私のための小説

桜月猫

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22話

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 椅子に座り、軽く放心状態の公の前に萌衣がコーヒーを置いた。

「ありがとう」

 コーヒーを飲んで少し落ち着いた公。

「そういえば、うちの場所はどうやって知ったの?」
「作者に連れてきてもらいました」
「…………………………」

 あれ?いつもみたいに「作者!」って叫ばないの?

「なんとなく予想はついていたからな。それで、主人になるってことについての説明を聞きたいんだけど」
「かしこまりました。ご主人様になる、といってもとくに公様がなにかをしなければいけないという事柄はございません。しいていうなら、私をこの家に住まわせていただくということぐらいですが、それは先ほど了承が得られましたのですでに解決済みです」
「給料とか払わないといけないんじゃないの?」
「私が公様に雇われてメイドをする場合には賃金が発生しますが、私からなってほしいとお願いしている今回の場合には賃金は発生いたしませんので大丈夫です」

 この答えには公だけでなく薫達も驚いていた。

「じゃあ、萌衣さんは無償で俺のメイドになりたいと言っているのか?」
「はい。私達メイドにとって、そう思えるご主人様と出会い、その人のもとで働くことこそが1番の喜びですから」

 笑顔で公を見る萌衣。そう言われて悪い気はしない公は少し照れていた。

「でも、なにか個人的なお金が必要になった時はどうするの?」
「個人資産がありますからご心配にはおよびません」

 公は腕を組んで考える。

「他に聞きたいことはありませんか?私の個人的なことでもかまいませんよ?」

 じゃあスリーサイズを教えて。

「作者。めんどくさいから出てくるな」

 え~。なんでさ。

「なんでもだよ」

 あ~、そうそう。公の家に萌衣が住むことになったことを桜達にも知らせておいたから!

「ちょっと待て!なにやってくれてるんだよ!」

 すると早速スマホに着信があった。相手は庵だ。

「まさか、庵達にまで教えたのか?」

 もちろん!

 ため息を吐いた公がスマホの電源を落とした瞬間、チャイムが鳴ったので公は頭を抱える。

「出てきますね」

 萌衣が玄関に行って帰ってくると、萌衣の後ろには桜・楓・暁の3人がいた。

「作者から公が萌衣さんをメイドにしたって聞いたけどどうなの?」
「萌衣さんはもともとメイドだぞ」

 冗談はいならいとばかりに桜に睨みつけられた。

「公が性欲を発散させるために萌衣さんをメイドにしたって聞いたけど?」
「人聞きの悪い言い方してんじゃねーよ!」

 公が睨みつけると、桜も睨み返した。そのまま睨みあう2人。すると、話を進めるために2人の間に楓が入りこみ、公を見つめた。

「それで、どういうことなのかしら?ホントに萌衣さんをメイドにしたのかしら?」
「メイドにしてねーよ」
「じゃあ、なんでここに萌衣さんがいるの?」
「それは作者のせいだよ」
「それで、これからはどうするのかしら?」

 静かに、だが確実に怒っている楓に、公は内心冷や汗をかいていた。

「とりあえず、みんなが納得したし、この家で暮らすことになったな」
「そう」

 聞きたいことは聞き終えたのか、楓は2人の間から退いた。桜も聞きたいことはほとんど聞けたので、公を睨みつけることもしなかった。

「萌衣さんがこの家で暮らしてくれるようになったから、家のことは萌衣さんに任せて私は単身赴任しているダディのところに行くのだけれどね」
「ちょっ!母さん!」

 せっかく話が終わろうとしていたのに、ムダに爆弾を落としてきたマザーに公が詰めかかろうとしたが、それより早く桜と楓に詰め寄られて公は椅子から立ち上がることすらできなかった。

「どういうことなのかしら?」
「聞いてないんだけど?」
「聞いてこなかったから言わなかっただけだろが!」

 ヤケクソになって叫ぶ公だが、それが2人をヒートアップさせた。

「聞かれなかったからって、おばさんがいなくなるっていう大事なことを話さないって普通ありえないでしょ!」
「そんな大事なことを言わないなんて、やましいことを考えてるのね!」
「考えてねーよ!」
「考えてないのなら話してもよかったでしょ!」
「だから!聞いてこなかったのはそっちだろうが!」
「じゃあなんでさっきおばさんがそのことを話したときに動揺したのよ!」
「やっぱりやましい気持ちがあるんでしょう!」
「だからねーて!母さんの言葉に動揺したのは反射的なものだ!」
『ウソだ!』
「ウソじゃねーよ!」

 いつまでたっても終わりそうにない3人のケンカを止めるためにマザーは手を叩いた。

「はい。そこまで」

 マザーにそう言われると、3人とも静かになった。

「それじゃあこうしましょう。公が萌衣さんにやましいことをしないか見張るために、桜ちゃん達3人も今日からここで暮らせばいいのよ」

"またおかしなことを言いはじめたよ"

