私のための小説

桜月猫

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4話

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 向日葵先生の誘導に従って体育館にやって来た3組は、決められた席に座った。
 体育館の中にはすでに在校生と保護者が入っていて、新入生も半数くらい席に座っていた。それから続々と新入生が入ってきて席に座り、新入生が全員席に座ったのを確認した司会者が話し始めた。

「それでは○○年度、小説高校入学式を始めたいと思います。一同、起立」

 声にあわせて全員が立ち上がる。

「礼」

 頭を下げて1・2・3秒。全員が顔を上げたので、

『着火』

 直後、舞台で「ドン!」という音とともに火花が舞い上がった。その光景に驚きと困惑でフリーズして固まる一同とその姿を見て笑う俺。

 ドッキリ大成功!

 喜んでいると司会者が我に返った。

「ち、着席」

 一部フリーズ状態から返ってきていない人もいるが、全員が着席したので司会者は進行を続ける。

「次は校長の挨拶です」

 舞台袖からやって来た校長は口髭を生やしたおじさんではなく若い女性。しかし、なぜか口元にはつけ髭。

「ホッホッホ。新入生諸君。ようこそ、我が小説高校へ。お主達はこれから3年間、この高校で先生達から、先輩達からたくさんのことを学び、成長していくじゃろう。じゃが学んで成長したことをお主達の中だけで止めず、同級生や来年から入ってくる後輩達に積極的に繋げて多くの繋がりを持ってほしいのじゃ。そうして得た繋がりはさらに様々な繋がりを作り、お主達の成長にも繋がるじゃろう。そうして一回りもニ回りも成長した姿を卒業式に見せてほしいの。そしてその先、お主達の目指す未来へこの高校から突き進んでほしいのう」

 いいことを言っているはずなのに、ツッコミどころが多過ぎて話が入ってこない一同。しかも、せっかく火花のドッキリから立ち直ったのに再度フリーズしてしまう人が多数いた。
 それを見てニヤニヤした校長は、口ひげを撫でながら「ホッホッホ」と笑い、舞台袖へと歩きだした。
 なんだかビックリ対決で負けた気がするのでボタンをポチっとな。
 俺がボタンを押すと校長の足元の床が開き、落とし穴に落ちていった。

 よし!邪魔者成敗!

 気分がスッキリしたので入学式を先に進めよう。
 我に返った司会者は進行を再開した。

「え、え~と、次は在校生代表挨拶。生徒会長、夏」
「ひゃい!」

 夏の1言で軽くざわめく。そんな中を夏は手と足を一緒に出しながらステージに上がった。その夏の姿と身長にさらにざわめく。
 演台までやって来た夏なのだが、その姿は演台で隠れて頭の先しか見えない。すると見えていた頭の先すら見えなくなったかと思えば、夏が台に乗ったことで今度は顔が見えるようになった。

「ちんにゅうちぇいにょみにゃちゃん、ぎょにゅうぎゃきゅおみぇぢぇちょうぎょじゃいみゃしゅ。きょりぇきゃりゃちゃんにぇんきゃんにょぎゃっきょうしぇいきゃつにょにゃきゃぢぇ、きゃにゃちいきょちょやきゅりゅちいきょちょみょありゅぢぇちょう。ちきゃち、ちょにょようにゃちょきじぇもみゃきゃみゃちょいっちょににゃらにょりきょえりゅきょちょぎゃぢぇきりゅぢぇちょう。みにゃしゃんには、きょりぇきゃりゃしゃんにぇんきゃんにょにゃきゃじぇしょにょようにゃにゃきゃみゃをちゃきゅしゃんちゅきゅっちぇふぉちいちょおみょいみゃしゅ。じゃいきょうしぇいぢゃいひょう、しぇいちょきゃいちょう、にゃちゅ」

