私のための小説

桜月猫

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5話

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 教室に戻ってきた公は自分の席に座って向日葵先生の言葉を待った。

「改めて、これから1年このクラスの担任をする向日葵です。ヨロシクね」

 向日葵が自己紹介を終えて微笑むと、公や蛍を含めた1割の男女は拍手をし、朧月を含めた6割の男女がぽけーとなり、庵を含めた2割の男女は「ズキュン」と撃たれた胸を押さえて机に倒れ伏した。

 いやはや。自己紹介だけでこのザマだと、先がおもいやられるね~。

"おい、作者" 

 なに?

"残り1割はどこいったんだよ。割合が合わねーじゃねーか"

 残り1割なら昇天しちゃったからね~。もうこの世には………うぅっ。

"ちょっと待て!なにいきなり生徒を殺してるんだよ!"

 殺ったのは僕じゃない!

"お前が生きているって書けばいいだけの話だろが!"

 そうだった!

 復活した残り1割の男女も拍手を始めた。

「それじゃあ、今度はみんなに自己紹介をしてもらいましょうか。というわけで、窓際の1番の君からおねがい」
「はい!」

 勢いよく立ち上がった少年は自己紹介を始めた。それからテンポよく窓際の1列の自己紹介が終わり、次は公の番だ。

「○○中からやって来た公です。よろしく」
「そんな自己紹介じゃダメだぜ!」

 そう言って立ち上がったのは次の庵。

「もっと派手に自己紹介はしなっ!」
「お前はうるさすぎ」

 立ち上がった朧月が庵の頭を叩いた。

「なにしやがる!」
「だから、うるさいって」

 今度は強めに叩いて庵を黙らす朧月。

「俺は朧月でこっちのうるさいのが庵。同じ○○中出身なのでよろしく」
「おい!勝手に俺の自己紹介まで終わらすな!」
「お前の自己紹介は長いからめんどくさいんだよ」
「テメー!ちょっとこっち来い!」

