私のための小説

桜月猫

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14話

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 土曜日。公は朝9時に問答無用のボディプレスを舞にかまされて起こされました。

「おはよう。お兄ちゃん」
「おはよう。舞」
「昨日の約束通り、今日は私とデートしてもらうからね!」

 どうしてそうなったかというと、


          ◇


 昨日の夕食時、公はハイキング合宿が月曜から2泊3日であることを伝えた。すると、舞と夢が食事の途中なのに立ち上がった。

『えぇっーーーーー!』
「2人とも、行儀が悪いわよ」

 マザーの一言で2人はすぐに着席して口を閉じた。

「そんなに叫ぶことか?」
「叫ぶことだよ」
「そうです。1週間ぶりにようやく会えたのに、また離ればなれになるなんてイヤですわ」

 公は頭を掻いた。

「今生の別れじゃないんだぞ」
「それでもですわ」
「ハイキング合宿は月曜からなんだよね?」
「そうだぞ」

 すると、舞と夢が話し始めた。そんな2人を気にしながらも夕食を食べていると、話し合いを終えた2人が公を見た。

「お兄ちゃんには土曜日は私と」
「日曜日はわたくしとデートをしてもらいますわ」

 2人の宣言に1番反応したのは薫だった。

「なんでそうなるの」
『まだ補給できていないお兄ちゃん(お義兄さま)分を補給するためです(わ)!」

 2人は胸を張って言った。

「なら久しぶりにあった私も公分が足りないからデートする」
「ダメです」

 舞は薫に腕で作ったバツマークを向けた。

「なんで?」
「お義兄さま分は妹の特権ですわ」

 納得できない薫は頬を膨らませた。

『だから、週末は私(わたくし)達とデートだよ(ですわ)』


          ◇


 というやり取りが昨日あり、公は2人とのデートをすることになったのだ。

「着替えるから下で待ってろ」
「はーい」

 舞が部屋を出ると公は昨日のうちに舞から渡された服に着替え、ダイニングに入ろうとしたが、リビングから出てきた舞が腕に抱きついてきて止めた。

「すぐに行くからね」
「朝ごはんを食べたいんだが」
「喫茶店で食べるから」
「そうなのか?」
「そうなの」
「わかったよ」

 納得した公を見て笑顔になった舞は公の手を引いてデートに出発した。
 朝食を食べるためにやって来たのは行きつけの喫茶店。

「いらっしゃい」

 初老のマスターは手をつないで入ってきた2人を見て優しく微笑んだ。

「マスター、モーニング2つ。飲み物は俺はコーヒーで。舞はオレンジジュースでいいか?」
「うん」
「了解。好きな席に座って待ってるといい」

 2人はカウンターの奥の席に座った。

「それで、どこに行くんだ?」

 今日のデートの計画は舞が全て考えたので、公はどこに行くのか知らなかった。

「モーニング食べたらゲームセンターに行って、プリクラを撮って、適当にゲームを見て回ってからお昼を食べて、映画を見るの!」

 笑顔で今日の計画を話す舞を見て、公も笑顔になっていると、少女がモーニングを運んできた。見たことない少女のことが一瞬気になった公だが、今は舞とデートの最中なので気にするのをやめた。

「マスター。さっきの少女はだ~れ?」

 マスターにあっさり聞いた舞に公は内心苦笑した。

「孫のあやだよ。今年から小説高校に入学するために私のところにやって来たんだ」
「つまり、お兄ちゃんと同級生なんだ」
「そうだな。彩」

 マスターに呼ばれた彩は2人のもとへ。

「近所に住んでる兄妹の公と舞だ。公は彩と同じで今年小説高校に入学した同級生だよ」
「公です」
「舞だよ」
「彩です」
「公はずっとここら辺に住んでいていろいろと知っているから教えてもらうといい」
「よろしくお願いします」
「同級生なんだからそんなに堅苦しくしなくていいよ」

