私のための小説

桜月猫

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115話

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 さすがに今回のホームランは抗議がムダに終わると分かっていても抗議せずにはいられなかった。
 しかし、抗議は認められずに結果はそのままホームラン。
 だが、その結果が公達のやる気に火をつけた。
 公は次のバッターをあっさりと三振にしとめてベンチに戻ってきた。

「公!なんだ!あの不甲斐ない投球は!」

 なぜかなにもしてない中二から怒られ、公達のやる気が一気になくなった。

「だったらお前代打な」
「あと打てなかったらバツゲームな」

 みんなの冷ややかな目で見つめられ、中二は少したじろいだ。しかし、すぐにヘルメットとバットを持って胸を張って不敵な笑みを浮かべた。

「フッフッフッ。我が華麗にホームランを打つ様を見ていているがいい」
「バッター、壱に代わりましてバカ」
「誰がバカだ!」
「お前だろ」

 公の言葉に中二は睨み付けた。しかし、すぐに「フフン」と笑った。
 そして、自信満々にバッターボックスに入った中二はバットをかかげて予告ホームランを宣言した。
 そんなことをしている間に初球のストレートが投げ込まれ、キャッチャーミットにおさまった。

「ストライク!」
『ぶー!』

 ベンチから中二に向けた大ブーイング。

「ちょっと待て!まだかまえてなかっただろが!」
「バッターボックスに入った時点でいつ投げられてもおかしくおかしくはないんだよ」

 審判の言い分はもっともなので言い返せない中二。

『ぶー!』

 またしてもベンチから中二に向けた大ブーイング。

「お前達も味方なんだからブーイングせずに応援しろや!」

 中二がベンチに文句を言っている間にも2球目が投げられた。

「ストライク!」
「なんでだ!」
「だってまだバッターボックスの中にいるだろ」
「あっ」
『ぶー!ぶー!』
「ベンチはうるせー!」

 ベンチに向かって叫んだ中二は1度気持ちを落ち着かせるためにタイムをとってバッターボックスを出た。

「ふ~」
『ぶー!』
「だからうるせー!」

 落ち着きかけた中二の心が一気に荒れた。
 それを見てベンチは爆笑していた。

「あいつらがホントに我の仲間なのか疑わしくなってきたな」

 ベンチを睨み付けた中二はベンチのことは無視すると決め、あらためて気持ちを落ち着かせるとバッターボックスに入りかまえた。
 そんな中二へ向かって投げられた3球目はインコースをおもいっきりえぐってくるシュート。

「おわっ!」

 中二はのけ反ってボールを避けた。

「ボール!」
「タイム!」

 タイムをかけてバッターボックスを出た中二はピッチングマシンを指差した。

「おかしいだろ!」
「なにがだ?」

 審判は首を傾げた。

「今まであのピッチングマシンが投げていたシュートはあんなにインコースをえぐってきてなかっただろ!」
「そうだったとして、なにか問題があるか?」
「あるわ!今まで見てきたボールの軌道を頼りに打ちにいっているのに、それが変わったら打てねーだろが!」
「結局、お前はその程度だってことだろ」

 ため息を吐いた審判を見た中二は「カチン!」と頭にきていた。

「やってやろうじゃねーか」

 そう言ってバッターボックスに入った中二はバットをかまえた。
 そんな中二へ、ピッチングマシンはさらにインコースをえぐるシュートを投げた。

「なっ!」

 頑張ってのけ反り、避けようとした中二だが、避けきれずにユニフォームにかすり、しりもちをついた。
 怒り心頭の中二が立ち上がろうとしたが、それより早くキャッチャーの棒人間に頬を殴られた。

「グハッ!」

 倒れた中二は、さらに集まった棒人間達に殴る蹴るの集中リンチをくらった。
 その集中リンチが終わったあとにはボロ雑巾のようにボロボロになった中二が倒れていた。

「デッドボール!」

 審判は一塁を指差したが、中二は倒れたまま動かない。

「おい。早く一塁に行けよ」

 審判が声をかけるも、中二は動かない。

「ジャマやで」

 次のバッターの人がやって来て中二の腹を踏むと、「グエッ」と反応があり、中二がヨロヨロと立ち上がった。

「審判。あれは確実に暴力行為だろ」
「いいからとっとと一塁に行け」
「なんでだよ。なんでこいつを退場処分にしない」

 中二は最初に殴りかかってきたキャッチャーの棒人間を指差した。

「どうせ、こいつに殴られてなかったら、お前はそのままピッチングマシンを殴りに行ってたやろ」

 人の問いに「もちろん」とばかりに強く頷く中二。

「結局その時に集中リンチされて今みたいにボコボコにされるんやから、早いか遅いかの違いだけで結果はかわんねーんだよ」
「だったら、仲間が相手チートに集中リンチされてるんだから助けにこいよ!」

 その言葉に人は大きくため息を吐いた。

「なんでため息を吐くんだよ!」
「ユニフォームにかすったぐらいでいちいち乱闘する仲間をお前は助けたいと思うか?」
「うっ!」

 そう問われると、中二は「助けない」と思ったので、人から顔を反らした。

「それが答えやな」

 公達が助けに来なかった理由に納得した中二はとぼとぼと一塁へ向かった。

「すまんかったな。うちのバカが迷惑かけて」
「あの手のバカはどこにでもいるから気にすることはないさ」

 そう言った審判と笑いあった人はバットをかまえた。
 そこへ投げ込まれた初球はフォークだったので、人は見送りボール。
 2球目はスライダーを見送り、3球目はシュートをファールにして2ー1と追い込まれた人。
 そこで、人は集中力を1段階あげた。
 4球目のスライダーと5球目のシュートはファールで粘り、6球目のフォークは見逃し、カウントは2ー2。
 そして7球目にやって来たチェンジアップをセンター前に打ち返してヒットにし、ノーアウト1・2塁。
 そうして次のバッターの庵がバッターボックスに入ってきた。
 その表情は負けているとだけあって真剣そのもので、あまり見ない表情でもあった。
 そんなこともあってか、初球が投げ込まれるまでに少し間があった。
 その間が終わり、投げ込まれた初球はシュート。

「もらった!」

 その言葉通り、庵はうまく腕をたたみながらレフトへ打ち返し、悠々と一塁に到達して拳を突き上げた。

「ウオォォォォ!」

 庵の叫びに呼応するようにベンチのテンションも上がり、ノーアウト満塁という絶好のチャンスで廻がバッターボックスに入った。
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