私のための小説

桜月猫

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23話

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 駅で桜達と合流したが、公の足どりは重かった。

「萌衣さんと一緒に暮らし始めてウキウキしてるくせになんでそんなに重い足どりなのよ」

 ため息を吐いた公は頭を掻いた。

「蛍達はいいとして、庵は絶対うるさいだろうから、それを考えるとな」
「わからなくもないけど、行くしかないのよ」

 楓の言葉に公はさらに頭を掻いた。

「わかってるよ」

 公は歩みを進めて改札を越えてホームへ。すぐにやってきた電車に乗り込むと、蛍が手を振ってきた。

「おはよう、公」
「おはようございます」

 ボソボソながらも確かに光の言葉で挨拶が聞こえてきたことに公は驚き、立ち止まった。

「早く入りなさいよ!」

 立ち止まった公のお尻を蹴っ飛ばした桜はつんのめる公の隣を通りすぎる。

「桜!テメー!」
「ジャマな公が悪いわよ」

 通りすぎざまに公の頭を叩く楓。その後ろについて電車に乗り込んだ暁は苦笑しながら公の隣を通りすぎる。

「公。入り口で止まったらダメだよ」

 もっともな薫の注意になにも言えずに頭を掻いた公は蛍のもとへ。すると、蛍は光を見て微笑んでいた。

「おはよう、蛍、光」
「公。メイドさんとの生活はどう?」
「確かに萌衣さんと一緒に暮らすことにはなったが、メイドにはしていないからな」

 公はまずそこを主張した。その様子をニコニコと見ている蛍。

「で、萌衣さんとの生活は今のところは普通だよ」
「萌衣さんのメイドにしてして攻撃以外は」

 薫の捕捉の通り、萌衣は隙あらば公にメイドになることの了承を得ようとしていた。
 さらに、萌衣がそうやって公にアタックしまわることで、それに対抗するように舞や夢が公に抱きついたりする行為が増えた。
 それを思い出した公はため息を吐いた。

「あまり順調じゃないみたいだね」
「そうなんだよ」

 疲れ気味の公の気持ちなどお構いなしに電車は小説駅までやってきた。

「はぁ」

 ため息を吐きながら電車を降り、改札を抜けるといつもはいない庵が仁王立ちで待っていた。

「天誅!」

 その言葉とともに駆け寄ってきた庵は飛び蹴り放つもあっさり避けた公はカウンターの拳を庵の顔にぶちこんだ。

「やっぱり居やがったか」

 地面に倒れこみ、気絶した庵を公は見下ろした。

「お疲れさま」
「災難だったな」

 声の方向を向くと朧月と蛙がいた。

「こうなる前に2人で止めてくれよ」
「こうなった庵はゾンビのようにしつこいからムリだな」

 朧月の言葉通り、すぐに気絶から復活した庵は公の足にしがみついた。

「なんでお前ばかり~」
「知るか!」

 庵の顔に再度拳を打ち込み、足から引き剥がす公。

「うっうっうっ」

 地面に倒れて庵が泣き出したのを見て放置することを決めた公達は歩きだした。

 放置された庵がゾンビ化しますのでご注意ください。

「おい、作者」

 なにかしら?

「今なんと?」

 放置された庵がゾンビ化しますのでご注意ください。

「ゾンビ化?」

 後ろをご覧ください。

 公達が後ろを振り返ると、ふらふらと立ち上がる庵。その体からは腐敗した匂いが漂ってきた。

「なんてことしてやがる、作者」

 庵の恨み節をよく聞きなさい。と、いうわけで一旦庵の恨み節以外を無音に設定と。

「なんで俺には出会いがない。なんで公にだけ出会いがある。なんで朧月だけリア充なんだ。なんでなんでなんで!」

 はい。無音設定解除。と、いうわけで、庵がゾンビ化したのは公と朧月のせいだね。

「だったら庵にもそういう出会いの場面を作ってやればいいだろが!」

 流れを無視してそんなことできないわよ。

「さんざん流れを無視していろいろ無茶苦茶してきた人間のいうセリフじゃねーな!」

 私に文句言ってる暇があったら逃げたほうがいいんじゃないかな。

 ハッとした公と朧月が庵ゾンビの方を向くと、庵ゾンビが公に襲いかかってきていた。

「くそっ!恨むならそういう設定と流れにした作者を恨めっての!」

 そう言いながら庵ゾンビを殴る公たが、庵ゾンビは吹き飛ぶこともなく公に覆い被さろうとする。

「あぶねぇ」

 とっさに朧月が庵ゾンビを蹴りで押し返したことで公は難を免れた。

「サンキュー、朧月」
「それよりも、どうやら俺と公が狙われてるみたいだな」
「あの恨み節からすると、そうみたいだな。そういうわけでから、俺達は逃げるために走って先に行くから」
「気を付けてね~」
「食われてもちゃんと成仏させてあげるから」
「桜!縁起でもねぇこと言うな!」

 公が桜に文句を言ってる間にも庵ゾンビは迫ってきたので公は逃げるために朧月と走り出す。
 走り出したことで庵ゾンビとの距離は開いた。

「どうすればあいつは止まると思う?」
「さーな。いつもなら殴り倒せば止まるんだが、今回は作者の手が加わってるからなんとも言えねーな」
「おい、作者。どうすればいいんだ?」