 最初から最後まで噛みに噛んで噛み潰し噛み倒し噛みきった夏。いいことを言っているはずなのに誰1人として理解出来た人はいないだろう。
 ちなみに普通に読むとこうなる。

「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。これから3年間の学校生活の中で、悲しいことや苦しいこともあるでしょう。しかし、そのようなことでも仲間と一緒になら乗り越えることができるでしょう。皆さんには、これから3年間の中でそのような仲間をたくさん作ってほしいと思います。在校生代表、生徒会長、夏」

 これをよくあんなに噛みきれたもんだと逆に感心してしまう。
 そして、夏のあの噛みきったセリフを声に出して普通に読みきれる人はほぼいないだろう。

 俺には無理だ。

 顔を赤くしながらも噛み噛みながらも言いきった夏は最後に一礼したのだが、マイクに頭を勢いよくぶつけてのけ反り、そのまま後ろに倒れてしまった。
 そうなることを予測していたのだろう。秋と廻が担架持って舞台袖から出てきて、素早く夏を乗せて舞台袖に消えていった。
 静寂に包まれる体育館。しかし、すぐにみんなの心の中に1つの感情が芽生えた。

"可愛いー!"

 それとは別に公・桜・楓・暁は朝の夏との会話を思い出していた。

『2年の私が生徒会長をしているのははめられたからよ』

"なるほど。この可愛さを見れるならはめてでも生徒会長をさせたいと思うよな~"

 公達4人は納得していた。

「え~と、最後に特別ゲストからの挨拶があります」

 司会者の言葉で俺はステージ上に出現する。

「さて、新入生諸君。まずは入学おめでとう。そしてこの年に入学できたことを感謝するといい。なぜなら、今年からこの学校は俺の物語の1部になったからだ。これからこの学校では様々なおもしろいことが俺によって起きる。この学校だけじゃない。この世界のどこでも物語は展開されていくから保護者や教職員もどんどん参加させるから楽しむといい。じゃあな」

 俺が消え去るとあとに残るのはポカーンとした空気だけ。

「え、えっと、これにて入学式を終わります。新入生の皆さんは担任の指示に従って教室に戻ってください。保護者の皆さんは入学式にご出席いただきありがとうございました。お気をつけてお帰りください」

 司会者の言葉で止まっていた時が動き出した。


          ◇


 ところかわって保健室。
 ここにいるのはもちろん秋と廻によって運びこまれた夏と運びこんだ秋と廻。
 その夏はというと、気絶からは目覚めたのだが、ベッドの上で体育座りで落ち込んでいた。

 まぁ、あれだけの人の前であれだけ噛み倒したのだから仕方ないわね。

 夏の弱点の1つがあがり症だ。

「なっちゃん」

 秋が夏を包み込むように抱きついた。

「だからイヤだったんですよ………。なのにみんなが無理矢理私を生徒会長にするから………。絶対みんなおかしな生徒会長って思ってるよ………」

 泣きそうになる夏の頭を撫でて慰める秋。

「大丈夫よ。スッゴく可愛かったから」
「あんなに噛み噛みで可愛いわけありませんよ」
「いや。体育館にいた全員が夏のことを可愛いと思っているはずだぞ」

 窓にもたれかかり、腕を組んでいる廻へ少し睨む視線を向ける夏。

「どうしてそう言えるの?」
「だって、そう思ってるからこそお前をはめてまで生徒会長にしたんだからな」

 それでも納得のいかない夏の中にふつふつと怒りがわいてきた。

「もともとは秋先輩が悪いんですよ!」

 秋の抱きつきから抜け出した夏は距離をとって威嚇しはじめた。

「あら、私が悪いの?」

 秋が廻に視線を向けた。
 1番の原因が秋なのは確かだが、それに同調して一緒に夏をはめたので否定も肯定もせずに苦笑した。
 廻の苦笑に秋は困ったようにため息を吐いた。

「秋先輩が計画を主導していたのは知っているんですからね!」
「えぇ。そうよ」

 秋があっさりと認めると夏の威嚇が強くなった。

 こうなったら戦うしかないわね。


          *


 夏と秋が立つのは格ゲーの画面の中。画面上部には2人の名前とHPバー。ステージは荒れた洋館の大広間。勝負は2KO先取。

「もう我慢なりません!」
「ふふっ。相手になるわ」

 両者が向き合った。

 Round1!

