私のための小説

桜月猫

文字の大きさ
上 下
103 / 125

102話

しおりを挟む
 庵は頑張って特製ミックスジュースを飲み干すと、すぐに口直しのジュースを今度は自分で取りにいった。

「あ~。ヒドい目にあったぜ」

 席に座ってコーラを一気飲みしてゲップをすると、公と両を睨み付けた。

「きたねーな」

 公が呆れながら庵を見た。

「お前達が変なジュースを持ってきたからだろが」
「それは、公に迷惑かけたり、めんどくさがって動こうとしないお前が悪い」
「ぶー」

 テーブルに顎を乗せて頬を膨らませる庵。

「ジュースを取ってこようか?」

 庵に微笑みかけながら両が提案した。

「自分で行くわ!」

 庵はコップを持ってさっさとドリンクを取りにいった。
 その後ろ姿を見てから顔をあわせた3人は苦笑した。
 庵がジンジャエールを持って帰ってきたタイミングで料理が運ばれてきた。

「さぁ食うぞ~」
「はいはい」

 微笑みながら両はナイフとフォークをみんなに順番に差し出していった。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「うめー!」
「もう少し静かにしろ」

 うるさい庵の脇を蛙が肘で軽く突いた。
 公がおろしハンバーグを食べていると、視線を感じたので隣の両を見た。
 両はおろしハンバーグを見つめていた。

「両?」

 公の声でハッとした両は「あはは」と笑いながらチキンステーキを食べた。

「もしかして食べてみたいのか?」
「美味しそうだなって思ってな」
「なら食べてみるか?」
「いっただっきまーす」

 庵がフォークを伸ばしてきたので、公は庵の手首を掴んで止めると、蛙が庵の額を平手で叩いた。

「おう~」

 軽く顔をのけ反らせた庵は額をおさえた。

「お前に言ったんじゃねーよ」
「いいじゃねーか」
「いいわけあるか。ってか、フォークでハンバーグを突き刺して全部持っていく気だっただろ?」

 公がジトーと庵を見つめていると、庵が「テヘッ」と可愛らしくごまかそうとしてきたので、蛙が頭を少し強めに叩いた。

「気持ち悪いだけだぞ」

 ホントね。

「うるせー」

 自分からやっといて軽く逆ギレしてきた庵。

「それじゃあ少し貰っていいか?」
「いいぞ」

 公の了承を得た両はナイフで切り分けようとしたのだけど、

「俺の食べかけているほうじゃなくて、こっちのまだ食べてないほうから取ればいいぞ」
「いや、こっちからで大丈夫だ」

 両は食べかけのほうを一口分切り取って食べた。

「うん。美味いな」
「やっぱり俺も」

 再度フォークを伸ばした庵だが、

「ダメだ」

 また公に止められた庵。

「なんでだよ。ちゃんとナイフで切り分けるからいいだろ」
「どうせ半分以上持っていこうと思ってるだろ」
「そんなことねーよ」

 力で押し込もうとする庵と押し返そうとする公。
 2人が攻防をしていると、両は切り分けたチキンステーキを公に差し出した。

「公。お返しのあーん」
「あーん」

 差し出されたチキンステーキを流れで頬張った公。

「美味しいか?」
「あぁ。あれ?」

 何かおかしいと思った公だが、庵が力を強めてきたのですぐに押し返すことに集中した。

「食わせてくれよ~」
「諦めろよ~」

 攻防が熱くなると、2人は睨みあった。

「なぁ、庵。チキンもらうぞ」
「俺はソーセージだな」
「やらねーぞ」

 庵は公との攻防を止めると自分の料理を守った。

「いいじゃねーか」
「いいだろ?」
「いいわけあるかー」

 蛙と両が庵の注意をひいてくれているうちに公はおろしハンバーグを食べ終えた。

「あ~」

 公が食べ終わったのを見て庵はガックリしていた。

「早く食えよ」

 メロンソーダを飲んだ公は庵に食べるよう促した。
 どこか納得いかない表情の庵だが、蛙と両もほとんど食べ終わっているのでしぶしぶ食べ始めた。
 そして、全員が食事を終えてドリンクを飲んで一息吐いた。

