私のための小説

桜月猫

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114話

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 6回の攻防では棒人間チームのおかしな選手交代もあって、調子を乱された公達。
 その乱れた調子は7・8回も戻らず、得点も9ー7まで追い上げられて9回。
 すると、『パン!!!』とかなり大きなビンタの音が公達のベンチの前から鳴り響いた。

「目は覚めた?」

 秋が公達に微笑んだ。
 公達の頬には秋達からビンタされてできた手形のもみじがあった。

「はい」
「キいたわ~」
「スッキリしたよ」
「目が覚めたな」
「さぁ!あとこの回を1点以下に抑えれば俺達の勝ちだ!」
「気合い入れていくぞ!」
『おう!』

 気合いが入った公達はグラウンドへと飛び出していった。
 棒人間チームの打順は6番から。
 バッターボックスに入った棒人間に対しての初球。
 人のサインはインサイドにスライダー。
 投げそこなえばデッドボールになるコースだが、ふっ切れた公はためらうことなく投げ込みストライク。
 続く2球目はアウトコース低めにストレートを投げ込みこれもストライク。
 テンポよく2球で追い込んだ公・人のバッテリーが三振を狙って決め球に選んだのは、高めのストレート。
 負けているうえに追い込まれているということもあって、棒人間は打ちにきたのだが、空振りした。

「ストライーク!」

 審判は大きな動作でストライクの宣告をした。

「よし!」
「1アウト!」
「その調子!」
「あと2アウト!」

 7番の棒人間がバッターボックスに入った。
 公は一息吐くと、サインを確認した。
 サインは低めのボールになるカーブ。
 頷いた公はカーブを投げたのだが、サインより少し高くなり、低めだがストライクゾーンに入ってしまった。
 それを棒人間は打っていったのだが、ファールになって公は少しホッとしたが、気合いを入れ直すために頬を叩いた。
 気合いを入れ直した公に、人は先ほどと同じ球を要求した。
 これに頷いた公は、今度はしっかりとボールになるカーブを低めに投げ込んだ。
 しかし、棒人間はしっかりと見ていて見逃した。
 見逃されてもいいと思っていたので人はすぐに次のサインを出し、公はすぐに頷いてすぐに投げた。
 投げたボールはインコース高めのスライダー。
 棒人間は少しのけ反りながら避けた。

「ボール」

 1ー2からの4球目はストレートをアウトコース高めへ。

「カキーン!」

 棒人間が打ち返したボールは三遊間に飛んできたので、龍と蛙が必死に飛び込んで取ろうとしたのだけどそのままレフトに抜けていってヒットになった。

「くそっ!」
「気にするなよ!」
「切り替えていこう!」
「あと2アウトだからな!」

 全員で声を出して気持ちを高め、気合いを入れた。
 次のバッターは陸上部員。
 さすがに負けているということもあってバントのかまえは取らなかった。
 そんな陸上部員に投げた初球はカーブ。
 陸上部員はそれをセーフティバントで三塁線に転がしてきた。

「なっ!」

 不意討ちのセーフティバントに慌てて蛙が前に出てきてボールを取るも、投げても間に合わないので人は叫んだ。

「投げんでええわ!」

 人の声を聞いた蛙は投げるのを止めた。

「すまない」

 ボールを持って謝りにきた蛙へ公は微笑みかけた。

「あの不意討ちはしかたないよ」
「せや。それに相手は足の速い陸上部やからな」
「気にするなよ」

 内野陣が集まって蛙を励ました。

「さて、問題はこれからだな」
「1アウト1・2塁でテニス部・ラクロス部・おじいさんの3人だからな」
「さすがにラクロス部をおさえるのはムリだろうから、テニス部とおじいさん勝負でいくしかないだろうな」
「ですね」
「そうと決まれば、気合い入れてこんな試合さっさと終わらせるぞ!」
『おぉ!』

 蛙達がそれぞれの守備位置に戻っていくなか、人だけはまだ残っていた。

「低めをすくいあげられるとめんどくさいから高め中心にいくで」
「わかったよ」

 グローブをうちあわせた2人は微笑みあった。
 それからキャッチャーマスクをして戻った人。
 テニス部員に対しての初球はインコース高めのストレートは空振り。
 それを見て人は「もしかして」と考え、次もインコース高めのストレートを要求した。
 そのストレートもテニス部員は空振りしたので人は確信した。

 テニス部員の弱点はインコース高め。

 なら、3球目に人が選ぶのは当然インコース高めのストレート。
 負けているテニス部員はのけ反りながら無理矢理にでも打ちにいったが、それでも空振りした。

「よし!」
「2アウト!」

 庵とかが喜んでいる中、人はまた公のもとにやって来た。

「次はラクロス部やけど、敬遠するか?」
「そうだな。ラクロス部はどこ投げても取られて投げられそうだからな」
「やろ。だったらおじいさん勝負するほうがいいと思うやろ?」
「あぁ」
「なら決まりやな」

 人は戻ると立ち上がったままホームベースからかなり離れた。
 そこへ公はさっさと4球投げてラクロス部員を敬遠した。

「ホッホッホッ。ワシもかなり舐められたものだな」

 バッターボックスに入ったおじいさんは殺気だっていた。
 その殺気にあてられた人は背筋に汗をかき、「もしかして間違った選択をしたのでは?」と思ったが、すぐにその考えを振り払った。

“やったことを後悔してもしかたないだろ!”

 人はインコース高めにスライダーを要求した。
 公もおじいさんの殺気に額に汗をかいたが、「フー!」と大きく息を吐き、気合いを込めて初球を投げ込んだ。

「ボール!」

 ピクリとも動かなかったおじいさんを見て、人はインコース高めに今度はストレートを要求した。
 頷き、全力でストレートを投げ込んだ公。

「キェェェェェェ!」

 気合いの叫びとともにおじいさんはスティックを振った。

「カン!」

 当たりはしたが、とらえきらずにボールはバックネットに当たってファール。

「チッ。しくじったか」

 悔しがるおじいさんとホッとしている公と人。
 3球目は様子見とばかりにアウトコース低めにボールになるフォークを投げた公・人バッテリー。
 おじいさんもこれはちゃんと見送りカウントは1ー2。
 早めに追い込みたい人が次に出したサインはアウトコースにボールからストライクになるスライダー。
 頷き、サインは決まったのだが、公はあえてすぐには投げずに一息いれてから投げた。
 一瞬ピクリと反応したおじいさんだが、見送ってストライクになりカウント2ー2。

『あと1球!あと1球!』

 観客の声援に公は大きく息を吐いてから人のサインを確認すると、高めのストレート。
 もう1度大きく息を吐いた公は全力でストレートを投げ込んだが見送られボールになりフルカウント。
 緊張の汗をぬぐった公。
 最後になるかもしれない1球に人が選んだのはど真ん中から落ちるフォーク。
 みんなが固唾を飲んで見守る中、公が振りかぶり、そして投げた。

「キェェェェェェ!!!」

 おじいさんの全力の叫び声が球場に響きわたり、そして振られたスティックは見事にボールをとらえた。

「カキーン!」
「なっ!」

 高く舞い上がって飛んでいくボールの行方を追って振り返る公。
 裁がどんどんバックしていったが、その足がフェンス直前で止まり、振り返った。
 そして、落ちてきたボールが裁のグローブに入るかと思われた時、飛んできた鳥がボールをキャッチすると、そのままスタンドに運び込んだ。

『はっ?』

 公達が呆然としていると、バックスクリーンにはホームランの表示。

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 あまりにありえない光景に、公達だけでなく、ベンチの桜達も叫んだのだった。
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