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《祠》の章
【呞】
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朝。かなえが目を覚ますと、かなえの部屋の中で目隠しをした赤髪の青年が胡坐をかいて座っているのが目に入る。
「っつ!! 一体、なんなの!?」
いきなりの出来事に、かなえはバッと起き上がって掛け布団を持ちつつ身構える。
「おはよーさん。いい目覚めかい?」
赤髪の青年はニヤニヤと八重歯を覗かせながらかなえに笑いかける。
「貴方のお陰で最悪な気分です。朱禍」
「あらそうかい? 折角良い顔で寝ていたのに残念だ」
朱禍はやれやれという風にため息をついた。
「私の部屋に入ってきたのは何故です? 寝顔を見に来たというわけではないでしょう?」
「別に俺はそれでもいいが、昨日、変な二人組が神社を尋ねてこなかったか?」
「変な……二人組……」
かなえは昨日の出来事を一から思い出す。
すると、ハッと顔を上げた。
「もしかして、物置小屋が見たいと言っていたあの双子のご兄弟のことですか?」
「そうだ。あの二人が今さっき裏手の方で何か探していたぞ?」
「探すって、何を?」
かなえはゴクリと唾を飲み込む。
「さぁな。諦めて帰ってったところをみるとどうやら収穫はゼロだったらしいが、その内またこの神社にやってくるんじゃないかねぇ? まぁ、そのままタダで返すのも惜しいからちょっとしたモノをかけておいた」
朱禍がニシシと不気味に笑った。
「……ちょっとしたモノ?」
「あの双子の兄の方、弐沙に糸を巻きつけてやった。並みの人間だとものの数分で呼吸が出来なくなって死ぬだろうが、やっぱり俺の見立てどおり、奴はすぐに糸を解いたよ」
「見立てどおりとはどういう?」
「兄の方が面白い呪(のろ)いにかけられているようじゃなー」
ヘラヘラしながら朱禍が答える。
「弐沙と名乗ったアイツは、恐らくどんな手段を使っても死ぬことも老いることも出来ない。所謂、不老不死というやつだろうな」
「不老不死……」
「左様。そして、既に何らかの理由で朱糸守の中身である“核”の呪(のろ)いにもかけられているみたいだのぉ。療養というのは嘘で、それを解くためにこの神社を訪れたと考えた方が妥当だろうなぁ」
朱禍は胡坐をかいたまま、退屈そうに話す。
「俺が考えたこのお守りの呪(のろ)いを解くのには“核”を壊す必要がある。その核はお前の弟が大切に持っておるよ。まぁ、あの二人組が何処まで答えに至っているのかは分からないが、核が壊れれば、お前らの幸せは其処で終わりを迎えることになるかもなぁ」
クツクツと嗤う朱禍、それを聞いてかなえは立ち上がって部屋を出ようとする。
「……何処へ行く?」
「このことをみそぐに伝えに行きます」
キッと朱禍を睨み付けるかなえ。
「まだ禁忌の時間じゃぞ、いいのか?」
朱禍はチラリとかなえの部屋に置かれている、置時計を見ながら訊く。
「構いません。みそぐに一刻も早く伝えないと」
かなえは引き戸を開けて答える。
「かなえがそういうのなら、俺は止めない……だが」
開かれた引き戸が今度はパタンといきなり閉じられる。
突然の現象にかなえは息をするのさえ忘れてしまいそうになった。
「神との約束事は守ってもらわないと困るな。“禁忌の刻”は誰も近寄ってはならない。例の二人組のことなら俺の方から言っておこう。それならいいだろ?」
朱禍がそう言って立ち上がる。その時にフワッと目隠しが浮き上がり、現れた一つ目がまるで射るようにかなえを睨んでいた。
その視線にかなえの背筋が凍りつく。
「おいおい、そんなに怖がる必要もないだろう? なんせ俺は優しいからな、全てお前ら姉弟の為じゃからな。ちょっと台所からお神酒を一本拝借するぞ」
カッカッカと陽気に話しながら、朱禍はかなえの部屋から出ていった。
朱禍の気配がやっと消えて、かなえはヘロヘロとその場に座り込む。顔面にはドッと冷や汗が流れ出していた。
「もう……私はどうしたらいいの……」
そう呟くとポロポロと涙が零れた。
「私が……私が……幸せを願ってしまったから悪いの? これがその罰というの……?」