 公は背もたれにもたれかかって天井を見上げた。

「僕もなんですか~?」

 3人のケンカを見ていただけなのにいつの間にか巻き込まれた暁は困ったように手を上げた。

「部屋は十分余ってるし、ここまできて1人だけ仲間外れっていうのも寂しいでしょ?」
「そんなことはないですけど~」
「いいじゃない。みんなでいるほうが楽しいでしょ?」

 話を決めにかかっているマザーの笑顔の問いに、暁は苦笑気味に頷いた。

「それは否定しませんけど~」
「ならいいじゃない」
「桜と楓はどうするの~?」

 助けて~とばかりに2人に話を振る暁。2人は真剣に悩んでいる様子で、暁は反応してもらえないうえに助けもないことを理解して泣きたくなった。
 そんな真剣な2人の様子を見てニマニマしているマザーは公を見たが、公は無視して目をつぶった。
 そうこうしていると、2人の考えもまとまった。

「やめときます」
「私もやめとくことにします」
「あら。残念。でもいいの?」
『はい』

 スッキリした表情で頷く2人にマザーは「そう」と微笑みかけた。

「残念だったわね、公」

 公の反応はなく、ピクリとも動かない。

 ふむ。反応がない。どうやらただの屍のようだ。

「…………………………」

 ホントに反応がないな~。

「それじゃあ私達は帰ります」
「おじゃましました」
「さようなら~」

 3人が帰ると、公はため息を吐きながらようやく動き出した。

「ホントに残念だったわね~」
「なにも残念じゃねーよ」

 もう1度公がため息を吐いていると、玄関が開く音がした。

「ただいま~」

 そう言ってダイニングに入ってきた女性。
 女性はダディの娘で夢の実姉のふみだ。つまり、公と舞にとっては義姉にあたり、20話で公の言っていたアテであり、21話で出てきた社長でもある。

「お義姉ちゃん」
「お姉さま」

 舞と夢が史に抱きついた。

「あら。史が帰ってくるなんて珍しいわね」
「少し公に聞きたいことがあったんだけど」

 史は萌衣を上から下まで見た。

「なるほど」

 頷いた史は公を見た。

「なんだよ、義姉さん」
「義弟くんがメイド好きに目覚めたと部下達から報告があったから、事実かどうか確認しに来たってわけなんだけど」

 史は再度萌衣を見た。

「見事に目覚めたみたいだね」
「目覚めてねーよ!」

 あはは。一難去ってまた一難とはまさにこのことだね。あはは。

「そういうふうにテメーが仕向けてるんだろが!作者!」
「なに。メイド好きを恥じる必要なんてどこにもないさ。なんなら私も義弟くんのためのメイドになろうか?」
「ならなくていいから」
「そうです。公様の専属メイドは私1人で十分です」

 爆乳を揺らしながら胸を張る萌衣。

「メイドになることは認めてないですからね」

 そんな萌衣にきっちりと釘をさす公。

「ところで義弟くん。ちゃんと約束は守ってくれるんだろうね?」
「もちろん。こっちから頼んだことだからちゃんと約束は守るよ」
「それを聞いて安心したよ」
『約束?』

 なんのことだかわかっていない舞・夢・薫の3人は首を傾げた。

「あぁ。義弟くんの後始末をする代わりに、金曜の放課後から日曜の夜までは義弟くんは私のところに来ることになってるんだよ」
『えー!』

 叫び声をあげたのは舞と夢だけ。

「やっと合宿が終わって明日からお兄ちゃんと一緒だと思っていたのに今度はお義姉ちゃんのところに行っちゃうなんてイヤだよ!」
「でしたら、わたくしも一緒に行きますわ!」
「私も!」
「だーめ」

 史は両手をクロスさせてバツを作る。

「これは私と公の間で正式に交わされた契約だから、2人は家でお留守番だよ」
『ぶー!』

 頬を膨らませる2人。

「こればかりは譲れないからね」
「当然私はついていきます」

 しれっとそんなことを言う萌衣を史は目を細めて見つめた。

「なんでしょうか?」
「いや、最近のメイドはご主人様でもない赤の他人のプライベートに土足で踏み込んでくる礼儀知らずなんだなって思っただけさ」
「うっ」

 こう言われるとまだ公のメイドと認められていない萌衣はなにも言えずに悔しがるしかなく、その姿を見て史は勝ち誇るように公を抱きしめた。

「義姉さん。なんで抱きついてくるのかな」
「姉弟のスキンシップに決まってるじゃないか」

 さらに強く抱きついてくる史に諦めた公だが、今まで黙っていた薫が史から公を奪い取った。

「なにするのかな?」
「週末一緒にいるなら今は私の番」

 薫が公を抱きしめると、史は「ふっふっふ」と笑だしたかと思うと公を取り返すために薫に飛びかかる。

「私も!」
「わたくしも!」

 舞や夢も乱入し、公は諦めの表情でなされるがままにもみくちゃにされた。

「あらあら、まぁまぁ、うふふ」

 その光景を見ながらマザーは微笑ましく笑っていた。
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