私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
117 / 125

116話

しおりを挟む
 テンションマックスの廻がバッターボックスに入った瞬間、

「ピッチャー、ピッチングマシンに代わりまして砲丸選手」
「はい?」

 おかしな選手交代のアナウンスに思わず固まった廻。

「なんだって?」

 聞き間違えかと思った廻はウグイス嬢に対して聞き返した。

「ですから、ピッチャー、ピッチングマシンに代わりまして砲丸選手、と言ったのです」
「砲丸選手、だと?」
「えぇ」

 廻が頭を悩ませていると、ピッチングマシンが下に下がっていき、ピッチャーマウンドがもとにもどると、ベンチからムキムキの砲丸選手が砲丸を持って出てきた。
 その光景に廻が再度固まっていると、キャッチャーと審判が揃って後ろに1メートル程下がった。
 そんな2人の行動に、廻は固まりから帰ってくると離れた2人を見た。

「なんでそんなに離れるんだよ」
「もちろん安全のためだからだ」

 審判のその言葉に廻は不安しかなかったが、とりあえずバットをかまえた。
 すると、砲丸選手はいつもの砲丸投げのフォームから気合いの叫びとともに砲丸を投げた。

「そんなのありかー!」

 おもいっきり叫んだ廻の前を砲丸が通りすぎ、1メートル程後ろに下がったキャッチャーの前に「ドスン!」と落ちた。

「ストライク!」
「タイム!」

 審判のコールの直後にタイムをかけた廻はベンチに戻った。

「なぁ、あれ打てると思うか?」
「ムリだろうな」
「砲丸の重さにスピードもそこそこあるしね」
「金属バットだから折れることはないだろうけど」

 みんなは苦笑しながら意見を言っていくと、聞いた廻はため息を吐きながら頭を掻いた。

「だよな~」

 廻は金属バットを見つめた。

「やれるだけやってみるしかねーか」

 またため息を吐いた廻はバッターボックスに戻った。そしてバットをかまえると、砲丸選手を見つめた。
 砲丸選手が投げた2球目。
 砲丸投げなので、球種はストレート一本だし、コース・スピードも変わらないので廻は簡単にバットに当てたのだが、「ゴチン」という鈍い音を響かせただけで全くといっていいほど飛ばずに砲丸は落ちた。

「イッテー!」

 砲丸を打ったことで手が痺れて痛みが走った廻は叫んだが、とりあえず打ったので一塁へ走り出した。
 それにあわせて中二もホームを目指したが、すでに砲丸を持ってキャッチャーがベースを踏んでいるので当然アウト。
 その後、キャッチャーは砲丸を抱えたまま動こうとしなかったので裁がバッターボックスに入った。
 そんな裁に対して投げられた初球を裁はセーフティスクイズでファースト線へ転がそうとしたが、砲丸は全く転がらなかった。
 なので、スクイズは失敗で2アウト満塁と状況は一気に悪くなった。

「追い込まれましたね」
「そうね」
「でも、さすがにあれは打てないよ~」

 公達は必死になって打開策を考えた。

「そうだ!」

 なにかを思いついた秋が審判のもとへ駆け寄っていった。
 公達が不思議そうに見つめる中、なにか会話をしはじめたのだけれど、話していくうちに審判のほうが戸惑いはじめていた。
 そして、話を終えた秋が笑顔で帰ってきた。