 笑顔で微笑みながら手を差し出した公。

「癖なんです」

 彩はハニカミながら公の手を握り返した。

「そうなんだ」
「はい」

 2人がにこやかに話していると、舞が公の背中をつついた。つつかれた公が振り返ると、舞は少し頬を膨らませていた。

"自分から話の流れを作ったのに、怒るんだな"

 しかし、それを舞に言うとさらに怒らせるだけなのはわかっているので、公は彩との握手を止めると舞の頭を撫でた。

"それぐらいじゃ許してあげないんだから"

 そんな気持ちをあらわすようにツーンとしていた舞だが、少しするとすぐに笑顔でモーニングを食べ始めた。

「今日は2人でお出かけかい?」
「今日は1日お兄ちゃんとデートなんだ!」
「それはよかったな」
「うん!」

 舞の笑顔にマスターや彩は癒されていた。

「行くか」

 モーニングを食べ終わり、一息ついたので公が立ち上がると、舞は公の腕に抱きついた。

「それじゃあ、いってきます」
「いってきまーす!」
「気を付けてな」
「ありがとうございました」

 喫茶店を出た2人は次の予定のゲームセンターにやって来た。

「プリクラを撮るんだよな」
「そうだよ~」

 公の手を引きながら、舞は早速どのプリクラで撮るか悩みだした。

「俺はプリクラなんて撮ることないからわからないんだけど、それぞれの機械ごとに特徴があるのか?」
「もちろんだよ!というわけで今日はこれで撮ることにする!」

 公の手を引いてプリクラの中に突入する舞。中に入ると公がお金を入れた。そこからの操作は舞が素早く行って準備が整った。
 すると、舞は公の前に立った。

「お兄ちゃん。抱きしめて」

 舞の要望に答えて公は後ろから抱きしめると、舞は少し照れて顔を赤くしながら1枚目を撮った。
 2枚目は舞が公の腕に抱きついて2人でピースしながら撮り、3枚目は頬をくっつけあいながら撮った。

「最後はどうするんだ?」
「お兄ちゃんはさっきのままでいて」

 舞の指示通り少し腰を落として待っていると、舞はタイミングを見計らって公の頬にキスをした。
 突然のことに少し驚きつつも、公は舞を見た。舞は自分から仕掛けたくせに顔を真っ赤にしていた。

「あ、あとはラクガキするだけだよ」

 逃げるように素早く出ていった舞を追って公も外へ。

「ここでスタンプを押したり文字を書いたりしてラクガキするんだよ」
「へぇ~」

 公は舞にラクガキを任せて見守った。少ししてラクガキも終え、出来上がったプリクラを半分にした舞は片方を公に渡した。

「えへへ~」

 まだ照れが残っているのか、顔を少し赤くしながらハニカんだ舞は、それでも公の腕に抱きついてUFOキャッチャーのコーナーにやって来た。

「なにかいいものあるか?」
「う~ん」

 ここでもプリクラの時同様に悩みながらいろいろと見ていく舞。そんな中、舞の目にとまったのは巨大なテディベアが入ったUFOキャッチャー。

「これが欲しい!」

 公は景品の巨大なテディベアを見ながら悩んだ。

"取ってあげたいが、この手の景品は取りづらいんだよな~。しかし、今日はできるだけ舞の希望は叶えてあげたいからな"

 このUFOキャッチャーは200円で1回、500円で3回できるUFOキャッチャーなので、公は500円を入れた。

"2回で少しずつ動かしていって、最後の1回で取る"

 というわけで、1回目と2回目でちょっとずつ穴のほうへ近づけ、ラスト1回。
 正面、さらには横からしっかりと見て狙いを定めてボタンを押した。
 降りてきたアームはしっかりとテディベアを掴み上げ、穴まであと少しという時に機械が揺らされてテディベアが落ちた。

「なっ」

 驚きながら公が周りを見ると、4人の不良が周りを囲んでいたので舞を背中に隠す。

「おやおや。惜しかったね~」

 機械を揺らした不良がニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。

「あと1回すれば取れそうだし、彼女を貸してくれたら200円あげるぜ」
『ギャハハハハ!』

 下品な笑い声に怯え、舞か公の背中に抱きつく。

「そんなに怯えるなや。俺達と一緒に来たら気持ちいいことしてやるからさ」

 こんな不良達と話す気などない公は、早く舞を安心させるために行動を起こそうとした。その時、「パン!」という音が4回鳴り響き、不良達は頭を抱えてうずくまった。

"この光景、10話で見たよな"

