私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
22 / 125

21話

しおりを挟む
 ハイキング合宿3日目。

 と、いっても今日はロッジなどの掃除をして帰るだけだし、昨日のハイキングみたいに面白味もなんもないから別の場所へ早速ゴー!


          ◇


 今日、公が帰ってくるということもあって舞と夢は朝からルンルンだった。

「昨日もそれぐらい明るかったらよかったんだけどな」

 翔のグチなど2人の耳には届いておらず、今にもスキップを始めそうなぐらいルンルンだった。

「でも、舞姉や夢姉がウキウキする気持ちわかるよ」
「だよね!」
「ですわよね!」

 2人は音を間に挟むようにして抱きついた。

「そんなものか」

 3人のテンションについていけない翔は先を歩きだす。

「音!舞先輩!夢先輩!翔先輩!」

 大声で音達を呼びながらやって来たのは音のクラスメートのすいだ。

「おはようございますっす!」
「おはよう、水」
「おはよう、水ちゃん」
「おはようですわ、水」
「おはよう、水。でもうるせーわ」

 翔は水の頭を掴んで揺らした。

「元気がうちの取り柄っすから!」

 揺らされてもお構いなしに叫ぶ水。そのうるささに翔はさらに強く揺らしだした。

「す、水ちゃん。早いよ~」

 遅れてやって来たのは水の幼なじみで音のクラスメートのよう

「お、おはようございます。皆さん」

 膝に手を乗せて羊は息を整える。

「おはよう、羊。相変わらず水に振り回されてるな」

 翔の一言に水は翔の手を払いのけて翔を睨み付ける。

「翔先輩!それだと私が悪いみたいに聞こえるっすよ!」
「振り回されている羊からすれば、お前は悪だろうな」

 翔は水の頭を掴みにいこうとするが、水は避けながら羊を見た。

「そんなことないっよね!羊!」
「アハハ」

 元気のない苦笑が羊から返ってきたので水はガーンとショックを受けていた。

「音~!羊が反抗期っす!」

 翔の手をすり抜けて音に抱きつく水。

「水と羊を足して2で割ったらいい感じになると思うよ」

 水を抱きしめながらも、音はしっかりと言うべきことは言った。

「音もヒドイことを言ってきたっす!」

 驚きから水は音から離れた。

「簡潔にいえば落ち着きを持てって話だ」
「今でも十分落ち着いてるっすよ!」
「アハハ。冗談は寝て言え」

 翔は水を置いて歩きだす。

「翔先輩がいつも以上辛辣っす!」

 泣きそうになる水を慰める人はおらず、水は軽く落ち込んだ。


          ◇


「社長。機嫌がいいようですけど、なにかいいことがありましたか?」

 社長室に入ってきた秘書は社長の顔を見てそう聞いた。

「わかるかい?」
「いつも以上に表情が緩んでいますから誰が見てもわかりますよ」

 秘書の言葉に社長は頬をぐにぐにと揉みだした。

「そんなに緩んでいるかな~?」
「分かりやすいぐらい緩んでいますよ」

 秘書はまだ顔をぐにぐにしている社長を微笑ましく見ていた。

「それで、どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

 秘書は社長に近づいた。

「いやね。珍しいことに向こうから頼みごとをしてきたからね」

 社長の言葉に秘書の表情もかなり緩んだ。

「なるほど。確かにそれだけ表情が緩むと誰が見てもわかるね」

 自分が指摘したことを指摘され返された秘書は顔を赤らめた。しかし、すぐに表情を引き締めなおした。

「それで、どんなことを頼まれたのですか?」
「あぁ。これをすぐに準備してくれるかな」

 社長から渡された紙を見た秘書は頷いた。

「かしこまりました。すぐに準備します」


          ◇


 はい。帰ってきましたハイキング合宿!

「おい!作者!」

 なに?

「なにじゃねーよ!最初の数行いるのか!?」

 帰ってくるんだから必要だよ?

「せめて最初に少しは触れていけ!」

 それより掃除は終わった?

