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《祠》の章
【始】
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「怜、準備はいいか?」
探偵社の玄関でショルダータイプのボストンバッグを肩にかけて弐沙が叫ぶ。
「待ってー。ガスとかのチェックもしなきゃ!」
リュックサックを背負った怜がパタパタとあちらこちらを駆け回る。
「よーし、準備おっけ! バッチリだぜ!」
そう言って玄関までかけてくる怜。
「じゃあ、行くか」
弐沙が玄関を開けるとそこには、弐沙と同じくらいの背丈の白衣を着た青年、弐沙の専属医であるイリサの姿があった。
「おっと、急に扉が開くからビックリした」
「イリサどうしたんだ? 私はこれから二人で出掛ける用事があるのだが」
「おー、仲良く旅行とは結構なコトだねぇ~。ところで……」
イリサはにっこりと笑う。
「何処へ行くんだい?」
「……」
行き先を尋ねるイリサを弐沙はまるで睨むかのように目を細めた。
「それは言わないと駄目なことか?」
「当然じゃないか。親には行き先を伝えるものが常識ではないか?」
「誰が親だ」
弐沙とイリサ双方の睨み合いは尚も続く。
「二人とも、そんなにずっと睨み合っていたら電車来ちゃうから」
いつまで経っても出発できないことに痺れを切らした怜が二人の間へと仲裁へ入る。
「……行き先を言わなくて、お前なら分かるのだろ?」
弐沙の言葉にイリサの眉がピクッと動いた。
「え、え、どういうこと?」
状況が飲み込めない怜がキョロキョロと双方を見る。
「つまりは全て筒抜けってことだ。もしかして、此処へきたのも“虫の知らせ”ってやつか?」
「よく分かってるじゃないか。さすが弐沙だ」
ニコニコとイリサは微笑む。
「ちょっと調査でな、暁鴉村へ行くんだ。暫く留守にするからな」
観念した弐沙がイリサにこれから行く行き先を告げた。
「分かればいいんだよ。いってらっしゃい」
イリサはまだ微笑みながらひらひらと弐沙に手を振る。
「行くぞ、怜。列車に乗り遅れる」
「う、うん」
弐沙は表情を変えずにイリサの真横を横切り駅へと向かう。
その瞬間、
「一体誰が君の所有者なのかを改めてよく考えるといいよ」
ポツリと弐沙の耳にしか届かない声量でイリサが呟いた。
「……」
暫くの間弐沙は何も言わなかったが、イリサとの距離が結構離れると、
「そんなこと、あの時から重々承知さ」
と呟いた。
「え? 何が?」
聴こえた言葉の意味について怜が問い返す。
「いや、コチラの話だ」
フンと鼻で笑いつつ、弐沙と怜は駅の中へと入った。
「弐沙って普通に電車乗れたんだねぇ」
特急電車に無事に乗り、切符に書かれている席へと座ってすぐに怜が訊いてくる。
「失礼な奴だ。私だって列車くらいには乗れる」
「そっかー。昔人間とばかり思っていたから、こういうものは怖くて乗れないものだと思ってた」
ふーんと返しながら、怜はストローを使って甘い紅茶を飲み始める。
「最初は驚きもあったが、これも慣れれば平気だ」
「なるほど。そういえば、さっき行きがけにイリサに言った、言わなくてもイリサには居場所が分かるってどういう意味だったの?」
「またその質問か。その時にも言っただろ? 筒抜けだって」
弐沙は呆れた顔で買ったお茶を飲む。
「その筒抜けっていうのがどういうことなのか知りたいじゃんよー」
ぶーぶーと文句をたれる。
「それはつまりは私が首輪付きで鎖に繋がれている犬ってことだ」
弐沙は首に巻かれている包帯を擦りながら言った。
「弐沙は犬というよりどちらかというと気まぐれな猫だと思うけど」
「言っておくがモノの例えだぞ」
弐沙はそっぽを向く。
「そんなに怒らないでよー。もー」
「鎖で繋がれているから全て把握されているってことだ。だから、奴には例え嘘を教えてもお見通しってわけさ」
「だから、本当のことを言ったのかー。ごまかせばいいのにって思ったけど」
「そういうことだ。おっと、そろそろ乗り換えの駅に着くんじゃないのか?」
弐沙は電車の中の電光掲示板をチラリとみた。
「あ、本当だ。降りなきゃ」
怜はせっせと降りる準備を始める。
「……奴にとっては何者だとしても私はただの実験体なのかもしれないな」
「え、何か言った?」
「独り言だ。気にするな。降りるぞ」
弐沙達は特急電車を降りて、向かいに停車していた鈍行電車へと乗り込んだ。
電車の中は比較的に若い女性で溢れていて、車内に響く声も高い。
「やはり、女性が多いな。しかも年齢層も随分と若い」
「俺が竹子と一緒に乗ったときもそうだったけど、大半が暁鴉で降りていたよ。やっぱりお守り目当てだろうねぇ」
席に着いて二人は周囲の様子をちらちらと確認する。
女性たちは大体グループで席に座っている様子だった。
「そういえば、宿泊施設に居た婦人会の人たちが施設に泊まるのは女性のグループが多いって言ってたなぁ」
「もしかしたら、水橋もその施設に泊まった可能性もあるな、グループで。そこらへんについても村に付いたら調べるとしよう」
「そうだねぇー。何かヒントになることもあるかもだし」
そんな事を二人で話し合っていると、発車を告げるベルが駅舎内に響き渡った。
「さぁ、暁鴉村へ向かうとしようか」
