。

「そうなんだ。それで、今はどこに向かってるの?」
「この前保護した犬の様子を見たいと思われていると思うのでアニマルハウスに向かっています」

 ここで補足情報を差し込もう。
 史が経営する会社、名前をAT社という。どんなことをしているかと言うと、アニマルセラピーのための動物を飼育・調教し、その動物達を連れて老人ホームや障害者施設などを無料で回っている。
 じゃあ、どうやって会社の経営を成り立たせているかというと、動物を調教するノウハウを生かして調教師をしたり、動物タレントの事務所を設立したりといった副業で収入を得て経営を成り立たせている。
 そして、先ほど夏蓮が言ったアニマルハウスは動物を飼育・調教している施設の名前だ。
 ちなみに史は19歳。若手の敏腕女社長なのだ。さらに言うと夏蓮は20歳だ。
 はい。補足終了。

「そうですね。ありがとうございます」
「いえ」
「ぶ~。そう提案したのは私なんだけどな~」

 史は頬を膨らませながら公を見た。

「ありがとう。義姉さん」

 公がお礼を言いながら頭を撫でると史の頬はすぐにしぼんだ。

「社長。誰が言い出したかなんて些細なことを言うなんて、器が小さすぎますよ」
「それは人の手柄を横取りした人間の言うセリフじゃないと思うけどな~」

 睨み付ける史をバックミラーで確認した夏蓮は「ふふ」と笑った。

「話の流れでつい。申し訳ありません」

 夏蓮の謝罪をうけて史は微笑んだ。

 まぁ、もともとそれほど怒ってすらいなかったのだから当たり前か。

「なにを言っているんだい、作者。怒ってはいたさ」

 周りから見ればただのじゃれあいにしか見えないよ。

「それは心外だね」

 はいはい。アニマルハウスに着いたよ。

 史は心外そうにしながらも、車が止まったので降りる。公や夏蓮も車を降りるとアニマルハウスに入った。

「いらっしゃい」

 アニマルハウスの管理人のおばちゃんが笑顔で3人を出迎えた。

「お久しぶりです」
「あら、公ちゃんじゃない。ホントに久しぶりね~。元気してた?」
「はい。この通り元気ですよ」
「あら~。背もこんなに大きくなって、かっこよくなったわね~。おばちゃんがもう少し若ければ恋人候補に立候補したのに、惜しいわ~」

 すると、公を守るように夏蓮が割ってはいり、史も公に抱きついた。

「おばちゃん。今日は昨日言っていた通り、この前の5頭の犬を見に来たので案内してもらえますか?」
「あら、そうだったわね。ついつい話し込んじゃうのがおばちゃんの悪い癖ね~。それに、公ちゃんは取らないから安心しなさい」

 おばちゃんは微笑みながら夏蓮と史を見た。

「こっちよ」

 おばちゃんが歩きだしたことで史の抱きつきから解放された公は2人とともにおばちゃんのあとをついていった。

「ここよ」

 おばちゃんが3人を連れてきたのは屋外広場。そこには犬だけではなく、猫・猿・鳥・ウサギなど様々な動物が放し飼いされていた。

【あっ!おばちゃんだー!】【史や夏蓮もいるー!】【公もいる!】【ホントだ!公だ!】【公ー!遊んで!】【遊ぼ遊ぼ!】

 4人を見つけた動物達がわらわらと集まってきた。特に公のところに集中し、公は一瞬で全身動物まみれになった。

【遊ぼ!】

 体中から聞こえてくる動物達の【遊ぼ!】の合唱。しかし、顔にモモンガがくっついている状態の公は返事ができない。

「ほら、公が困ってるからとりあえずみんな離れて」
【ぶー】

 動物達の声は聞こえないが、不満に思ってるのはわかるのでおばちゃんは手を叩いて動物達の注目を集めた。

「はい。おすわり」

 おばちゃんの一言で動物達は見事におすわりをしておばちゃんを見上げた。おかげで公も動物達から解放されてホッと息を吐いた。

「義姉さん。少しここで遊んでいってもいいかな?」
「もちろん」
「そのための時間も計画のうちに入っていますから大丈夫ですよ」
「と、いうわけで、目一杯遊ぶぞ」
【やったー!】