「終ったけど………」

 公はなんとも言えずに頭を掻いたが、諦めたのかロッジを出た。のだが、公は2歩下がって扉を閉めて額に手を当てた。

 どうした?出ないのか?

「あぁ。出るさ」

 再度外に出た公。その目の前に広がる光景は野犬と戯れる萌衣。普通ならば癒される光景なのだが、普通じゃないところが1つだけあった。
 それは萌衣が犬の垂れ耳をつけているということ。

「お疲れさまです。公様」
「なにしてるんですか?萌衣さん」
「見ての通り犬と戯れているんですけど?」

 その通りなのだが、そうじゃないとも公は思った。

「そうですね」
「どうかしましたか?」

 笑顔で首を傾げる萌衣に、公は頭を掻いた。

「その犬耳はなんですか?」
「カワイイと思いませんか?」

 ちょこんと首を傾げると、垂れ耳もちょこんと倒れた。その姿はカワイイの一言だったので公は素直に頷いた。

「カワイイですけど、なんでつけているんですか?」
「犬好きなのかと思いまして」
「キライではないですけど、萌衣さんがつける意味はないですよね?」

 公は頭を掻いてなんとも言えない表情をしていると、萌衣は真剣な表情になった。

「すいません」

 男性が3人やって来た。

「あっどうも」
「お久しぶりです」

 3人は公に頭を下げた。

「この犬達をお願いします」

 公の言葉に3人の視線は萌衣に向いた。公はあっちゃ~と額に手を当てて空見上げる。

「あの~」
「彼女のことは気にせずに犬を連れて帰ってくれますか?」

 3人は公と萌衣を交互に3往復見てから頷いた。

「わかりました」

 3人がなにも言わずに犬を連れて帰ってくれたので公はホッと息を吐いて萌衣を見た。
 萌衣も真剣の表情で公見たが、犬耳が真剣な表情をジャマしているので公は犬耳をとった。

「なんですか?」

 萌衣がなにも言わないので公は問いかける。

「私のご主人様になってもらえませんか?」

 公は萌衣が言った言葉の意味が一瞬理解できなかった。

「俺が萌衣さんの主人になる?」
「はい」

 萌衣は笑顔で頷く。

「どうして?」
「私が公様に仕えたいと思ったからです」
「出会ってから2日も経っていないのに?」
「公様のことは作者からいろいろと見聞きさせてもらいましたから」
「作者!他人のプライバシーをなんだと思ってる!」

 登場人物のプライバシーなんて俺にとってはあってないようなものだよ。

 舌打ちをした公は萌衣と正面から見つめあった。

「たとえそうだとしても、俺みたいな未成年のガキに仕えるなんて」

 萌衣は公の口に人差し指を当てて言葉を止める。

「そんな風に自分を卑下しないでください。それに、私は公様だからこそ仕えたいと思ったのです。ですので、私のご主人様になってください」

 萌衣は頭を下げた。

「…………………………」

 どうすればいいかわからずに公は黙りこんでしまった。

 どうして悩む?こんな美人のメイドさんがご主人様になってって言ってるんだから頷けばいいじゃんか。

「アホか。そんな簡単に頷けるかよ」
「どうしてですか?」
「萌衣さんのことを知らないし、主人になるということがどういうことなのかも知らないのに頷けませんよ」
「そうですか」
「すいません」
「わかりました」

 萌衣は一礼すると去っていった。萌衣と入れ違いで蛍がやって来た。

「公。もうすぐバスが出るよ」
「あぁ、わかってる」

 萌衣が去っていった方向を1度見た公はバスに乗り込み、帰路につくのだった。


          ◇


「ただいま~」

 薫とともに家に帰ってきた公は荷物を置いて一息吐いていると、

『お兄(義兄)ちゃん(さま)!どういうことなの(ですわ)!』

 舞と夢が突撃してきた。

「どういうことってなんだよ?」

 しかし、2人からの返事はなく、手を引かれてダイニングに連れてこられた。そこにいたのは萌衣。

「お帰りなさいませ、公様」

 優雅にお辞儀をして公を出迎える萌衣に公は額に手を当てる。

"帰ってきて2人が飛び出してきた時点でもうイヤな予感はしていたが、まさか萌衣さんがいるとは"

