私のための小説

桜月猫

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122話

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 公は薄暗い部屋の中で目を覚ましました。

「ここは………」

 天井を見上げながら呆然としていた公はふと思いました。

「みんなは?」

 起き上がった公が回りを見回すと、隣で寝ている夏以外の姿はありませんでした。
 それを確認した公は頭を掻いてから一息吐くと、夏を起こすために揺すりました。

「夏先輩」
「うぅん」

 夏は少し反応をしましたが、まだ起きません。

「夏先輩。起きてください」

 再度公が夏を揺すると、起きた夏が背伸びをしました。

「ふぁ~」

 まだ寝ぼけ眼の夏は周囲を軽く見回し、そして公の顔をジーっと見つめました。

「あ~、公くんだ~」

 にへ~と笑った夏は公に抱きつきました。
 しかし、徐々に寝ぼけた頭が覚醒しはじめると、夏は顔を赤くして公から離れました。

「なんで公くんが私の部屋にいるの!?」

 鉄板の間違えをしてくれる夏を公は微笑ましく見ていました。

「なんで笑うのよ!」

 夏はプンプン怒りだしました。

「夏先輩。回り見てみてください」
「回り?」

 夏は回りを見回すと、さらに顔を赤くしました。

「思い出してくれましたか?」
「う、うん。廃病院に来てたんだね。アハハ」

 苦笑しながら夏は恥ずかしそうにしていた。
 そんな夏を微笑ましく見ながら公は立ち上がりました。

「夏先輩。立てますか?」

 公が手を差し出すと、夏はその手に掴まって立ち上がりました。

「ここにいるのは私達だけなの?」
「そうみたいですね。エレベーターで気を失って別々の場合と連れてこられたみたいです」

 エレベーターのことを思い出したのか、夏はプルプル震えだし、公の手をギュッと握りました。
 公が夏の手を握り返すと、夏は少し落ち着いたのか、震えも治まりました。
 それを見て微笑んだ公は、改めて回りを見回しました。
 出入口であろう扉が1つあり、その向かい側の壁には少し大きな引き出しのようなものがたくさんありました。
 その引き出しのようなものに公はイヤな感じをおぼえました。

「とりあえず、ここを出てみんなを探しにいきましょうか」
「そうね」

 2人が扉のほうへ歩きだした瞬間、背後から「ドンドン!」という音が聞こえてきました。

「キャーーーーーーーーーー!!」

 叫び声をあげた夏は、腰が抜けて座り込んでしまいました。
 今回のことは公も驚き、バッと振り返りました。
 すると、また「ドンドン!」という音が引き出しのほうから聞こえてきました。

『…………………』

 夏は公に抱きついて固まり、公もなにも言わずに引き出しを睨み付けました。

「ドンドン!」

 まだ音は鳴り続けています。

「夏先輩」

 公が夏に声をかけるも、夏は公にしがみついたまま反応しません。

「夏先輩」

 公はしがみついてきている夏の肩を軽く揺すると、ようやく夏から反応が返ってきました。

「な、なに?」
「とりあえず離れてくれませんか?」
「えっ………」

 突き放すような公の言葉に夏はこの世の終わりのような表情で公を見上げました。
 そんな夏を安心させるように微笑んだ公は、理由を説明しました。

「抱きつかれているとおんぶできませんから」
「あ………」

 理由を聞いた夏は、静かに頷くとゆっくりと公から離れました。
 なので公は夏の前にしゃがみこみました。
 すると、夏は公の背中にしがみつきました。
 それを確認した公は立ち上がり、そして音のする引き出しへと近づいて行きました。

「こ、公くん!い、行くの!?」

 まさかの公の行動に、夏は戸惑いの声をかけながら公の背中で震えだしました。

「はい」
「な、なんで!?」
「確認しといたほうがいい気がするんです」

 公がどんどん引き出しへ近づいていくと、夏の震えがどんどん大きくなっていきます。
 そして、とうとう引き出しの前にやってきました。

「ドンドン!」
「ひっ!」

 夏は震えながら公の背中に隠れて必死にしがみつきました。

「ふ~」

 大きく息を吐いた公は引き出しに手をかけると、一思いに引き出しを引くとなにかが飛び出してきて床に落ちました。

「!!!」

 驚いた公は飛びのいて落ちたものと距離をとり、落ち着いてから確認をしました。
 引き出しから飛び出してきて床に落ちたものはぶるぶる震えている廻でした。

「………………」

 まさかの廻の登場に公は戸惑っていましたが、ゆっくりと廻に近づきました。

「よ、よう、公」
「廻。なんでそんなところにいるんだ?」

 公は純粋な疑問を廻に問いかけました。

「鬼に捕まったらアイマスクをつけられてここに閉じ込められたんだよ」
「あぁ。それは御愁傷様だったな」

 公が手を差し出すと、廻はその手を握って立ち上がりました。

「もう!驚かせないでよね!廻!」

 音の原因が廻とわかった夏は、公の背中から廻に文句を言いました。

「俺のせいじゃないっていうか、居たんだな、夏。っていうか、まだおんぶされてるんだな」

 夏が怒っていることなど気にしていない廻はニヤニヤしながら夏を見ると、夏は廻を睨み返しました。

「1度は治って立ってたわよ!」
「じゃあなんでまたおんぶされてるんだよ」
「だから!それは廻のせいよ!」

 怒っている夏の代わりに公が説明を始めました。

「さっき廻がドンドン音たててただろ」
「あぁ。声が聞こえたから助けてもらうためにな。あそこ、中から開けれないんだよな」
「そうなんだ。で、その音に驚いて夏先輩はまた腰を抜かしちゃたんだよ」
「あぁ~」

 納得した廻は夏を優しい目で見つめると、夏は公の背中に隠れると恥ずかしくて公の背中をぽかぽか叩き始めました。

「じゃあ、他の人がどこにいるかわからないんだな?」

 夏のために公は話を変えました。

「そうだな。鬼に捕まってからずっとここにいたからな」
「なら、一緒に探すか」
「そうだな」

 公と廻は頷きあって部屋を出ました。
 その間も夏は公の背中をぽかぽかと叩き続けていました。
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