 喜びながらもちゃんとおすわりは続けている動物達に公は感心した。



          ◇


 動物達と目一杯遊んだ公は、別れを惜しむ動物達とさよならして夕食を食べるためにホテルの高級レストランにやって来ていた。もちろん夏蓮も同席している。

「もっと普通のお店でよかったのに」
「久々の義弟くんとの夕食だから奮発してしまったよ」

 史が「ふふっ」と笑っているとウェイターが飲み物を持ってきて公達のグラスに注いだ。注がれた飲み物を見た公はいぶかしげな表情で史を見た。

「義姉さん。シャンパンみたいに見えるけど、もちろんノンアルコールなんだよね?」
「もちろんノンアルコールだよ」

 答えながら史がグラスを持ったので、公もグラスを持ち、最後に夏蓮がグラスを持った。

「そうだな~」

 グラスを持ったまま少し悩んだ史は頷いた。

「公の高校入学と今日という日に乾杯」
『乾杯』

 乾杯を終えてノンアルコールのシャンパンを飲んだ史は公を見つめた。

「でも、こうして義弟くんと食事するなんていつ以来だろうね」
「多分2・3ヶ月ぶりくらいじゃないかな」
「私もそのように記憶しています」
「もう少し頻繁に義弟くんと食事をしたいな~」

 甘えるような声でおねだりしてくる史に公は苦笑した。

「俺には学校があるし、義姉さんには仕事があるから中々こういう機会が作れないのは仕方ないよ。それでも一緒にご飯が食べたいなら、たまにはうちに帰ってきたらいいじゃんか。そしたら俺が夕食をご馳走してあげるよ」
「公」

 公の優しい言葉に史が嬉しくなっていると、夏蓮がうらやましそうにそれを見ていた。

「もちろんその時は夏蓮さんも一緒にどうぞ」
「私もいいのですか?」
「えぇ。普段から義姉さんがお世話になっていますから」
「ありがとうございます」

 一瞬で笑顔に変わった夏蓮の表情を見ながら公は微笑んだ。その姿を今度は史が嫉妬まじりの眼差しで見ていた。

「なんですか?史」

 レストランの中であり、プライベートの時間ということもあって夏蓮は史のことを名前で呼んだ。

「普段からお世話してるのは私なんだから。そこは間違えないでほしいな」
「スケジュール管理や時間の管理は私がしているのですから、私がお世話しているほうです」
「私よ」
「私です」

 にらみ合いを始めた2人。そこへ前菜が運ばれてきたので公が仲裁に入る。

「ほら、料理が運ばれてきたからケンカしない」

 いや。ケンカの原因作った公がそれを言うの?

「俺が原因なのか?」

 はぁ。わかってないなんて。これだから鈍感天然ジゴロは。

「ひどい言われようだな」

 そうだ。年上キラーの称号もつけておくわね。

「おい!俺にこれ以上変な称号つけるな!」

 残念。もうつけちゃったわ。

「はぁ~」

 どうせこれからどんどんいろんな称号がついていくんだし、気にしたって仕方ないと思うわよ。

「ついていくっていうより、お前がつけていくんだろ?」

 そうとも言うわね。

「そうしか言わないんだよ」

 諦めた公は前菜を食べ始めた。


          ◇


 レストランでの食事を終えた3人は史が一人暮らししているマンションにやって来た。

「公からお風呂に入るかい?」
「俺は最後でいいよ」
「ふむ。私達が入ったあとのお風呂を堪能するんだな」

 薫と同じようなことを言い出す史に公は頭を抱えた。

「じゃあ俺が先に入るよ」
「残念だけど、すでに夏蓮が入りに行ってしまったよ」
「だったら最後でいいよ」
「やっぱり堪能したいんだ」
「もうそれでいいよ」

 否定したところで意味がないのはわかっているので公は投げやりに肯定した。

「そういえば、夏蓮さんって今日はここに泊まるの?」
「そうだよ」

 どうして?とか聞いたところで意味がないので、公は夏蓮がお風呂からあがってくるのを待った。
 そうして夏蓮・史・公の順番でお風呂に入り終えると、公は風呂上がりの牛乳を飲みながら問いかける。

「それで?俺はどこで寝ればいいの?」
「もちろん私達と一緒に寝るんだよ」
「………………………。は?」
「だってこの家は私が1人で住んでいる家なんだからもともとベッドは1つだけ。さらに言えば布団もないから自然と3人で寝るしかないのだよ」

 すぐに諦めた公は2人と一緒にベッドルームへ行き、ベッドに寝転んだ。史と夏蓮は公の両サイドに寝転ぶと、公の腕に抱きついた。

「おやすみ、義弟くん」
「おやすみなさい、公さん」
「おやすみ」

 公は現実逃避とばかりにすぐに寝落ちた。
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