「萌衣さん。どうしてここにいるのですか?」
「断られた理由が私やご主人様になることがどういうことか知らないということでしたので、それならばそれを知ってもらおうと思ってここにいるのです」

 理屈はわかるのだが、理解ができずに公がたたずんでいると、舞と夢が後ろから公の服を引っ張りだした。

「萌衣さんから話は聞いたの?母さん」
「えぇ、軽く」
「じゃあ母さんの判断は?」
「私はかまわないわよ」

 マザーがOKを出すと舞と夢からブーイングがおきた。すると、マザーは2人に微笑みかけた。

「舞、夢。萌衣さんがここで暮らすことを認めてくれるなら、私はダディのところへ行こうと思うの。単身赴任でなにかと困っているでしょうからね。その場合、私がダディを押さえるから2人は長期の休みにダディのところへ行かなくてもすむようになる。どうかしら?」

 マザーの言葉を聞いて、2人のブーイングが止まったのだが、公はさらに頭を抱えた。

"完璧に萌衣さんをここに住まわせる流れにもっていこうとしているじゃんかよ!"

 公の後ろで話し合っていた2人は萌衣さんのもとへ。

「私は萌衣さんがここで暮らすのさんせ~い!」
「わたくしも歓迎いたしますわ」

 2人が萌衣側に回ったので、公はもう諦めていた。

「私は反対」

 その声に驚いた公が後ろを振り返ると、忘れられていた薫がいた。薫は公の前に立つと萌衣を睨み付けた。対する萌衣は笑顔をたやさずに薫に近づくと、耳もとでなにかを呟いた。

「やっぱり賛成」

 それだけであっさりと寝返った薫にトドメの一撃をもらった公は、ヤケクソ気味に言った。

「もうどうにでもしてくれ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

『ドリーム・ウォーカー』

segakiyui
キャラ文芸
妹尾和樹は恐ろしい夢に怯えている。家族も不和で『こもりがちの人格』である自分を持て余している。救いは可愛いリカとの付き合いだけだが、彼女が見た『襲ってくる白雪姫』の夢を聞いたことから、同じクラスの春日伊織に「夢の話は無闇にするな」と忠告される。奇妙な忠告の意味を本当に和樹が理解したのは、ずっとずっと後だった。

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

後宮の華、不機嫌な皇子 予知の巫女は二人の皇子に溺愛される

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
キャラ文芸
【書籍化決定!23年12月13日発売です♫】 「予知の巫女」と呼ばれていた祖母を持つ娘、春玲は困窮した実家の医院を救うため後宮に上がった。 後宮の豪華さや自分が仕える皇子・湖月の冷たさに圧倒されていた彼女は、ひょんなことから祖母と同じ予知の能力に目覚める。 その力を使い「後宮の華」と呼ばれる妃、飛藍の失せ物を見つけた春玲はそれをきっかけに実は飛藍が男であることを知ってしまう。 その後も、飛藍の妹の病や湖月の隠された悩みを解決し、心を通わせていくうちに春玲は少しずつ二人の青年の特別な存在となり…… 掟破りの中華後宮譚、開幕!

【完結】神様WEB!そのネットショップには、神様が棲んでいる。

かざみはら まなか
キャラ文芸
22歳の男子大学生が主人公。 就活に疲れて、山のふもとの一軒家を買った。 その一軒家の神棚には、神様がいた。 神様が常世へ還るまでの間、男子大学生と暮らすことに。 神様をお見送りした、大学四年生の冬。 もうすぐ卒業だけど、就職先が決まらない。 就職先が決まらないなら、自分で自分を雇う! 男子大学生は、イラストを売るネットショップをオープンした。 なかなか、売れない。 やっと、一つ、売れた日。 ネットショップに、作った覚えがないアバターが出現! 「神様?」 常世が満席になっていたために、人の世に戻ってきた神様は、男子学生のネットショップの中で、住み込み店員になった。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

処理中です...