弐沙がそう口を開くと、電車のドアはベルの後にプシューと音を立てて閉まり、電車が動き始めたのであった。
探偵社の玄関でショルダータイプのボストンバッグを肩にかけて弐沙が叫ぶ。
「待ってー。ガスとかのチェックもしなきゃ!」
リュックサックを背負った怜がパタパタとあちらこちらを駆け回る。
「よーし、準備おっけ! バッチリだぜ!」
そう言って玄関までかけてくる怜。
「じゃあ、行くか」
弐沙が玄関を開けるとそこには、弐沙と同じくらいの背丈の白衣を着た青年、弐沙の専属医であるイリサの姿があった。
「おっと、急に扉が開くからビックリした」
「イリサどうしたんだ? 私はこれから二人で出掛ける用事があるのだが」
「おー、仲良く旅行とは結構なコトだねぇ~。ところで……」
イリサはにっこりと笑う。
「何処へ行くんだい?」
「……」
行き先を尋ねるイリサを弐沙はまるで睨むかのように目を細めた。
「それは言わないと駄目なことか?」
「当然じゃないか。親には行き先を伝えるものが常識ではないか?」
「誰が親だ」
弐沙とイリサ双方の睨み合いは尚も続く。
「二人とも、そんなにずっと睨み合っていたら電車来ちゃうから」
いつまで経っても出発できないことに痺れを切らした怜が二人の間へと仲裁へ入る。
「……行き先を言わなくて、お前なら分かるのだろ?」
弐沙の言葉にイリサの眉がピクッと動いた。
「え、え、どういうこと?」
状況が飲み込めない怜がキョロキョロと双方を見る。
「つまりは全て筒抜けってことだ。もしかして、此処へきたのも“虫の知らせ”ってやつか?」
「よく分かってるじゃないか。さすが弐沙だ」
ニコニコとイリサは微笑む。
「ちょっと調査でな、暁鴉村へ行くんだ。暫く留守にするからな」
観念した弐沙がイリサにこれから行く行き先を告げた。
「分かればいいんだよ。いってらっしゃい」
イリサはまだ微笑みながらひらひらと弐沙に手を振る。
「行くぞ、怜。列車に乗り遅れる」
「う、うん」
弐沙は表情を変えずにイリサの真横を横切り駅へと向かう。
その瞬間、
「一体誰が君の所有者なのかを改めてよく考えるといいよ」
ポツリと弐沙の耳にしか届かない声量でイリサが呟いた。
「……」
暫くの間弐沙は何も言わなかったが、イリサとの距離が結構離れると、
「そんなこと、あの時から重々承知さ」
と呟いた。
「え? 何が?」
聴こえた言葉の意味について怜が問い返す。
「いや、コチラの話だ」
フンと鼻で笑いつつ、弐沙と怜は駅の中へと入った。
「弐沙って普通に電車乗れたんだねぇ」
特急電車に無事に乗り、切符に書かれている席へと座ってすぐに怜が訊いてくる。
「失礼な奴だ。私だって列車くらいには乗れる」
「そっかー。昔人間とばかり思っていたから、こういうものは怖くて乗れないものだと思ってた」
ふーんと返しながら、怜はストローを使って甘い紅茶を飲み始める。
「最初は驚きもあったが、これも慣れれば平気だ」
「なるほど。そういえば、さっき行きがけにイリサに言った、言わなくてもイリサには居場所が分かるってどういう意味だったの?」
「またその質問か。その時にも言っただろ? 筒抜けだって」
弐沙は呆れた顔で買ったお茶を飲む。
「その筒抜けっていうのがどういうことなのか知りたいじゃんよー」
ぶーぶーと文句をたれる。
「それはつまりは私が首輪付きで鎖に繋がれている犬ってことだ」
弐沙は首に巻かれている包帯を擦りながら言った。
「弐沙は犬というよりどちらかというと気まぐれな猫だと思うけど」
「言っておくがモノの例えだぞ」
弐沙はそっぽを向く。
「そんなに怒らないでよー。もー」
「鎖で繋がれているから全て把握されているってことだ。だから、奴には例え嘘を教えてもお見通しってわけさ」
「だから、本当のことを言ったのかー。ごまかせばいいのにって思ったけど」
「そういうことだ。おっと、そろそろ乗り換えの駅に着くんじゃないのか?」
弐沙は電車の中の電光掲示板をチラリとみた。
「あ、本当だ。降りなきゃ」
怜はせっせと降りる準備を始める。
「……奴にとっては何者だとしても私はただの実験体なのかもしれないな」
「え、何か言った?」
「独り言だ。気にするな。降りるぞ」
弐沙達は特急電車を降りて、向かいに停車していた鈍行電車へと乗り込んだ。
電車の中は比較的に若い女性で溢れていて、車内に響く声も高い。
「やはり、女性が多いな。しかも年齢層も随分と若い」
「俺が竹子と一緒に乗ったときもそうだったけど、大半が暁鴉で降りていたよ。やっぱりお守り目当てだろうねぇ」
席に着いて二人は周囲の様子をちらちらと確認する。
女性たちは大体グループで席に座っている様子だった。
「そういえば、宿泊施設に居た婦人会の人たちが施設に泊まるのは女性のグループが多いって言ってたなぁ」
「もしかしたら、水橋もその施設に泊まった可能性もあるな、グループで。そこらへんについても村に付いたら調べるとしよう」
「そうだねぇー。何かヒントになることもあるかもだし」
そんな事を二人で話し合っていると、発車を告げるベルが駅舎内に響き渡った。
「さぁ、暁鴉村へ向かうとしようか」
弐沙がそう口を開くと、電車のドアはベルの後にプシューと音を立てて閉まり、電車が動き始めたのであった。
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