 そうだね~。そこら辺のことは考えてなかったからどうにかして止めてね。

「1番最悪なパターンの無計画かよ!」
「相変わらずくそったれな作者だな」

 それほどでも~。

『誉めてねーよ!』

 なんて2人が言ってると目の前に庵ゾンビが降ってきた。

『なっ!』

 とっさに朧月が庵ゾンビの顔を走ってる勢いそのままに殴り飛ばすと、庵ゾンビは倒れた。
 やけにあっさりと倒れた庵ゾンビに2人の足が止まる。そして、庵ゾンビを見つめていると、庵ゾンビはいきなりブリッジをした状態でわさわさと2人めがけて走り出した。

「うおっ!」
「気持ち悪っ!」

 2人は逃げるためにまた走り出す。

「ってか、今の庵の姿はゾンビってよりホラーだよ!」
「ブリッジしながら追ってくるって一体いつの時代のホラーだよ!」

 あぁ。また1つ作者の年齢がわかるヒントが出てしまったわ。

「だから、そこには誰も興味ねーんだよ!」
「俺達が今興味あるのはあのゾンビの止め方だよ!」

 ショボーン。

「あーもう!使えねー作者だな!」

 あぁ。いい。もっとちょうだい。

「落ち込んだかと思えばいきなりドMになるな!」

 あぁ~。いいわ~。

「気持ち悪いんだよ!」

 はい。5分経ったので庵ゾンビ10体追加で。

 2人を追う庵ゾンビの数が5体に増え、さらには前方に4体。

「じゃあ残り2体は?」

 公が疑問に思った直後、公側の植え込みから2体の庵ゾンビが飛び出してきた。

「チッ!」

 舌打ちしながら急停止をした公は、前宙からのかかと落としで1体を地面に沈めると、もう1体はその両手を掴んで前方の4体に向けて投げつける。
 飛んでいった庵ゾンビは前方を塞いでいた4体をぶっ飛ばす。

 はい、ストライク!

「今はお前の相手している暇はない!」

 2人は倒れている5体の庵ゾンビを踏みつけながら駆け抜ける。

「どうする?」

 一瞬チラッと朧月を見る公。

「とりあえず、適度に倒しながら学校に向かうしかないだろうな」

 朧月はため息を吐く。

「それしかないか」

 公もため息を吐いた。
 そうして走り続ける2人の前に庵ゾンビではなく、夏がいた。

「夏先輩!」
「はい?」

 突然呼び掛けられたことに戸惑いながら振り返ってた夏が見たのは、大量の庵ゾンビに追われる公と朧月の姿。

 ちなみに、今2人を追っている庵ゾンビの数は100体。

「ひっ!」

 その光景に怯えて固まる夏。

 まぁ、そうなるのは仕方ないとは思うんだけど、そこで固まってると庵ゾンビの波に巻き込まれるよ~。

 しかし、夏は固まったまま動かない。

 ってか、聞こえてないね~。

「どうするんだよ!」

 私に言われても、私はなにもできないから2人に任せた。

『くそが!』

 叫んだ2人は行動を始めた。
 朧月は立ち止まると迫ってきた庵ゾンビ達をどんどん蹴り飛ばして後続にぶつけることで渋滞をおこす。
 その間に夏のもとに行った公は夏をお姫様抱っこで抱き抱えると朧月に向かって叫ぶ。

「朧月!」

 公の声で朧月は庵ゾンビを蹴り飛ばすのをやめて走り出す。

「くそっ。ホントにいつまでこれが続くんだよ」

 夏を抱えてることで叫んで愚痴ることができない公。しかし、その言葉で朧月がふと思う。

「ってか、いつもより通学路長くねーか?」

 2人が駅から走り出してすでに13分が経過している。
 普通に走れば駅から学校までは5分たらず。つまり、2倍以上の時間を2人は走っているというわけだ。

「作者。どういうことだ」

 どうもこうも、庵ゾンビに道を塞がれて横道に反れまくってるからじゃないかな~。ニマニマ。

「あからさまにニマニマとか言って、隠す気ねーだろ」

 は~い。その通りで~す。次は右に曲がりまーす。

「そっちは学校とは逆だ」

 しかし、それ以外の道には庵ゾンビが10体ずついて道を塞いでいる。

「こうなったら」

 前に出た朧月を学校へ向かう道を塞いでいる庵ゾンビを殴って蹴ってぶっ飛ばして強引に道を作った。

 おぉっ!やるね~!だったら!

 次から次へと前からやってくる庵ゾンビ。

「めんどくせー」

 そう言いながら朧月はどんどん庵ゾンビを倒していく。公も両手は使えないが、蹴りで庵ゾンビを倒すのを手伝っていく。
 そうして強引に道を切り開いた2人はようやく校門を越えて校庭までやってきたのだが、地面からはい出してきた1万体の庵ゾンビに囲まれてしまった。

「作者はいつの間にドSに変わったんだよ」
「さすがにこの数はヤベーかもな」

 すると、公にお姫様抱っこされていた夏がようやく目を覚ました。

「えっ?あれっ?ここは!?」

 公と目があい、自分の状況を確認して理解した夏は一気に赤くなったのだが、周りの状況を理解してすぐに青くなって泣きながら公に抱きついた。

「周りにいる人が気持ち悪いよ~!」
「よしよし。すぐに倒すから大丈夫だよ」

 落ち着かせるために夏の頭を撫でながら、さっさと終わらせる決意をする公。それは朧月も同じで、気合いをいれた。
 しかし、すでに庵ゾンビ達は夏の気持ち悪い発言にダメージを受けて膝まづき、本物の庵を残して消えてしまった。

「まさか、これが解決方法なんてな」
「ゾンビになっても庵は庵か」

 呆れた2人は盛大にため息を吐いた。
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