 庵は朧月を連れて教壇に立った。


          *


 いつの間にか教壇が舞台に変わり、教卓があった場所にはマイクが立っていた。

「まさか入学早々やるとは………」

 朧月は盛大にため息を吐いた。そんな朧月の脇を肘で突く庵。

「わかったよ」

 気持ちを切り替えた朧月は笑顔を浮かべて喋りだす。

「どーもコーンビーフです」
「賞味期限は昨日」
「切れてるやないかい!」

 庵のボケにすかさずツッコむ朧月。

「だから俺達の漫才はウケない」

 泣き真似を始める庵。

「やってみないとわからないだろ」
「わかるさ!」

 庵は朧月を睨み付けた。

「なんでだよ」
「賞味期限の切れたコーンビーフは犬のエサにもならないんだよ!」
「缶詰のコーンビーフの話になってるじゃねーか!」

 朧月は庵の頭を叩く。

「だから俺達の漫才はウケないんだよ!」
「どこをどう繋げたらそうなるのかがわかんねーよ!」
「お前が昨日気づいていれば!」

 胸ぐらを掴みかかってきた庵の頭をアイアンクローで掴んで引き剥がす朧月。

「昨日気づいてたらどうにか出来てたのか?」
「美味しく頂いてたさ」
「それは缶詰のコーンビーフの話であって俺達の漫才の話じゃないだろが!」

 アイアンクローを離した直後、朧月は庵の頭を叩いた。

「俺達の漫才は賞味期限が切れた時点でもうウケないんだよ!」
「俺達の漫才がウケるかウケないかは俺達の腕次第でどうにでもなるだろ!」

 朧月が庵の肩を掴んで前後に軽く揺らすと、庵はハッとした表情を浮かべた。

「そうか」
「やっと分かってくれたか」
「賞味期限が切れたコーンビーフでも調理をすれば美味しく頂くことが出来るじゃないか!」
「結局は缶詰の話になるんかい!」

 朧月は少し強めに庵の頭を叩くが、庵は気にした様子もなく舞台袖の方へ行こうとしたので朧月は慌てて庵の腕を掴んで止めた。

「おい!どこ行くつもりだ!?」
「早く家に帰ってコーンビーフを調理するんだ!」
「漫才終わってからでもいいだろが!」

 すると、振り返った庵は朧月の手をはらってまっすぐに朧月を見つめた。

「バカ言うな!こうしてここで1秒過ごすたびに家にあるコーンビーフの賞味期限切れはどんどんひどくなっていくるだぞ!」

 庵の思いを真正面から受け止めた朧月は庵の頬にビンタをくらわした。ビンタをくらった庵はその場に倒れこむ。

「元々の賞味期限が長い缶詰の賞味期限が1日過ぎたぐらいで味にそんなに差が出るわけねーだろ!」
「そうなのか!?」

 ビンタされた頬をおさえながら驚きの表情で朧月を見上げる庵。

「そうだよ。だからちゃんと漫才をしよう」

 朧月が差し出した手を掴んで立ち上がった庵は頷いた。

「分かってくれたか」

 朧月がホッとしていると庵が手を上げた。

「どうした?」
「漫才の内容を忘れました」
「なんでやねん!」
『どうもありがとうございました』

 2人が頭を下げると盛大な拍手が巻き起こった。


          *


 2人の漫才が終わると舞台は教室に戻っていた。

「こんなオモシロイ漫才が出来る2人なんで仲良くしてな」

 最後に庵がそう言うと2人は席に戻り、自己紹介の続きが始まった。
 蛍をはじめ、全員の自己紹介が終わると向日葵先生は連絡事項を話始めた。

「明日、いきなり実力テストを行います」

 すると、全員からブーイングや悲鳴が巻き起こった。

「静かに」

 しぶしぶ静かになった生徒達に向日葵は微笑みかける。

「大丈夫よ。この実力テストは成績には関係ないから」

 その言葉にホッとする生徒が多数いたのだが、

「その代わり、点数が悪いとその教科の先生に目をつけられるでしょうけど」

 向日葵のこの言葉で再度悲鳴があがった。

「なので、明日からお昼の準備は忘れずにしてきてね」

 一部の阿鼻叫喚している生徒をスルーして向日葵先生は注意事項を話した。多分、毎年のことなので気にしていないのだろう。

「明日の実力テストが終わったら明後日からは普通に授業が始まるので、忘れずに教科書とノートは持ってきてね」
「先生」
「なにかな?蛍くん」
「時間割を貰ってないのですけど」
「そうだった」

 向日葵先生は時間割表と校内の地図を配っていく。

「音楽や体育などの移動授業はその地図を見て移動してね。あと、購買の場所も書いてあるけど、慣れないうちは行かないことをオススメするわ」
「やっぱり購買は戦争なんですか?」

 朧月の問いに向日葵先生はブルッと体を震わせた。

「戦争、というより地獄絵図と言った方がしっくりくる光景ね」

"一体どんな購買なんだよ"

 2話の戦争よりヒドイ状態だよ。

"あれ以上ってここのお昼の購買はどんなんだよ!"

 それは見てのお楽しみかな~。

"そんなところに行きたくなんてないな"

 そのうち私が無理矢理連れていくから大丈夫!

"なにが大丈夫だよ!全然大丈夫じゃねーじゃねーか!"

 ホントに大丈夫だって軽く死ぬだけだから。

"まったく大丈夫じゃねーよ!"

 え~。瀕死であってホントに死ぬわけじゃないのに~。

"瀕死の時点で十分ヤベーじゃねーか!そんな場所ぜってー行かねーからな!"

 はぁ。わがままだな~。

"お前がそのセリフを言うな!"

 まぁいいや。今は行かないってことにしとくよ。

"そうしといてくれ"

「なにか質問ある人はいる?」
「はいはい!」

 真っ先に手を上げたのは庵だ。

「はい。庵くん」
「先生って彼氏はいるんですか?」
「今はいません」

 その答えに庵はガッツポーズをし、他の男子も何人かは騒いでいた。

「でも、生徒と付き合う気もないからね」
「え~!いいじゃないですか!」

 引き下がろうとしない庵の言葉に公が振り返ると、朧月と目があった。出会ってまだ3時間と経っていないのに、アイコンタクトだけで朧月のやろうとしていることが理解出来た公は小さく頷いた。
 公の頷きを見た朧月は庵の椅子を蹴りこんで強制着席させる。そのタイミングで公は庵の机を押し込んでサンドしてやる。

「ぐぇ!」

 悲鳴を上げた庵は机に倒れ伏し、静かになった。

「え~と………」
「続きをどうぞ」

 戸惑っている向日葵先生に続きを促す朧月。

「じゃあ、他に質問ある人」
「そのスタイルと美貌を維持するためにどんなことをしていますか?」

 女子の問いに女子達が向日葵先生の答えを待った。

「そうね。適度な運動と肌や髪のお手入れ、あとは食生活に気をつけているかな」

 女子達から「やっぱりか~」とか「それぐらいしないとダメよね」などの声があった。

「それじゃあ、最後の質問にしましょうか。なにか聞きたいことある人」

 向日葵先生はどこまで経験したことがありますか!

"おい!作者!なんて質問しやがる!"

 公の心の声とは違い、クラスメート達は向日葵先生の答えを興味津々に待った。

「ご想像にお任せします」

 全く動揺せずに答え、そして優雅に微笑む向日葵先生。

 向日葵先生は処女です。乙女チックな向日葵先生はファーストキスすらまだです。小・中・高と女子校なので男性にもあまり慣れていません。そして、今年教師になったばかりなのに即担任を任されたので、今も緊張しっぱなしで心臓バックバク。

「さ、作者!」

 私の勝手なカミングアウトに向日葵先生の大人の余裕が完全に剥がれ落ち、顔を赤らめてあたふたしはじめかと思うと叫んだ。

「勝手に私の個人情報暴露しないでよ!」

 3話の蛍の時もそうだけど、『余裕です』みたいな態度をとられるといじめたくなっちゃうんだよね~。

「なぁ作者」

 なに?公。

「お前ホントはドMじゃなくてSだろ」

 どうしてそう思うの?

「蛍や向日葵先生の時、あと2話の戦争の時とかの言動が完璧にSだからだよ」

 なるほど。でも残念。作者にはボーダーなんてないんだよ!だから、男でも女でもSでもMでも大人でも子供でもある!様々なものに対してボーダーレスな完璧な存在こそが作者という存在なんだよ!わかったかな?

「あぁよくわかったよ」

 わかってくれて嬉しいよ。

『作者が完璧な変態だってことがな!(ね!)』

 え~。

 向日葵先生を含んだクラス全員からの完璧な変態認定に私は不満の声を上げた。
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