「なにやってんねん」

 声のほうへ公が向くと、10話の時と同じ格好の人がハリセンで肩を叩きながら立っていた。

「人様に迷惑かけるなってゆってるやろ」
「うるせーて「パン!」イテッ!」
「こいつらが迷惑かけてすまんかったなって、あれ?確かこの前の小説高校での騒ぎの時に雪をかばってた少年やないか」
「どうも」

"あの時、挨拶とか自己紹介とかしたわけじゃないのによく覚えているな"

 軽く頭を下げながら公は感心していた。

「それで、とりあえず絡まれてるみたいやから乱入したが、どういう状況なんや?」

 首を傾げる人に苦笑しながら状況を説明する公。公の説明を聞いた人は不良達の頭を再度ハリセンで叩いた。

「ほら、200円出し」

 人が不良に向かって手を出すと、不良は素直に200円を人に渡した。人は受け取った200円をUFOキャッチャーに投入するとあっさりテディベアをゲットした。

「ほら」

 人はゲットしたテディベアを舞に渡した。

「え?いいんですか?」
「いいって。邪魔したこいつらが悪いんやし」

 人は逃げようとしている不良達にハリセンをくらわして悶絶させる。

「それに、せっかくの楽しいデートを邪魔した償いやから受け取ってほしんやけどあかんか?」

 その言葉を聞いた公は舞の頭を撫でた。

「ありがたくもらおう」
「うん。ありがとうございます」

 舞がお礼を言うと、人の口元は微笑んだ。

「それじゃあ、邪魔者は消えるわ」

 人は不良達の襟を掴むとそのまま引きずって去っていった。その後ろ姿を見送ってから舞は公を見た。

「お兄ちゃん。あのヒーローさんは知り合いなんですか?」

 舞のヒーローという言葉に公は笑い出した。

「知り合いじゃないな。しかし、『ヒーロー』か」
「お兄ちゃん?」
「次行くか」
「うん!」

 昼食はファミレスで済ませ、やって来た映画館。

「アニメ映画見るのか?」
「今日は今話題の恋愛映画を見るの」

 舞が指差したのは、テレビで大々的に宣伝されている恋愛映画のポスター。

「わかったよ。ポップコーンとジュースは買うだろ?」
「もちろん!」

 2人はチケットとポップコーンとジュースを買って中に入ると席に座った。少しして上映が始まったのだが、半分もいかないうちに舞は眠りの底に落ちていった。

 お子さまだから仕方ないか。この手の恋愛映画はまだ早すぎたんだな。

"久しぶりというか、この14話では初めて出てきたな、作者"

 そうだね。出る機会がなかったというか、出るに出れなかったんだよね。

"どういうことだよ"

 これが桜や薫相手のデートなら無茶苦茶にしてやろうと出まくってたんだけど、相手が舞だからね。下手に出て邪魔をするとマジ泣きされそうじゃん。さすがに子どもの涙はキツイじゃん。

"さっきから子ども扱いしてるけど、舞は中3だからな"

 でも心は穢れのない純粋無垢な子どもじゃん。そんな子を泣かすのはさすがに躊躇われるんだよね~。だからおとなしくしてたの。

"まぁ、おかげでゆっくりできたから俺としては楽でよかったけどな"

 上映が終わったので、公は舞とテディベアを背負って映画館を出た。

"これからもこれぐらい静かに執筆に専念しねーか?そしたらこの小説も少しはマシになるんじゃねーか?"

 そんなことをしたら俺のアイデンティティが消えてなくなってしまうじゃねーか。

"お前のアイデンティティなんで消えてなくなってしまえ"

 イヤだね!俺はこれからも自由気ままにやっていくぞー!

 俺の宣言にため息を吐いた公は帰路につくのであった。
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