私のための小説

桜月猫

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15話

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 翌日の日曜日。今日は夢ののしかかりで公は目覚めた。

「お義兄さま。朝ですわよ」
「何時………だ?」
「6時ですわ」
「さすが早すぎ。9時まで寝かせてくれ」

 公は頭まで布団をかぶって起きることを拒否した。

「仕方ありませんわね」

 そう言いながら夢は布団に潜り込んで一緒に寝始めた。
 もとより起こす気はなく、ただただ公と一緒に寝たかっただけなので、すぐに夢も夢の中へと入っていった。


          *


【ようこそにゃ!夢の国へにゃ!】

 公は目の前のネコが喋っている光景に頭を悩ませた。

【どうされましたかにゃ?】

 ネコは首を傾げるが、公からの返事はない。

「作者」

 公が作者を呼びますが、返事はありません。

「作者!」
【ここは夢の国にゃので、作者の干渉はにゃいにゃ】
「確かに今俺は寝てるが、今まで夢の国なんて来たことないぞ」
【その夢じゃにゃいにゃ】
「じゃあどの夢なんだ?」
【義妹の夢のことにゃ】

 ネコの説明に公は考える。

「つまり、夢の夢の国と?」
【そういうことにゃ。『夢』と『夢』はニュアンスで聞き分けてくださいにゃ。義妹の夢はで寝てる時見る夢がですにゃ】
「俺は聞き分けられるとして、読者は?」
【気合いと根性でお願いしますにゃ】
「いや。ムリだから」
【では、話の流れから大体でいいんで読みとってくださいにゃ】
「分かりやすくはしないんだな」
【めんどくさいにゃ】
「お前も作者と一緒か!」
【あんな理不尽な存在と一緒にしてほしくにゃいにゃ!】

 抗議の声をあげるネコ。

"でもな~。今の話の流れを考えるとどう考えても作者と似たようなものだと思うんだけど"

 公はジーとネコを見た。

【夢のところまで案にゃいするにゃ】

 勝手に歩き出すネコを見ながら公は頭を掻いた。

"こうなった以上、ついていくしかないんだよな"

 諦めのため息を吐きながら公はネコのあとをついていった。
 やって来たのは1面の花畑で、その中心で夢はたくさんの動物に囲まれていた。

【にゃ~】

 ネコが鳴くと夢の視線がこちらに向いた。直後、公を見た夢は驚いたが、すぐに笑顔になると走ってきて公に抱きついた。

「お義兄さま!」

 公のお腹に顔を擦り付ける夢。その足元にやって来たネコは夢の足に体を擦り付ける。

「お義兄さまを連れてきてくれてありがとうですわ、ネコさん」
【どういたしましてにゃ】

 ネコに微笑みかけた夢はまた顔を擦り付けはじめた。

「今日はお義兄さまとデートできるだけでなく、こうして夢の中でも会えるなんて最高の1日ですわ」

 満面の笑みで見上げてきた夢の頭を公が撫でると、夢は少し顔を赤くした。

「そうですわ」

 公から離れると夢は一瞬で大人になり、公は小学生の身長まで縮んだ。

「おぉ」

"さすが夢の中。なんでもありだな"

 なんて公が思っていると夢に抱きしめられた。

「可愛いですわー!」

 現実ではどうやっても抱きしめられる側の夢なので、夢の中とはいえ、こうして公を抱きしめる夢が叶って大満足だった。
 その後はなにをするわけでもなく、夢は終始笑顔で公を抱きしめていた。


          *


 目が覚めた公が時計を見るとすでに11時。1時間も経っていないと思っていた公は少し驚いた。

 夢ってそんなものでしょ?

"作者"

 おはよう。よく眠ってたわね。

"どういうことだ?"

 どういうとは?

"夢が繋がるなんて普通あり得ないからお前の仕業だろ"

 正解~!どう?楽しかった?

