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《偽》の章
【欺】
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久々に探偵社の扉がギィと開かれる。
「やっと帰ってこられた。って、あれれ?」
疲労困憊で帰ってき弐沙たちを玄関前で待ち構えていたのは、イリサだった。
「遅い帰還のようだね。待ちくたびれたからこっちから迎えに来たよ」
「何の用だ? 私はこれといって用事なんか無いのだが」
疲れゆえの不機嫌らしく、弐沙はイリサをギロリと睨んだ。
「オー怖い。ちょっとアレから丁度いい小間使いを雇ってね。紹介したいと思ってね」
イリサの紹介で物陰からやってきたのは、なんと朱禍が人間に化けた姿である、夏陽だった。
「お前、生きていたのか」
「あの時死んじゃったかと思ったんだけど、生きてたんだー」
弐沙も怜も彼の姿を見て同様の反応をする。
「いやぁー、一度死んじゃったのは確かなんだけどねぇー。このイリサさんの医療助手として今後生きていくなら生き返っていいって言われて、ついつい契約しちゃってさー。今では先生の奴隷ですわー」
夏陽はやれやれという顔をする。
「不服なら、地面に埋めようか?」
「嘘です! 冗談ですって」
イリサの申し入れをはっきりと断る夏陽。
「まぁ、そういうことで、今度ともよろしくー!」
元気よく挨拶をする夏陽だが、弐沙はどうも釈然としていないらしい。
「何か悪いことでも企んでいるのか?」
「どんでもなーい。俺はその気になれば君らを呪(のろ)い殺すことなんて造作も無いけど、それは契約上禁じられてるからね。悪いことなんて一切考えていないさ」
「……イリサはどうだ?」
弐沙は視線を夏陽からイリサへとうつず。
「さぁね? そこらへんは探偵らしく自分で考えなよ」
「フン」
イリサの生意気な発言に弐沙は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「それではこの辺で失礼するとしよう」
イリサたちが帰ろうとした去り際、
「夏陽に一つ質問がある」
弐沙が口を開いた。
「ん? 俺が答えられることかい?」
「あぁ。朱糸守のことについてだ。もし、お前が呪おうとしていた対象者が別の事柄によって呪(のろ)いを阻害されたとしたら、その場合どうなる」
「なかなか厄介な質問をしてくるねぇ」
弐沙の質問に夏陽はしばし考えた末、こう答える。
「呪う対象が居なくなってしまったのであれば、呪(のろ)いは直に消えうせるとは思う」
「そうか」
「ただ、理論ではそういうことになるが、呪(のろ)いはそう簡単なことではすまないことも多い。君たちも呪う時は気をつけたまえよー」
「誰が好き好んで呪いなんかするか」
「まぁ、弐沙ならそういうと思っていたよー。じゃあ、まったねー」
能天気に夏陽は手をヒラヒラと振りながら去って行った。
「ねぇ弐沙。あの質問の意図ってなぁに?」
イリサと夏陽が帰った後、怜が尋ねてくる。しかし、弐沙は黙ったまま、事務所の扉を開ける。
「ねぇってばー」
「……これから先の話は私には一切関係の無い話だ」
弐沙はそう小さく呟いて、事務所の中へと入って行った。
パタリ。
後日、真っ黒に染まって無数の赤い糸に絡まった女性の遺体が見つかったのだが、それはもう彼らには関係の無い話だ。
【了】
「やっと帰ってこられた。って、あれれ?」
疲労困憊で帰ってき弐沙たちを玄関前で待ち構えていたのは、イリサだった。
「遅い帰還のようだね。待ちくたびれたからこっちから迎えに来たよ」
「何の用だ? 私はこれといって用事なんか無いのだが」
疲れゆえの不機嫌らしく、弐沙はイリサをギロリと睨んだ。
「オー怖い。ちょっとアレから丁度いい小間使いを雇ってね。紹介したいと思ってね」
イリサの紹介で物陰からやってきたのは、なんと朱禍が人間に化けた姿である、夏陽だった。
「お前、生きていたのか」
「あの時死んじゃったかと思ったんだけど、生きてたんだー」
弐沙も怜も彼の姿を見て同様の反応をする。
「いやぁー、一度死んじゃったのは確かなんだけどねぇー。このイリサさんの医療助手として今後生きていくなら生き返っていいって言われて、ついつい契約しちゃってさー。今では先生の奴隷ですわー」
夏陽はやれやれという顔をする。
「不服なら、地面に埋めようか?」
「嘘です! 冗談ですって」
イリサの申し入れをはっきりと断る夏陽。
「まぁ、そういうことで、今度ともよろしくー!」
元気よく挨拶をする夏陽だが、弐沙はどうも釈然としていないらしい。
「何か悪いことでも企んでいるのか?」
「どんでもなーい。俺はその気になれば君らを呪(のろ)い殺すことなんて造作も無いけど、それは契約上禁じられてるからね。悪いことなんて一切考えていないさ」
「……イリサはどうだ?」
弐沙は視線を夏陽からイリサへとうつず。
「さぁね? そこらへんは探偵らしく自分で考えなよ」
「フン」
イリサの生意気な発言に弐沙は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「それではこの辺で失礼するとしよう」
イリサたちが帰ろうとした去り際、
「夏陽に一つ質問がある」
弐沙が口を開いた。
「ん? 俺が答えられることかい?」
「あぁ。朱糸守のことについてだ。もし、お前が呪おうとしていた対象者が別の事柄によって呪(のろ)いを阻害されたとしたら、その場合どうなる」
「なかなか厄介な質問をしてくるねぇ」
弐沙の質問に夏陽はしばし考えた末、こう答える。
「呪う対象が居なくなってしまったのであれば、呪(のろ)いは直に消えうせるとは思う」
「そうか」
「ただ、理論ではそういうことになるが、呪(のろ)いはそう簡単なことではすまないことも多い。君たちも呪う時は気をつけたまえよー」
「誰が好き好んで呪いなんかするか」
「まぁ、弐沙ならそういうと思っていたよー。じゃあ、まったねー」
能天気に夏陽は手をヒラヒラと振りながら去って行った。
「ねぇ弐沙。あの質問の意図ってなぁに?」
イリサと夏陽が帰った後、怜が尋ねてくる。しかし、弐沙は黙ったまま、事務所の扉を開ける。
「ねぇってばー」
「……これから先の話は私には一切関係の無い話だ」
弐沙はそう小さく呟いて、事務所の中へと入って行った。
パタリ。
後日、真っ黒に染まって無数の赤い糸に絡まった女性の遺体が見つかったのだが、それはもう彼らには関係の無い話だ。
【了】
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