悪い事ばかりが脳裏を過ぎり、かなえは咽び泣く。
「ううっ……みそぐ……」
彼女の弟に向けての悲痛な思いが届くことは恐らく無いだろう。
「っつ!! 一体、なんなの!?」
いきなりの出来事に、かなえはバッと起き上がって掛け布団を持ちつつ身構える。
「おはよーさん。いい目覚めかい?」
赤髪の青年はニヤニヤと八重歯を覗かせながらかなえに笑いかける。
「貴方のお陰で最悪な気分です。朱禍」
「あらそうかい? 折角良い顔で寝ていたのに残念だ」
朱禍はやれやれという風にため息をついた。
「私の部屋に入ってきたのは何故です? 寝顔を見に来たというわけではないでしょう?」
「別に俺はそれでもいいが、昨日、変な二人組が神社を尋ねてこなかったか?」
「変な……二人組……」
かなえは昨日の出来事を一から思い出す。
すると、ハッと顔を上げた。
「もしかして、物置小屋が見たいと言っていたあの双子のご兄弟のことですか?」
「そうだ。あの二人が今さっき裏手の方で何か探していたぞ?」
「探すって、何を?」
かなえはゴクリと唾を飲み込む。
「さぁな。諦めて帰ってったところをみるとどうやら収穫はゼロだったらしいが、その内またこの神社にやってくるんじゃないかねぇ? まぁ、そのままタダで返すのも惜しいからちょっとしたモノをかけておいた」
朱禍がニシシと不気味に笑った。
「……ちょっとしたモノ?」
「あの双子の兄の方、弐沙に糸を巻きつけてやった。並みの人間だとものの数分で呼吸が出来なくなって死ぬだろうが、やっぱり俺の見立てどおり、奴はすぐに糸を解いたよ」
「見立てどおりとはどういう?」
「兄の方が面白い呪(のろ)いにかけられているようじゃなー」
ヘラヘラしながら朱禍が答える。
「弐沙と名乗ったアイツは、恐らくどんな手段を使っても死ぬことも老いることも出来ない。所謂、不老不死というやつだろうな」
「不老不死……」
「左様。そして、既に何らかの理由で朱糸守の中身である“核”の呪(のろ)いにもかけられているみたいだのぉ。療養というのは嘘で、それを解くためにこの神社を訪れたと考えた方が妥当だろうなぁ」
朱禍は胡坐をかいたまま、退屈そうに話す。
「俺が考えたこのお守りの呪(のろ)いを解くのには“核”を壊す必要がある。その核はお前の弟が大切に持っておるよ。まぁ、あの二人組が何処まで答えに至っているのかは分からないが、核が壊れれば、お前らの幸せは其処で終わりを迎えることになるかもなぁ」
クツクツと嗤う朱禍、それを聞いてかなえは立ち上がって部屋を出ようとする。
「……何処へ行く?」
「このことをみそぐに伝えに行きます」
キッと朱禍を睨み付けるかなえ。
「まだ禁忌の時間じゃぞ、いいのか?」
朱禍はチラリとかなえの部屋に置かれている、置時計を見ながら訊く。
「構いません。みそぐに一刻も早く伝えないと」
かなえは引き戸を開けて答える。
「かなえがそういうのなら、俺は止めない……だが」
開かれた引き戸が今度はパタンといきなり閉じられる。
突然の現象にかなえは息をするのさえ忘れてしまいそうになった。
「神との約束事は守ってもらわないと困るな。“禁忌の刻”は誰も近寄ってはならない。例の二人組のことなら俺の方から言っておこう。それならいいだろ?」
朱禍がそう言って立ち上がる。その時にフワッと目隠しが浮き上がり、現れた一つ目がまるで射るようにかなえを睨んでいた。
その視線にかなえの背筋が凍りつく。
「おいおい、そんなに怖がる必要もないだろう? なんせ俺は優しいからな、全てお前ら姉弟の為じゃからな。ちょっと台所からお神酒を一本拝借するぞ」
カッカッカと陽気に話しながら、朱禍はかなえの部屋から出ていった。
朱禍の気配がやっと消えて、かなえはヘロヘロとその場に座り込む。顔面にはドッと冷や汗が流れ出していた。
「もう……私はどうしたらいいの……」
そう呟くとポロポロと涙が零れた。
「私が……私が……幸せを願ってしまったから悪いの? これがその罰というの……?」
悪い事ばかりが脳裏を過ぎり、かなえは咽び泣く。
「ううっ……みそぐ……」
彼女の弟に向けての悲痛な思いが届くことは恐らく無いだろう。
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