"不思議な体験ではあったな。しかし、お前でも干渉できない世界があるんだな"

 私も眠れば夢の世界に行くことはできるわよ。でも、その場合はロマに執筆を任せないといけないからあまり自由にできないんだよね~。ホントならみんなの夢に入っていろいろイタズラしたいんだけどね~。

"それを聞いて安心したよ"

 公は夢を揺すって起こした。

「夢。起きろ」
「んぁ。お義兄さま………」

 寝ぼけ眼の夢は公に抱きついてニヘ~と笑った。

「どうした?」
「さっきまで見ていた夢の中で、大人になった私が子どもになって可愛くなったお義兄さまを抱きしめていたのですけれど、やっぱりこうして抱きついているほうがわたくしは落ち着きますわ」

 だったらと、公は夢を抱きしめた。

「幸せですわ」

 そう呟きながら夢は公のお腹に顔を擦り付けた。

「夢。ごめんな」
「どうしてお義兄さまが謝るのですか!?」

 夢は驚いて公を見上げた。

「少しだけ寝るつもりが、11時まで寝てしまったからな」

 一瞬ポカンとした夢だが、クスクスと笑い出した。

「なんで笑うんだ?」
「もともと今日のデートは昼から出かけようと考えていましたわ」
「そうなのか?」
「はい。ですから、お義兄さまが謝る必要はどこにもないですわ」

 ホッとした様子の公を見て、夢はまたクスクスと笑った。

「では、昨日渡した服に着替えてダイニングに来てくださいませ」
「わかったよ」

 夢が出ていったので手早く着替えを終えた公は部屋を出て違和感を感じた。なんだろうと考えながら1階に降りた時に公は違和感の正体に気づき、ダイニングに入った。

「母さん達は?」

 キッチンで昼食の準備をしていた夢に問いかける。

「義母さま達には2人っきりになりたいので外出してもらっていますわ」
「そうなんだ」
「お義兄さまは昼食ができるまでゆっくりと待っていてくださいませ」
「わかったよ」

 椅子に座った公は、料理している夢の姿を見つめた。
 公に見つめられる中、夢は玉ねぎを荒みじんにすると1センチ程の大きさに切った鶏肉とともにフライパンへ。鶏肉に火が通ったらご飯入れて塩コショウして軽く炒め、さらにケチャップを入れてチキンライスを作り、形を整えながらお皿に盛り付けた。
 次に夢はボールに卵を3つ割り入れ、よーく混ぜてからフライパンへ。箸で適度に混ぜながら半熟状態にすると、オムレツにするのではなくそのままチキンライスに乗せた。

"オムレツにして割るっていうのをやってみたい思いはありますけど、失敗する確率が高いのでムリせずにいきますわ"

 最後にケチャップでハートを描けばオムライスの完成。
 夢は早速出来上がったオムライスを公の前に置いた。

「どうぞ、召し上がれですわ」
「いただきます」

 公はオムライスを一口。

「うん。美味しい」

 公の美味しいという言葉と笑顔にホッとしつつも表情が華やいだ夢。

「夢も食べなよ」
「はいですわ」

 公の隣に座った夢はオムライスを食べ始めた。そうしてゆっくりと昼食の時間は過ぎていき、オムライスを食べ終えた公は手を合わせた。

「ごちそうさま」
「お粗末様ですわ」

 夢は食後のコーヒーを公に差し出し、自分には紅茶を用意した。

「ありがとう。それで、これからどこに出かけるんだ?」
「デパートに行って春物の小物を見に行きたいですわ」
「わかった」

 急がない2人はゆっくりと飲み物を飲んでいた。

 なんなのかしら、こののんびりとした雰囲気は。つまらないわね。

「つまらなくて結構」
「作者の都合に付き合う気はないですわ」

 熟年夫婦みたいな雰囲気だよ。

「んぐっ!ゴホッゴホッ!」

 私の熟年夫婦という言葉に反応した夢がむせた。

「大丈夫か?夢」
「だ、大丈夫ですわ」

 フッフッフ。こんな簡単に反応するなんて、まだまだだな、夢。

「作者。死んでくださいませ」

 アッハッハ。安心しろ。俺が死ぬときがお前達の命日だ!

「お前と一緒に死ぬなんて最悪だな」
「ゴメン被りたいですわ」

 でも、作者と登場人物は一蓮托生だから、どんなにイヤだと言っても死ぬときは一緒なのだよ!ハーハッハ!