「それで、このあとはどうするんだ?」

 公の問いかけにメロンソーダを飲み干した庵はゲップの返事を返した。

「さぁ、帰るか」
「そうだな」
「かいさ~ん」
「ちょっと待った!冗談だから!ジョークだから!とりあえずもう1回座ろうぜ!」

 立ち上がった3人を慌てて引き留める庵。
 仕方ないとため息を吐いた3人は席に座り直すと庵の前にコップを置いた。

「俺コーヒーな」
「俺ウーロン茶」
「カフェオレお願い」
「なっ」

 文句を言いたかった庵だが、再度立ち上がろうとする3人を見てすぐにコップを持ってドリンクを取りにいった。

「お待たせしました」

 3人の前にそれぞれのコップを置いた。

「ありがとう。で、次はどこにいくんだ?」
「カラオケ。カラオケ行こうぜ」
「そうだな」
「いいんじゃねーか」
「行くか」

 3人も頷いたので、会計を済ませて公達カラオケに移動した。

「いらっしゃいませ。4名さまでしょうか?」
「はい」
「何時間ご利用でしょうか?」
「何時間にする?」

 庵が振り返りながら問いかけると、公と蛙は指を3本、両は指を4本立てた。
 それを確認した庵は店員のほうへ振り返った。

「じゃあ30時間で!」
『………………』

 数秒の沈黙。

「ツッコめよ!」
『はぁ~』

 大きなため息とともに3人は哀れんだ目で庵を見ていた。

「そんなかわいそうな人を見る目で見るなー!」

 しかし、3人の庵を見る目は変わらなかった。

「ってか、店員さんも否定するなりしてください!」
「可能ですよ」
『マジで!?』

 4人が驚きの表情で店員を見た。

「えぇ」

 営業スマイルで頷く店員。

「ですが、その場合だとオールタイムフリープランをご利用になられたほうがお得ですよ?」
「いえ!冗談です!3時間でお願いします!」

 たんたんと話を進めていく店員に、庵は慌てて冗談を訂正した。

「かしこまりました。当店はワンドリンク制なので、ワンドリンクご注文いただくか、ドリンクバーをご注文いただく必要があるのですが、どうしますか?」
「ドリンクバーでいいよな?」
『あぁ』
「では、こちらがドリンクバーのコップで、お部屋は301号室になります。ごゆっくりお楽しみください」

 コップとかごを受け取り、それぞれドリンクを取った4人は301号室に入っていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

マインハールⅡ ――屈強男×しっかり者JKの歳の差ファンタジー恋愛物語

花閂
キャラ文芸
天尊との別れから約一年。 高校生になったアキラは、天尊と過ごした日々は夢だったのではないかと思いつつ、現実感のない毎日を過ごしていた。 天尊との思い出をすべて忘れて生きようとした矢先、何者かに襲われる。 異界へと連れてこられたアキラは、恐るべき〝神代の邪竜〟の脅威を知ることになる。 ――――神々が神々を呪う言葉と、誓約のはじまり。 〈時系列〉 マインハール  ↓ マインハールⅡ  ↓ ゾルダーテン 獣の王子篇( Kapitel 05 )

宝石ランチを召し上がれ~子犬のマスターは、今日も素敵な時間を振る舞う~

櫛田こころ
キャラ文芸
久乃木柘榴(くのぎ ざくろ)の手元には、少し変わった形見がある。 小学六年のときに、病死した母の実家に伝わるおとぎ話。しゃべる犬と変わった人形が『宝石のご飯』を作って、お客さんのお悩みを解決していく喫茶店のお話。代々伝わるという、そのおとぎ話をもとに。柘榴は母と最後の自由研究で『絵本』を作成した。それが、少し変わった母の形見だ。 それを大切にしながら過ごし、高校生まで進級はしたが。母の喪失感をずっと抱えながら生きていくのがどこか辛かった。 父との関係も、交友も希薄になりがち。改善しようと思うと、母との思い出をきっかけに『終わる関係』へと行き着いてしまう。 それでも前を向こうと思ったのか、育った地元に赴き、母と過ごした病院に向かってみたのだが。 建物は病院どころかこじんまりとした喫茶店。中に居たのは、中年男性の声で話すトイプードルが柘榴を優しく出迎えてくれた。 さらに、柘榴がいつのまにか持っていた変わった形の石の正体のせいで。柘榴自身が『死人』であることが判明。 本の中の世界ではなく、現在とずれた空間にあるお悩み相談も兼ねた喫茶店の存在。 死人から生き返れるかを依頼した主人公・柘榴が人外と人間との絆を紡いでいくほっこりストーリー。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

神様夫婦のなんでも屋 ~その人生をリセットします~

饕餮
キャラ文芸
鬱蒼と茂った森の中にある神社。霊験あらたかなその場所の近くには、不思議な店があった。 昼間は人間が、夕方になるとあやかしや神々が遊びに来るその店は、なんでも出てくるところだった。 料理や駄菓子はもちろんのこと、雑貨や食器、鍋や文房具まである。そして食料も――。 中性的な面立ちでアルビノの店主と、一緒に同居している左目に傷を持つマスターと呼ばれる男、そして猫三匹。 二人と三匹をとりまく店は、今日もそこに佇んでいる。 もしもその店に入ることができたなら――その人生をやり直してみませんか? 一話完結型のオムニバス形式の話。 ★夕闇の宴はあやかしサイドの話です。

鬼の閻火とおんぼろ喫茶

碧野葉菜
キャラ文芸
ほっこりじんわり大賞にて奨励賞を受賞しました!ありがとうございます♪ 高校を卒業してすぐ、急逝した祖母の喫茶店を継いだ萌香(もか)。 気合いだけは十分だったが現実はそう甘くない。 奮闘すれど客足は遠のくばかりで毎日が空回り。 そんなある日突然現れた閻魔大王の閻火(えんび)に結婚を迫られる。 嘘をつけない鬼のさだめを利用し、萌香はある提案を持ちかける。 「おいしいと言わせることができたらこの話はなかったことに」 激辛採点の閻火に揉まれ、幼なじみの藍之介(あいのすけ)に癒され、周囲を巻き込みつつおばあちゃんが言い残した「大切なこと」を探す。 果たして萌香は約束の期限までに閻火に「おいしい」と言わせ喫茶店を守ることができるのだろうか? ヒューマンドラマ要素強めのほっこりファンタジー風味なラブコメグルメ奮闘記。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

jumbl 'ズ

井ノ上
キャラ文芸
青年、大吉は、平凡な日々を望む。 しかし妖や霊を視る力を持つ世話焼きの幼馴染、宮森春香が、そんな彼を放っておかない。 春香に振り回されることが、大吉の日常となっていた。 その日常が、緩やかにうねりはじめる。 美しい吸血鬼、大財閥の令嬢、漢気溢れる喧嘩師、闇医者とキョンシー、悲しき天狗の魂。 ひと癖もふた癖もある連中との出会い。 そして、降りかかる許し難い理不尽。 果たして、大吉が平穏を掴む日は来るのか。

処理中です...