私のための小説

桜月猫

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112話

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 ラクロス部員の『打ち』ではなく『投げ』の行動に、公達もさすがに審判に抗議をした。
 しかし、当然審判が公達の抗議を受け入れることはなく、ノーアウト1・3塁からの再開となった。

「ファースト君に代わりまして、ゲートボーラー」

 このアナウンスに公達が首を傾げていると、3塁側のベンチからスティックを杖変わりにしたおじいさんがよたよたと歩いて出てきた。

「なっ!?」

 公達が驚いている中、おじいさんはバッターボックスに入った。

「おい、じいさん。大丈夫なんか?」

 人が心配して声をかけると、おじいさんは「ホッホッホッ」と笑った。

「まだまだ若いもんには負ける気がせんよ」

 その言葉を聞いた人は「ククッ」と笑った。

「だったら手加減なしで投げさせるで」
「ホッホッホッ。手加減なんぞすればお主らが痛い目にあうぞ」
「みたいやな。公!このじいさんなら大丈夫やから手加減せんでええで!」

 その言葉に公は覚悟を決めたのか、頷いた。
 こうして始まったおじいさんとの勝負。
 まず初球はまでアウトコース高めのストレートをおじいさんが見送りストライク。
 2球目はアウトコースにスライダーを投げたがこれはボール。
 3球目はアウトコース低めにフォークを投げボール。
 4球目。初めてインコースにストレートを投げ込んでストライク。
 おじいさんは2ストライクと追い込まれたが、いまだにスティックをかまえようともせずに余裕の表情。
 ならばと人は勝負を決めるためのサインを出し、それに公が頷いた。
 そして6球目。公達バッテリーが決め球として選び、投げ込んだのは初球と同じアウトコース高めのストレート。
 その1球が投げられた瞬間、おじいさんが「カッ!」と目を見開いた。

「キェェェェェェ!」

 気合いの叫びとともに振られたスティックは見事にボールをライト前に運び、サードランナーのテニス部員がホームに帰ってきてさらに1点を返された。のだけど、打ったおじいさんはよたよたと歩いてファーストに向かっていたため、壱からの返球を受けた朧月が優しくタッチしてアウトになった。

「ホッホッホッ。こんな老いぼれだからといって油断するではないぞ」

 アウトになったおじいさんはそう言い残してベンチへと帰っていった。
 おじいさんのその忠告をしかと受け止めた公は、頬を叩いて気合いを入れ直すと、後続をしっかりと打ち取ってこの回を終わらせた。

「色々と予想外だった………」

 ベンチに帰ってきた公は疲れはてていた。

「お疲れ」

 桜が飲み物を差し出した。

「やっぱり作者がやらかしてきたな」
「そうね」
「普通の野球の試合だと絶対ありえないことだよね~」

 暁は苦笑していた。

「攻撃で仕掛けてきたってことは、守備でもなにか仕掛けてくるんじゃないかな」

 蛍のその言葉にみんなしてため息を吐いた。

<可能性は高いだろうね>
≪高いというより、確実といっていいのじゃないですか?≫
<まぁ、まだなにかしてきたわけでもないし、一様ね>
≪どうせすぐになにか仕掛けてくるに決まってますよ≫

 なんて話をしていると、棒人間達が守備についた。当然、先ほど代打や代走で出てきたメンバーも守備についた。
 陸上部員はセンターに、テニス部員はライトに、ラクロス部員はレフトに、おじいさんはファーストに。

「ピッチャーの交代をお知らせいたします。ピッチャー、ピッチャー君に代わりましてピッチングマシン」
<≪『はい?』≫>

 選手交代で俺がなにかを仕掛けてくるという予想をしてはいたのだが、まさか人ではなく機械との交代に公達は戸惑っていた。
 そんな公達をよそに、ピッチャーマウンドが左右に割れてその下からピッチングマシンがせりあがってきた。
 その光景に呆然とする公達。

「いやいやいやいや。待て待て待て待て。さすがにこれはありえないだろ!」

 1番に我に返った公が抗議の声をあげると、桜達もハッとした。

「そうだ!マシンを使うなんて卑怯だぞ!」
「ホントだね~」

 我に返り、文句を言っている公達のもとに1枚の紙が降ってきた。

「この紙はなんだろう?」

 降ってきた紙を取った夏。

「えっと、ピッチングマシンのストレートの球速は140キロで、変化球はスライダー・チェンジアップ・フォーク・シュートの4種類。
 ピッチングマシンはストレートの場合、ど真ん中に投げ込まれるように固定していて、他の変化球もど真ん中から左右に逃げるか下に落ちるかの変化しかしないから。それに、変化球の変化の量も一定だから。
 つまり、駆け引きと読みあいの勝負ってわけだから、しっかりと読みきれば素人でも十分に打つことができるから安心して。
 だって」

 紙に書いてあることを読み切り、夏は苦笑しながら公達を見た。
 公達の反応は呆れだったり苦笑だったりため息だったりと様々であったが、共通しているのは作者への怒りだった。

「どうする~?抗議しにいく~?」

 暁の問いに公は首を振った。

「どうせ取り合ってもらえないんだからムダだろう。それよりどんな球を投げるか確認したほうが有意義だろう」

 と、いうわけでベンチを出た公は審判のもとに駆け寄った。

「なぁ。ストレートと変化球、全てのボールを試しに投げて見せてもらえないか?」

 公の提案に審判が頷き、ピッチングマシンの隣に立つ棒人間に投げるようにジェスチャーをした。
 そのジェスチャーをうけた棒人間は頷くと、ボールをピッチングマシンにセットした。
 そして、公の要望通りストレートと変化球を一通り投げてみせた。

「ありがとう」

 お礼を言ってベンチに戻ってきた公。

「あんな感じだ」
「ストレートは当然速くなったな」
「その代わり、変化球のキレは少し落ちた感じに見えるな」
「でも、打つにはまだちょっと厳しいかもしれませんよ」

 ピッチングマシンの投球を見て、意見を出しあう公達。
 そうして出た結論は、

「狙い球はタイミングさえあえば打てるストレートか、スピードの遅いチェンジアップだな」
「それが無難か」
「あえてやまを張って狙い打ちってのもありなんじゃないか?」
「今は勝ってるからそれでもいいが、やっぱり確実にいったほうがいいだろう」
「そうだな」
「いっちょかましてくるか!」

 方針が決まったので、人は叫びながらバッターボックスに入っていったのだった。
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