「お義兄さま。そろそろ行きませんこと」
「そうだな」

 あっ。無視しやがった。

 食器の片付けを終えて家を出た2人は目的地のデパートにやって来た。

「ここの4階に小物を売っているお店があるのですわ」

 なので、エレベーターに乗ったのだが、さすがに日曜ということもあってエレベーターはぎゅうぎゅう詰めで、2人は奥に押し込まれた。

「大丈夫か?」

 壁に両手を突っ張り、夢のスペースを作る公。夢を公の体にくっつきながら頷いた。

「お義兄さまがスペースを作ってくださってるので大丈夫ですわ」
「ならよかったけど、これは4階で出れるのか?」

 ムリだろうね。

「作者。お前の嫌がらせか?」

 日曜日なんだから俺が嫌がらせしなくてもこんなもんなんだって。

「それもそうだな。すまんかったな、作者」

 いいよ。それに、このままだと話が進まないから、

 俺はエレベーターが4階に着いた瞬間に2人をエレベーターの外へワープさせた。

「こんな気前のいいことをするなんて、なにを企んでやがる?」

 公が俺を疑ってきた。そんな公の後ろでは、頬を膨らましてむくれている夢。

 おや、夢。どうしてそんなにむくれてるのかな?ニマニマ。

「なんでもないですわ!お義兄さま。行きましょう」
「え?あぁ」

 夢が公の手を引いて歩き出したので、公は俺を問い詰めることができなくなった。

「ここですわ」

 お店に着くころには夢の機嫌もなおって笑顔になっていたので、公も俺を気にするのをやめて笑顔になった。
 お店の中に入ると、早速夢はいろんな小物を見て回った。そんな中で夢が手に取ったのは青い蝶の髪飾りと赤いリボンの髪飾り。

「お義兄さま。どちらのほうが夢に似合いますでしょうか」

 男性が女性にされて困る質問がやってきましたね。さぁ、公は正しい答えを出せるのでしょうか。

 私がワクワクしながら見てると、公は蝶のほうを指さしました。

「蝶のほうが夢に似合ってるぞ」
「では、蝶のほうを買ってきますわ」
「いや」

 公は蝶の髪飾りを夢から取るとレジに行って会計を済ませ、夢の髪につけてやった。

「プレゼントだ」

 公の粋な計らいに夢は顔を赤くしながら蝶の髪飾りを触った。

「一生大事にしますわ!」

 満面の笑みを浮かべた夢は公の腕に抱きついた。

 うわ~。キザだね~。さすがシスコンの天然ジゴロだね~。

「だから、その称号やめろ!」

 ムリだよ。1度ついた称号は2度ととれないのよ。

「最悪だ」

 落ち込んだ公だが、夢とのデートの最中なのですぐに気持ちを切り替えた。

「このあとはどうするんだ?」
「あとはウィンドウショッピングをしようと思いますわ」
「そうか」

 お店を出た2人は腕を組んでいろいろとお店を見て回る中でクレープ屋さんを見つけた。

「お義兄さま。クレープ食べませんか?」
「いいよ」

 2人はレジにやって来た。

「いらっしゃいませ。なににいたしますか?」
「夢はなにがいい?」
「わたくしはチョコバナナにしますわ」
「俺はキャラメルティラミスで」
「かしこまりました。2つで1060円です」

 公がお金を払い、出来上がったクレープを受け取ってチョコバナナのほうを夢に渡した。受け取った夢は早速一口。

「美味しいですわ」

 夢の笑顔を見ながら公も一口。

「確かに美味いな」
「お義兄さま。一口どうぞですわ」

 差し出されたクレープを一口食べてから公も自分のクレープを夢に差し出した。

「お礼に一口どうぞ」

 少し照れながらも一口かじる夢。

「美味しいですわ」

 さらに笑顔になる夢。

          ☆

「あ~あ。お暑いわね~」
《マスター。ひがまないでください。みっともないですよ》
「みっともなくていいですよーだ。2人は楽しそうにクレープを食べてるし」
《微笑ましい光景じゃないですか》
「妬ましいから邪魔しにいこうかしら」
《止めてください》
「はぁ~」

 私はため息を吐いてふて腐れます。

《マスター。早く続けてください》
「15話はこれにて終了!」
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