「なにを話していたのデスカ?」
「それはすぐにわかるわよ」

 秋がウィンクした直後、

「バッター、朧月に代わりまして夏」
『…………………………。えっーーーーーーーーーーーー!』

 みんなの驚きの表情を見ながら秋は笑顔で頷いていた。

「秋先輩!私あの砲丸を打つなんてムリですよ!」
「そんなの当たり前じゃない」

 つめよってくる夏にあっけらかんと言う秋。

「だったらなんで代打が私なんですか!」
「なっちゃんは立ってるだけでいいのよ」
「立ってるだけじゃ負けちゃうじゃないですか!」
「いいから」

 秋は夏にヘルメットをかぶせてバットを持たすと強引にバッターボックスに立たせた。

「秋先輩!」
「大丈夫。なっちゃんがここに立ってるだけで1点が入るからお願い」

 耳元でささやかれた秋の真剣なお願い。

「ホントに立ってるだけでいいんですか?」
「えぇ。バットを振る必要もないわ」
「わかりました」
「ありがとう」

 お礼を言った秋はベンチに戻っていった。

「プレイ!」

 審判が言うと、砲丸選手は早速初球を投げた。
 秋の言葉通り、バットも振らずにただ立っていただけの夏だが、目の前を通りすぎ、「ドスン」と大きな音をたてて落ちる砲丸に「ひっ!」と悲鳴をあげて涙目になり砲丸選手を見つめた。

「うっ!」

 夏に涙目で見つめられた砲丸選手は2球目を投げることをためらった。
 それでも試合なので心を鬼にして投げることを決めたが、バッターボックスで恐怖からプルプル震える夏を見た瞬間、砲丸を投げずに転がした。

『えっ?』

 その予想外の行動に誰もが戸惑う中、砲丸はキャッチャーの足元で止まった。

「ボール」

 その後、砲丸選手はさらに3球砲丸を転がし、夏をファーボールで歩かせて押し出しで公チームに1点を与えた。

「なるほど。確かにバッターボックスであんなに怯えられたら投げれませんよね」
「そう。そして押し出しで1点をもぎ取る。私達が勝つにはそれしか方法はないのよ」

 秋の言葉にみんなが納得して頷いた。

「ちょっと待て!そんなの認められるか!」
「とうとう出てきたな、作者!」

 そんな地味な終わらせかたをさせられたらたまらないので、俺は公達の前に現れた。

「そんなことを言ったらお前のしてきたことのほうが認められるかよ!」
「俺はいいんだよ!なんたって作者なんだからな!だけど、お前達はダメだ!」
「知るかよ!別にお前従わないといけない理由は俺達にはねーんだよ!」

 ベンチ前でマスターと公が睨みあっています。

「じゃあ、俺と公で最後の勝負をしようぜ」
「勝負?」
「あぁ。俺がピッチャーで公がバッター。それで決着をつけようじゃねーか!」

 マスターの提案に公は振り返って確認を取るようにみんなを見た。
 みんなは「OK」とばかりに頷き返した。

「いいぜ!その勝負やろーじゃねーか!」
「マロ。審判頼んだ」
<了解>

 こうして決まったマスターと公の勝負の結末はいかに。次回。ついに決着の時!

≪ってまだ引っ張るつもりなんですか?マスター≫
「ロマ!せっかく盛り上がって終われたのになんでそんなこと言うかな!」
≪全く盛り上がってませんよ、マスター≫
「いや!読者だって今手に汗握ってるから!それぐらい盛り上がってるから!」
≪そんなこと万が一にもありえませんから≫
「絶対盛り上がっているのにロマがそんなこと言ったらまたグダグタになるじゃんか!」
≪大丈夫ですよ、マスター。この小説がグダグタしてなかった時なんて1度もありませんから≫
「うわーん!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

お兄ちゃんの前世は猫である。その秘密を知っている私は……

ma-no
キャラ文芸
 お兄ちゃんの前世が猫のせいで、私の生まれた家はハチャメチャ。鳴くわ走り回るわ引っ掻くわ……  このままでは立派な人間になれないと妹の私が奮闘するんだけど、私は私で前世の知識があるから問題を起こしてしまうんだよね~。  この物語は、私が体験した日々を綴る物語だ。 ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。  1日おきに1話更新中です。

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
キャラ文芸
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

夫より強い妻は邪魔だそうです

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

マスクなしでも会いましょう

崎田毅駿
キャラ文芸
お店をやっていると、様々なタイプのお客さんが来る。最近になってよく利用してくれるようになった男性は、見た目とは裏腹にうっかり屋さんなのか、短期間で二度も忘れ物をしていった。今度は眼鏡。その縁にはなぜか女性と思われる名前が刻まれていて。

処理中です...