 夏は構えたが、秋はノーガード。

 Fight!

 先手をとるために動いたのは夏。開始直後に走り出した夏は一気に間合いを詰めて近づいた。
 秋は夏が自分の間合いに入ってきた瞬間に拳を繰り出すが、夏は頭を下げて簡単に避ける。そして、秋にさらに接近すると、両手を突きだしてお腹に打ち込んで秋はぶっ飛ばし、壁にぶち当たった。
 そこへ追撃のために迫った夏は拳と蹴りを混ぜた連撃をくりだすも、秋がガードを固めているためダメージは通らない。
 なので夏はガードしている腕を掴んで引き寄せると掌底をお腹に1発打ち込んでガードを崩すと再度連撃。そのままじわじわと秋のHPを削り、

「これで終わりです!」

 止めの蹴りを打ち込むと、秋は「キャーーー!」という悲鳴とともに倒れた。

 KO!

 画面が変わると夏と秋は向かいあっていた。

 Round2!

 夏は構えたが、また秋はノーガード。

 Fight!

 先に仕掛けたのはやっぱり夏。しかし、さっきとは違ってゆっくり間合いを詰めていく。そして、秋の間合いまであと1歩まで来た瞬間、秋が動き出した。
 自ら間合いを一気に詰めて掌底からの回し蹴り。さらに唐突なことに反応出来ずにいる夏の腕を掴んで背負い投げ。
 慌てて起き上がる夏の足をはらって再度倒すと前宙からのかかと落としでふっ飛ばす。
 秋は攻撃の手を休めず、立ち上がった夏に接近すると掌底で顎をかちあげて夏を空中に浮かした。直後に飛び上がった秋は逃げ場のない空中で夏をめった打ちにしてからかかと落としで地面に叩きつける。
 これで決着かとおもいきや、夏のHPは少し残ったのだが、秋の落下の勢いがのったキックをくらってHPを削りきられた。

 KO!

 1戦目は夏が、2戦目は秋が相手を一方的に倒し、泣いても笑っても最終ラウンド。

 FinalRound!

 最終ラウンドとあって秋も構えをとった。

 Fight!

 2人は同時に飛び出し、拳と蹴りをぶつけ合わせて相殺していく中、夏が秋の攻撃を避けて掌底をお腹に打ち込み、そこから蹴って殴って回し蹴りをくらわしてダメージをあたえる。
 しかし、秋も負けておらず、すぐさま殴りかえしてから投げ飛ばしてダメージをあたえる。
 その後も一進一退の攻防が続いたが、夏が勝負を決めにかかった。

「必殺わじゃ!」

 盛大に噛んだ夏はしゃがみこんでぷるぷる震えだす。

「大丈夫?」

 さすがに心配になって近づき手を伸ばす秋。
 次の瞬間、夏の目が光ったかと思うと秋の手を掴んで立ち上がり、肩・胸・お腹と殴り、腰・太腿・ふくらはぎと蹴ってから足をはらって仰向けに倒すと、

「トドメです!」

 秋の顔に向けておっぱいボディプレスをくらわして秋のHPを削りきる夏。

 KO!夏Win!

 立ち上がった夏は笑顔で拳を突き上げた。

「やりました!」


          *


 保健室に戻ってきた2人。
 秋は笑みを浮かべながらベッドに寝転んで気絶しており、夏は清々しい表情で保健室を出ていった。
 夏が出ていった扉と気絶している秋を見た廻は苦笑してから夏を追って保健室を出た。
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